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聖堂が騒がしくなる。喧騒とは無縁の静寂な厳かな雰囲気がある聖堂なのに。
ユリアは池を眺めていたが、その音を聞き、思ったよりも早かったと思った。ユリアはこの騒がしさは、ミランダの無実を見つけたフィリップが来たのだと思った。
アーサーは来ないだろうと思い、ユリアはこのままここに居させてもらおうかと考えた。
もう家に帰る気がなかった。
頭にキャルサだけが浮かんだ。キャルサには手紙を書くことをしようと考えた。そうすればきっとキャルサは許してくれると思った。
「ゆ!ユリア様!!!」
ミランダが転ぶ勢いで目の前にやってきた。
さすがにそれには人形になっていたユリアも目を見開く。ミランダは間近になったユリアの顔に、ユリアの睫毛は白なんだと思った。が、すぐに我に帰る。
「ユリア様!やばいです!!!!!」
「…何。」
救われたのではなく、ミランダを殺すために追手が来たのかしらとユリアは思った。
しかし状況はそんなことではなくなっていた。
「いいいっ、いくっ、イクラニ国が攻めてきたそうです!!!!!」
「ーーーーは?」
人形となっていた空虚の瞳に、ユリアの自我が戻る。そんなことをミランダは気にすることなく、半泣きになった。戦争など知らない。聞いたことしかなく、平和そのものだった。
何が何だか分からない。こんな怒涛のこと追いつけない。
ユリアが立ち上がる。そしてパニックを起こしているミランダの肩を握る。
「どこ、どこに攻めてるの。」
「え、しゅ、首都です。」
ユリアの表情が変わる。ミランダを押すようにして、歩き出す。
「えっ、ゆ、ユリア様!?どこに!?」
ミランダは一心不乱で動き出すユリアに戸惑い、追いかける。
「ユリア様!!!!」
ミランダはユリアの手首を掴む。
落ち着いてと言おうとした時、ミランダの手をユリアは振り払う。
「……行かなきゃ。」
「ぇ?」
振り払われた手に痛みが走り、顔を歪めつつ、ミランダはユリアを見た。無表情ながらユリアの目は、必死さを訴えていた。
「アーサー様のところ、行かなくちゃ。」
ミランダは息を呑んだ。
ああ、この人は本当に…………
愛だとかそんな次元じゃない。世界なのだ。
ユリアの世界は、アーサーしかいない。壊れても壊れても、一瞬で戻ってきてしまうほどに。
ミランダは、もう一度ユリアに手を伸ばす。
そしてユリアの手を両手で掴む。次は振り払われなかった。ミランダは諭すように言う。
「ーーー私達が行っても、無理です。」
自分で言いつつ、パニックが落ち着くのを感じた。
「無理です、ユリア様。」
ユリアは、何故…と思った。
こんなこと【彼女】が読んでいた物語には書いていない。戦争など過去のものだったはずだ。
やはりあれは夢なのだろうか。でも目の前にいるこの子は現実。何なの。何なの。何なの。何なの?
ユリアの思考が混乱していく。
「戦争において、私達は無力です。」
夢は、何の意味があったのか。
『ユリア。』
また声が聞こえた。
「何なのよ!!!!!!!!」
この声を、私は聞いたことがあるはずなのに。
私は忘れている。
ミランダが叫んだユリアに驚く。でもそれは無力な自分に怒ったのだと理解し、ミランダはそれでもと強く手を握る。
ユリアは、その強さに困惑が消えないまま、謎に落ち着いていくのを感じた。
戦争がおきた。
アーサー様が危ない。
声が、聞こえる。
夢は、意味がわからない。
脳内で箇条書きにし、ユリアは息を吐く。
今は、戦争が起きたこと、アーサー様が危ないことだけで十分。
ユリアはミランダを見つめ直す。
「ーーとりあえず、情報を集めるわ。」
「は、はい!」
ユリアが戻ってきた。ミランダはそう思った。




