祖国
見晴らしの良い日だった。
城壁で望遠鏡を使い海を見ていた兵の一人が、目を見開いた。30隻も及ぶ船が地平線の彼方に浮かんで見えた。
望遠鏡を持った手が震えた。
海を挟んだ大陸、バン大陸。その中でイクラニ国という国が、最もマルコニア国に近く、船で一日もしない内に辿り着く。そしてバン大陸の中でイクラニ国は、砂漠化が急速に進行して行く中で人々は住む場所と資源、そして商いを求めた。
その為にどうしてもマルコニア国が欲しかった。資源以外の問題が、マルコニア国を手に入れることで解決するからだ。
ナニクンとの戦争前に、ウィル・クルワンと王妃となる前のミアリー・シュルワが大活躍したボエニン海戦は、両国に死者1万人という多大な被害を出した。
最終的に被害しか出なかった両者は、貿易をする際の関税の撤廃。そしてその保証として人質交換をすることになり、王位継承権を持つ者が互いの国から出された。
その後、30年あまりの時が流れ、両国の関係は安定したかのように思われていた。が、マルコニア国には変わらず城壁があり、いつ襲撃されても良いように見張りは365日24時間体制で常駐していた。
今、まだ若き兵は初めて船を見た。
今まで見たことのある船ではなく、間違いなく敵船だと理解した。脳が警報が鳴る。同時に彼は、無意識に震える口を大きく開けた。
「敵襲ーーーッ!!!!!!!!!!
14時の方向!!!敵船30隻!!!!!!」
彼の声が城壁周辺に響き渡ると、辺りは騒然となった。
「ーー旦那ぁ、あっちが動き出したみたいたぞ?」
髭面の男、ムガラは望遠鏡で城壁を見ながら言った。
ウィリアムはあっそと気にした様子もなく、ムガラとその部下を乗せた小船から降りる。
ムガラはウィリアムの素っ気なさに苛立ちながらも、目の前にある洞窟の中の岩場に飛び移る。部下達も全員岩場に移ったところで、小船に火をつけて燃やす。
ウィリアムがその間にも洞窟の中に進んでいくので、ムガラ達は足早にその後を追う。
「こんな場所があるなんてな。」
ムガラの声が洞窟に反響する。
「………覚えてる、もんだよな。子供の頃の記憶。」
イクラニに来て、初めての祖国帰還なのに、ウィリアムは感慨になることのない平坦な精神に思わず安堵した。やはり祖国は祖国なのに、もう恨むべき対象であり、自分の決意も何もかも変わらない。
30隻の船は本隊だが、別働隊として動くのが自分達だった。少数精鋭であり、海ではなく国内を混乱させるために作られた部隊だった。
ウィリアムは覚えていた。昔、海に出て遊んだ時に平民での兵士が教えてくれた。潮の満干期によって、洞窟の潮が引くときに、実は陸地へ続く穴が見えるのだということを。
ウィリアムは、ずっとその時期を計算し、調べ尽くし、タイミングを100%当てるために努めた。
あった。
洞窟を奥へ奥へと歩いた先に、光が通っていた。大の大人が2人一気に通れる穴が空いていた。
背後でムガラ達がおおっと声を出している。
ウィリアムはそれを耳に入れながら、祖国に足を踏み入れた。




