香ばしい香り
ガリアーノを追い出したユンは、ふんふんと苛立ちを鼻息で表現しながら歩いた。
ユリアは女神のような見た目だ。それだけでも愛を受けるには十分なのに、努力家だった。長く生きてきて色んな者を見てきたが、誰よりもひたむきで誠実な子だと思った。
そんな子が何故か、普通であれば家族から貰える愛情を貰えなかった。彼女がひたむきに誠実に接し、貪欲に望んだ者は、彼女を傷つけ続けた。
ユンの優しさも愛も、ユリアは欲していない。心に響かない。彼女の心は、アーサーだけにしか反応しない。ーー環境が、そうさせた。
ガリアーノを見た瞬間、本当は自分のありったけの力を使って殴りつけてやりたかった。そうしたところで、ユリアは何も反応しなかっただろう。でも、ガリアーノがユリアと似ていた。ユリアと真反対の黒色の子供なのに、ユリアにどこか似ていた。殴れなくなったから、叩いた。
ユンは再び池に向かった。
そして先程と全く姿勢の変わらないユリアを見て、足が止まった。
「……ーーー」
美しい絵画のような光景。
神聖視する者が多いのに、ユンはデタラメに胸が締め付けられた。
救いを与えられる存在として、この宗教のトップにいるのに、彼女には何の救いも与えることが出来ないでいた。
ユンは、そっとユリアに近づいて、隣に寄り添うように座った。
80年も生きてきて、人に救いを与える存在なのに、無力さをただ痛感した。
シュガーは、んー?と考えていた。
くんくんと鼻を動かす。
……血と硝煙の匂い。
腹が空いているからか、それはとても誘惑的な匂いだった。シュガーの瞳が獰猛な獣のように、瞳孔が開く。
ハーデン聖堂の前に居続けていたが、ユリアが出てくる気配はない。何十キロ先のそちらに向かおうかと立ち上がる。
久々の人間界とはいえ、物騒なままだと思う。だが、この物騒さ、愚かさが人間だ。それがとても喜ばしいとシュガーは思った。
ああ、戦争の匂いだ。
何と香ばしい匂いなのだろう。
フラフラとそっちの方に足が向かった時、シュガーはピクリと耳を動かす。
『シュガー。もう行くの?』
「………。」
欲に満ちていたシュガーの目が冷めていく。
目が冷めて、そしてその声を振り切るように歩き出す。球はそんなシュガーの様子を怪訝に思いながら、後を追うように浮いた。




