【僕とその人】
幼い日、国のためにと違う国に行きました。
本当は嫌で嫌で堪らなかったけど、駄々をこねたら、お父さんにそれでもクルワン家に生まれた男かと言われました。クルワン家の男は、民のために生きなさいと諭されました。
優秀な兄さんは残って、悲しいけれど僕は努力したけれど優秀にはなれなかったし、次男はそうゆう役目もあると他の大人にも言われた。
僕はずっと船に乗りながら、泣いた。
わんわんと泣いて、そしてその先の国はマルコニアとは全く異なっていました。
異国は異国で。
そして、国王様や王妃様は優しかったけれど、中にはうちの国と戦った時に恋人や家族、友人などを喪った人がいて、僕はたくさんたくさん虐められた。
助けてくれる人はいなかった。でも時々傷の手当をしてくれた人がいた。
その人に言われた。
可哀想にって。
僕は、可哀想なのだと知った。
可哀想な僕は、国民のために来ましたと言いました。そうするとその人は言いました。
ーー国民は貴方を知ってるの?
その言葉に僕は驚きました。
知らないと思いました。知るわけがないのです。
その人は続けました。
ーー貴方が傷つけられてること、その国の誰が知ってるの?
知らないと思いました。知るわけがないのです。
だって、手紙がここでは出せません。そして僕に手紙が届きません。誰も、誰も、僕を知らないのです。僕がここで誰に殴られて、蹴られて、折られて、叫んで、汚物を撒き散らしてしまっても、誰も誰も知らないのです。
その人の言うとおりです。
僕は、可哀想な人でした。
でも、可哀想な僕は、現実を知った日から生まれ変わりました。
暴力を振るわれると、何故か楽しくなってやり返すようになりました。そして誰かに止められるまで、暴力をやり返すようになりました。
狂ったんだねって、僕を可哀想と教えてくれた人が教えてくれました。
僕は、狂ったんだそうです。
ある日、僕があまりにもやり返すから誰も僕に手を出さなくなって、顔の腫れが引きました。その時には身体が少し大きくなっていて、お城の女の人達が僕を見て頬を赤らめていました。
そんな女の人を見ていると、すぐに笑顔を向けました。女の人は優しくするとすぐにご飯や何か物をくれるからです。でも、ある日、女の人が僕に馬乗りになりました。そして、あんあんと僕の上で騒いでいます。
僕はそれが大人の行為なのだと後日知りました。そしてそれからそうゆうことが何度か別の女の人たちでも起こりました。すると、僕を巡って、喧嘩が起こりました。僕は勝手に馬乗りになった女の人達が何故喧嘩するのか、何故僕に好かれてると思うのか不思議でした。
そして何故か僕が叩かれました。
また僕に可哀想と教えてくれた人が手当してくれました。
アホなんだね と、その人が教えてくれました。
どうやら僕はアホだったのです。
ちょっとショックでした。
しばらくして、人質ながらも文官としてお仕事を貰えるようになりました。ずっと手当をしてくれてた人と同じ職場です。僕の尻拭いをずっとしてくれて、ずっと僕を構ってくれました。
そんな人が、ある日、いつも作業着のみすぼらしい格好しかしていなかったのに、凄くお洒落をしました。ビックリしました。とても綺麗で、凄く女の人なのだと実感しました。
国に帰れるのだとその人は言いました。
どうやらその人は僕と同じ人質という立場でした。僕が目立っていたから、自分はあまりいじめられなかった。ごめん、利用したと泣いて謝るので、僕は何を謝られてるか分かりませんでした。
それよりもその人もずっと大変だったことを僕は今更気づきました。僕こそ甘えてばかりでごめんなさいと言いました。そして、やっと'彼女'とお別れなのだと実感しました。
嫌だと思いました。彼女とお別れするのが。
だから約束しました。力をつけて、大使になって、いつか彼女の国に行くと約束しました。
彼女は、凄く可愛らしく笑ってくれました。
また会えることを、僕らは約束したのです。
でも、約束が果たされることは永遠に出来なくなりました。
僕が力をつけると、マルコニア国のハルメニア王朝から外交大使に任じられました。やったー!やっと会いにいける!
外交に行く理由は何にしよう。商い?和平?それとも、それとも……
結婚の2文字が頭に浮かびました。でも、やめました。彼女が綺麗で清らかな存在に思えるなら、僕はひどく穢れた存在だと思ったから。
とりあえず彼女に手紙を書きました。会いに行くねと。
嬉しくて、楽しみで、僕は………ウキウキで準備をしました。
そんな時でした。
彼女の国、ナニクンがマルコニアに侵攻したのです。僕は慌てました。和平に行きますと、僕が人質になった王様に言うけれど、今はだめだと船を出してくれません。どうにかして船を出そうとしていた時、電報が届きました。
ナニクンのマルコニアに対する侵攻、ウィル・クルワンによる反撃、更にはナニクンへ追撃し、ナニクンの地を一つ侵略。
そこは、ーー彼女の家の領地でした。
領地を保有する伯爵家は全て斬首にされたとのことでした。
呆然と、ただその事実を受け止めきれずに一週間ほど経った時でした。
彼女からの手紙が届きました。恐らく戦争が始まる前に出したのに、何ヶ月も届けるのに時間がかかったのでしょう。
手紙には、
「待っているね、私の好きな人。」
そう、たった一言記されていました。
ポタポタと手紙に涙が落ちて、字が滲み、僕は慌ててその手紙を掻き抱きました。
「ぁぁあああああー!!!!!!!!!!!!」
僕は、可哀想な人で、狂った人で、アホな人で、そして好きな人でした。
僕は、彼女に貴方もそうですと言えませんでした。
好きな人なんです、僕の。貴方は、そうなんですと言えないままになりました。
僕は、彼女に会えないままになりました。
「………アム、ウィリアム、ウィリアムの旦那!」
ぱっと目を覚ませば、髭面がこちらを覗き込んでいた。むさ苦しくて、その顔面を押さえる。
「痛っ!何すんだよ!」
「お前こそ何目覚めに俺にキスしようとしてんだよ。殺されてぇのか。」
「だっ、誰がそんなことするか!旦那が魘されてたから起こしてやろうと!」
「ターコ。すげぇハッピーな夢だわ。原点回帰ってやつ。」
「原点回帰だぁ?」
ウィリアムは船の船室から出て、甲板に出る。潮風と波が五感を燻る。視界に入るのは、懐かしき国の土地だった。
「ーーなんで、親父を殺すのか。マルコニア国を攻めるのか。思い出してた。」
じわじわと孫をまず苦しめた。親父が何よりも愛していると、寵愛だと聞いたから。
婚約者を一人は医者を買収して薬を何の効果もない物に変えた、二人目はそれこそ外交官として政治に介入して失わせた。
兄貴も、目障りだった。クルワン家はどっちにしろ滅ぼす予定だから、不運な事故を起こしてやった。
幸いだったのは、俺の侍従だった奴と乳母が、孫の執事と侍女長になったこと。手紙で身に起こったことを書き記せば、謝罪と後悔のオンパレードだった。復讐の為に、何でもしてくれた。
違法薬物も撒いてやった。マルコニアなんて国、不幸に陥れば良いと思った。
でも、まだまだまだ足りない。足りないのだ。
ウィリアムの後ろにいた男は髭をじょりじょりと擦りながら、今目の前で狂った男を見た。
自国を滅ぼそうとするなんて、よっぽど恨んでんだなぁ。それか歪んだか。
「決意は揺らぐか?」
念の為確認する。
ウィリアムは大空に向かって両手を広げた。
「まさか!俺は、この日のために生きてきたんだよ。揺らぐどころか、固まった。」
男は、振り返ったウィリアムの顔を見、ぞっとした。光悦の笑みだった。
………これから滅ぼす国とはいえ、可哀想に。
狂った男は、厄介だ。




