お疲れ様
疲れていたのか、ミランダはすぐに眠りについた。
隣のベットで眠ったミランダを見、ユリアは部屋を出た。そうしてもう一度池に向かう。
そしてそこにはやはりユン大司祭が立っていた。
「ユン大司祭。」
「ユリア、やっぱり来たのか。我はそなたに説明など求めてはいないぞ?」
「でも聖堂の方が対処できないでしょう?」
ユンは苦笑し、ユリアに座るよう促す。
ユリアはユンと隣同士に座った。そして、何があったのかを経緯を話す。
「ふむ、物騒じゃのう。」
考えるようにユンはそう言い、その後ユリアを見る。
「それで、そなたは何故ここに来たのじゃ。」
「ですから、ミランダの無実を守るため…」
言葉が詰まった。大司祭があまりにも温かい目でこちらを見ていたから。嘘が言えなくなりそうで、唇が震えた。何もかも見透かしていて、それでも受け入れると言われているような気がした。
「ミランダを守るには他にも方法があったはずじゃ。それこそ、そなたが弁解してやれば良かった。何故みすぼらしい格好をしてまで逃げたのじゃ。
ユリア、何がそなたを追い詰めた?」
「………。」
話しても良いのだろうか。誰にも、未だかつて誰にも話したことがない。察しはされてても、口には出せないでいた。
もう恐らくアーサー様の妃にはなれない。こんなことをしたのだ。当たり前だ。
そう、もう自分で自分の望みを塞いだ。ヤケクソだったのだ。無謀になりたかった。
「ーー何が、辛かったのじゃ?」
ああ、もう駄目だった。
ユリアの碧い碧い瞳から、涙が零れ落ちる。
「………良い、縁談だと…」
視界が滲んで、大司祭の顔が見えなくなる。瞳の奥が熱を持って、喉が乾く。顔がぐちゃぐちゃに歪んでいく。
「フィリップ・クルワンと、私の縁談を…あの方は良い縁談だと………」
嗚咽がもれる。息があまり出来ないのに、それでも言葉が落ちていく。
「あの方が、私を…手放せるのは知ってます…知っているんです……。」
ユリアと優しく呼びかけてくれる声が好きだ。
「見返りは求めないよう、ただ傍に居ることだけを望むこと……愛を、っ…求めないよう……あの方がこちらを振り返るのを…諦めたんですっ………でも……」
私が少し頑張りすぎると困った顔して笑う顔が好きだ。
「でも、っ…!」
いつもこちらを気遣う、温かい手の温もりが好きだ。
「私をっ…」
'ーーーユリア。'
「他の人に譲るのは、嫌がってほしかった…!」
貴方の傍に居る、隣にいる、そんな時間が愛しくて堪らなかった。
愚かな私は、諦めることが出来なくて。
あの時間を愛しく思えたのが自分だけなのかと思うと、悲しくて、恥ずかしくて。
たとえ、貴方の一番になれなくても、たとえ、貴方の唯一になれなくても、それでも………貴方を想っていたかった。貴方への想いに浸っていたかった。
それすらも、駄目なのだろうか。
別の方との縁談は、貴方への想いを消せと言われているようで。貴方との時間は、特別ではなく、夢だったのだと突きつけられているようで。
惨めで、惨めで、ーーいっそのこと死んでしまいたかったのだ。
この世から消え去ってしまいたかった。
ミランダと追いかけられて、彼女をここに入れて、大司祭に訳を話して、ここから飛び出そうと思っていた。そして、ミランダを犯人にしようとする者に殺されたかった。
「ぅ、……ふぅ…っ……」
ボロボロと泣き、嗚咽をもらすユリアは、ユンが愛した女神ではなくなったけれど、ユンは優しくユリアを抱き寄せた。
ユリアの背中を優しくポンポンと叩き、ユンは幼い少女を泣き止ませるように穏やかに慰めた。
「ユリア、お前が望むならここにいなさい。ずっと、ずっと。女神に似てるからじゃない。我はそなたが愛しいのだよ。孫を持った気分じゃ。」
「…っ、ぅ、…」
「ーーユリア、お疲れ様。よう頑張ったな。」
「……ーーーッ……」
頑張った。
頑張った。
頑張った。
ボロボロと流れる涙が更に溢れて、ユリアは大司祭の肩に顔を埋めた。温かい温もりに、悲鳴を上げていた心が解されていくのを感じた。
「ーーー本当に、そなたは頑張り屋じゃな。」
ユリアは声が枯れるほどの泣き声を上げた。
わんわんと子供のように泣くユリアを、大司祭はただただ受け止めた。
シュガーは舌打ちをした。
「俺、聖堂入れねぇんだよなぁ。」
聖堂の前にいながら、ウロウロと歩き回っていると、ピクリと足を止める。そしてガーンっと落ち込む。
「やべぇ!!魂がいい感じに傷だらけになったのに、あのクソじじいが慰めてやがる!」
地団駄を踏み、悔しそうにする。
「くそー!食べ頃かもしれなかったのにー!」
そんなシュガーの周りをふわふわ浮く球にも変化が訪れる。一部の罅が修正されたのだ。
それに目敏く気づいたシュガーは更にショックを受ける。
「え。なんで、お前まで罅が直るわけ?は?え?共鳴でもしてんの?」
さぁ?と、球がふわふわとシュガーの周りを旋回する。シュガーはプルプルと拳を震わせ、聖堂に向かって叫ぶ。
「くそー!こうなったら、もっと傷つけー!」
球がシュガーの頭にめり込んだ。




