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悪女語り。  作者: 林 空花
32/83

お疲れ様

疲れていたのか、ミランダはすぐに眠りについた。

隣のベットで眠ったミランダを見、ユリアは部屋を出た。そうしてもう一度池に向かう。

そしてそこにはやはりユン大司祭が立っていた。

 

「ユン大司祭。」


「ユリア、やっぱり来たのか。我はそなたに説明など求めてはいないぞ?」


「でも聖堂の方が対処できないでしょう?」


ユンは苦笑し、ユリアに座るよう促す。

ユリアはユンと隣同士に座った。そして、何があったのかを経緯を話す。


「ふむ、物騒じゃのう。」


考えるようにユンはそう言い、その後ユリアを見る。


「それで、そなたは何故ここに来たのじゃ。」


「ですから、ミランダの無実を守るため…」


言葉が詰まった。大司祭があまりにも温かい目でこちらを見ていたから。嘘が言えなくなりそうで、唇が震えた。何もかも見透かしていて、それでも受け入れると言われているような気がした。


「ミランダを守るには他にも方法があったはずじゃ。それこそ、そなたが弁解してやれば良かった。何故みすぼらしい格好をしてまで逃げたのじゃ。

ユリア、何がそなたを追い詰めた?」


「………。」


話しても良いのだろうか。誰にも、未だかつて誰にも話したことがない。察しはされてても、口には出せないでいた。

もう恐らくアーサー様の妃にはなれない。こんなことをしたのだ。当たり前だ。

そう、もう自分で自分の望みを塞いだ。ヤケクソだったのだ。無謀になりたかった。


「ーー何が、辛かったのじゃ?」


ああ、もう駄目だった。

ユリアの碧い碧い瞳から、涙が零れ落ちる。


「………良い、縁談だと…」


視界が滲んで、大司祭の顔が見えなくなる。瞳の奥が熱を持って、喉が乾く。顔がぐちゃぐちゃに歪んでいく。


「フィリップ・クルワンと、私の縁談を…あの方は良い縁談だと………」


嗚咽がもれる。息があまり出来ないのに、それでも言葉が落ちていく。


「あの方が、私を…手放せるのは知ってます…知っているんです……。」


ユリアと優しく呼びかけてくれる声が好きだ。


「見返りは求めないよう、ただ傍に居ることだけを望むこと……愛を、っ…求めないよう……あの方がこちらを振り返るのを…諦めたんですっ………でも……」


私が少し頑張りすぎると困った顔して笑う顔が好きだ。


「でも、っ…!」


いつもこちらを気遣う、温かい手の温もりが好きだ。


「私をっ…」


'ーーーユリア。'


「他の人に譲るのは、嫌がってほしかった…!」


貴方の傍に居る、隣にいる、そんな時間が愛しくて堪らなかった。



愚かな私は、諦めることが出来なくて。

あの時間を愛しく思えたのが自分だけなのかと思うと、悲しくて、恥ずかしくて。

たとえ、貴方の一番になれなくても、たとえ、貴方の唯一になれなくても、それでも………貴方を想っていたかった。貴方への想いに浸っていたかった。

それすらも、駄目なのだろうか。

別の方との縁談は、貴方への想いを消せと言われているようで。貴方との時間は、特別ではなく、夢だったのだと突きつけられているようで。


惨めで、惨めで、ーーいっそのこと死んでしまいたかったのだ。


この世から消え去ってしまいたかった。


ミランダと追いかけられて、彼女をここに入れて、大司祭に訳を話して、ここから飛び出そうと思っていた。そして、ミランダを犯人にしようとする者に殺されたかった。


「ぅ、……ふぅ…っ……」


ボロボロと泣き、嗚咽をもらすユリアは、ユンが愛した女神ではなくなったけれど、ユンは優しくユリアを抱き寄せた。

ユリアの背中を優しくポンポンと叩き、ユンは幼い少女を泣き止ませるように穏やかに慰めた。


「ユリア、お前が望むならここにいなさい。ずっと、ずっと。女神に似てるからじゃない。我はそなたが愛しいのだよ。孫を持った気分じゃ。」


「…っ、ぅ、…」


「ーーユリア、お疲れ様。よう頑張ったな。」


「……ーーーッ……」


頑張った。

頑張った。

頑張った。


ボロボロと流れる涙が更に溢れて、ユリアは大司祭の肩に顔を埋めた。温かい温もりに、悲鳴を上げていた心が解されていくのを感じた。


「ーーー本当に、そなたは頑張り屋じゃな。」


ユリアは声が枯れるほどの泣き声を上げた。

わんわんと子供のように泣くユリアを、大司祭はただただ受け止めた。








シュガーは舌打ちをした。


「俺、聖堂入れねぇんだよなぁ。」


聖堂の前にいながら、ウロウロと歩き回っていると、ピクリと足を止める。そしてガーンっと落ち込む。


「やべぇ!!魂がいい感じに傷だらけになったのに、あのクソじじいが慰めてやがる!」


地団駄を踏み、悔しそうにする。


「くそー!食べ頃かもしれなかったのにー!」


そんなシュガーの周りをふわふわ浮く球にも変化が訪れる。一部の罅が修正されたのだ。

それに目敏く気づいたシュガーは更にショックを受ける。


「え。なんで、お前まで罅が直るわけ?は?え?共鳴でもしてんの?」


さぁ?と、球がふわふわとシュガーの周りを旋回する。シュガーはプルプルと拳を震わせ、聖堂に向かって叫ぶ。


「くそー!こうなったら、もっと傷つけー!」


球がシュガーの頭にめり込んだ。

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