同志
「久しいな!我が女神よ!!!」
「女神じゃありません。お前、何見てるの。この方を剥がして。」
倒れたユリアにその後も猛烈に抱きついて、お腹に頭をスリスリと擦り付けている。
ミランダは呆然とそれを見ていた。
幼い頃から遠くで見ていた大司祭様は、こんな方ではなく、清廉潔白が似合う方だった。
ユリアに睨まれるが、ミランダは戸惑う。
「え、でも子供」
「80を超える方よ。」
「そ、そうでした。えっと、失礼いたします!大司祭様!」
大司祭の肩を掴み、思いきり剥がす。
「うぉ!」
やはり子供らしく、力は弱い。
「む!何奴!無礼じゃぞ!」
「貴方様が言ってはいけない言葉ですね。」
ユリアは大きく打った腰を擦りながら立ち上がる。
ユリアは、改めて大司祭を見る。
幼いときに見て、その後も何度か拝謁した。一年も年を取らない、少年の姿のままの彼。白髪の髪は後ろだけ長くし、横顔にかかる部分はボブのように短い。黄色の鮮やかな瞳。彼は聖力を発動した瞬間から、その時のまま。
ユリアがデビュタントし、その後アーサーの付添で行ったボランティアで、ユンはユリアを目撃し、そして感動したのだ。聖書に記載された女神そのままの姿だったから。そこからユンは、ユリアに熱烈になった。そして
「改めて、お久しぶりです。ユン大司祭様。」
「うむ!どうだ!ここにいる気になったのか!」
アーサーとの婚姻ではなく、このままハーデンにて働くことを、自分の傍にいることを望んだ。
「いえ。ただ暫くは匿ってください。」
「OKじゃ!」
「ええっ」
ミランダはまさかの理由も聞かない大司祭に驚く。熱烈というか、盲目すぎません??
唖然としているミランダを置いて、大司祭はユリアの手を引いて歩き出す。
「そこの女も来るが良いぞ!今日は宴じゃ!」
「ええっ」
質素倹約が聖堂ではっ!?
ミランダは幼い頃から自分が祈っていた神とは何なのか、教えとは何なのか、もはや信仰が揺らいだ。
「突っ込んでると、疲れるわよ。」
「いや、あの…」
もはやそう言っているユリア様が疲れてますと、突っ込みたかったが、やめた。
宴といっても、大司祭とユリアとミランダ3人だけの晩餐会になった。ミランダは自分だけ身分が違うと叫びたくなったが、大司祭もユリアもそんなこと興味がないようだった。
大司祭が凄くユリアに話しかけるだけとなった晩餐会は、2時間ほどで終わりを迎えた。
「よし、次!池に行くぞー!」
彼は本当にユリアが好きなようだった。
無邪気な子供のようにはしゃいで、まるで母親に甘えているようだ。80歳とは思えなかった。
ミランダは大司祭とは現人神のようで、人間に初めて見えた。
「池ですか。」
「うん!聖水の池!」
それはこの国の神聖中の神聖な水では!?
女神がその池で産湯を浴びたはずだ。ミランダはドキドキして、その池がある場所に足を踏み入れた。
そして言葉を失った。
あまりにも澄んでいるからか、星星が池に写り込んでいて。それこそ神のものに見えた。
「ーーー綺麗ですね。」
ユリアも感銘を受けた声を出した。
ユン大司祭はそれは誇らしげな笑みを浮かべ、そして感動しているユリアを置いて、ミランダの手を引く。戸惑いながら導かれるままユリアの背後に回り、そして大司祭に促されるままもう一度ユリアを見た。
あ………
漆黒の夜空に、散りばめられた星、そして三日月がユリアを照らし、澄み切った池に映された星達がキラキラと煌めいて、そこに真っ白なユリアが立つと、ーーー本物の女神のように見えた。
「生きてて良かった、と。」
ポツリと右下から声がし、大司祭の方を見る。
彼はとても眩しそうに目を細め、彼女を見ていた。
「ユリアを見たときに思ったのじゃ。」
救われたのだと言っている気がした。
ミランダは何となく大司祭が何故ユリアの頼みをここまで何も聞かなくても了承したのか腑に落ちた。
熱狂的なファンでも、盲目的なファンでもない。ただこの人も、現人神ではなくて、人間だった。救いを求めていた、人間だったのだ。
「……。」
ミランダはもう一度、ユリアを見る。
美しくて、麗しくて、この世の人ではないかのような幻想的な雰囲気。
……アーサー殿下は、馬鹿なのかも。
こんな人に想われて、それでも手放せることを口にできる。人として、男として、どうなのか。
二人の関係だから口には出来ないけれど、勿体ないことをしていると思った。
「だから、ユリアが好きなあの殿下は気に食わんのじゃ。」
次は子供のように拗ねた声を出した大司祭に、ミランダは思わず「全く、本当ですね。」と無意識で言ってしまった。
あ、王族侮辱罪で死刑だ。
と、冷静な部分で思ったが、ユン大司祭に手を引かれ、顔を見ると、まん丸とした可愛い黄色の瞳を輝かせていた。
「そなた、同志か!」
ミランダは思わず握られた手を強く握り返す。
たしかに今、大司祭と平民の間で硬い絆が生まれた。
大きな声に驚いて振り返ったユリアは、二人がなぜか握手していて、首を傾げた。
何故、仲良くなってるのかしら。




