危険
知っているのは、貴方の人の見方と接し方。
最初は勘違いした。
屈託のない緑色の瞳、見返りを求めない柔らかな愛情と優しさ。そんなものを向けられて、勘違いするなって方がおかしい。
でも彼に接し、近くにいればいるほど分かった。
彼のその優しさは、見返りを求めないからこそ究極に居心地がよく、どこまでも残酷。………そんな見方と接し方を誰にも彼は向ける。
平等で、優しく、残酷な私の王子様。
だから、勘違いした自分を恥じて。彼に相応しくなれるよう努力した。そして、愚かな私は彼に見返りを求め続けた。こっちを振り向いてと子供のように我儘に。でも、それを諦めた。諦めたけれど。
「…………。」
瞳が荒むのを痛感する。思い出すのはチョウの瞳。希望も何も感じていない、空虚。
ちょっと、疲れたわね……………、こんな愚かなことをしてしまうほど。
ガタガタと揺れる荷台。城壁を出ようとしたところ、検問に引っかかるのが面倒で、行商人に宝石を一つ渡して、大量にある荷物を乗せた荷台に隠すように乗せてもらった。
隣で窮屈そうに眠るミランダを見、ユリアは空を見上げる。満点の星空と月がこっちを見下ろしていた。
これでもう王太子妃にはなれない。
アーサー様との約束は、破棄された。
少しだけ気分が清々しくなる。いや、虚しいのかもしれない。
ミランダと荷物に背を向けて、ユリアは寝転がる。
それでもユリアは癖のように、瞼を下ろす前にアーサーを思い出した。
アーサー様は、私が犯人と思うかしら。
違うと言ったら、信じてくれるかしら。
口の中を濯いだのに、まだ柑橘の味がした。
「ーーなんだ、これ。」
数時間前、フィリップとアーサーは侯爵邸のダンスホールにいた。ダンスホールには、ユリアとミランダのために用意されていたティーカップや皿などが割れて、散乱していた。
暴れたような形跡があった。
フィリップが使用人に指示を出している中、アーサーはティーカップの近くに寄り、微かに香るものから察する。
「ーーフィリップ。」
「どうした?」
「……捜査してた違法薬物。独特な香りがしたよな?」
「ああ、柑橘系の珍しい香り…おい!」
アーサーが割れたティーカップの破片を、フィリップに渡す。顔の前に出されたので驚いたが、フィリップはすぐに香りに気づく。
捜査してた違法薬物の香りだった。
「なんで…。」
「早くユリアを見つけろ。危険だ。あと、厨房とここにいる使用人全員調べ直すぞ。捜査してた違法薬物とお前の婚約破棄について犯人が一緒なら、もしお前の恋人を狙っているなら…侍女もだが、さっきの公爵の話を廊下から聞いてたらマズい。」
フィリップは、ミランダとユリアを思い出す。
「ユリアまで、狙われている。」
身の危険を感じた二人がこの邸宅から消えたのかもしれない。




