ただ、貴方を一途に。
「良い縁談だけど、たぶん、無理だよ公爵。」
「無理?」
アーサーはどこか困ったように笑った。
「フィリップもユリアもとてもじゃないが気が合わない。二人が仲良くなれるなら、私は幼い頃に二人を引き合わせてる。3人で遊んだ方が楽しいし。でも幼い頃から分かってた。二人はね、気が合わない。婚姻しても、続かないんだ。」
フィリップはその言葉に驚き、納得した。
ユリアは存在を知ってはいたが、彼女がデビュタントで社交界デビューするまで会ったことはなかった。……会った時に、美しい人だと思った。美しく、高貴な人。アーサーが鼻高々に自慢する意味がよく分かった。
ただその美しさを独占欲からくるもので、アーサーはフィリップに隠したわけじゃないのは思っていた。やっと分かった。ただ、気を使っていたのだ。
ウィルはまだ不満そうだった。
「殿下、気が合わないだろうが何だろうが、貴族の婚姻は…」
「愛してるって言ったろう?」
「………。」
「過酷な人生を歩んでるんだ、一つくらい幸福を祈ってやりたいんだよ。それは、貴方もだろう?フィリップに続かない婚姻を渡す予定?」
ウィルはうぐっと言葉が詰まる。
その表情にフィリップはアーサーの勝ちだと悟った。
「……そんなに気が合いませんか?」
「うん。合わないよ。だって二人は一途だから。」
その言葉に違和感を感じたのは、フィリップだけ。ウィルは諦めたようにがっくりと肩を下げた。
フィリップは確かに一途だ。恋愛とかじゃなく、やると決めたからにはやり遂げてきた。ユリアもそうなのかもしれない、そんな雰囲気がある。
けれど今、アーサーが言ったユリアに対しての一途は、そんなことではない気がした。
「お前、まさかー…」
「旦那様、大変失礼いたします!」
フィリップの言葉を遮るように、扉が勢いよく開く。
部屋の中にいた3人が驚く中、執事が飛び込んできた。こんな無礼なやり方は3人は初めて見て、動揺しそうになるが、気を引き締める。
ここまで無礼な行動をするとは余程のことがあるのだ。
「どうした?」
「ユリア・カエサル様と侍女の一人が姿を消しました!!!」
誰もが驚いて目を見開き、そんな中でアーサーはポツリと「……ユリア…?」と言った。
「…………お前、こんなことして大丈夫なの。」
「全く大丈夫じゃありませんね!」
ミランダはそう言って顔を青褪めつつも、ユリアの顔を隠すようにフードのある少し汚れたコートを着せた。姿もどこぞの町娘の格好になり、ユリアの顔だけが輝いている。
ミランダはやっぱり綺麗な人って、服が変わっても綺麗なんだなぁと思いつつ、自分の支度もパパっとして、ユリアの手を握る。
もう無礼とかそんなこと考えてなかった。
「行きましょうっ、ユリア様!」
「…ええ。」
ミランダの手は、冷たいユリアの手に握り返された。
誘拐だとかそんな大事になってしまう可能性や様々なことが頭に浮かぶが、それを振り払うようにミランダは走る。なるべく早く、早く、ここからユリアを連れ去りたかった。
「あれ、ばあちゃん今お客さん来てなかった?」
町外れの服屋で、店番をしていた祖母に孫が声をかける。
「来てたよ。ありゃ良いもん身に着けてたし、貴族かねぇ。ほら、宝石とドレス置いてった。」
「はぁ!?!?ちょ!ええっ、これ!」
どう見ても高そうなドレスと宝石に孫は目が飛び出そうになる。
「こんな首都じゃうちの店は儲からないから質屋も兼ねてるだろう?宝石とドレス換金して、慌ててどっか行っちまった。町娘になってね。」
「いや、これらの換金できるだけの金、うちにあったか?ないだろ?」
「ああ、だからお嬢さんの一人がなら他の宝石は持っていくから、とりあえずあるだけで換金を。ってね。ありゃ天使っていうか、ゾッとする美貌だねぇ。」
のんびりと感想を述べる祖母に唖然としたが、孫は慌てる。
「…………ばあちゃん!!ぜってぇやばいって!家出とか何かに俺ら巻き込まれる!貴族のそんなのに巻き込まれたら終わりだ!!」
「良いじゃないか。貴族だとは思ったが、犯罪やらして逃亡してる様子はなかったよ。ありゃたぶんただの家出。……私はこれから正直に何か聞かれたら言うし、お客さんを拒みはしないよ。」
「ばーーーちゃんんんん!!!」
孫が泣き喚くので頭を叩く。
孫が慌てるのも分かるが、こんな年寄りになると何か人を助けたくなった。巻き込まれたらやっかいかもしれないのに。
「あんな美人なのに、可哀想に。」
疲れ果てた目を、真っ白な子はしていた。




