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悪女語り。  作者: 林 空花
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じじいの夢



【ミランダは、人生を謳歌したことがない。ただ謳歌とは何なのか考えたことはある。でも結局、謳歌とは何か想像もできなかった。が、恐らく貴族とは、謳歌しているのだろうと思っていた。

フィリップと出会い、ミランダはこんな仕事人間を知らないと思った。彼は貴族としてだけじゃなく、経営者として、果ては国に巣食うゴミによる事件解決、様々なことを行っていた。

主であれば、尊敬していた。クルワン家に仕えたことを誇りに思っていたことだろう。

ただ、彼は男としてはーーお慕いするには値しない男だと心底思った。】


そんな物語の内容を思い出す。



「一週間後、パートナーとして行くぞ。」


「一週間!?無理ですよ!」


「この前はぶっつけ本番でも行けた。」


「それは、クルワン家主催でしたから!それに私は噂の的ではありましたが、話しかける方はいませんでした!!!!今度からは違います!」


「二週間もあったのに、何にも力が着いてないってことか?」


「まだ十分な力じゃないってことですよ!!!」


帰ってもいいかしら。


控えている執事に目を向ければ、老練な紳士は目線を伏せている。

執事としてはミランダの無礼に怒るところだが、もはや慣れたのか、今回の任務中はフィリップから許されているのか放置している。

レッスンに訪れたというのに、完全に私のことを忘れている。この人たち、本当ムカつくわ。

こっちの精神状態に配慮しろとは言わないが、悪い意味でもお互いしか見えていない。


「…………とりあえず、別の部屋案内していただける?」


「はい。」


話を遮るのは無礼とかではなく、こんな時間の無駄はないと思ったので、お茶を飲みたかった。




「おや?」


どくんっとユリアは歩いていた廊下の先にいる男性を目にし、心臓が跳ねる。

フィリップより幾分か鋭い目つきをしているが、その目は柔らかく弧を描く。


「これはこれは、レディー・カエサル。」


「公爵、お久しぶりです。」


この国に2つしかない公爵家の現当主にして、戦争では老練な戦術家として名を馳せたウィル・クルワン。フィリップの祖父。


「孫に会いに来たら意外なお客様だ。君の美しさは、老人の老いた霞んだ目が本当眩しい。視力が落ちるのがこんなに口惜しいとは。」


「そんな、…光栄です。」


「もうお帰りかい?」


「いえ、……。」


背後にいる執事から並々ならぬ圧を感じる。先程までミランダとフィリップに動じていない様子だったが、さすがに公爵には見せられないと思っているのだろう。ユリアは必死に公爵を引き止めてくれ!と叫んでいる執事の声が聞こえた。 


「実はフィリップ様に用があったのですが今手が離せないらしく、時間を潰しに応接室にでも行こうと。」


「おお、孫がすまないね。そうか、アイツは今忙しいのか。…なら、レディー。老人で悪いが、私と一緒に暇を潰そうか。」


「ぜひ。」


執事は感激した。

ユリアは、クルワン家の使用人に認められ度が上がった。ユリアはウィルに笑みを向けながら、尻拭いをさせられたことで、更にクルワン家が気に食わなくなった。



「首都にお越しになられていたのですね、公爵。」


「孫が侯爵となったのだ。心配でね。」


目尻のシワを照れて触る彼に、ユリアは本音なのだろうと思った。


御年70となる公爵は、公爵家の領地にて領地運営を行い、王国での実務などは全てフィリップに継がれていた。事実上表舞台から引退していた。

彼の実子である二人の息子、一人はフィリップの実父は数年前に不幸な事故で奥方と共に亡くなり、二人目は異国の地にてこの国の外交大使として働いている。フィリップが侯爵となり、次期クルワン家当主となったのは、叔父である方が異国の地を気に入ってしまったのも大きい。………実際はその国との戦争の際に終結の為、王位継承権を持つ者として人質に出されたのが正しい。しかし叔父は幼い頃に出され、しかもそこで人並みの扱いを受けたことにより、自国よりもその国に愛着を持ってしまった。

つまり、ウィル・クルワンは実子を二人も失ったも同然だった。


フィリップは、唯一の孫だ。

それは可愛いであろう。


「………公爵は、お優しいのですね。」


「うん?」


家族愛というものを、ユリアは知らない。近くにいたアーサーも恐らく家族愛を知らない。


「フィリップ様が羨ましいと、正直思います。」


目を伏せて、ユリアは少し本音をこぼす。


「クルワン家というお家に生まれ、殿下のような無二の友人もいて、公爵のようなお祖父様にも恵まれた。彼は彼なりの苦労や努力もあると分かっているのですが、恥ずかしながら……羨ましいと思ってしまうのです。」


「………。」


ウィルは、本音をぽつりぽつりと言うユリアを見、少し前に持った印象と異なると思った。

前はパーティー会場で見たが、麗しいは麗しいが棘だらけだと思った。しかし今は、麗しさの中に儚さも滲んでいた。


ふむ、疲れてるのか…?


確か正式な婚約をしてから、数年だ。そろそろ結婚してもおかしくないが、王宮は何故か踏ん切りがついていない。それに焦れて疲れたのかもしれないと予想する。

既に嫁いでもおかしくない教養と品もあるが、………彼女の家、カエサル家が踏ん切りがつかない理由なのだろう。


カエサル家は侯爵という爵位が与えられている。

この国には、まず王族、次に四大貴族が権力を握っているが、四大貴族の中でも公爵家は2つ。クルワン家とシャルワ家。あとの2つは侯爵位である。

フィリップ自身も侯爵いう位が与えられたが、領地は一つしか与えられていない。侯爵として四大貴族の後に続くのが、カエサル家とガン家。つまり、侯爵位は大変高貴な地位であり、希少である。

カエサル家は建国後から数十年後の戦争の際に、敗戦とまでなりそうになった時に領土を広げることに貢献した貴族の家系だ。元は男爵家であったが、その戦争は領土を広げることによって、王国の貿易という経済的にも繁栄をもたらすことに成功し、人口も増え、国が活性化したことから男爵から爵位が侯爵とまであがったのである。

そんな侯爵家が経営が傾き、不正が横行するようになってしまったのは嘆かわしい。実際、ユリアが不正を直すために使用人や従業員を一斉解雇したことがあった。気に食わないというだけで解雇した悪女として噂が広まったが、その実はユリアによる粛清だった。

王家はそれを正しく見ただろうが、外戚となるにはリスクの大きさがある。


ふむ…。王家が選ばないというなら、クルワン家に欲しい娘だ。


そう考えた瞬間、ウィルは は!そうだ! と閃いた。と、思った。

そうだ。そうだった。王家にくれるなど惜しい。それに王家としても四大貴族の中にいる娘の誰かとまだ考えているだろう。王家の外戚にもさせない。クルワンとして、カエサル家も管理してやろう。そしてこの娘はフィリップの嫁にするのだ。今回何をしにこの屋敷に来たかは不明だが、仲が良いのだろう。

王家といえど、クルワンに命令はできない。ならば、自由に動こう。


ウィルの目がランランと輝く。


ひ孫に早く会いたい!!!

なのに、フィリップは女に興味を抱かない!なら!ジジイが動くしかない!!!


ユリアは何となく寒気がした。

目の前の老人が恐ろしい企てを考えているように見えるのは気のせいだろうか。


ユリアが寒気を感じている間、フィリップとミランダはまだ口喧嘩をしていた。

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