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悪女語り。  作者: 林 空花
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ユリアが別館から出ると、出たすぐそこにアーサーがいた。目が合うと、アーサーはいつもよりどこか弱々しく笑った。


「無茶したな、ユリア。」


ああ、全部聞いているのねと悟った。

ユリアは心配をかけてしまったことを察し、謝る。


「申し訳ございません。そんなお顔をさせてしまう気はなかったのですが。」


「そうじゃないんだけど。……行こう。」


アーサーが手を差し伸べてくる。

昨日気づいてしまった自分の浅ましさに後ろめたさを感じる。それでも、そのことに気づかれるわけにはいかなくて、ユリアはアーサーの手に自分の手を添える。アーサーは、しっかりとユリアの手を握った。

元々今日の予定は、アーサーとの昼食だった。王妃に会いに行ったのは、無計画ではあったが、許可は簡単に下りた。待っていたと言われんばかりに。


「王妃様は、変わらずだった?」


「ええ、またいじめると言われてしまいました。」


「あああーー…本当あの人は歪んでいるというか。ごめんな、守ってやりたいのに。」


「構いません。一人で乗り越えなきゃ、王妃様は恐らく私を王太子妃から外しますわ。」


アーサーは苦笑する。アーサーが自分の母の恐ろしさに気づいた時には、ユリアも自分も彼女のターゲットだった。アーサー自身、様々な問題を彼女に振りかけられた。闇売買の支援者であったり、アーサーの領地で不正が横行していれば唆したのは母だったり。そして全て母である証拠は見つからず、摘発した者達は全て母の名を口にはしなかった。我が母ながら、無邪気にそれを行う自体、歪んでいる。


「でも、無理はするな。」


アーサーの視線がユリアの首に向かう。ユリアは苦笑し、握られていない手で首を庇う。


「……申し訳ございません。」


その謝罪が何を意味するのか分かっていた。無理をするなという願いを聞き届けられないということ。


「聞けない?」


ユリアはその問いに答えない。アーサーはそのユリアの頑固さが可愛くて、そしてもどかしく思った。


「ーーまぁ、昼食食べよ。」


「はい。」


この頑固さが解れないことは、長年の付き合いで分かっていた。




「それで、侍女の教育はどう?やってるの?」


昼食が終わると、コーヒーを味わないながら、アーサーが徐ろに聞いてきた。ユリアは指先をピクリと反応させつつも、淡々と答える。


「ええ。まだ1日しか終えてませんが。フィリップ様に聞いたのですか?」


「うん。ユリアめちゃくちゃ怒るぞって忠告したのに、アイツ実行したんだな。」


「ふふふ、もう少し忠告をキツめにしてほしかったです。」


珍しく、とてもとても満面の笑みを作ったので、ブチ切れたままなのだと察する。怖い…と怖じ気づくが、アーサーはその敵意が自分に向かっていないことを安堵する。


「ユリア。」


「はい。」


「アイツは、カエサル家を疑っている。」


ティーカップを口につけようとして、ユリアは止まる。そして視線をアーサーに向ける。ただ穏やかにこちらを見ていた。


「容疑者の内の一つとしてね。」


「………潔白を証明したいのですが、父はもしかするとと思う自分がおります。」


「うん。」


「ただ、父が他国の政治にまで介入できるほど力があるとも思っておりません。」


「うん。」


フィリップの二番目の婚約者は、他国だった。この国で侯爵ではあるが、侯爵という地位なのにカエサル家が持つ会社の経営は良くない。領地の運営も、ユリアが関わった時に穴だらけの書類に汚職が蔓延っていると知った。そんなカエサル家が他国に介入できるわけがない。ーー王家にユリアが嫁げば変わるとカエサル家は考えているが、実際の王妃の狙いは敵にもならない家の者を王家に嫁がせることで、自分の実家への牽制と、四大貴族よりも権力を握ることへの手段でしか考えていない。そんなことにも気づけていない。


「今回は王妃様でもないでしょう。」


「そうだね、何かを知ってはいるかも知れないけれど。」


「…………アーサー様…」


「うん?」


不安げなユリアの声を、アーサーは穏やかな声で受け入れる。ユリアの本音をもう既に分かっているのだろう。本当に敵わない。


「もし、父が関わっていたら」


「それでも、王太子妃にすることは変わらない。」


「………しかし、」


「王妃様は更に喜ぶかもね。ユリアが家門の力が無くなること。」


ユリアは、静かに目を伏せた。王妃ならそうかもしれない。でも自分は違う。アーサーの為を考えるなら、アーサーが少しでも王位に着いた時に権力やらを握るためにはーー後ろ盾がいる。

家すらも潰され、アーサーの隣に相応しくないとされた時、それでも自分はアーサーの隣を誰かに譲ることが出来るだろうか。


「ユリア。大丈夫。ユリアが私の隣にいるために努力してくれたように、私も努力する。」


「アーサー様…」


感動のような、嬉しさが心に広がる。が、


「ただ、もしも王妃になりたくなかったらその時は正直に言って。ーー大丈夫だから。」


次の瞬間にはデタラメに傷ついた。

優しい方。優しくて、私を手放せる。私とは違う。

私は貴方を手放せなくて、苦しい。

その優しさが愛しいのに、憎たらしい。


「はい。ありがとうございます、アーサー様。」


想いの違いを、痛感させられた。

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