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あいに溢るる  作者: 手石
異常な依存と異状に委譲しぬ意地
97/103

1.82.1 VSレンの育ての親

一度処刑されたと思われた人物が何故か生きて戻ってくるという展開……これを都合の良い展開と呼ばずしてなんと呼ぼうか! 多分似た展開またやりそうで怖い!

改めて見たら、この場にいる全員レン君大好きっ子(?)なのよね。どうか暖かい目で冷やかしてください。

 十四時三十五分。

 戦闘が起こる寸前だというのに、先程まで呑気に長々と雑談をしていたのも束の間、レンもトヨもいなくなり、静かな廊下という空間が広がった。


「俺に勝てる……ね」


 その沈黙を、床に視線を向けて待ち続けていたモクリサが破った。数分ぶりに響いたその声に、ルルもハヤタも肩を一瞬ビクつかせた。


「励ましの言葉にしちゃかなり雑……あいつ、マジで盲目になってんな……」


「あ、終わるまで黙って待っててくれてありがとうね」


「……」


 言った。どう考えても言わなくてもいい言葉であろう言葉を堂々と言った。笑顔で。どういう神経してんだこの人。

 ハヤタの言葉に、若干眉を顰めるモクリサ。しかし気にしていないのか、すぐに顔を上げ二人を見つめ返した。


「で、まずあんたら」


「ん?」


「あんたらはレンとどういう関係何だ……?」


 何でだよ。いや、本当に何でだよ。これからバトル始まるって時に何聞いてんだよ。後で聞けよ。

 今聞くべきではないその質問に、ハヤタは一瞬キョトンとした顔をしたが、ルルは表情を変えずに口を開いた。


「婚約者」


「良い感じの関係」


「……」


「……」


「……良い感じの関係……?」


 そして夫々そんな返答をした。が、ハヤタの返答に若干の疑問を持ったのか、ルルは一瞬の間の後、ハヤタの方へ顔だけ向け同じ言葉を繰り返した。


「え、あの、は? は? 私を差し置いてそんな関係と豪語するとか。頭の中に熱湯でも入ってるんですか?」


「遠回しの一撃が強すぎるにゃあ」


「良い感じの関係に対して良い意味持ちすぎだろ」


 ルルはハヤタの目の前まで近づき、そして下からハヤタの顔を見つめながら、目に力を込めながら淡々と言葉を繋げた。その力の籠った瞳に見つめられ、ハヤタは若干のけ反っている。

 婚約者と名乗り出た人が、たかだか良い感じの関係程度でそんな目の敵にするぐらいに詰め寄る?

 二人のやり取りを見つめる一方で、そのやり取りに疑問を持ったのか、左手を顎に添え口を閉じた。


「……にゃあ……って何だ?」


「あ、知らない? 今若者でバリバリに流行ってるんだけどさ」


「何言ってんですか?」


「……」


 何で今そこに注目した? レン君どころか戦いにも絶対関与しない部分だろそこ。

 ハヤタは両手を広げ、小さくジャンプしながらそう返答した。明らかに小馬鹿にしているとしか思えぬその言い方に、ルルは若干引き気味にハヤタへと視線を向けた。


「まぁ、どっちにしろにゃあ、お前らが何者であろうと関係ないんだにゃあ!」


「騙されてる!?」


「若作りに必死なのかにゃあ?」


 あの、こんな分かりやすい人間そうそういないと思うよ……そんな、影響受けた事が分かりやすい今のタイミングでにゃあは使っちゃあかんよ。

 先程までの恐怖に包まれていた体はどこへやら、若作りに必死なモクリサを見て、大きな声でツッコミを入れるルル。あのハヤタでさえ、若干引いている。


「……皆の為にも……レンの為にも。邪魔なんだよ、お前ら別世界人は」


「戻した……この人純粋すぎるんだにゃあ」


「にゃあをやめろ」


「嫌だにゃあ」


「……レンの為?」


「……」


 ルルの呟きに、モクリサはルルへと視線を向けた。そして一瞬の思案の後、右手を前に出しながら口を開いた。


「……レンのやつ、一歳の誕生日に何て言ったと思う?」


「ん……」


「急だね……何て言ったの?」


「……」


 そして簡単なクイズを始めた。ハヤタは屈伸をしながら、すぐに答えを求めた。ルルは静かに考えていたが、ハヤタが答えを求めたのを聞き、すぐに考えるのを止め、モクリサへと視線を向けた。その二人の反応を見て、モクリサは右手の人差し指で自身の頬を指差した。


「僕に魔法を教えて、だって」


「……ん?」


「ええぇ……」


「え、な、何がおかしいんですか?」


 そして一言、そう言った。ルルはその言葉の意味を理解出来ず頭の中がハテナで埋まった一方で、ハヤタはその短い文でモクリサの言いたいことが分かったのか……というか多分、レンのその行動に対してだろうか……左手でおでこを抑え、少しだけ視線を上に向けた。


「いやぁ、可愛かったなぁ……ただでさえ怪しかったけど、あれで確信したんだよな」


「確信……?」


「レンが、別世界から来たってこと」


「え……」


 続くモクリサの言葉を聞き、ルルは目を丸くし、声にならない驚きの声を上げた。意味は分かっているが、何故、という言葉が頭に浮かんでいるだろうか。


「この世界。魔法っていう名前のモノは基本的に使用してないんだよね」


「え……」


「僕達のこれ、スキル、って呼ばれてるじゃん。魔力じゃなくてレイト使ってるし」


「魔法って、お前らの世界にある創作物でちらっと見る程度……なんだよな」


「え……え、あぇ、ほぇ!?」


 理解が追いついていないルルに、ハヤタとモクリサは補足をした。どちらも右の掌から青白い光を出し、レイトを放出しながら説明を行う。そして漸く、重大な事実に気がついたのか、今度は大きな声で驚きを顕にした。


「し……え、知ってて、知っててここまで育てたって事……?」


「そういう事」


 この世界……キューブの住人は別世界の人が嫌いだ。その悲しい事実を体験したばかりなのに、今目の前の人物はそれとは正反対の行動をした人物だ。その矛盾にルルは……恐らくハヤタもだろうか……再び頭に大量のハテナを浮かべた。


「最初は迷ったな俺も。でもまぁ幼いし、まだ害は無いし。なら少し様子見ながら育てるかって思った」


「その結果」


「父性が出てきた」


「出過ぎじゃい」


 出過ぎだよ。血が繋がっていないとかの騒ぎじゃない、シンプル赤の他人だぞ。レン君魅力的な人物過ぎない?

 およそこの世界の住人とは思えぬその行動力と考えの変化に、ハヤタも声を出してツッコミをする。


「……じゃあレン君の為、って……」


「今まで恋人だ何だとかいう話は一切してなかったのにいきなり婚約者!? はぁ!? アホか! 俺は絶対認めねぇからな!」


「娘じゃなくて息子に反応するのが面白い」


「珍しいタイプ」


「うるさいわ! 別世界基準で考えるなよ!」


 凄い、めちゃくちゃシンプルな理由だった……もっとこう、複雑な理由だと思ったのに、真実はただ単に子供が恋人を急に連れて来て「認めん!」って叫ぶ親御さんって……


「まぁそういう事だ! 様子見とかしないで最初っから俺の空間に引きずり込んでやる」


「ん!」


「っ!」


 ドンッ


 そして遂に戦闘態勢に入ったのか、モクリサは両手をグーにして合わせた後、地面へと勢い良く叩きつけた。

 瞬間、


 ゴボッ

 ゴギュルッ

 ガロロァッ


「ん!?」


 三人を囲むかのように、地面から木々が生まれた。一つ一つが非常に太く、抱き着いたら両手を組む事が出来ないだろう。そんな酷い圧をかけながら、木々は上へと成長をし、軈て光さえも遮りながら、視界の悪い舞台を無理矢理作りだした。


「木で……いや、森に覆われた……うわぁ、明かりもほとんど遮っててめちゃ暗い……」


「さっきのレンを助けた時のスキルを見るに、ハヤタ君とは正直相性悪い。けど、これ全てを焼き払うのは大変だろう」


「うへぇ地味にウザったらいや」


 僅かに差し込む光を頼りに、ハヤタは悪態をつきながらルルへ近づき、守るかのように前に立つ。


「まだ微かに明かりはあるけど……この感じだと自分の好きなタイミングで遮る事が出来そう……」


「消灯時間や点灯時間を自分で決められるのか。かなり厄介」


「消灯時間って言うのやめろ」


 何でそんな態々ダサく言った……? やだよそんな、相手の視界を遮る度に消灯とかいう単語出てくるの。

 が、そんな事もあまり気にしていないのか、顔色を全く変えずに淡々と返すモクリサ。その顔を見て、ハヤタは若干眉を顰めた。


「でもその様子だと、レイトには余裕ありまくりって感じだね」


「当たり前だろ。こちとらあの空前絶後のヘイル一社当たりの平均倍率三桁越えの時代を当時最年少で生き抜いたバケモンだぞ」


「自称バケモンて」


「三十年も前から最前線の強さでやって来てんだ。まだまだ序の口だ」


 そして悠々と自分の経歴を語る。そのセリフに、あまりピンと来ていないのか、ルルはその本当に化け物じみたその経歴には触れず、逆にハヤタはピンと来たのか、目を開き、驚きの表情を浮かべる。


「まぁでも、スーパー大型スペシャルグレイトめちゃくちゃパワフル新人である僕の方が、残念だけど有利かなぁ」


「自己評価高っ!?」


「最早早口言葉の領域」


 が、何故か強がった。目の前の化け物に、化け物擬きが反抗した。

 事実かどうかは別として、そんな所を張り合わなくてもいいでしょ。後何でそんな長文を噛まずに言えるんだよ凄っ。


「うんし。じゃあ全力で頑張ろうかにゃあっと」


「っ!」


「……」


 その言葉と共に、この場にいる三人全員が臨戦態勢に入った。ルルはレイトで創った縄を右手から出し、ハヤタはスマホを取り出して左手に持った。


「……」


「……」


「……」


「ん?」


 が、ハヤタは……いや、モクリサも、ルルが手にする武器を見てさっと戦闘態勢を解きルルへと視線を向けた。突然自身に向けられたその二人の視線にルルは戸惑う。


「え、ルルちゃん?」


「は、はい?」


「お前、スキルをメイン武器にしてんのか……?」


「え……? え、え何でそんなに驚くの?」


 そして二人の疑問に……自身が手にしているレイトで作った縄を見て困惑している二人を見て、別のベクトルで困惑するルル。


「別に縄って言っても……これ、ほら、鋭利だから結構痛いし」


「いや、そう意味……あ、そうか。多分まだ知らないのか」


「え……知ら……?」


 が、そこでハヤタは気がついたのか、右手を握り、左の掌を下にして胸の前に出し、その手の甲へと右手をポンッと優しく叩きハッと顔を上げた。

 掌の向き逆じゃない?


「レイトはレイトで貫く事は出来ないの」


「……え?」


 そして今度は右手の人差し指を上にあげ、短く説明をした。ルルはその短い説明の意味を考えようと前のめりになる。


「例えば、長い刀をレイトで創り出しても、その刀じゃ人の体を傷付けることは出来ても、貫くのは基本無理なの」


「人は普通、体内にレイトがあるからな」


「そうなんだ……え、でも、シメフムさんは体を貫いてたよ……?」


「あ……え、戦ったのか!? え、お前アイツに何し……っと、えと、あれはレイトを一時的に溶かすって能力だからだ」


 そしてハヤタとモクリサ、交互に説明をする。

 待って、何でモクリサあんた、敵に助言してんの?

 その二人の説明に理解した……が、次に浮かんだ、シメフムという人物に対する疑問を小さく呟いた。今この場に出てくるとは思わなかったのか、モクリサは一瞬動揺してしまったが、すぐに平静を取り戻しルルの疑問へと回答した。


「ほら、弾自体はシンプルで在り来りなデザインだったろ? その分威力に全振りしたって言ってたな」


「まぁでも、基本的にはその痛みとかもイメージ出来ないと創るのは無理だからね……その人、体の一部溶かされたことがあるかも」


「ひ……」


「……」


 玉をイメージしたのか、両手を顔の前に出して丸を作り説明をするモクリサ。そして両手で自身の体を抱き、少し震えながら説明をするハヤタ。もはや誰と誰が敵対しているのか全く分からない状態となっている。

 ……だから何でこの人、敵に助言を送りまくってんのって? 塩送るなよ。


「まぁとにかく。スキルはメインよりもサブの方が輝くって事なんだにゃあ」


「少なくても、その縄じゃ致命傷与えるのは苦労するぞ……何で俺が助言してんだ?」


 漸く気づいたよこの人。本当に何でそんな親切にしとるん? 敵だぞ?

 モクリサは右手を後頭部に添え、口を閉ざした。数秒後、再び口を開いた。


「……シメフムに……何受ナンバーワンに勝ったのか……?」


「いや、私じゃなくてナキハ君が」


「誰その人……?……いや、よっぽど凄いんだな、そのナキハ君って子」


 シメフムと戦った事。そして戦った人物が、目の前で淡々とシメフムを語っている事。その状況に対してモクリサはシメフムは敗北したのだと感じ取った。

 何か面白いなこれ。自分の口から魔王の名前飛び出してんのに、知らないせいで本人その自覚無いんだもん。


「あ、魔王ね」


「……ん?」


「ナキハ君は魔王の名前」


「……ん?」


 だからといって自覚させなくてもいいじゃん。今その情報提供する意味ほぼないよ? 後その言い方は良くないと思う。多分この人信じていないよ。


「いや、そんな分かりやすい嘘をつかれてもにゃあ?」


「動揺しすぎて若返ったにゃ」


「にゃあイコール若返りって何ですか」


 信じたのか信じないのかどちらか分からないが、モクリサはルルの言葉に目を丸くし、不思議な驚き方をした。

 驚きすぎて語尾付与されるって何? もっと別の驚き方あったでしょ?


「いや……でも、あいつ、魔王憎んでたし……ワンチャンマジ……?」


「あそうだ、ハヤタ先輩!」


「ん何かな?」


 とそこで、ルルはハヤタの名を呼んだ。手に持つスマホの背面に貼ってあるステッカーを見つめていたハヤタは、ルルへと視線を向けた。


「この人、木の他に鏡を操るスキルを持ってます!」


「鏡……なるほど」


「……そっか、この間のあれ見られてたっけ」


 ルルは右の掌の上に鏡を作り出し、ハヤタに見せながら説明をした。ハヤタはそれを一瞥した後、何かを察したのか、憂い顔をしながらモクリサへと向き直る。その瞳には、若干の哀れみも含まれているようにも見える。


「そりゃ師匠と敵対なんて、レン君もしたくないよね」


「いえ、何ならこの人育ての親です」


「そういう情報はもっと早くに頂戴にゃあ! 僕のやる気に関わるにゃあ!」


「若返らないでください!」


「若返るって何かな僕まだまだピチピチのDKだよ!」


 レンとモクリサの関係性が想像よりも深いものだということをサラッと教えられたハヤタは、先程のモクリサと同様突然若返った。

 何であんたら驚いた時に語尾追加されるの……?


「まぁいいや……じゃあまずは……」


 そんな事実もすぐに受け入れ、ハヤタは静かに右の膝を着き、


「ルルちゃん」


「はい」


「カウントゼロでジャンプして」


「……はい?」


 さも当然のように、突然ルルにそんな要求をした。その真意が理解できなかったのか、ルルは一瞬固まってしまった。


「さん、にー、いっち!」


「えちょま、はや――


「ゼロ!」


 そして素早いカウントダウンを行い、


 ゴガグガァ


「ぉ!?」


 真下に敷かれた、木で覆われている範囲にある床一面を、破壊するように爆発させた。そして辺り一面に灰色とオレンジ色と赤色で構成された光と煙が場を包み込んだ。


「んぅ!」


 一瞬の閃光と多量の灰色の煙が視界を覆ったが、数秒後、煙がゆっくりと消えた。


「っ! だいったん!」


 そして目の前の景色は、木で囲まれた範囲の床が無くなり、深さは数十センチメートルの、浅くも広い落とし穴のようなものが出来上がった。茶色い地面が顕になっている。


「お前、床一面まっさらにして、この建物使いもんにならなくなるだろうが!」


「既に隣の部屋のさ、床のガラスが一部無くなってたから別に良いかなって」


「何でそんな危険な考えが簡単に脳裏に浮かぶんだよ! お前本当に別世界出身か!?」


 文句にも似た叫びをハヤタに向けるモクリサを後目に、要求通りに飛べたのかルルは無傷のまま、床から土へと移り変わり所々に瓦礫が散らばっている地面を黙って見つめる。


「コンクリごと吹き飛ばすほどの威力……はまだ分かるけど、瓦礫が殆ど無い……?」


「で、床禿げさせてどうすんだ。俺の木は……あぁ……若干燃えてる。まぁ、許容範囲内だな」


「……燃えてるのに焦らないあたり、多分僕の火に動揺してないって事だよね」


 ルル同様にジャンプして避けたのか、モクリサも土の上へ降り立ち、周囲を見渡す。周囲の木々は一部が燃えており、周囲を不気味に照らしている。


「じゃあ今度は、少しだけ、私の為に時間稼ぎをお願いします」


 ゆらゆら揺れるその光源を後目に、ルルはいつの間にやら手にしていた瓦礫を、右手から伸ばした縄で掴み、まるで短刀のように持ちながらハヤタに言う。


「それはつまり……あの人を倒す秘策があるのかな?」


「いえ全く。良くて軽傷です」


「良くて軽傷? よしな謙遜」


「勝手に韻を踏まないでください」


「アドリブならそこそこ上手いなそれ」


 余裕そうだね。普通考えてもそんなこと口にする場面じゃないと思うんだよね。

 そんなハヤタの緩い雰囲気がそうさせたのか、今のルルは先程まで少し腰が引けていた姿と違い、真っ直ぐに、モクリサを見据える体勢となっている。


「ただ単にやってみたい事です」


「なるほどなるほど。未来ある若者の後押しできるなんて、僕は何て幸せ者なんだろなぁ」


「若者……や、一歳差なのにそんな言い方します普通?」


「一歳差?」


 ハヤタは両手を広げ、まるでバレエのように片足を上げ、くるりと一回転をした。その姿を若干の呆れも入っていた目で見つめるルル。しかしハヤタは、ルルの「一歳差」という言葉を聞き、ハヤタはすぐさま足を下ろし、ルルへと向き直った。


「良いこと教えてしんぜよう」


「ん」


「ルルちゃんって誕生日八月だよね」


「は、はい。え、なんで知ってるんですか?」


 そして右手の指を五本立て、左手の人、中、薬の三本の指を立てながら説明を始めた。自分の誕生日と良いことの共通点がまるで分からず、ルルは首を傾げる……前に、自分の誕生日を知っていることに驚く。


「で、僕はというとね。なななんとね! 二月なんだ!」


「は、はぁ……?……ん……ん、二月……」


 そしてハヤタは、まるでワクワクしながらサプライズを発表する人のように、ルルへと1歩近づきながら自身の誕生日を公表した。その突然の行為に、ルルは一瞬困惑したが、すぐにその行為に及んだ理由を考え地面へと視線を向けた。数秒後、


「え、じゃあ今同い年……」


「そ。半年間同い年」


 真実に辿り着いたのか、視線をハヤタへ向け目を見開いた。ルルの言葉に肯定するかのように、ハヤタは一度、コクリと頷いた。その姿と言葉を聞いたルルは、


 トスッ


 膝から崩れ落ちた。


「そんっ……こんっ……こんな人と半年も同い年……!?」


「ルルちゃんも僕の本性を少しずつ理解してきたね」


「落ち込めよ。何でちょっと嬉しそうなんだよ」


 知ってしまった真実。それを受け入れられないのか、ルルは頭を抱え俯いている。その光景を見て、ハヤタは嬉しそうに体を上下に揺らし、モクリサはそんなハヤタにドン引きしている。

 ホント何してんのこれ。何で戦闘中にそんなくっだらない事で落ち込んでんのこの人? 逆にそんなくっだらないことで喜んでんのこの人? マジでもう……はよ戦ってくれんか?


「いやじゃあとにかく。時間稼ぎと、可能なら隙――


 ドゴッ


「おごぉ!?」


 そしてルルは立ち上がり、ハヤタへと再び要求をしようとしたその時、地面から木の幹が飛び出た。まるで地面から芽吹く子葉のような美しさも纏わせているその幹はルルの腹目掛けて、アッパーカットをするかのように、殴り上げた。


「そらまぁ。真意はどうあれ、そっちから狙うだろ」


「ルっ!?」


 右手を上げ、ニヤけた顔でルルに視線を向けるモクリサ。そのままルルを迎撃しようと、木の幹を更に三本、地面からルル目掛けて突進させた。


「っ!」


 その光景……には、見向きもせず、ハヤタはすぐさまモクリサへと近づきすぐに飛んできたハヤタの右ストレートを、上体を逸らしながら避ける。


「ゆっ! んまぁ、片方に構う様な馬鹿じゃないよな」


「避け、られるよねっ!」


 自身の拳が当たらなかったのを確認したハヤタはすぐさま姿勢を戻し、後ろへと飛び退いた。そして体制を戻し、再びモクリサに突進した。


「ん!」


「っ」


 ガッ


 今度は左の拳を、右方向から薙ぎ払うように放つハヤタ。モクリサは虚空からモップを取り出し両手で掴み、モップのハンドルでそれを受け止める。衝撃で若干体が後退したが、涼しい表情をしている。直後、ハヤタは両手をクロスするように、右手をモクリサの前に突き出した。


 シュンッ


「じっ!」


 するとハヤタの持つスマホのライトが、突然光出した。目の前に突如現れたその閃光にモクリサは少し身を屈めながら目を瞑ってしまう。ハヤタはその一瞬の隙を見逃さず、右足を後ろにして地面を強く踏みしめた。


 ザッ


「隙……っ!?」


 ドゴッ


「ぉ!?」


 ガッ


 そして右手で殴ろうとした瞬間、モクリサがモップのハンドルの先端をハヤタへ向け、瞬時に突き出した。モップとハヤタの体がぶつかり合い、鈍い音が響く。


「っ……ねぇー。何で怯まないのぉー」


「舐めんなばーか。というかそっちこそ。俺の突きに反応して、すぐに飛び退いたじゃんか」


「反応遅れて直撃したの! すごく痛いよもう! バットで殴られたことはあったけど、モップなんて初めてだなんだからね!」


「……バット……? えお前の世界、本当に平和だったのか……」


 グオッ


「んっ!」


 会話中にも関わらず、ハヤタの足元から木の幹が飛び出してきた。既の所で気が付いたのか、ハヤタは身を逸らして直撃を免れた。そしてすぐにその場から飛び退くように離れる。


「かっ……すったよ今! こら! 会話中なんだしもっと手加減してよもう!」


「やっぱ不意打ちじゃこの程度か……なら、量で攻めてやるか」


「のに、上のルルちゃんへの迎撃は全く止まってないし」


「当たり前だろ。馬鹿にしてのかそれ?」


 場に似合わぬ我儘な振る舞いをするハヤタと冷静に目の前の敵を潰そうとするモクリサそんな二人を後目に、未だ遠くで、太い木の幹がルルを一方的に殴り続けている。細い木の幹がルルを壁に押し付けるように固定し、二本の太い幹で突き刺すように殴りつけている。


「いや、視線向けずに攻撃してるのが凄いなぁって」


「あ、そう」


 ギュルッ

 ガルルッ


「仕方ないや。ズルしちゃおっ」


「は?」


 が、そんな姿に一切の心配も見せずハヤタは余裕そうに微笑む。モクリサはハヤタの両サイドの地面から木の幹を伸ばし、ハヤタへと突進させた。が、


 ウォンッ

 ウゥルッ


「……は……?」


 木の幹はハヤタに届かなかった。ハヤタの両サイド数十センチメートル離れた位置で、まるで見えないタンスの中に収納でもしているかのように、消えるように吸い込まれていった。


「それ、まさか――


 自身の攻撃が届かないことに気が付き、次の行動の為か一瞬目を開いた直後、


 ドギュォァッ


「がっ!?」


 モクリサの後ろから、二本の木の幹が突進してきた。モクリサの背中を突き刺している部分の他端はどこにも繋がっておらず、空中に浮いている。まるで先程ハヤタに当たらなかった木の幹が、そのままモクリサの背後へとワープしたかのようだ。


「にっ」


 そのまま勢いを殺せなかった木の幹はモクリサを押し出し、ハヤタの目の前まで運んでしまう。ハヤタはその光景を目で確認し、すぐに右手を振りかぶり、


 ムギッ


「じぇ!?」


 モクリサの腹にパンチをした。小さなうめき声がモクリサの口から吐き出された。直後、


 ヒュ


「に」


 ドゴァッ


「あぐぉっ!?」


 パンチをした部位がオレンジに光った、と思えば、小さな音を響かせながら、爆発を起こした。その衝撃に、モクリサは前のめりのような体勢になり、ハヤタは若干後退する。


「はぁ……っ……」


「流石にすぐ立てるよね」


「さっきのは……空間……スキル、か……」


「ごめんね。ちょっと違うの」


「……は……?」


 ハヤタを見つめながら悪態のような口調で呟くモクリサ。ハヤタは右手を顔の前に置き、掌を左へと向け軽い謝罪のようなポーズをとった。その光景と言葉に、モクリサは疑問符を浮かべた。


「僕達転記組……えっと……子供の頃からこっちの世界で生活してる別世界人? はね」


「……」


「妖精の力っていう……スキルの上位互換みたいな力を、神様から授かってるんだよね」


 今度は右手を下に向け、左手でその横の空間を切断するように縦に動かした。


「僕の場合は、たつ、っていう力。多分、異空間との境界線を断つ能力……かな」


「やっぱり……」


「ん」


「お前らは、危険因子だ」


「何それ。生きてたらこの世界に害を及ぼすとでも?」


「そうだ」


 ハヤタの説明を理解したのかしていないのか。モクリサはその嫌悪に満ちたその表情を包み隠さずに率直に告げた。いつもは優しい口調で、そして明るい笑顔が特徴のハヤタだったが、自分を……自分達を病原菌のような扱いをされたことに腹を立てたのか、声をワントーン下げてモクリサにそう言う。


「ただでさえまとまな思考ができず心身は全く進歩しない劣等種のくせに共存を否定して己の欲求を満たすためだけに暴れる存在だ」


「……うわ早口……」


「そこに訳分からん力も加わる? は? 巫山戯んなよ」


 ハヤタの怒りを込めた問いに回答するように、モクリサも同じように力を込めたように言葉を繋げる。両手を強く握りハヤタを見つめ返している。


「レン君も?」


「そこは別だ」


「レン君だけ特別扱い狡い狡い!」


 ハヤタは先程の怒りの声とは違い、また子供らしい声色に戻しながら我儘を言った。

 何だ狡いて。子供か。この場では聞こえないであろうセリフと声色だと思うんだけど。後大人も大人よ。何がレン君だけ別よ。公私混同が露骨すぎるだろ。


「あ、後気づいてないかもだけど」


「……」


「攻撃食らった瞬間のルルちゃんね」


 するとハヤタは人差し指を斜めに傾けながら笑顔で話し始めた。まるで子供がモノを見せびらかすかのように目を輝かせている。


「してやったり、って感じでニヤけてたんだよね」


「は?」


 カシュッ


「っ!?」


 瞬間、ハヤタのスマホのライトが輝いた。今度はモクリサの視線はハヤタを見据えたままだったが、モクリサの膝がガクリと落ちた。


「そ、っちかよ!」


 ガバララララァッ


「んぃ!」


「おんっ」


 悪態をつくモクリサ。崩れた体を元に戻そうと足に力を籠めようとした瞬間、鏡が、雨のように小さく、そして大量に降り注いだ。


「か……がみ……」


「すっごぉ……」


 しかし直撃した鏡は少なく、その殆どがモクリサの周囲の地面を叩きつけるだけだった。その威力も、意外性も、何もかもが拍子抜けだったからだろうか。モクリサの表情が、徐々に怒りの感情を滲ませながらルルへと視線を向けた。


「この、程――


 直後、


 ガッ

 グッ

 ゴッ


「んぁな!」


 鏡から縄が、モクリサを追い詰めるかのように四方から伸び、その鋭利な先端でモクリサの体に突き刺さした。右腕、右肩、左腰、そして両膝と背中二カ所、合計七本の縄。そして一本だけ、モクリサに向かわず真上に伸びている縄を残し、周辺に散らばっていた鏡は姿を消した。


「まじ……かこれ……!?」


 シュッ

 ベキュ


「にぐ!?」


 そして追撃と言わんばかりに、モクリサに突撃しなかった縄が、曲線を描きながら鞭のように頬に叩きつけた。


 ガキュ


 ドキュ


「うひゃぁ」


 ウァキュ


 その縄は往復するように、モクリサの頬を叩き続けた。一見すると不可解にしか思えないその光景を、ハヤタは右手を額の前で翳すように置き、遠くを見つめるようなポーズ見つめている。まるで他人事だと言わんばかりに大げさな表現とセリフと声量をしている。

 数回、痛快な音が響いた後、


 ュン


「え」


 ルルを拘束していた木の幹が、青く幻想的な光の粒になって消えた。


「んごろほっ!?」


 支えが無くなったルルは、うつ伏せの体勢のまま垂直に落下する。四肢と顔を置き去りにするかのように体幹が我先にと地面へと向かう。ほんの数秒で地面は目の前まで迫り、ルルは衝撃に耐えようと目を瞑った。が、

 ラァンッ


 その姿が消えた。直後、


「ふぐにっ!?」


 ハヤタの隣に仰向けの状態で現れた。下から飛び出すように、打ち上げられた。がすぐに、数秒前とは正反対へと変化した重力の向きに反応するかのように、ルルの体は落下を始めた。


 ソサッ


「みかはっ!」


 そして優しく地面と衝突をした。重力を緩和するためにルルを異空間に入れ、その向きを無理矢理変えたのだろう。その突然変化した重力の向きに驚いたのか、受け身も取れず乾いた空気を吐き出した。


「ひぁぅぁ……」


「大丈夫?」


「ぇ……ゃ……えと……何、だろうこの、安全バーのないジェットコースターに乗った時みたいな感覚……」


「何それ楽しそう。また今度やってみる?」


「絶対、嫌です勝手に一人で楽しんでてください」


 ゆっくりだがすぐに立ち上がるルル。やはりというべきか、ルルの周囲の地面には赤い水滴で作られた小さな水たまりがいくつも存在している。


「それよりさっきの……スキルからスキルを出す、って意外と高度なんだよね……」


「はい……?」


 そんなルルの姿を後目に、ハヤタは目の前でルルが作りあげた光景を見つめながら呟いた。そして右の掌を上にしながら、ゆっくりと立ち上がるルルの前に突き出した。


「強い人ほどスキルのイメージが完成されてるから……そこから新しいイメージを生み出すのって大変なんだよね」


「そ、うなんですか」


「まぁ、スキルからスキルを出すのって、労力に見合わない場面も多いし、そもそも皆挑戦しないけどね」


 そして静かにその掌の上に青い光を出しながら説明をする。ルルもその光に見入りながら説明に耳を傾ける。

 油断って言葉、この二人は知っているのかしら?


「あの年でこれを簡単に……別世界人との決定的な違いっすぎるだろこれ……」


「と、やっぱり……軽傷」


「うひゃぁ。ルルちゃんはあんなに木でぶん殴られてたのに。割に合わないね」


 割って入る……というよりも、独り言のように声を出したモクリサ。そこで漸くモクリサへと再び注意を向ける二人。モクリサは既に全身を鏡で、プロテクターのように覆い、追撃を許さぬ体制を取っている。

 戦闘中に意識を敵から逸らすな。相手の防御態勢整っちゃってんじゃん。


「んで……そんなケロッとしてんだよ……」


 モクリサは目の前に立つルルの全身を、腕、首、腰、足、何処を見ても赤く染まったルルの体を見て、まるで化け物でも見ているかのように動揺した声を出す。先程まで自身が拘束していたのに、今度は自分が、その相手が放ったスキルによって簡単に許してしまった反撃で拘束されているという現状から目を逸らすかのように。


「あの程度なら余裕」


「っ!?」


 そして化け物は、嘘でもやせ我慢でもない、余裕そうな表情で答える。思っていたものとは全く違う結果となったことに、またあんなに見下していた相手だからか、より一層顔を歪めるモクリサ。そんなモクリサの反応を見てか、ルルは嬉しさ二割、苛立ち八割といった表情を見せた。


「何その反応。勝手に弱い判定したくせに、その相手に今拘束されてる今の状況を受け入れたくないの?」


 相手が見せた僅かな隙。そこに付け入るかのように、そして苛立ちを発散させるかのように、重々しい語気と共にモクリサへとぶつける。が、すぐにその感情も捨て、次に嘲笑うかのように鼻で笑った。


「どんな気分なの? 舐めてかかってその結果傷跡たくさん付けられた気分は?」


「っ」


 ゆっくりと、しかししっかりとした足取りでモクリサに近づき、そして息を吸い、小さく口を開いた。


「ダサいよ」


 軽蔑にも似た目でモクリサを見つめながら、吐き捨てるようにそう言い放つ。


「そんなんでよくヘイルだなんて言えたよね」


「え、嘘この人ヘイルなの!?」


「ちょっとハヤタ先輩は黙っててください」


 そして続けざまに、まるで喧嘩でも売っているかのような煽り文句を低音で放つ。モクリサは目を伏せ、じっと押し黙る。まるで悪いことをして叱られている子供のように、口を閉ざしている。


「うるっ……」


「っ」


 が、すぐにその口は開かれた。視線は未だ下へと向けたまま、まるで頑張って手繰り寄せたかのようにセリフを絞り出した。


「……」


「……」


 数秒の沈黙の後に、


「うるさい!」


「っ!」


 短い罵倒が流れた。

本編に載せるか分からないのでここで載せますシリーズです。

モクリサが勤めている何受は、部長以上の立場の人は全員週休四日という待遇になります。が、ヘイル……特に何受は常に案件に飢えてるのか、企業・一般消費者問わずに仕事を引き受けています。故に、場合によっては出勤を余儀なくされる仮休日が三日、普通の休日が一日というようになります。忙しい日は一週間で一日しか休めないので、待遇とは言いつつも、部長未満は普通休日二日なので良くなったとは一概に言えないです。ただモクリサはレン君と出会う前は忙しくなくても仮休日にも出社し、レン君と出会ってから仮休日でちゃんと休むようになったので、何受の上層部の人達はレン君の事が大好きなのです。

今更ながらこの世界に祝日ってあるのか? あるとしてどんな日なんだ? そこら辺全く考えてないなこの作者マジで……

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