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あいに溢るる  作者: 手石
異常な依存と異状に委譲しぬ意地
93/108

1.78.5 VSレイトを貫通する槍を使ったりスキルで弾いたりが出来尚且つ変幻自在な水を出すのが得意な男性

 処刑場の中は暗く、底はもちろん、周囲の壁すらまともに見えないほどに真っ暗だ。そして謎の風が下から少しだけ吹いており、より一層不気味さが増されている。

 そんな状態の中、レンは泡が割れた直後にルルへと視線を向けていた。


「ぁふぃ……たっか……」


「っ、ルル!」


「んぇ!?」


 ビュッ


 レンは大きな声を出しながらルルを抱き寄せ、右手から大きな鏡を出す。そしてそれを縦向きに、真下へと投げた。恐らくオクモネミと戦った時のように、鏡を足場にするつもりなのだろう。


「いくよ!」


「ん!」


 ゴガッ

 ゴグンッ


 そして勢いの掛け声の後、すぐに鏡が空中で、向きを九十度回転して停止した。


 ドスッ


「ふにん!?」


「だ、いじょうぶ!?」


「んぇ……ん……判断早くない……?」


 そして無事、二人とも鏡の上へと着地をした。即座に対応できなかったルルは、レンの行動に若干驚きながらも、レンに抱かれたまま上を見つめた。


「この高さなら、私がすぐに上へやれるかも」


「……ん、お願――


 策があるのかルルが上を見つめたまま提案をした直後、


 ザゥッ


「いっ!?」


 上空から、水が覆い被さってきた。全てを飲み込もうとしているかのようなその水に、二人は息を飲み込む。


「に!」


「っ! 別に」


 グォンッ


「妨害がそれだけなら!」


 レンはその水責めを見て、穴を塞ぐほどの大きさ……ではなく、一辺が二メートル程の正方形の鏡を出した。二人をかろうじて隠せるだろう大きさのその鏡を空中に固定し、水に流されるのを防ごうとしたのだろう。


「鏡を出せ――


 ズオンッ

 グキンッ


「ぇ……んぉ!?」


 直後、弾かれるような音を立てながら、固定していたはずの鏡が、二人へと突っ込んでくるかのように落ちてきたのだ。


「んぐっ!」


「何――


 グギャンッ


「ぇ!?」


 そして次に、二人が足場にしていた鏡も、同様の音を立てながら落下を始めた。


「これっ、まさか!」












「俺の、レイトを弾くスキル。ちゃんと水の方にも付与は可能なんだよな」


 穴を覗き込み、自身の生み出した水に飲み込まれる二人を見て、ドセルは微笑んだ。


「いくら優秀なスキルを使えても、上から止める手段の無い天井が迫る」


 右手を自身の目線まで上げて横にする。そして左手も同じように横にし、右手を上から押し下げるような仕草をする。今の状況を表しているのだろうか。


「まぁ、俺に有利な場所だっただけだから、あの世に行っても俺の事恨まないで欲しいな」


 そして穴から離れながらそう声を出した。悪びれもなく。


「私の勇姿、いかがでしたでしょうか、霊妖様」


 すると突然、虚空を見つめながらポツリと呟いた。


「二人目と三人目……ん……褒めて頂けますでしょうか」


 あのソウヘイとかいう青年のことを考えているのだろうか、ドセルはその褒めてくれる人の事を考えながら少し頬を赤らめながら微笑んでいる。








 ヒュンッ


「っ!」


 直後、何かが空を斬る音がした。


 ガッ


 と同時に、大穴を覆うように鏡が出現した。鏡の中心からは縄も伸びている。


「縄と鏡……!?……ま……!?」


 困惑するドセルを嘲笑うかのように現れたその鏡。しかし、


 ボゥンッ


 数秒後に姿を消した。と同時に、


 ビュッ


「っ! マジ、か!」


 穴から、まるで縄を使った逆バンジーのように縄を伸ばしたルルと、ルルを抱き抱えているレンが、真っ直ぐと、勢いよく飛び出した。


「はぁっ!? どうやって俺の水を突破した!」


 トッ


「ぉんっ……っ……」


「だい、じょうぶ?」


「む……ん、大丈夫」


 小さく飛んだ二人は、そのままドセルと穴の間へと着地をした。そしてルルを心配しながら下ろしているレン。


「そ……れは、筆箱……なのか……」


 その右手には、筆箱が握られていた。


「……はい。この中に鏡を入れて」


 そう言いながら、レンは筆箱を前に突き出し、そのまま手を離した。


 ゴグッ


「で、その鏡を固定させました」


 そしてレンの膝あたりで、中に入っている鏡が固定したのだろう、筆箱が引っ張られるように空中で停止した。


「っ……単純な理由……鏡が水に触れなきゃ良いんだもんな……」


 その光景を見て、ドセルは両手で顔を覆いながら悔しそうに声色を落としながら呟くように言った。


「んなピンポイントで持ってるとは思わないじゃん……せっかく終わったと思ったのに……」


 そして顔を上げ二人を睨んだ。

 そんなに褒められたかったの?


「というか持ってても咄嗟に出せるか普通! 終われよ! 落ちろよそのまま!」


 そして地団駄を踏んだ。

 そんなに褒められたかったんだね。


「今度は近づきすぎないように、気をつけて戦うよ」


「ん」


 レンはルルの方へ振り返り、そう言う。そして両手を広げ、突進するような形でドセルへと接近する。ルルは両手を前に出し、縄の準備をしている。

 が、


「……まぁでも」


 ゲヘッ


「へっ?」


「ん!」


 ドセルの手前五メートル程で、まるでゴールネットに当たったサッカーゴールのように、レンの進行を阻んだ。壁から壁へと伸びている大きくて薄い膜、屈折の影響を受けず、視認できないようにしていたのだろう。


「はいOK。再びの確保」


 グニンッ


「っ!?」


 ビュッ

 ギャッ


「んぃ!?」


 直後、包み込むように丸められた。半径五メートル程の大きな泡となった薄い膜に閉じ込められたレンは、頭を下に足を上に、ひっくり返るような体勢になってしまう。


「何で全く……屈折はまだしも、ドセルさんの匂いは途切れなかったのに……!」


「最初に「匂いを通さない」ってのを強調したからね」


 驚くレンに、ドセルは鼻根を人差し指でトントンと叩きながら説明をする。二回目の捕獲とあってか、若干嬉しそうだ。


「ダメだよ、数分前の出来事に囚われちゃさ」


「……会話可能な水を創れるんだから、匂いを通す水を創れてもおかしくはないのか……」


「そういうこと」


 とうのレンは冷静に分析をしている。長い髪の毛を、泡の中に広げながら泡の中を観察している。右手を顎に当てている。左手を腰に当てている。

 今本当は余裕でしょ。もっと困惑しろよ。


「ど、うしよう……!」


「ほいっ」


「んっ!?」


「レン!」


 二人を分裂させた。レンを包んだ泡は、そのまま上空へと連れられていく。


「これって内側から壊されることはほぼ無いけど、逆に外から壊すのも難しいんだよね」


「やっ……ぱり……さっき短刀を出したのはそれが理由……」


 そしてレンを数メートル……ルルの手に簡単には届かない程の高さまで上げた後、ドセルはルルへと向き合った。それに呼応するかのように、ルルもドセルへと向き合った。


「つまり」


 そして腰を落とし、ルルの目を見据える。その瞳に、ルルは一歩後ずさった。


「数分越しのタイマンって事だよ」


「ま……じか……」


「さっきはレンさんという邪魔が入ったから、最高の機会だよ」


 ファイティングポーズをとり、少し嬉しそうにそう言った。余程先程のタイマンが不満だったのだろうか、少し飛び跳ねている。


「今度は徹底的に潰すよ」


「……っ……」


「お、やる気になった?」


 及び腰なルルだったが、やがて唾を飲み込み、ドセルとは違い仁王立ちするかのように、正面でドセルに向き合った。


「何となくだけど、分かった」


「……」


 が、まだ臨戦態勢ではないようだ。ファイティングポーズも縄を出すような動作もせず、真っ直ぐとドセルを見つめている。


「貴方のそのスキルを弾くやつ……少なくても、常に、身体中に出してるわけじゃない」


「ほう」


「私の縄を何度も避けてる辺り、レイトの消費が大きいとか咄嗟には出せないとか」


 そして自身の両手を前に出しながら分析をしている。ドセルはルルの予想に表情を変えずに聞いている。図星なのか見当違いなのかは分からないが、真剣には聞いているのだろう。


「だから、やりようはいくらでもある」


「……意外と……君の方も警戒すべき人物だったのかもな」


 が、やがてため息を吐きながら呟いた。戦いに不慣れな戦士に自身の弱点を言い当てられ、少し悔しそうだ。


「……私は……ちょっと悔しい……」


「は?」


 しかし、何故か暴いた側のルルは眉を顰め、口を窄め、不服そうに自身の左手を見つめた。その後右手を前に突き出し、手のひらを地面へと向けた。


 カラッ


「さっき拾った貴方の刀」


 一本の刀を目の前に、刃の部分をドセルへと向け、落とした。先程水中でレンの体に突き刺さった刀なのだろうか、先端が少し赤らんでいる。


「……はぁ?」


 そして刀を手に持ち臨戦態勢……になる訳でもなく、地面に落としたからだろう。ドセルは首を傾げながらルルの行動を見つめている。

 すると、ルルは左手も前に突き出した。瞬間、


「かける」


 カラララララララララッ


「え?」


「十!」


「はぁ!?」


 追加で九本の刀が、ルルの両手から落とされた。一刀一刀がLEDの淡い光を反射し、その光にドセルは少し目を細めた。


 シュルルル


 するとルルは右手と左手の全指の先端から縄を出した。地面に横たわっている刀へと伸ばしていき、


 ガッ

 ゴッ

 ゾッ


「これを縄の先に着けて攻撃すれば、あなたのスキルは無意味!」


 ガチャチャ


「いやまさかのゴリ押し!?」


 刀の柄を縄の先端に絡めた。そして刀付きの縄を持ち上げ、ドセルへと向けた。刀同士は互いにぶつかり、甲高い音を小さく響かせている。その光景に、ドセルは刀付きの縄を一つ一つ指差し驚いている。


「何か意外性のある攻略してくるとか思ってたんだけど!」


「確かに、普通ならやると思う。レンならやると思う」


 そして目を伏せ悔しそうに唇を噛む。


「だからこそ……今の私一人だけの実力じゃ、ゴリ押ししかできないのが悔しい!」


 ヒュルルッ


「んぉ!」


 空中で二人の戦いを見守っているレンを一瞥した後、一斉に、ドセル目掛けて縄が突進を始めた。真っ直ぐ飛ぶもの、左から攻めるもの、足元から攻めるものと、多方向へと縄を伸ばしている。


「っ!」


 ヒュ

 シュッ


「んっ」


 ヒャ

 キュ

 メャゥッ

 モミャッ


「ぎっ、い、意外と、このゴリ押しは、効くかもな」


「んぃ!」


「触って、反撃したくても、攻撃と攻撃の感覚が短いから、正直串刺し覚悟、で動かないと、シンプルに、ジリ貧だな」


「ちっ」


 三百六十度、一本一本タイミングをずらしながら、そして目の届かぬ方向からも飛んでくる攻撃。しかし一太刀も浴びずに全て避けていくその光景に、ルルはイラつきからか眉をひそめている。


「右手の指と左手の指。計十本を同時に操作……本当に、吹っ飛んでる、よね君」


 ドセルに避けられた縄はすぐに折り返し、再びドセル目掛けて突進を繰り返している。つまり、


「でも、そのやり方だと最終的には」


 ガッ

 グッ

 ニッ


「ほら絡まった」


 縄と縄がお互いの進路を邪魔するという結果になった。当然だろう。縄の他端は常にルルの指なのだ。そこを動かさない限りは、やがて縄の尻尾が別の縄と絡まってしまうのだから。

 ドセルも同じことを考えていたのだろう、若干嘲笑うように縄を見つめていたが、すぐにハッとした表情に切り替わった。


「あマジか絡まったの態とか。普通に俺包囲されてるじゃん」


「気づくの早い……」


 絡まった縄はドセルを中心に、半球の形で囲っていたのだ。縄と縄には隙間があり、ドセルはそこから前方に立っているルルを見据えている。


「刀の攻撃は出来ないけど、縄から新しい縄を出せるから」


 ガッ

 グキュル


 シュルルッ


「……俺は迂闊に動けない、ってか。というか再生早っ!?」


「んっ」


 ドセルは静かな口調で、冷静に分析しながらすぐ右の縄を右手で掴む。縄は金属に弾かれたかのような音を立てながら外側へと吹き飛び、サッカーボールほどの穴が開いた。と同時に、別の縄から縄が飛び出し、その空いた穴をすぐさま塞いだ。


「で」


 唐突に、右手を上にあげ、


 ジュイッ


「ゆんっ!?」


 水の塊を放った。縄の間隙を縫って真っ直ぐと飛んでいった水の塊は、何時の間に到達したのか、ルルの右小指から伸びている縄の先端に繋がっている刀を弾き飛ばした。


「俺は槍でどう反撃するかを考えるその間に、レンさんの泡を割る、か」


「っ……」


「十本は流石に多いだろって思ってたけど、本当の狙いはこっちか」


「何でそう、易々と私の考えてる更に先をすぐに見つけるの……!?」


「九本の刀で翻弄し、残りの一本でレンさんを救出。まぁ、作戦としてはまあまあか」


 一瞬焦りの表情を見せたものの、すぐに顔を戻し、ドセルへと両手を伸ばすルル。対するドセルは右手を下ろし、左手をルルへと向けた。


「っと!」


 ピッ


「んぉっ!?」


 そして手の先から小さな水の塊を一つ作り上げ、発射した。反応が遅れたルルは、水が自身の左頬を掠めた後に避けるように顔を横にズラした。左頬には傷ができず、水滴のみが付着している。


「あっぶ……」


「狙いはまぁまぁか。」


「これでまぁまぁなの?……あと数ミリズレてただけで大怪我してた」


「……」


 頬を掠める……攻撃は失敗に終わったように見えたが、ドセルは表情を変えず、余裕そうな表情をしている。そしてその表情のまま、虚空から槍を取り出し左手に持った。ルルの顔を……未だルルの頬に付着している水滴を眺めながら、微笑んだ。


「……意外といけそうかな」


「ん?」


「君がさっきからずっとやってる、レイトからレイトを生み出すやつ」


 グボワッ


「んぃ!?」


 カプルッ


 その水滴から、傘を横にしたような形の水が現れた。と同時に、その傘がルルを飲み込まんと襲い掛かる。ルルはその一瞬の出来事に反応できず、先程と同じ、透明な泡のような水に閉じ込められる。


「意外とできるもんだな」


「くっ!」


 シュッ


 カラララララッ


 悔しがるルルを後目に、ドセルは一本の縄に触れた。と同時に、周りを囲っていた縄が消えた。そしてその先端に括り付けられていた刀が、音を立てながら地面と衝突をする。


「そして」


 ドセルはすぐさましゃがみ、両手を地面に這わせた。


「全部晒す!」


 地面を押すように、力を込めた。瞬間、


 ゴボボボボボッ


「っな!?」


 ドセルを中心に、大量の水が地面から溢れるように飛び出した。LEDを反射し、煌びやかに見えるその水だが、水中には小さな鏡を大量に取り込んでいる。ルルの反応から見るに、恐らく事前に地面の中に設置していたものだったのだろう。


「俺の水の弾を、縄や鏡で弾かなかったからな。既に仕込んでるってのはすぐ気がついた」


「くっ……そ……破綻した……」


「これで、本当の本当に追撃はできなくなったな」


 やがて水中の鏡は静かに消えた。水中にある鏡を全て排除したのを確認した後、水を消し、ゆっくりと立ち上がる。そして歯を食いしばりながら視線を向けているルルへと近づく。


「待ってろ、今度は雑にじゃなくて、確実に心臓を――


 瞬間、


 パシャッ


「え?」


 トタッ


「えっ!?」


 上空で割れる音が小さく響き、その直後に、ドセルの背後に着地するような音が大きく響いた。


「はぁ……ふぅ……」


「はぁ!?」


 音に驚き振り返り、そして目の前に立ちはだかっている人物を……レンを見て、更に驚きの声を上げた。


「何で出……っ! 爪楊枝!?」


「たす、かった……長くて」


 理由を探ろうとしたドセルだったが、すぐにレンの右手に持つ肌色の爪楊枝へと視線を向けた。七色もの団子を一刺しにしていた故にだろう、軽く三十センチメートルは超えているその爪楊枝を、レンは力強く握りしめている。


「ルルばっかり見てるから、僕が脱出を試みてることに気が付かないんですよ」


「くっそ……次々とめんどいな……」


 息を切らしているレンに悪態をつきながら、ドセルは右手を前に出した。

 直後、


 ビチャチャ

 ガッ


「んっ!?」


「お? おぉ」


 上空から、先程までレンが泡の中に囚われていたであろう場所から、血が落ちてきた。それと同時に、レンは顔の大きさほどの鏡を取り出し、空中に固定した。そしてそれを、たどたどしい動作になりながら、右手で掴んだ。体重を完全に支えられなかったからか、少しだけ前のめりになる。


「流石のレンさんも、泡の中という狭い檻の中で、多方向から飛んでくる刀を全て防ぐことは叶わないか」


 全身を、首から下を赤黒い染みで汚しているレンを見た後、先程までレンがいた上空に目を見やる。


「ルルには縄があるからやっても無駄だ」


「お前、常にルルちゃんを過信しないと死ぬんか?」


 そして目の前の弱々しいレンと落ちてきた血を交互に眺めながら、余裕そうに声を上げる。それに対し、レンはドセルを睨み、ドスを利かせたかのような低い声を出した。


「まぁいい! 自慢の素早さも発揮できない今の君を捻――


「なら足を使わなきゃいいだけです!」


 カッ

 フォンッ


 その深手を見て勝負は決したも同然と考えていたのか、余裕そうな表情をするドセルだったが、その声を遮りながらレンは勢い良くドセルへと突進をした。右手を握り足は浮いており、まるで見えない何かがレンの右手を引っ張ているかのように。


「なっ!?」


 ガッ

 ブンッ


 その不思議な動きに、ドセルは一瞬反応が遅れたが、既の所で横に飛び、その攻撃を回避する。


「あっぶ……というか速っ!」


 ドセルの横を通り抜けたレンだったが、すぐに体を捻り、ドセルと全身を向けた。


 ガッ

 コフッ


「は?」


 直後、再びドセル目掛けて突進をした。その音に、ドセルは振り向こうと顔を動かした瞬間、


 ドスッ


「んがっ!?」


 レンの左手が、ドセルの脊椎を振り抜いた。まだ顔を後ろに向けていない状態だったドセルは、口から空気を吐き飛ばしながら仰け反った。


「まっ……ぐっ……! 手の中に鏡を入れて、その鏡に運んでもらってんのか!」


 が、倒れず、その場に踏みとどまった。そのまま通り過ぎるレンを見つめ、分析をしながら反撃のために両手を前に出した。


 カッ

 パシュッ


「っ!」


 が、それを確認したレンは真上へと舞った。運ばれているとは思えぬスピードに、ドセルは目を丸くしつつも、目で追いかけ、視線の先にいるレンへと両手を向ける。


「ぐっ!」


 カッ

 パシュ


 直後、レンは右斜め上へと方向転換し、軽快にも見えるステップで移動をし、


 カッ

 ピシュ


 三メートル上昇したところで、今度は左へと方向転換、


 カッ

 ポシュ


 すぐに、今度は右下へと方向転換をする。方向転換の瞬間に自身の体がガクッとなる影響からか、レンの顔は常に歪んでいる。


「だから何で、そんな速いんだよっ!」


 カッ


 およそ引っ張られているとは思えぬその速さに翻弄されるかのように、ドセルの掌は狙いを定めることが出来ず目の前でウロウロさせている。


 パシュ


「なっ!」


 ガスッ


「はぐぁ!?」


 シュッ


 一瞬の隙をついたのか、レンは横移動は止め、ドセルに向けて再び突進を行った。ほんの数刻でドセルの懐に潜り込み、その勢いのままお腹に左の拳を振り抜き、そのままドセルの背後へと回り込んだ。


「このっ!」


「じゃあ、あなたも速くなりますか?」


 その速さに未だ慣れないドセルは、背後に回ったレンへと視線を向けようとした。が、


「は――


 カッ

 ピシュッ


「ち!?」


 再びお腹に衝撃が伝わり、


 ヒュッ


「ごっ!」


 ドゴッ


「じぇあっ!?」


 体をくの字にし、今度はそのまま背後の壁まで押し飛ばされた。衝撃に耐えきれなかったのか、ドセルは少しだけ壁にのめり込み、そのまま座り込んでしまう。


「っ……鏡……殴った時に小さいヤツを仕込んだのか……」


「……鳩尾二発殴ったつもりだけど……息切れ程度ってことは外してたのか……」


 そのまま小さな瓦礫と共に凭れ掛かっているドセル。自身の足元に転がる小さな鏡を見つめた後、前方に佇んでいるレンへと視界を向けた。さしてダメージを受けているような様子は見られず、冷静に分析をしている。

 というかこの少年凄いこと言ってるよな。そんな当たり前のように急所狙うって。鳩尾ってそんな簡単に狙えるものなのか……?


「でも……まぁ、オッケ、覚えた、次は喰らわんよ」


 そして口角を上げながら立ち上がった。若干ふらつきながらも、右手で鏡を掴み低い位置で滞空しているレンを捉えている。対してレンは焦りもせず、寧ろドセルと同じように余裕そうに微笑んでいる。


「別に大丈夫ですよ」


「……は?」


 そして一呼吸置いた後、


「次の手は」


 カッ


「ん?」


 カカカカカカカカカカカカカカカカカッ


「んっ!? な!?」


「もう、設置し終えてますから」


 小さく呟いた。と同時に、ドセルの全身の動きが止まった。右手を胸の前に上げ、左手を下ろし、レンをまっすぐと見据えているその状態のまま固定されている。


「既に貴方の服の中に、僕の鏡を敷き詰めてありますので」


「っそ! さっきの殴り一発だけで全身設置したの!?」


「はい……これで貴方は、動けません」


 顔だけを動かし、自身の足元を見つめるドセルだったが、やがてゆっくりと地面に降り立つレンへと視線を向け、目を細めた。


「っ!?」


 ドセルから数メートル離れた位置に降り立ったレンが、虚空から、先程手放してしまったはずの短刀を取り出したのだ。


「う、動き回ってる時に取ったのか!」


「ええ。まぁもちろん、ただ斬られた程度じゃ軽傷ということは承知しています」


 短刀を左手に持ち替え、目を閉じる。何かを考えているかのような表情で、無防備にも見えるその体勢にも関わらず、ドセルは攻撃する素振りすら見せずに黙って見つめている。レンのその姿は幻想的で、髪の毛に反射するその光が、まるで後光のように輝いている。


「乳様突起、というのは聞いた事ありますか?」


「乳様突起……」


 やがて目を開け口を開き、そして聞き慣れぬ単語を発した。


「し、らないな」


「まぁですよね……急所の一つで、強い衝撃を与えると運動機能に影響を与える場所だそうです」


 何で態々マイナーな部分言ったの……? 嫌がらせ?


「知らないなら」


 カッ

 ヒュンッ


「場所は教えません」


「なっ!」


「僕は優しくないので」


 そして左手で持った短刀を携え、先程と同じように右手の中に掴んでいる鏡に引っ張られ、ドセルへと切っ先を向けたまま勢いよく突っ込んでいく。

 態とじゃん! 態と知らなそうな急所を口にしてるじゃん絶対! 狡じゃん!

 逃げられないドセルはレンの持つ短刀を見つめながら、歯を食いしばり、


 ゾオオォンッ


「っ!」


 シュララララララッ


 水の塊を自身の周囲に出現させた。およそ三十個程、顔の大きさ程もあるその水の塊を、レン目掛けて全弾一気に発射させた。逃げ場を無くす為か、大きく広がりながら飛んで行く。


「らぁっ!」


 ドォッ

 バシャシャ


「ちっ」


 しかしすぐに、レンの目の前に大きな鏡が聳え立った。縦横5メートル程の大きさの鏡が現れたが、ドセルは予想の範疇だったのか驚きもせず、しかし若干の悔しさが混じった舌打ちをする。


「ん!」


 その大きな鏡の何処から飛び出してくるのか、ドセルは鏡の周囲に視線を巡らせる。鏡はドセルの方を向いているので、同じような動きをするその鏡にドセルは若干のイラつきを見せながら、再び水の塊を出そうとした。

 が、


 ズグンッ


「ぇ?」


 ガゴッ


「ご!?」


 左でも右でもなく、正面から……大きな鏡が、ドセルへと突進をした。動けないドセルへと迫り、鏡の世界のドセルと引き合わせ、激突した。


 ゴギガグンッ


 それでも止まらない鏡は、そのまま壁と鏡で押し潰すかのような勢いで、ドセルを挟み込む。


「んくっ!」


 スゥッ


「っ!」


 そして数刻後、鏡が消えた。と同時に、


「らぁ!」


「っ!」


 目の前に、ほんの数十センチメートルほど目の前に、ドセルの視界いっぱいにレンの姿が広がった。雄叫びを上げ、宣言通り重たい一撃をドセルの乳様突起……右耳のすぐ後ろの、突起している骨目掛けて、


 ガゴッ


 短刀を押し付けた。

 乳様突起ってそこにあるんだ……参考になる。













 ギッ


「惜し……かったね」


「ぐにっ!?」


 が、レンの短刀はその乳様突起なる場所を貫いてはいなかった。まるでその部分が固い鉄になっていたかのように、先端はドセルの肌の上で停止をしていた。


「一瞬……俺のガードが速かったな!」


 その短刀の切っ先をよく見てみると、青い光が柔く包み込んでいるのが見て取れる。その青白い光は、ドセルの耳から伸ばされている。


「レイトを持たない物体にレイトを纏わせて、俺のスキルで弾く!」


「んなっ!」


「できるかどうか、それどころか数秒前まで頭に無かったこのやり方で!」


 そして宣言通り、自身のスキルで弾き飛ばしたのだろう。レンの体は大きく跳ね上がり、数メートル上空へと舞った。と同時に、


 ゴボッ


 レンの体を水が包み込んだ。レンの口から大小様々な泡が放出される。


「土壇場での逆転! 火事場の馬鹿力ってやつだな!」


 高らかな声をこの狭い空間に響かせる。そして虚空から……レンを閉じ込めている水中から槍を取り出した。水中に放り出されてしまったレンは、未だ体勢を立て直せずにいる。地面も無いその無重力な空間に、左手から小さな鏡も放り出される。


「安定していないかつ操られてない体! 今度は完璧に心臓を貫ける!」


「っ」


 未だ動けないのか、ドセルは姿勢を全く変えないまま、視線をレンの方へと向ける。


「見てくださってますか、霊妖様!」


「……」


「今俺は、貴方様の敵を、この手で屠って差し上げましょう!」


 見ているのかいないのかは分からないが、好きな人の前で良いところを見せられる、またとない好機と感じているからか、笑顔で宣言をするドセル。


「さあ! 敬愛なる霊妖様の安寧の為の贄となってもらおうか!」


 まるでトドメとでも言わんばかりのそんなセリフを吐いた直後、槍がレンの心臓めがけて、真っ直ぐ、泡を撒き散らしながら発進された。













「かっこいい言葉を羅列しながら愉悦に浸っているところすみません」


 しかしその槍は、


 シュルッ

 パシュッ


「残念ながら予定通り進行中です」


「っ!?」


 レンの心臓には届かなかった。


「待ってた! 油断して、槍を虚空から出してくれるのを!」


 レンの左手から零れ落ちたその鏡から、ルルの縄が伸び、その縄が泡を撒き散らしている槍の柄を掴み取った。


「なんっ! 鏡から!?」


「さっきから僕を引っ張ってたのは右手の鏡。今僕は、左手でずっと握ってた、ルルの鏡を手放したんです」


 ザバッ


 勢いを失った槍はそのまま縄のなすがままに、ドセルの操作から逃れるかのように水から飛び出した。


「さっきの、あの頬擦りした鏡なのかそれ!?」


 覚え方それでいいのか。

 そしてそのまま、槍持ちの縄をドセルへと伸ばした。

 レイトを貫くその槍の突進。防ぐ手段も避ける手段も無いドセルは、ただ口を開け、その光景を焦りの表情で見つめてしまっている。


「まっ! そんな意思疎通、お似合いってレベルじ――


 そしてレンとルルは、まるで予め打ち合わせていたのかのように、同時に息を吸い、


「落っちろおぉ!」


「落ちっろおぉ!」


 叫んだ。

今から少し実際の死刑に関する話をします。一応少し改行挟むので、嫌な人は見ない事を推奨します……


















実際の死刑だと、例えば日本では絞首刑を行います。死刑囚の首に縄を掛けた後、三人の執行官が三つあるボタンをそれぞれ同時に押します。そのうちの一つが死刑囚が立っている床と連動していて、その床が外され死刑囚を……という少しでも執行官が「自分がやった」という気持ちを和らげる為の方法がとられています。

何故この話をしたかと言いますと……このキューブの世界では死刑執行時にそういう執行官側への配慮はほぼされないのです。何だかんだ言いつつも、我々から見た「死」と比べて、キューブの人達の「死」はやっぱり少し軽く見られているのです。情もなけりゃ躊躇もなくキューブの人達は死刑囚を手にかけられるし、特段その後気分が悪くなるといった人もいません。他の異世界ものがどうかは分かりませんが、キューブでは「理由無き殺人は非常に重たい罪だ」とは言われてるだけで、「正当な殺人はまぁ……まぁまぁまぁ」という考えではあります……少し、というかかなり軽く見られがちなのです……

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