1.9 王がいる城だから、王城
そして一気に時間が飛びます。
さぁ、長い長い数日が始まりますよ!
前書きもう書きたくないです!
僕は入学式の日にハヤタ会長を見た。
(生徒会長挨拶)
というアナウンスとともに、当時二年生だったハヤタ会長が入学生達の前に立った。
その時の僕は「どこかで見たことがある気がする」ぐらいの印象だった。
(こぉんにぃちはぁ! 僕がこの学校の生徒会長、ハヤタというものです!)
この時点で、もしかしてという考えになった。
(変な人って思った? こんな人が会長で大丈夫なのかって思った? 思ったよね?)
次々と言葉を発していく生徒会長。僕はここまで聞いて、ほぼ確信した。
(でも最後まできちんと聞いてほしいな。まず、ま――
(あ……! この人、あのハヤタさんだ! もしかしてハヤタさんも僕と同じように……)
と、色々なことを思った。
確かにちょっと興奮した。けど、ハヤタさんは僕のことを多分知らない。僕が一方的に知っているだけだから……
十二月四日。今日が王城へ訪問する日だ。
王城に行くのは学校が終わった放課後、つまり夕方頃だ。
うん。遅いと思う。何故朝からではないんだろう。
「よし、それじゃ今日はこのぐらいに。レン君、ミチルちゃん、先に帰ろっか」
生徒会室。いつものように学校関連の作業をこなしていたところ、ハヤタ会長がいつもよりも早めに切り上げた。
「ノフ、もうそんな時間なのです?」
「のふ?」
「いや、今日はいつもより早い時間で終わりにしようかなって。ほら、余裕を持った方がいいっていうじゃん?」
まぁ確かにそうだけど。「のふ」って何? ハヤタ会長のスルー度合いが凄いんだけど。
「じゃ、お先に失礼なのです」
ガラッ
「ですでっすー!」
トットットットット
ミチルちゃんは一足先に片付けをし……いや、してない。サボったよあの子。廊下に出てから謎の言葉をを発しながら生徒会室を出て行った。走って。
「ちょ、ミチルちゃん!? 廊下は走らないで!」
「真面目だねー。さすがレン君」
呑気か!? ミチルちゃんは生徒の前に立っている人間だよ! 真面目も何も無いでしょうが! というかそもそも、
「普通に危ないじゃないですか! ましてや生徒会の役員がですよ!」
いや、役員じゃないにしてもだよ。どちらにしろ、狭い廊下を全力疾走は危険でしかないでしょ!
「「示しがつかないじゃないですか!」」
「……ふ」
「……いや、ふ、じゃなくて! 声を重ねないでください。ドヤ顔やめてください!」
「いやー。まさか本当にかぶるとは思わなかったからねー。地味に嬉しいな。ははっ」
ははっ、じゃない。何よく分からない巫山戯方をしてるんだこの人は。
「はぁ。二人とも、後は俺たちがやっておきますから。先に帰――
「あれいいの! いやー嬉しいなー! 僕はなんっていい部下を持ったんだそれじゃ!」
ドドドドッ
「にょっ!?」
は、速い。サリム君の「代わりにやっておきます」宣言を最後まで言い終わらぬうちに、分かりやすい反応をして走って行ったよこの人。
「それと!」
「ひゃぁ!」
廊下を走り去ったと思っていたハヤタ会長が、急に扉から顔を出した。
の、な、ぇ、何!? 何しに戻ってきたの!?
「昨日言い忘れてたから言うね」
「……はい?」
「HBD、レン君」
ドダダダダダダダッ
「……え……?」
HBD……? それだけを言いに戻ってきたの……?
「お……覚えてくれてるとは思ってなかった」
いやでも……あの人、ああ見えて結構しっかりしてる人だからな……事実、生徒会長だし。
「羨ましいわ。私、祝われてないもん」
「え嘘」
まぁいいや。僕も片付け……ん……? いや、ちょっと待って。
「だからっ! 廊下は走ると危ないって……あぁぁ……もういない……」
ハヤタ会長とミチルちゃん……ある意味波長が会う二人だな……先が思いやられる……フルキさんがまともな人だと良いんだけども……
「相変わらずな人……じゃあサリム君の言う通り、ここは私たちに任せて先に帰れ」
「嬉しいけども帰れは酷くない? あと地味に「先に帰れ」の部分だけトーンを下げるのもやめて。怖いから」
「え、あ……! さっさと帰レン」
「……え、急にどうしたの?」
まぁそこまで言うなら……お言葉に甘えようかな。
家に一旦帰った僕は、王城に行く準備をしていた。よくよく考えれば、王城の場所も見た目も知らなかったな僕。この世界に全然馴染めてないや。
「着替え持った? 歯ブラシ持った? 筆記用具持った? ノート持った? 弁当持った? 鉛筆持った? ビー玉持った? ゆりかご持った? 化粧品持った? 帽子も――
「えぇいあぁ! 流石に心配しすぎ!」
そしてその準備中の出来事。モクリサさんが怒涛としか言えない勢いで荷物を持たせようとしてきた。シンプルに煩わしい。ここまでくるとワザとかと思うぐらいだ。
筆記用具の確認した後に鉛筆の確認をするって何? 王城に行くのにビー玉を持たせるって何? 遊びに行くわけじゃないんだよ?
「だって王様の前だろ!? だったら失礼のないようにしないと!」
「だとしてもだよ! 僕だってちゃんと確認はしたから! それとゆりかごは絶対にいらない思うよ!」
僕が赤ん坊の時に入っていたゆりかご。何故まだ持ってるんだろう……子供を作る予定がないなら捨ててほしいよ。ん? もしかしてあるの!? いや、無いか。それに無いなら持たせないよね……無いよね?
「それに、数日間泊まり込むんだよ……お弁当はいらないと思うんだけど?」
「……あ……」
まさか本当に気づいてなかったの……?
「それじゃ、行ってきます」
茶色いブラウスと大きめのコートを羽織り、僕はモクリサさんに手を振りながら言った。
「ぐ……ううう……いって……いってらっしゃい……」
「顔が洪水起こしてるけど大丈夫?」
「ぜっだいに、ゐぎでがゑっでぎでよぉ!」
「戦場に行くわけじゃないんだよ!?」
落命しに行くわけじゃないからね!? だから泣かないで! これからのことよりもモクリサさんの方が心配なんだけど!
集合場所はこの国の南西にあるというお城の門の前。普段はそんな場所に行くことなんて滅多にないから地図を頼りに向かった。
集合場所にはすでにハヤタ会長がいた。
早い。
「おはよ。レン君」
緑色で「I am beautiful」と書かれた白いシャツの上に紺色のフード付きパーカーという装い。
完全に遊びに行く感覚だよね? というかそのシャツはどこで売ってたの?
「あ、おはようござ……ん? おはよう?」
僕は家に帰ってから素早く準備をした筈なのに……ハヤタ会長の家はこの近くにあるのかな?
「むぅ……あのシャツは着てないんだね」
「前に言いましたよね? 絶対に着たくないって」
ハヤタ会長が選んでくれたとはいえ「Shut Up!」って書かれたシャツはちょっと僕には難易度高い。というか本当にどこで売ってるんだこんなシャツ。一応着替えとして今日持ってきたけど。
そんなことを考えてると、
「おはようございます」
「おっはー、です」
フルキさんとミチルちゃんが手をつなぎながら来た。二人ともピンク色で「ペアルック!」と書かれたパーカーを着て。
ダサい。流石の僕でもそれは勇気がいる。
というか……おっはー?
「フルキさんと一緒だからか、ミチルちゃんのテンション高いですね」
「だろうね。僕も、ここまでテンションアゲ〜なミチルちゃん見たことないかも」
そう言いながら、目の前にある大きな扉に向かって歩き出した。
アゲ? 何、どうしたの急に? 何故そんな変な言い方なの?
「で、どうするです? 先に記念撮影しちゃうです?」
「……ん?」
扉に入る……かと思った時、ミチルちゃんが唐突にそう提案してきた。
記念撮影……? ん? 記念撮影って……あの記念撮影?
「携帯ならあるのです! 一思いにパシャリとしたいのです!」
「え、いや、そんなこと言われても……」
そう言い、虚空から白くて長方形の形をしたスマートフォンを取り出した。ミチルちゃんの勢いが急すぎたからか、ハヤタさんが珍しくたじろいでいる。
「こんな事なかなか無いのです! 一枚やっちゃおうなのです!」
「何でそんな軽いノリなの!?」
スマホを両手で持ち、前のめりになりながらハヤタさんにそう訴える。
僕の勝手な想像だけど、王城ってそんな気軽に写真を撮れる場所じゃないでしょ。王様に何されるか分からないよ? そんなやっちゃおうとかいう訳が分からない理由で撮っていいものなの?
「そう言われてもね……怒られるかもしれないし、僕としては撮らない方がいいと思うな」
「えぇー。一枚ぐらいぐらいイイじゃんなのです」
「ええっと……あ、あはは……王城を観光名所と勘違いしてるのかな?」
というか……珍しくマトモな事を言って宥めてるなこの人……冗談だとしても、何時もだったらミチルちゃんに同調して「いいねいいね!」とか言いそうなのに。
「と、とにかく。早く入ろっか」
「ひぎぃ……分かったのです」
物凄い悔しそうな顔してるよ。そんなに記念撮影をしたかったの? 思い出作りにでも来たの?
ハヤタ会長の言葉と共に、僕達はお城の前に、数mほどはあるであろう、大きくそびえ立つ玄関を開けた。
ギィ
大きさに見合わず、小さな音を出しながら開かれる。どうなってんだろう。手入れが良いのかな?
「ん……? んん!?」
すると目の前には、右も、左も、上も、下も、奥も、見渡す限り広々とした空間が広がった。あれ……下も? あ、これ地面を掘って、その上にガラスを張ってるのか。重労働だっただろうなぁ……
「あはっ! みてよレン君! 下が突き抜け状態だよ!」
子供みたいにはしゃいでいる生徒会長。らしいっちゃらしいけども、とても十七.八歳の行動とは思えない。
「フルキ……ごめん……怖いです……」
「ん? あ、了解。落ち着くまで俺にしがみついていて大丈夫だよ」
ミチルちゃんは怖いのか、最愛の人の腰にしがみついてた。羨ましい。
うひゃあ…….これは高所恐怖症じゃなくても怖いかもしれない。
「あんまり下見ないほうが良かったかもしれませんね……」
ここまでするの大変だっただろうな。というかここは何? 中庭?
壁には草や木の絵、天井には空がある。
天井もガラス張り……中庭とはちょっと違う。何これ、中庭擬きかな……?
扉のすぐ隣には謎の、滑らかな曲線を描いているU字型の大きな机が置いてあった。パッと見カウンターテーブルのような。
オブジェかな?
そして部屋の奥にはたくさんの扉がズラっと並んでいる。一番右の扉がセルント王の部屋らしい。
「それにしても広いのです」
「徒競走ができそうだねぇ」
「室内ですから、どちらかと言えばシャトルランの方が良いと思いますよ」
「確かに」
「先輩方? 王城でそんな事しないでくださいよ?」
歩きながらそんな会話をする。
上と下が開放的だけど、この中庭擬き自体が恐ろしく広い。端から端まで五十mはありそうだよ。もう、ね。シンプルに怖い。
「じゃあ入るね。みんな緊張してるかもしれないけど、気楽に、落ち着いてね」
セルント王がいる部屋の前まで来た時、僕達の方を振り返りながらハヤタ会長が言い、扉のノブに手をかける。そしてそのま――
「何故ハヤタ会長が先頭なのです?」
「会長だからだよ。今まで僕のことどんな目で見てたんだい」
……そのままハヤタ会長を先頭にして、僕たちは部屋へ入っていった。
部屋の中には、本棚と小さな机、そして赤くて縦に細長い玉座が置いてあった。本棚は両方の壁、机と玉座は部屋の奥にある。
そしてその玉座の前に今、僕たち四人ともう一人がいる。僕たちは右膝をつき、右手を握り地面につけ、左腕を左膝の上に乗せて、目の前の一人に向けて頭を下げている。
あの会議から約一ヶ月経った今日は王から後日連絡された、召喚を行う日。
「ようこそ優秀な若者よ。わざわざ私の元へ来てくれてありがとう。さぁ、そんな畏まらず、顔を上げてくれ」
唯一立っている一人、セルント王が僕たちにそう言う。僕たちは顔を上げる。
セルント王。赤髪赤目でハンサムな容姿。この時点で嫉妬する。さらに背が高く、すらっとした体型のお方。一見すると二十代前半に見えるのだが、実際は四十代後半らしい。わぁお。
神様は……いやたしか、ハコ・イトナさん、だったっけ? 不平等にもほどがある。理不尽だこのやろう。
「今回、知っての通り我々は召喚を行う。今回の召喚は三回、それぞれ別々の場所で、同時に行う予定だ」
三回? 別々の場所で同時に三箇所ってことだよね? 何でわざわざ……?
「大まかな内容は、戦士の案内、護衛、訓練のサポート。あとは必要に応じてだな」
そこで一旦区切る。まるで次に重大な何かを言うかのような間を置いた。
「この世界の未来は、君らにかかっている。そんな気持ちで頑張ってくれ」
「へ……!?……あ……!」
実際にはかかってないけど、それぐらいの気持ちでやれってことか。びっくりした。
「はい! 必ずや、満足されるような結果を残したいと思います!」
ハヤタ会長が大きく、堂々とした口調で言った。
ハヤタ会長……なの? え、ハヤタ会長なの!? いつものあのおちゃらけたハヤタ会長は!?
「ははは! 頼もしい若者だな! それでは、明日の動きを説明をする。心して聞くのだぞ」
「前世の僕の特徴」
「ふむふむ」
「……」
「……」
「……ちっちゃくてかわいいおとこのこ……?」
「わぉ」
「です」
「……うん、全く違う容姿なんだね!」
「変わらないですよ」
「諦めやがれです」
「……」
「……」
「……」
「次回、「飽きた」」
「早すぎませんかね!?」