1.75 容姿の描写は無いけど、とりあえずイケメンって認識でお願いします
魔王城からの帰り、ルルちゃんが単独で街を歩きたいと言ったためルルと別れて行動することにしたレン君です。
二年で色々変わりましたねぇ。特に予約投稿が10分単位で設定できるようになりましたね。
\( ‘ω’)/
十二月十六日。十二時二十五分。
ルルと別れた後、すぐ近くにあったマカロンが美味しいことで有名なカフェで昼食をとった僕。店を出て、本格的に街ブラりを始めるために、ルルとは逆方向へと歩みを進めた。まだ人通りは疎らで、走る事は出来ないが歩くのには苦労しないような窮屈さだ。
どうしようかな……ルルの居場所は分かってるから、時間になったら迎えに行けば良いし……僕もハヤタさんにお土産でも買おうかな。
そんなことを考えながら僕は辺りを見渡す。そして右前方にあるお店に目星を着け、歩き出そうとした瞬間、
「……」
トツッ
「っ!?」
なんの素振りもなく、前方から歩いてきた男性が、無表情で僕のお腹に右手を押し付けてきた。何かを右手に持っているのか、冷たく、そして硬い何かが僕の臍の上を撫でる。
ぇ……な、に……何で、え、急に……
僕は視線を落とし、その冷たい何かを目で捉えた。
「ひっ!?」
それは、ナイフだった。料理で使われるような、少し太く、そして短いナイフが、銀色に煌めいていた。
何だこの人……!? 殺意が全く感じられなかったんだけど……! え、嘘、まさかこの人、あの女性と同じ……!?
「……」
「……っ……何、ですか……?」
全身が逆立つような感覚に襲われ、周りの喧騒も聞こえなくなるほど、僕はそのナイフを持つ男性の顔を見入った。
「……」
直後、男性は一歩後ずさり僕から距離をとった。そしてナイフを虚空に仕舞い、無言で右手を前に突き出した。
っ……ん……な、何、何してくるんだ……!? 何か飛ばしてくるのか!?
「……」
「……ん……?」
そして突き出した右の掌を見て、
「……」
「……」
次に下ろしていた自分の左の掌を見て、
「……!?」
「……ん?」
そして一瞬、「あ、やべ」みたいな反応をした後、肘を曲げ両の掌を下に向け地面と平行に伸ばし、そして空に触るように、ゆっくりと上下に動かした。無表情なのだが、何処と無く焦っているように見える。
……ん?……え、え何その動作……え、ここで待てって事……?
トットットッ
「……ええぇ……」
そしてそのまま、数十m離れた位置にある建物と建物の間の路地裏へと入っていった。
え、マジで何なの? 待った方がいいのこれ? いやでもナイフ突き付けられたしな……でも何か勝手に離れたら可哀想だし……とりあえず待ってみよう。
「……」
「――のん。こっち来て」
「僕はここッスよ!」
「どけどけー!」
「どーん!」
数秒前とは違い、今度は周囲の喧騒がはっきりと聞こえてくる。前後左右、まるで僕達のやり取りなんか最初っから知らないかのように、皆目の前の事のみを見つめながら動き続けている。
何か平和な雰囲気だな……今冷静になって考えると、あの人マジで何だったんだろ……お腹空いたから早めに用を済ませて欲しいんだけど。
トットットッ
「ん……」
暫くし、路地裏から男性が出てきた。先程と同じ格好だが、バラバラの大きさの紙数枚を両手に持っている。
「……」
「ん」
そして右手の中にある紙の中を掌で広げて睨めっこをした。そして一枚の紙を摘み、僕の目の前に見せびらかすように差し出す。
そこには、
黙って着いて来い
真っ白な紙に真っ黒な文字で、その一言だけが書かれていた。
「……」
「……」
「……」
「……うん」
そして見せながら固まった。反応を待つかのように。僕の顔を見つめている。紙が風に揺られ、少しだけピラピラと音を立てている。
つまり、僕に命令するための紙を持ってくるのを忘れたから取りに戻ったってことだね。成程。
僕は息を吸い込んだ。
「その為だけに呼び止めたんならその紙絶対忘れちゃダメですよね!?」
「!?」
え、何なんこの人? 喋らんの? いや、喋らんにしても何で紙持ってくるの忘れたの? 事前に書いてたんでしょ? 普通忘れないよね? 何でそんなに驚いた顔してんの?
「……はぁ……」
「……」
僕は息を一つ吐いた後、男を見る。
男性はピンク色で袖の長いTシャツ。と茶色いVネックセーターを着ている。その上に大きなカーディガン……マントを羽織っている。下半身は黒色で脚全体を覆うスカート……プリーツスカートを履いている。
「着いて行く……前に、貴方の名前を聞いても良いですか?」
そして全身を確認した後、質問した。
僕は人の名前を聞きそびれる癖があるから。早めに聞いておきたいかな。短い付き合いになるかもしれないけど。
すると男性は再び両手の紙を見つめ、一枚の紙を手に取り、僕の前に突き出した。
「……」
黙って着いてきて
「何故若干違うニュアンスの紙を持ってるんですか!? 少しでも感情表現したいなとか考えてたんですか!?」
うっそでしょこの人……!? 質問に答えないどころか、ほぼ同じような言葉で返しやがったぞ。そんなに僕と会話するのが嫌なのかこの人!?
「じ……じゃあ名前は後にするにしても……目的は何ですか? 僕の命ですか?」
僕は肩を落とし、別の質問を投げかけた。
今を逃したら名前聞く機会二度と来ないかもだけど……いいや仕方ない。
男性は再び両手から紙……ちょ待って、何か嫌な予感が――
黙れ。着いて来い
「……一枚で十分という考えはなかったのですか……? というか黙って着いて来い以外の言葉は無いんですか!?」
当たったわ。何だこの人。何でその一点張りなんだよ。せめて他の言葉は無いの? 無いの? まさかその手に持ってる紙、全部同じことしか書いてないの?
僕は男性から一歩後ずさり、その手に持つ紙を見つめる。
「くぅ……因みにですけども」
「……」
僕は男性の目に視線を移し、今度は目を細めながら見つめ、身構えた。男性も釣られるように目を細めた。
「……僕がそれに従う義務――
スッ
シュィッ
ソォンッ
「んにっ!?」
そしてそう聞こうとした瞬間、僕の背後に三人分の気配が現れた。まるで上空から降り立ったかのように、地面との接触音を小さく響かせながら。
「……」
「……」
「……」
「……ん……しか、無いって事ですね」
そして後ろの三人も、目の前の男性同様黙って僕を見つめている。僕は背後から感じる視線に、僕は身構えるの止めて男性を静かに見つめる。
「……じゃあもう一つ、聞いてもいいですか?」
「……?」
その薄い緑色をした瞳を視界に収めながら、僕は次の質問を投げかける。男性は次の紙を用意する為か、両手をゴソゴソしている。
そのゴソゴソやめて。
「黙って着いて来い、という命令……」
僕は一つ息を吐き、男性を見やる。
「元生徒会としての僕に言ってますか?」
「……」
僕は目を逸らさずに質問をした。男性は質問の意図が分からなかったからか、首を傾げている。その反応を無視し、僕は右手の人差し指を右頬に当てる。
「それとも……」
「……」
「放校処分になった、唾棄すべき存在である僕に言ってますか?」
「!」
そして次の質問を聞き、男性は一瞬固まった。そしてすぐに両手の紙を見つめた。
この男性は、僕が通ってた優等高校と同じ格好……制服を着ている。なら僕が放校処分になった理由……別世界から来た人、という事を知っていてもおかしくは無いだろう。その意図を持って質問をしたのだが……
「……そっちの僕に用があると……」
「……」
この反応からして、「別世界から来たレン」を連れていきたい、というので合っているだろう。それでもまだ分からなことはあるけど。
もし僕の命が狙いなら……こんな人通りの多い場所で襲うのは変すぎる。しかも最初のナイフを当ててきた時、殺気が全く無かったのも謎だ。後ろにいる三人も、僕に襲いかかる素振りすら見せないし。
「……僕を連れていく……」
「……」
……僕が別世界から来たというのを知っている……って事は多分、ハヤタさんの事も知ってるかもしれない。ハヤタさん……
「ん……もしかして、トヨ兄について、何か知ってますか?」
「……」
そういえば、トヨ兄についてハヤタさんにお願いされてたっけ。この男性は僕が別世界から来たって事を知ってる……ならもしかして、トヨ兄に関しても何か知ってるかもしれない。
そう思い聞いたのだが、男性は首を傾げている。
「あ、えと、トヨ、という名前の……」
「!?」
ピンと来てなかったようなので、今度は「兄」を外して聞いた。男性は僕の顔を見つめ、固まった。
この反応……トヨ兄の事を知っている反応だ……というか大丈夫? 全く動かなくなったんだけど? 驚いた顔のままピクリとも動かないけど? え、呼吸してる?……呼吸……
「……ふと、気になったのですが……」
「?」
さっきからずっと気になってたこと、それを聞くために僕は男性に一歩近づく。男性は僕の言葉に呼応するかのように首を傾げた。
全く関係無いけど、この不思議な感覚……多分……
「貴方は……人間ではなく、スキルで作られた人ですよね?」
「!?」
「多分ですけど、後ろの三人も」
男性からは匂いが感じられず、動き一つ一つに気配というものも感じられない。誰かが何処かで操っているのだろう、動きも少しぎこちない感じがする。それに表情が変わらなすぎなんだもん。流石に反応が全部同じはおかしいじゃん。
「……」
トットットッ
「ええぇ……」
僕の質問に黙り込んでいる男性だったが、再び路地裏へと入っていき……多分入るというより戻ってるのかな?……紙を携えながらゆっくりと僕の前に来た。
はい
「……」
そして差し出された紙には二文字のみが書かれていた。
……うん……
「……ペン貸しましょうか?」
僕は一歩引きながらそう聞いた。
うん……いや、流石にたった二文字の為だけに路地裏行くってのはシンプルにだるいと思うんだけど。ペン常備してないのこの人? テンポ悪すぎるんだけど。何で路地裏行ったの?
男性は再び路地裏へと向かい、そして戻ってきた後、
お願いします
「ジェスチャーって知ってます?」
その言葉が書かれた紙を、勢いよく差し出してきた。
貴方……貴方最初にジェスチャー使ってたよね? 何だこの人マジで。巫山戯てるでしょ絶対。
「まぁでも……」
「?」
「分かりました。着いて行きます」
「っ!」
変な人では絶対あるけど……悪い人では多分無いと思うんだよね……一緒に行っても大丈夫そうって思えるし。それにヘイルやペップに頼らずに僕を追い詰めるってことは、個人的な事情があるってことだと思うから、大丈夫そうかな。それに多分、トヨ兄に関して何か知ってそうだし。
すると男性は左手にあった紙を前に突き出した。
ふんっ簡単に従うとはなこの雑魚め
「意味無いかもしれませんが目潰ししてもいいですか?」
何だこいつ。多分事前に用意してたやつなんだろうけど、何だこいつマジで。
すると今度は右手に持っていた紙を前に突き出した。
暴力反対
「先にナイフチラつかせた人が何言ってんですか?」
何だマジで。というかその紙はいつ使うつもりだったの? 何? 僕が抵抗した時用? もっと必要な言葉あるでしょ絶対!
そして今度は右手の紙を両手で持ちながら前に突き出した。
黙って着いて来い
トットットッ
「んぇぇちょ!? 都合悪くなったからって逃げるのやめてください」
そして男性は軽快な足音を立てながら走って行った。
マジでもう……追いかけるのやめようかしら……
そう思いながらも、僕は走り去っていくその背中を見つめながら走り出した。
個人的にバトルシーンよりこういう巫山戯たシーンの方が好きだし書いてて楽しいです。自分だけなのかな、何故にバトルシーンってあんなに書くの大変なんじゃ……