1.73 彼は後にこう語る「すんごく痛かったよ」と
「レーン君」
「っと」
「ふんぬぅ! 会いたかったよぉ!」
人々の喧騒が響くこの場所で。ハヤタが背後から、ダイブするように勢い良く抱き着いた。体が一瞬前のめりになるもすぐに体勢を立て直し顔を後ろに向ける。
「ハヤタさんでしたか。驚かさないでくださいよ」
「……ハヤタはレン君の後ろ姿が見えた。なのでやった。俗に言う、つい、というやつだ」
「何ですかその言い方は。というかついって」
そして少し呆れたような顔でハヤタにそう言った。ハヤタは口を閉じて一瞬黙ったが、すぐに上を見て、抱き着いたまま変なことを言った。
「一人で何してんの? お散歩中?」
「いえ。ちょっとした用事です。そちらこそ召喚者達をほっぽって何してるんですか?」
「野暮用だよ」
「あの、頭撫でないでください」
「……えぇ……」
そして離れたかと思えば、何時の間にか頭を撫でていた。が、ハヤタは自分の触れている相手の顔を見て、残念そうに手を離した。
「んっ」
するとハヤタは唐突に前を向いた。直後、背伸びをしながら右手を帽子のつばのように添えながら、
「おぉっと! あそこに見えるのは、もしやルルちゃんなのでは!」
「っ!? ル、ルルちゃん!? どこ!? どこですか!?」
叫んだ。人々が行き交うその光景を目にしながら。そのハヤタの言葉に、同じく前のめりになりながら興奮気味に叫ぶ。その光景に、ハヤタは若干引き気味に見つめている。
「……凄い剣幕。嘘だよ」
「うぉぉ! ぉ? へっ? ちょっと!」
「クフフフ」
その勢いを止めるためか、ハヤタは両手で肩を掴みながら微笑んだ。
「あの、ついていい嘘かどうかぐらい、ちゃんと考えてくださいよ!」
「アハハ。ごめんごめん」
「もう」
そして頬を膨らまして抗議する姿に、どう考えても反省してないであろう謝罪をし、そのまま歩き始めた。
この人……何でそんな下らない嘘ついたの?
「……あれ、今って何時?」
「時間ですか? えっと……午前八時五十五分、ですね」
「……もうそんな時間だったのね。てっきりもう十時ぐらいだと思ってたよ」
そして唐突に時刻確認をした。が、何故かスマホを取り出さず、時間を聞いた。
「あ、あそこのカフェのマカロン、美味しいんだよね。行こうよ行こうよ」
「え?」
「あ、もしかしてマカロン食べれない?」
時間を確認したからか、ハヤタは丁度良く右前方にあった、少し小さな長方形をしているピンク色の建物を指差した。
「え、いや、食べれますよ」
「……ふ。なら今度皆を誘って行こうよ。あそこの激味、味あわせてやる」
「というよりも、何で急にそんなお誘いを?」
確かに唐突だ。今までのスキンシップでは満足してなかったのだろうか。いや、今までが激しすぎだったんだわ。寧ろマカロンに誘うだけの方が普通なんだわ。
「……コミュニケーションを取ろうと思ったまでだよ少年」
「はぁ? 何ですかそれ?」
「テンションの落差よ。まさに僕達みたい」
「僕達って何ですか。まさかバカにしてます?」
そしてナチュラル悪口。ハヤタのその言葉を見逃さず、ハヤタの前に立ち塞がった。
「ちっ。スルーしてくれると思ったのに、バレたか」
「まさかの確信犯ですか?」
「……どうもこんにちは、悪いと分かっててやりました確信犯です。ドヤァ」
「僕からしたらうわぁですよ」
「……」
何だこのやり取り……?
「そうだ。ちょっとそこの路地裏、来てくれない?」
「何でですか?」
「いやっははは。ちょっと、ね?」
するとハヤタはカフェの建物の手前にある路地を指差した。そして手を引きながら、二人で路地裏へと歩いて行った。
ブォンッ
ガッ
「……」
「……何のつもりですか?」
表の道からも見えづらくなるほど奥まで入り込んだハヤタだったが、唐突に振り返り、ぶん殴るように右腕を勢いよく振り抜いた。その腕は即座に反応され、無表情で受け止められる。
「敵は、外見を騙すことができる」
「……はい?」
「頑張って見た目を寄せたつもりだろうけどもね。君さ、レン君になりきれてなかったよ」
「っ!?」
そしてハヤタは右腕を戻し、一歩後ろに下がってから話し始めた。そして憤懣遣る方無い様子で見つめる。
「レン君はね、頭が良いんだ。話しながら常に自分や相手が使ってる言葉が正しいかどうかを確認してるんだ」
「……」
「だからね。僕がわざと間違って使った「確信犯」とかとか、「味あわせる」とかとか、絶対に反応するはずなんだ」
「っ!?」
ハヤタは目を伏せ、人差し指を唇に当て少しニヤケ顔になる。そして目の前に立つ……レンと姿背丈が殆ど同じな別人を見つめる。
「だから反応せず、そのまま流すのは変だなって思ったの」
「……マジか……間違ってんのかアレ……」
「まぁ、間違って使う人の方が多いからね。「なので」だって、本当は接続詞じゃないから文頭に置くのは変なのに」
「え、アレも違うの!?」
ハヤタは偽レンを見つめ全身をゆらゆら揺らす。偽レンはその姿を不思議そうに見つめながら、ハヤタの言葉に目を見開いた。
「そして次にね。レン君はルルちゃんの居場所を常に把握してるんだ」
「……は?」
そして体を揺らすのを止め、少し静かに、呟くように言葉を続けた。
「まぁつまりだね。「あ、あそこにルルちゃんがいる!」の正しい返答は「そっちにはいないよ」なんだ」
「え……え、いやいや……えマジ……?」
「マジ」
「……やべぇなこいつ……予想外だわそんなの」
「アンスロだからね。大目に見てあげてよ」
「アンスロでも異常レベルだわ!?」
好きな人とはいえ、居場所を完全に特定できるって確かにエグいね。匂いがGPSじゃん。
ハヤタはアンスロの耳を再現したのか、両手をパーにして頭の上に当て、親指以外をぴょこぴょこと動かした。
「ね? 意外と穴があったでしょ? なにか反論は? あ、他にも穴あるけど聞く? Drivel Boy?」
「……っ……いい……いや、そうだな。次に活かして、もっと予習しておくよ」
そして若干嬉しそうに、再び体を動かした。
というか英語使うとか、何カッコつけてんだよ。なんか逆にダサいんだけど。
「まぁ、次があればね」
「……生かすつもりは無いと?」
「そこまでじゃないけど、まぁ、戦えないようにはしておかないとね」
「……」
そして続く言葉に、偽レンは腰を下ろし身構えた。ハヤタは戦闘態勢には入らず、左手を腰に添えながら偽レンを睨む。
「場所、移そっか。ここじゃ狭いし、何より目立つ」
「ちっ……」
「何なら君の好きな場所で良いよ」
「余裕だな」
「フフフ。自信家って言って欲しいね」
軈てそんな言葉を交わし、偽レンは路地裏から走って出て行った。ハヤタは地面の中へと潜り、音も立てずに偽レンの後を追いかけて行った。
あ、やっべ忘れてた。
トヨお兄ちゃあああぁぁぁん!
因みにこのシーン
「最初の「レーン君」の時に声を出して驚かない」
「頭を撫でられるのを嫌がる」
「時間を伝える際「午前」を付け足す」
「「……」がセリフにほとんど無い」
というように、ハヤタ君が言及したもの以外の穴もたくさんございました。頑張りました。




