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あいに溢るる  作者: 手石
スコアの変わらぬボーリングな日々
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1.72 とっとと帰宅

 十二月十六日。九時十分頃。

 今日はハヤタさん達が待つ偽王城へと戻る日だ。魔王城の前に僕とルルは立っている。目の前にはルート君とセキビさんが、魔王城を背景に立っている。

 ルート君は首から足までの全てが真っ黒、スパッツのようにぴっちりとしている服を着ている。セキビさんは白いジャンバーに白いロングスカートという格好だ。


「忘れ物してない?」


「する訳ないでしょ。ルルちゃんは手ぶらで来たんだから」


 僕はルルの前に立ち最終確認をする。フルキさんとミチルちゃんはまだ残るらしい。訓練の仕上げもあるけれども、やはりカオルさんとももう少し過ごしたいらしい。


「いやぁ……私、ご飯ぐらいしか出せなくてごめんね?」


「十分すぎると思いますが……」


「ほんと、私弱いからね……戦うの大の苦手だからね……」


「いや、だから十分すぎるって言ってるじゃないですか……」


 そして何故かセキビさんが謝った。訓練に参加できなかった事を何故か申し訳ないと思っているようだ。

 何でご飯作る事に対しての評価がそこまで低いんだろうか……? ありがたかったよ?


「じゃあ行こっか。お世話になりました」


「ん。ありがとうございました」


「うし……これで漸くナキハ様との時間が増える……」


「そのセリフ、もう少し我慢した方が良かったと思います」


「帰れ帰れ」


「数秒前まで謝罪してた人のセリフじゃない」


 そしてお見送りの言葉と共に、ルート君は右手を、セキビさんは左手を振った。僕達は手を振り返し、後ろを向いた。


「……」


「ん……」


 そして今度は、真っ黒な少年と蟻さんが大きな木々を背景に立っていた。ずっと会話を聞いていたのだろうか、僕達が振り返った直後、少年が一歩前に出た。


「貴女方には、言いそびれていた事がありました」


 ザッ

 スッ


 そして小さく呟いた直後、蟻さんが両膝と両手を地面に付け、土下座の体勢をとった。それに続くように、少年も土下座の体勢をとる。


「んぇ!?」


「本当に……ありがとうございました」


「まさか我々を助けていただけるとは……慈悲深いお心に、感謝をっ!」


 そして二人がお礼の言葉を僕達に伝える。その言葉から、僕達がシメフムさんから守るとは思わず、そしてそれに驚いたのだろう。


「あ、いえこちらこそ! 助けていただいた身ですので、そんなそこまでしなくても!」


「う、動けない時、咄嗟に助けて頂い――


 ガサッ


 ジザッ


「うぉ!」


「あ、いつの間に!?」


 目の前一杯に広がる木々の影からこちらを覗き込むような数多の視線。一つの木から数十人の影があり、計数百、数千人程はいるだろうか。パッと見でも、見た目が違う人種が多くいる事が伺える。

 改めて考えてみると……魔鬼者って一括りにされているけど、めっちゃ沢山の人種がいるよね……何で魔鬼者って言葉一つで片付けちゃったんだろう?


「我々は、魔ではない者に対して好意的に接するのは苦手でございます」


「魔……魔鬼者とか、魔族とか……?」


「逆に貴女方も……魔の者に対しては……」


「……」


 顔を上げ、両膝と両手を着いた体勢のまま目線だけを僕に向けた。

 逆に……か……僕達人間は魔族に対する印象が悪いから……そりゃあの時、助けないって考える方が普通だよね。


「……あの時は少しだけ、歓喜と恐怖の感情を抱いてしまいました……」


「若干疑ってるじゃん」


「自作自演という可能性もありましたので」


 蟻さんは両腕で自分の体を抱いた。

 そうだよねやっぱり……アポ無しで魔王城に行ったんだもん。そりゃ怖いよね普通。合言葉言った直後も警戒心剥き出しだったし……


「でも今は……是非また、遊びにいらしてくださいと、心から言葉にできます」


「我々は何時でも歓迎します」


「ぁ……は、はい! こちらこそ、ありがとうございました!」


「ありがとうございました」


 そして二人は立ち上がり僕達に道を開けるように夫々動いた。僕達はお辞儀をした後、その道をゆっくりと歩いた。


「……あ、歩きづらい……」


「皆の視線が……凄い……」


 が、その道は非常に歩きづらかった。前後左右、そして上方向からも、好機と興奮の眼差しが向けられるのを全身で感じたからだ。

 何でこんな……もんのすんごい恥ずかしいんだけど……脚にしがみついている人もいるし、歩きづらすぎるんだけど……









 十一時半。

 王城の脇を通り少し歩いたところを、僕はルルをおんぶしながら歩いている。王城にもショッピングモールにも寄らなかったので、行きの時よりも早めの時間だ。


「ん……人多い」


「まぁ、今はお昼ぐらいだからね。多分、会社のお昼休憩の時間だと思う」


 道が真っ直ぐと伸びているこの通り。偽王城前の生い茂った草木とは少し違い、こちらは奥まで良く見える。芝生のような道路の両脇には住居やお店が立ち並んでいる。そして昼食を食べるためだろうか、目の前には多くの人が行き交っており、所々にある飲食店へと吸い込まれていく。


「僕達も何か食べる?」


「……いや……」


「ん?」


 時間も時間。僕は飲食店の方を向きながらルルにそう提案した。が、何故か躊躇いながら否定した。何かを思案するかのように、口を噤んでいる。

 おんぶしなきゃ良かった。ルルのお尻には触れるけど唇に触れないじゃん。


「……別行動したい」


「ひんっ……れ……?」


「え、その……べ、別行動したい、です……」


「……れ……?」


 立ち止まり、周りの喧騒がはっきり聞こえるほど静かにしていたが、軈て唐突に、僕の耳元で理解したくない言葉が囁かれた。


「……ここ数日……ずっと私達一緒だったじゃん?」


「……れ……?……れ、れ?」


「だから……たまにはこう、離れて過ごすのもアリかなって」


「れん……っ!? 何言ってんの無しに決まってるじゃん……!」


 僕は正気に戻り、ルルの提案を却下する為に捲し立てる。

 意味が分からない。好きな人と離れる事の何が良いの? 悪いことしかないでしょ絶対!


「ナキハ君やカオルちゃんも言ってた」


「言ってた……?」


「うん。二人はベタベタし過ぎって」


 あんの、あんの二人マジでもう、今度会ったら頭突きしてやらないと。

 するとルルは僕の背中から降り、前に立った。


「でも! 別に悪い事じゃないでしょ!」


「一人で何も出来ない人間になるって言われた」


「っ……そ……それでもイイじゃん!」


「良くない」


 何で良くないの!? というか何でルルはそんな頑なに、ねぇ!? 僕に何もかもを委ねてよ!


「心配性を拗らせすぎ」


「っ! これは! 僕にとっては当たり前の、ルルの為に行動してるだけだから!」


「……」


 心配し過ぎの何が悪いの! だってさ、それならさ、ルルがさ、傍に常にいてくれるだけで解決するじゃんさ!

 僕が一向に引く気配が無いからか、ルルは額に手を置いた。


「……じゃあ、こうする」


「え……?」


「レンに急用ができた時に、腕を少し斬る」


「っ!?」


 そして右手をナイフのような形にさせ、左腕を斬るような仕草をした。

 ……は? え? き、は? 斬る? 斬る!?


「そ、それは!」


「もう慣れてるから。痛みは苦じゃない」


 僕は止めようと声を出したが、それを遮るようにルルは淡々と言葉を重ねた。


「レンは過保護」


「か、過保護じゃ……ない……ないから……」


 そんな危険を犯してまで単独行動なんてして欲しくないよ僕は……!

 するとルルは、僕の顔を覗き込んだ。


「……じゃあ、お願いなら?」


「え……」


「私のお願い。聞いてくれなきゃ泣くって言ったらどうする?」


「えヤダやめてって言いたいけど僕のために泣いてくれるってこと考えるとそれはそれで見てみたいって気持ちが――


「何っでやねん」


 確かにルルを泣かせるとかそんなんダメってのは分かってるけど今この状況においての泣くという行為はつまり僕だけを見てくれてるって事だしそれとは関係なしにルルの泣き顔をガッツリ見ても怒られない最高の状況……ん……ぐ……んぐっ……


「きにゅ……分かったよ」


「んっ」


「……絶対に、変な事に巻き込まれないでよ?」


「んっ! うんうん!」


 が、僕は諦めた。渋々ながらもルルにそう言う。

 笑顔……最高……


「……じゃあ……」


「ん?」


 と、僕はそんな笑顔なルルの顔に近づき、


「……ん……んひゅっ!?」


 その頬に、振れるように優しく唇を押し当てる。 あまりに自然な流れだったのだろうか、ルルは一瞬遅れてから驚き小さく仰け反った。


「頬にキスぐらいなら、良いよね」


「ひょぇ……ぇ……しへぁ……!?」


 ルルは僕が唇を押し当てた部分を両手で抑え、可憐な声を上げた。

 ……イイ……と、あ、そうだ。


「じゃあ、手出して」


「……手?」


「うん。お金渡す」


「……なんか渡し方がお小遣いみたい……」


「無一文なんだからしょうがないよ」


 そして僕はルルの右手を左手で掴み掌を上に向けさせ、僕の右手をそこに翳すように掌を下に向けた。ルルの中へと、僕のお金をつぎ込んでいく。


「……ん……じゃあとりあえず、偽の王城に、五時までには帰ってきてよ」


「門限早!?」


 そう言い、ルルは後ろを向き走って行った。僕はその背中が見えなくなるまで……否、見えなくなっても尚、見つめ続けた。

 ん……じゃあ僕も……ちょっとここら辺ぶらついてようかな。

事件の前触れにしか見えない光景になってしもうた。

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