1.71.2 ルルの婚約者VSレンの婚約者
ここからはただのご褒美タイムです。
「私の負け。本当に、本気で、ここからレンに勝てる気がしないから」
「……ん……」
シュルッ
「ぁ……」
そしてゆっくりとレンを降ろした。床に着地させ、縄を解く。その解かれた縄を見て、レンは少し名残惜しそうに縄に手を伸ばした。
「お前……」
「ん……?」
二人の勝敗が決まったのを確認したからか、魔族三人が降り立った。直後、ルートがレンに近づいた。少しイラついたような顔をしている。
「手抜いたろ」
「……」
「え」
そして若干軽蔑するように睨みながら、レンにそう言い放った。その言葉にレンは目を逸らし、ルルはルートへと目を向けた。
「抜いてたのか?」
「抜いてました! えぇもう、だってこいつ、今回鏡を掌からしか出してなかったんですよ!」
そしてレン目掛けて怒鳴る。ルルもナキハもログも、レンに目を向けた。尚もレンは目を逸らしている。
どうやらやりやがってたらしいこの少年。というかルート……あんたちゃんと見てたのか……ナキハのお尻に集中してるのかと思ってたよ……
「そんなことより、お願い」
「……ぇ……」
「そんなこと?」
「……何でもお願いしてもいいんでしょ?」
「ぁ……」
そんな視線を諸共せず、レンはルルに向き直りそう言った。そして立ち上がり、ルルに近付いた。ルルは一歩仰け反る。
「ん」
ゼァッ
「んひっ……?」
すると、レンは自身のお尻より少し下の位置に鏡を、まるでベンチのようにL字型にして出した。その光景にルルは変な声を漏らした。
「ぇ……え……?」
「ほら」
「え? え?」
レンは空中に浮く鏡に腰掛け、自身の膝を右手でポンと置いた。
展開早っ!? 余韻に浸る気ゼロじゃん! 後魔族三人も、何で「自由にしてやろう」的な感じで、そんな離れてんの!?
「膝……?」
「甘えて」
「甘……え?」
そして放たれた一言に、ルルははてなを浮かべた。レンは真顔でルルをじっと見つめている。
「今まではさ。僕ばっかりがルルに甘えてたから」
「え……え? え、え?」
「だからルルも。僕にもっと甘えて欲しい」
再び自身の膝をポンと叩き、左手を自身の胸に添えた。瞬間、ルルは唾を飲み込んだ。
「だ……あ、甘えるって言われても……」
「何でも言う事聞くんでしょ」
「っ……そ、うだけど……」
が、尚もレンの言葉に否定的なルルに、レンは頬を膨らませながら、やや食い気味に言う。その姿に、ルルは再び唾を飲み込んだ。
「じ……そ、そもそも、なん、何で膝枕知ってんの……?」
「ルルのせいじゃん」
「何で!?」
レンから目を逸らしそんな質問をするルル。それに対しレンは全く表情を変えずに返した。
恐らく「ルルから借りた本だとこんなことしてたよね」とか考えていたのだろう。というかこの女。一体レンにどんな作品を勧めていたのだろうか。レンに変な事吹き込みすぎだろ。
「んぃっ……じゃ……し、つれいします……」
「ん……」
ついに折れたからか、ルルは左腕で顔を隠しながらレンの膝へとゆっくりと頭を乗せた。
「ん……」
「ん……」
「ん……じゃねぇよ」
頭を……何故か縦に乗せた。仰向けになっているので、ルルの首から踵の間が浮いている状態だ。体が若干プルプル震えている。
「何その膝枕。膝と体が平行になってんだけど」
「こらおい、何ルルちゃんの両耳に手を添えてんだよ」
「んっ」
シュッ
ドッ
「ぉん!?」
ゼァッ
トッ
「おぐんっ!?」
レンはルルの両足に鏡を投げ、ルルの体を浮かせた。直後、ルルの背中に鏡を出現させて寝かせる。レンの膝と同じ高さに、ルルの体が地面と平行になるように。
「……」
「……」
「……膝枕したいなら、ちゃんとやろ?」
「へい」
ログが若干引き気味に催促した。その言葉に、ルルは鏡から転がるように降りる。それを確認した後、レンは鏡を仕舞うように消した。
「えっと……じゃあ、気を取り直して……」
そしてレンの膝に目を向け、今度はレンの左側で膝立ちした。再びゆっくりと、レンの膝へと頭を乗せた。
「……ん……」
「……ど、どう?」
「え、どう? どうって!?」
「僕の膝……というか腿」
ボサボサになるのを防ぐためか、ルルの頭を髪の毛の向きに沿って撫でる。ルルは仰向けになり、レンの顔をじっと見つめる。
「ん……」
「……」
「凄くイイ……です……」
「ん」
じっと見つめるレンに、ルルは顔を右手で隠しながら答えた。顔を赤くしながらも正直に答えた、というのに、何故かレンは不服そうな表情をしている。
「……」
「やっぱまだ……」
「え……」
少し顔が綻んでいるルルに対し撫でる手を止め、尚もルルを見つめているレンは小さく何かを呟いた。ルルはレンの呟きが聞き取れなかったからか、口を小さく開け呆然とする。
「……ん」
「んのぉ!?」
するとレンはルルに顔をずいっと近づけた。顔と顔……ではなく、自身のアンスロの方の耳を見せつけるかのように。
「触って」
「ぇ……触……?」
「僕の耳」
突然の要望に困惑するルル。
いや、その角度だと触りにくいでしょ。もっと良い触らせ方あるでしょ。何でルルの手を掴みながら近づいてんだよ。
「ほら、ふさふさしてて触り心地良いよ?」
「ぁ……でも……それは……」
レンの小刻みに動くアンスロの方の耳を、ルルはチラチラと盗み見るように目を動かす。触りたいけど躊躇っている、といった反応だ。
何でレンの手を握り返してんだよ。
「……僕が告白したから……」
「え……?」
「……」
が、そんなルルの反応を見たからか、レンは顔を近づけたまま呟いた。
「僕が告白したから……僕が甘え続けるから……」
「え……え、え?」
「消極的な僕の方が好きだったから……今の僕に甘えないの……?」
「んゆっ!?」
レンは顔をゆっくりと離し、消えそうな声でルルに問う。そんなレンの表情を見て、ルルは目を逸らした。
「ち……がう、けど……」
「……それとも、自分勝手、って言われたから?」
「……」
消え入るように返された否定の言葉に、レンはまたしても消えそうな声で再び問う。ルルはその言葉には反応せず押し黙った。図星だったのだろう。
「気にしてるんだ……」
「するよ……ハヤタ先輩、あんなだけど、誰よりも正解に近い行動もするし」
「あんなな人の話なんて聞かなくていいのに」
「あんなって」
無言なルルに、レンは目を閉じ、ルルの頬に右手を添えた、
そこまで言わなくてもいいじゃん。確かに「あんな」な人だけど。
「実際……レンが告白する前は、結構身勝手だった……」
「……まぁ、距離はルルから詰める事多かったもんね」
「……なんなら人前で尻尾をはふってたし」
「はふってたって何?」
自分の行動が恥ずかしかったからか、ルルは目を逸らす。その光景に、レンは嬉しそうに苦笑いをする。
「……その耳と尻尾も……」
「ん」
「……自分だけ楽しむ感じ……強く撫でたから、レンは嫌だったかもだし……」
「……」
ルルは少し震えた声でそう言う。今度はレンが押し黙った。その言葉を聞き、ログがゆっくりとルルに近づいた。
「それなら多分、自分勝手っていうのは、触り方の事だけじゃないかな?」
「さ……触り方ですか?」
「そ。強く撫でてた、って今言ったじゃん?」
そして自分の頭の上を指差た後、耳を触る動作だろうか、右手で軽く握るような動きをする。レンは黙ってログの話を聞いている。
「アンスロの耳は過敏だから、優しく、こう、撫でる感じでやった方がレン君も気持ち良くなれるはずだよ」
「あ……やっぱりそうなん……何目逸らしてんの」
「レン君の場合、そういうの関係無しに気持ち良さそうな顔はしそうなんだけど……」
ルルはレンをちらりと見た。レンは図星なのに黙ってた故か、ルルからは目を逸らしていた。
「だからほら、ふさふさを堪能するんじゃなくて、愛撫する感じで」
「……」
レンはルルの頭に右手を置いた。そしてルルの脚に置いている左手でゆっくり動かす。
「アンスロってね」
「ん」
そして左手を脚から離し、更に目を逸らしながら呟いた。
「……普通、耳なんて触らせないよ」
「ぇ……?」
「あ、いや、好きな人関係無く、自分から差し出す事自体あんまりしないって事で」
自身の耳に左手を添えながら、少し恥ずかしそうにそう言った。まるで自分の秘部を曝け出すように。
いや、よく良く考えればルルに秘部を見せること自体に抵抗無いかもしんないわ。じゃあ何で顔赤らめてんだ?
「何でだろうね。特に好きな人にだけは、体が反応しちゃうんだ」
「体……?」
「アンスロの種族保存本能……なのかな。好きな人に触られると変な気分になる」
そして両手を下ろしルルの額を見つめる。
「だから……その人に自分の全てを捧げたい。そういう時にしか耳なんて差し出さないの」
「ぇ……」
「……だから、ね……」
レンは両手でルルの左手を掴んだ。
「これ……どちらかというと僕のお願い……」
「ぅ……」
「さ……わって、ください……」
そしてゆっくりと、自身のアンスロの方の耳へと連れてくように近づけた。
「……ん……」
「待って待って待って!」
ガッ
「んがっ!?」
「んにょっ!?」
が触れる直前、ナキハが焦りながらレンの腕をガシッと掴んだ。二人共声を出しながら体を跳ね上がらせた。
「今はダメだ」
「え……何でですか……?」
「そ、そうですよ! 僕が触ってってお願いしてるんですよ!」
「レン君は分かれよ。歯止め聞かなくなるだろうが」
ナキハはレンの腕を離し、若干イラついたような表情をしている。少し離れた位置では、ログが暴れているルートの口と体を涼しい顔で抑えている。
「理性というか思考能力というか……その、まぁ、あれだ、親になる覚悟がいる」
「親……?……え?……え……んぇ!?」
親……その単語を一瞬理解出来なかったのか、ルルは首を傾げた。傾げた直後に理解したのだろう、すぐに顔を赤らめた。
「い、いや、あ、て、そ、は、ははは、反応の度が、はん、過ぎてる気がするんですが!? もうそれ性感帯以上じゃないですか!」
「いや、親に関してはさすがに冗談でしょぉ。今は膝枕で我慢してね」
「は、はい! わわ、分か、りました!」
「えぇ……むぅ……」
引き続き、レンの膝枕を堪能するように身じろぐ。レンはルルの頭を持ち上げ、長いスカートの裾を太腿と鼠径部の間程まで上げる。そして太腿の上に直でルルの頭を乗せる。
「ねぇ……戦ってる時さ、ずっとレンのスカートの中チラチラ見えてたんだよ?」
「ん……まぁ、動き激しかったからね」
「……」
ルルはレンの逆方向へと全身を向け、頬でルルの太腿に触れながら、何かを諭すかのようにそう言った。若干顔を擦り付けるように動かしているようにも見える。
「……自覚しろ美少年が」
「え……っ!」
そして今度はうつ伏せになりながら、吐き捨てるかのような悪態。少し息も荒いことから、多分興奮でもしてるのだろう。
「あ……ありがとう……」
「そういう意味で言ったんじゃない」
「ぇ……」
「あ、そういう意味でそういう意味って言ったんじゃなくて」
お礼を言った直後に否定されたレンは、涙目になり、呟くように小さな声を出した。その「ぇ」の一文字を聞いた直後、ルルは起き上がり、弁明するように早口で捲したてる。
パンッ
「ゆひゃ!?」
「はい、じゃあそろそろ次行こっか」
「……え?」
「え、じゃなくて……二回戦だよ」
「二回戦……?」
「……」
ログが両手を合わせながら言う。まるで現実に戻されたかのように、二人はハッした表情をしながら口を開いた。そしてルルは起き上がり、レンの左隣に座り直した。
「お前、まさか一回で終わりだと思ってたのか……?」
「実戦経験は数をこなすのが楽で手っ取り早いんだよ」
「ほらほら。準備準備っ」
そして急かすように次へ行こうとする。レンは未だ口を開いたまま、ログを見つめていたが、やがて顔を左へと、ルルの方へと向けた。
「ルル」
「ん」
「……次こそは、裸でお風呂入ろう」
「嫌」
「何で何で何でぇ!?」
そして再びその要求。そして再び即拒否る。底知れぬ欲求だ。執着が凄すぎる。諦めようとは思わないのだろうか?
「というか勝つ前提って」
「何でダメなの婚約者じゃん! え、あ、嘘、僕の事――
「好きだから! ちょ、そこまで落ち込まないで!」
「ん……だって……ゃ……」
レンは涙を拭いながら、嗚咽混じりに言葉を繋げようとしている。ルルはレンの反応に焦りながらも必死に弁明をする。
「……レン君も何でそこまで裸に拘るんだよ」
「この変態め」
「お前が言うな」
ナキハは額に手を当て、呆れたように首を振った。ルートは笑顔で言い放った。
変態が変態に対して変態って言うのは……まぁ……事実だけど何か、ね……?
「だってさ、こう、相思相愛の人達って、こう、大体裸になり合うじゃん」
「何時何処で仕入れた知識?」
「裸になり合うって表現ちょっと面白いな」
レンは両手を広げた後、ゆっくりと自分の体を抱いた。ルルとルートはそれを見て若干引いており、ナキハとログは苦笑いをしている。
何処から仕入れたのかは知らないけど、偏ってんなその知識。
「ほら、ドラマだと好き同士の二人が裸になって、同じベッドの上で朝を迎えるってシーンよくあるじゃん」
「……あ……あ、あぁ……」
「何それ?」
「僕も分かんないなぁ……向こうの世界特有のやつかな?」
無垢って怖い。レンの場合特にそう思う。
「……あれは、その……ほら、アレ、ドラマだからってだけ。フィクションフィクション」
「……え嘘……本当のカップルは裸で一緒に寝ないの?」
「いや、仮に寝るにしてもお風呂に繋がるのおかしい」
やはり裸のお付き合いは嫌なのだろう。ルルは冷静な声色で、必死に弁明をしている。
寝る時に裸ならお風呂も裸……なんか、その……レンの思考回路どうなってんだろう?
「嘘……ぇ……じゃあルルの裸……ぇ……そん……え……」
「ほらもういいだろ。次行くぞ次」
そして絶望したかのように膝から崩れ落ちたレン。ルルはしゃがんでレンの旋毛を見つめる。
「ハダ……そん……僕、ぇ……そん……どさくさに紛れてルルの服を無理矢理脱がしても良い?」
「やめて」
ベンチじゃなけりゃなぁ……縦の膝枕でも変じゃなかったんだけどもなぁ……やっぱりレン君もそう簡単にメイド服は汚したくなかったんだね。
アンスロは耳を触っている人が好きな場合のみ、反応を起こします。それもかなりの。だからレン君はフルキさんに触られても反応はしませんね。
さてここで「1.5 ここらへんから――」に戻ってみましょう!




