1.8 生徒会は今日も平常運転でやんす
寧ろ今までがプロローグだったのでは……?
「さて、今日はちょっと皆に話があるんだ」
十一月。本格的に寒さが増してきたある日の放課後。生徒会室にて。長方形のテーブルを二つ、横に並べ、その周りに生徒会の役員が椅子を並べて座っている。
今日は会議をする。
奥に会長が座り、その両サイドには僕とミチルちゃんが向かい合って座っている。
僕の隣には、一年生のサリム君という庶務をしている男の子、その向かい側のミチルちゃんの隣には、同じく庶務であり、僕と同学年のカルソラちゃんという女の子、計五人が座っている。
「何でしょう何でしょう? まさか! ついに会長……恋人ができたんですか!?」
「土の国の王、セルント王からうちの学校宛に手紙が届いたらしい」
「え、あ、ちょ、かいちょっ、会長、まさかの無視の方向ですか」
懐から手紙を取り出し、カルソラちゃんの言葉を諸共せず、華麗にスルーするハヤタ会長。
流石です。
尊敬します。
めっちゃ。
というかハヤタ会長は恋人を欲してないと思うな。いやそもそもどうでもいいって思ってそう。この人絶対毎日求婚されてるけど断ってるもん。多分だけど。
「手紙にはこう書いてある。ゴフォッ」
吐血かな? 咳払いには聞こえなかったよ?
そしてハヤタ会長は手に持っている手紙へと目を落とした。
「拝啓、忙しい中わざわざすまんな。実は近いうち、確か来月ぐらいに、我々は別世界から戦士を召喚しようと思う」
セルント王の真似だろうか、少し嗄れたような声で手紙を読んだ。
別世界……! 戦士を別世界から召喚する……もしかして、僕と同じ世界の人が来る、ということなのかな……?
別世界という単語を聞いて、僕は分かりやすく前のめりになってしまった。
「だから君達に召喚された戦士の案内等をして欲しいのだ。なぜ自分たちが、と思ってるだろう? その召喚される戦士たちは君たちと同じくらいの年齢が来るのだそうだ」
同じ年齢!? いや、変な考えはやめよう。どうせ違うんだから。
「故に、優秀な人材を持つそちらの高校に手紙を書いた。もしよろしければだが、数日ほどそちらの生徒を何名かお借りしたい所存。詳しいことはまた後日連絡する」
「後日……ですか……」
「どうかよろしく頼む。「つち」ではない、「ど」だ。でお馴染みの、セルント王」
一通り読み終えたからか、ハヤタ会長は手紙を机の上に置き、僕達を見回した。
本当になんでそれをお馴染みにしちゃったんだ。まぁ、知らない人からしたら間違えちゃうかもしれないけども。
「だ、そうだ」
「別世界の召喚……ですか……」
「ぐっ……惜しいです……「つちではない、どでおなじみの、セルント王」だったら、綺麗な俳句だったのです……」
何でよく分からない所を気にしてるの? そこよりももっと気になるところあるよね? 何故開口一番俳句?
「おー本当だ! よく気づいたなミチルちゃん!」
ハヤタ会長が食いついた。
いや、「よく気付いたな」じゃないよ。何関係のないことで盛り上がってるの。いや違う。この人はもともとこういうことに食いつきやすい人だった。
「よぉし。後でアメかムチをあげよう」
何その選択肢。多分ほとんどの人はアメを要求するでしょ。
「アメでお願いなのです」
待って。何でそんなに冷静なの? 全く動じてないよこの子。俳句? 俳句パワーなの?
「よし来た任せて!」
「会長ぉ、話が逸れ――
「でだ。僕たちは王様直々にお願いをされたんだが、みんなはどうだ? やりたい?」
「切り替え早っ!? せめて最後まで聞いてくださいよ!」
カルソラちゃんの発言を遮り質問をするハヤタ会長。メリハリがしっかりしている。
流石です。
尊敬します。
めっちゃ。
あれ? 僕のこれも「めっちゃ」をどうにかすれば綺麗な……
「はぁ、悪いけども俺はパスです」
そんなハヤタ会長の質問にサリム君は顔を顰めながら答えた。嫌悪感丸出し、という感じで。
「あー、私も、ちょっと遠慮したいです」
カルソラちゃんもやりたくないらしい。サリム君ほどではないけども、嫌悪感を感じる。
そんな二人を見て、ハヤタ会長は眉をひそめた。
「む。まぁ、無理強いするつもりはないから別にいいけど、理由を聞いても良いかな?」
両手を組み、肘を机の上に置いて、そう聞くハヤタ会長。
なにそのポーズ。僕もやってみたい。
ドンッ
「んおぉっ!」
「だって会長! 別世界の人が来るんですよ!」
サリム君が机を勢いよく叩き、嫌悪感丸出しと言った顔で叫んだ。
あの……急に叩くのはやめて……
「あの人たち、自分勝手で野蛮だって言われているじゃないですか! 何でそんな奴らを俺らで案内しないといけないんですか!」
「はっはっは。奴ら呼ばわりとはなかなかな言われようだね」
はっはっは。じゃないよ。楽観的すぎるでしょ。何で満面の笑みなの?
「私も概ね同じ意見ですね。あんまり別世界の人に良い印象はないですよ」
「そ。まぁ、二人の反応が当たり前だよね」
ハヤタ会長が少し悲しそうに言った……
この二人のように、キューブに住んでいる大多数……少なくても、僕が今まで見てきた人は全員、何故か別世界の人を嫌ってる。
「じゃあ、レン君とミチルちゃんはどうかな?」
会長が僕とミチルちゃんを交互に見ながら言う。そんなの決まってる。
「行きます! 行きたいです! 行かせてください!」
「すごいがっつきますね……机に身を乗り出す程興奮するとか……」
サリム君に引かれた……ぐぅぅぅ……
「お、うん……まぁ、やる気があるのはありがたいことだね。レン君は優秀だし。うん。ミチルちゃんはどうかな?」
「え……その、私は……」
僕とは違い、はっきりとしない、ボソボソとした感じで喋るミチルちゃん。それを見たハヤタ会長は、
「さっきも言ったけどさ、無理強いはしないよ。自分の今の素直な気持ち、僕に教えてくれないかな?」
色男しか言えないであろうカッコいいセリフを言った。
羨ましい……僕もそういうの一度でいいから言いたい。あ、でもルルちゃんに言ったら冷めた目で見られるかも……いや、それはそ――
「フルキと……フルキと一緒なら行きたい、です」
「あー、フルキさん、か……来てくれるかな……?」
「っ! だ、大丈夫です! きっと来てくれるはずです……!」
ミチルちゃんの言うフルキさんは、ご存知の通り「フルキ殿監修! ミチルちゃん検定ぃぃぃ!」の発案者。ミチルちゃんが一番信頼している人で、確か幼馴染だったはず。
僕は一度しか会ったことがないけど、髪をたくし上げた時のハヤタ会長に負けないぐらいの色気があったなぁ……羨ましい……ちくしょう……ん、そしたら色気持ちの二人と行動することになるのか……? 新手の拷問かな? でも何故なんだろう? 何で最初は曖昧な受け答えをしたんだろう?
するとカルソラちゃんは、ハヤタ会長に何か聞きたいことがあるのか、手を挙げた。
「……会長。セルント王は何故、別世界から戦士を呼ぼうと考えたのでしょうか?」
「……さぁね。少なくてもこの手紙には書いてないから、僕には分からないよ」
確かにカルソラちゃんの疑問はもっともだ。
さっきも言ったように、キューブに住んでいる人は、なぜか僕たちのいた世界を嫌っている。わざわざ、嫌ってる世界から戦士を呼ぶのは……戦士……
「何かと戦わせるとか……でしょうか?」
「「戦士」って言ってたし、可能性は高いね。でもね、僕は答えを知らないんだ。丸を提供することは難しいかな」
「そう、ですよね……すみません……」
ありえそうだけど、絶対という訳ではない。最悪、セルント王から直接聞いた方がいいかもしれないな。
「ふふふ、そんなことに気づかなかったレン君の点数を八と八十三点マイナスするでやんす!」
「これ、何処から突っ込めばいいのかな?」
「何故私に聞くのかしら?」
この対応の仕方は僕には分からない。だから、斜め前にいるカルソラちゃんに助け舟を求めるように視線を向けた。返答は分かりきってたけども。
「じゃあとりあえず、レン君と僕が確定、ミチルちゃんは保留ってことで良いかな?」
「えっ!? か、会長も行くのですか?」
「会長をなんだと思ってるの君は。それに、もしもレン君一人になっちゃたら流石に大変かもだしさ」
カルソラちゃんの疑問に対して、ハヤタ会長はそう答えた。
けど僕は、本心は少し違うだろうと思った。僕が行こうと行かまいと、ハヤタ会長は多分行っていただろう。
だってハヤタ会長も、僕と同じこの世界に転記されてきた人だから……
「第一回! 前世は何じゃろな選手権!」
「……何です……?」
「僕達登場人物や舞台設定の前世……いわば初期設定を紹介するコーナーだって」
「それを登場人物にやらせるのって変だと思うのです」
「僕も思う。それではゲストのご紹介!」
「レンのテンションがおかしいのってその台本のせいなのです?」
「フルキさんとミチルちゃん! よろしく!」
「あの、まだ名前しか出てない俺が出てもいいんですか……?」
「そこも一応理由はあるらしいけど、今は省くって」
「えぇ……」
「で、次回。僕こと「レン」の前世に迫ります。必見です!」
「これが俗に言うキャラ崩壊なのです」
「……台本曰く、意外と崩壊してないらしいよ」
「え……?」