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あいに溢るる  作者: 手石
スコアの変わらぬボーリングな日々
77/107

1.68 可愛いと好き

唐突に始まる重たいシーン。

 隣の芝生は青い……他人が持ってるからこそ自分も欲してしまう……多分、今のカオルさんはそういう事なんだと思う。僕だって似たような事を考える事あるもん。


「それでいったら、僕は逆にカオルさんは良い身体持ってんな、って思う事はあるよ」


「……ぇ……」


「結局は同じ考え方なの。持ってないから欲しくなるってだけで」


「……そん……なの……」


 僕はベッドから立ち上がり、カオルさんの前に立ち見下ろす。

 このっ……何でこの人こんなに座高低いんだよ……


「低身長が高身長に憧れる……逆に、高身長が低身長に憧れるというのも有り得るってことだよ」


「女の子になりたい男の子と、男の子になりたい女の子とか、ですかね」


「そ。結局はお互いがお互いの姿になれないから、お互いの苦労を知らないからこその、ただの無いもの強請りなの」


 僕は腕を組み、フルキさんとミチルちゃんを交互に見ながらそう言う。カオルさんは下を向き、僕とは目を合わせずにいる。

 そういえば……別世界にはいたけど、キューブの方だと異性になりたいって考えを持つ人ってあんまりいない気がする。というか聞いたことない……何でだろ?


「まぁとにかく僕から言える事は……恵まれてるくせに羨望の眼差しを向けるのは辞めろ」


「っ!?」


「ちょ、ちょ!?」


 カオルさんの身体は僕から見れば贅沢なものだよ。僕が欲しかったパーツをいくつも持っているし。いやちょっと待って、カオルさん然り、フルキさん然り、ハヤタさん然り、魅惑のボディを持ってる人多すぎない? 何っ、な、地獄か!?


「少なくても、カオルさんは可愛くなる為に努力してる。それだけで十分だから」


「……」


「……そんな頑張ってる姿を見て、評価より先に否定から入る人はただの自分勝手で盲目なだけの人」


 僕はカオルさんの両頬を優しく掴み、無理矢理目を合わせる。

 自分の身体を受け入れて、それでも尚諦めない。正直、その精神含めて羨ましいとは思う。


「それにそもそも……ナキハ君はどう思ってるの?」


「……ぇ……」


「あの人、カオルさんの性別が変わっても、カオルさんを嫌ってないじゃん」


 僕はカオルさんを掴んだまま中腰になり、今度は見上げる体勢にも見下す体勢にもならないように目線を合わせた。


「あの人こそ、キチンとカオルさんを……素敵な姿をガン見してくれてる人だよ」


「っぁ……」


 少しだけ、カオルさんの目に涙が浮かんでいるのが見える。

 ナキハ君って、確かカオルさんの事を「ハニー」って呼んでたし。少なくても、今のカオルさんを嫌悪してるとかそんなのでは決して無い。


「僕だって……いや、可愛いは微妙に違うけど……努力して、今の自分になったんだし」


「……」


「僕以外で今の僕を作り上げる人なんていないから。入れ替わりたいとか言わないで。正直迷惑」


「っ……ご、めんなさい……」


 そしてカオルさんから離れながら僕はそう言った。

 可愛いは何か違う……とはいえ、ルルの理想に近づくために努力した結果ではあるから。そんな努力を全部見ないで、羨ましいって言わないで欲しい。


「……でも逆に、今のカオルさんを作れるのもカオルさんだけだよ」


「……ん……」


「カオルさんは素敵な人。僕が保証するよ」


「……無責任な保証ね……ありがとう……」


 だから僕は、努力しているカオルさんの事を羨ましいとは思わない。パーツ一つ一つは欲したいものかもだけど、カオルさんと入れ替わったところで、今のカオルさんになれるとは微塵も思わないし。


「それと……だからと言って、僕は別に諦める事自体は否定しないよ」


「え……」


 そして今度はフルキさんの顔を見た。話を振られるとは思ってなかったのか、素っ頓狂な顔をしながら僕を見た。


「悪く言えば妥協とか逃げとかになるけど、良く言えば、決断をキチンとできている証」


「っ……」


「……どうしよう……何て言えば良いかな……」


「……いや何も無理して言葉にしなくても」


 僕はフルキさんの前に立ち、両手を膝の上に乗せながら前屈みになる。

 このっ……何でこの人こんなに座高低いんだよ……何だこの二人。何この幼馴染み。格差酷くない?


「俺は、何もしてません……」


「はい……?」


「あ、ありのままの自分を受け入れて……そして我慢しながら、生きてきました」


「受け入れる……」


 フルキさんは僕を見つめたまま、辿々しく言葉を繋げている。

 受け入れて、我慢して……か……確かに自分自身を押さえ付けてるって捉え方もあるけど……


「ん……それでもさ。自分を偽り続けるってのも凄い事だと思うよ」


「っ……」


「僕には出来ない。諦めちゃう」


 なりたい自分とは違う存在になる為の努力。確かに苦しいけど、険しいことには変わりない。


「俺っ……俺、は! 別に、流れに身を任せていただけで」


「何ですかソレ。まさか何の努力もしてないのにそんないい顔と体持ってるんですか? 殴りますよ?」


「言い方」


 何故か晒し型美少女は否定した。

 え、何その否定? 頑張らずに作れる美があるとでも思ってるの? ねぇよ。漫画じゃねぇんだよ。なんなら僕だってルルから漫画借りなかったら、努力しない美という考え方が存在してる事すら知らなかったんだから。


「あ、いえ、その……た、多少はその? お肌に気を使いましたし?」


「してるじゃん」


「……でも本当は可愛くなりたくて……フリフリのミニスカとか履いたら変な目で見られてたので、仕方なく男みたいに過ごして……」


「……まぁ、言いたいことは何となく分かりました」


「……」


「格好良い人が可愛い格好をする……向こうだとそういうのに厳しい目をつける人も少なくないですからね」


 少しずつ小さくなる声と俯いていく顔。僕はその顔を覗き込む為にしゃがむ。

 と、そこで僕は気がついた。


「……今でも可愛い服は着たいんですか?」


「ぇ……」


 可愛い格好をすると変な目で見られる。だから今の、かっこいい存在になった。

 って事はつまり……前世の記憶が、無意識にブレーキをかけてるのかもしれない。


「正直今更な事だけど……ここは僕達が元いた所とは違う世界だよ」


 僕はフルキさんの顎を掴み、顔を無理矢理上げさせる。先程のカオルさんのように、目が少し潤んでいた。


「可愛い服着たいなら着ろ。可愛く振る舞いたいなら振る舞え。それを否定する人はこの世界にはいないんだから」


「っ……」


「それでも……まだ前世の記憶がトラウマで出来ないなら……それも一つの選択だよ。無理矢理は最善策じゃないから」


 僕は視線を落としながらそう言い、フルキさんから手を離した。そしてふと疑問に思い、ミチルちゃんの顔を見た。


「……ねぇ、お風呂で何か重い話してたの?」


「秘密です」


「言わないです」


「気にしないで」


 全員笑顔で答えた。

 気になるわ。これ絶対何か話してたでしょ。だってそもそもからして、カオルさんの様子が変だったもん。


「……」


 スッ


「ミチルは……」


「んっ……」


 するとミチルちゃんは無言で立ち上がり、ゆっくりとフルキさんの膝の上へと乗り、フルキさんの顔を見るように首を曲げて真上を向く。


「どんなフルキでも、愛すのです」


「んっ……ん……」


 フルキさんはそんなミチルちゃんの額に自分の額を当て、目を閉じた。

 何か……何、え……何あの人、何でそんなことできんの? え、かっこいい。


「……可愛い……可愛いか……」


「ん……?」


「ん……私とは無縁だと思ってたから」


 そんな二人を見たからか、ルルは僕にだけ聞こえるような声量でそう呟いた。

 無縁? ちょっと何言ってんのか分からないんだけど。ルルと可愛いは関わりしかない存在でしょ? 有縁すぎるでしょ?


「……ほらさ。私はあんまり可愛くない」


「何言ってんの可愛いじゃん」


「それは好感度補正があるから」


「補正なんて無いから!」


 え、何? 何でそんな可愛いを否定するの? 僕から見ても見なくても、ルルは最高峰としか言いようがない存在だよ!? 補正とかいうよく分からんこと言わないでよ!


「ある」


「ありますね」


「絶対あるのです」


「何で!?」


 が、ルル以外の三人にも否定された。

 え何? 何でそんな、皆してそんなこと言うの!? ルル可愛いでしょ!?


「……とにかく。可愛くないのは事実……」


「まぁ、ミチルよりは可愛くないですね」


「目玉洗ってあげるからくり抜かせて」


「あの、怖いです。目がマジ過ぎて怖いです! ちょま、顔をがっしり掴まないで何で着ぐるみなのにそんなにうぉぉっ!?」


 多分この人の目玉にはノミが詰まってるんだよ。だからこんな事言うんだ。ちょっと綺麗にするから抵抗しないでこのうぉぉ!


「私だって……可愛かったら、彼氏いない歴イコール年齢とかいう不名誉な事、レンに言ってない」


「……不名誉なの……?」


「まぁ、恋人って謎に憧れますからね……ちなみに前世の俺も彼氏いない歴イコール年齢でした」


「それ言ったら僕も――


「進まなくなるから童女さっさと喋れです」


 知らなかったなそれ……恋人に憧れって今まで無かったからな……でもルルも憧れ……え……まさか、え……僕じゃなくても良かったって事……?


「ち、違うからね? レンじゃないとダメだから!」


「ほ、本当……!」


「本当だから!」


「何でレン先輩の考えてる事分かったんですか?」


「まぁ、レンちゃんなかなかな顔してたわよ。こう、絶望的な」


 そうだよ僕よりも良い人なんて沢山いるんだしルルみたいな魅力が詰まりまくってる人からしたら僕にするメリットなんて本当は無いんだよただ僕の事を好きになってくれたってだけで僕と出会わなかったら僕よりも素敵な人と今頃素敵な事とかして過ごしてた可能性だって十分考えられるけど考えたくないよもおおぉ……


「顔も悪いし、スタイルも劣悪で……正直、レンと釣り合うかが凄い不安だった」


「ルルは僕の理想そのまんまだから! ルル以外だと均衡ガッタガタになるから!」


「均衡ガッタガタって」


「面白い表現ね」


 何釣り合うって? え、僕とルルは最高の状態……いや、寧ろ僕がまだルルの領域にまで達してないんだよ! もっと早くルルの隣にいて恥じない人間にならないといけないぐらいなんだから!


「確かにレンの方が可憐で美しいのです」


「は?」


 足を小さくばたつかせ、僕達の方は見ずに、ミチルちゃんはそう言った。

 何この子? え、僕の方が? は? ルルよりも可憐で美しい人間なんて存在しないんだけど? は? は?


「ブチ切れレン。新鮮で悪くないのです」


「何でだよ」


「普通にイイよね」


「何でだよ」


「悪くないわね」


「何でだよ」


「……興奮はちょっとするをぉあっ!?」


 興奮するルルに僕は興奮した。

 ブチ切れの僕に興奮してくれたの? なら僕、ずっとブチ切れてる! あ、いやでも……やっぱりルルも優しい人の方が良いよね? いやでも興奮してくれたのはやっぱり……


「でも……今はもう……醜くても良いって思ってる」


「醜い……? 四六時中――


「ほんっ!」


 パシュッ


「んっ!?」


 尚もネガティブな発言を繰り返そうとするルルに真実を突きつけてやろうとした瞬間、僕の口に長方形のシールのようなものが貼り付けられた。


「これでもう口出しできないのです」


「んっ! ん、んん、んんんんんぅ!」


「卑猥」


 そしてミチルちゃんが口元に手を当て、ニヤリとしていた。

 何するのこの人!? ちょ、ルルとお話出来なくなるじゃん! 外して!


「レン」


「んんっ!」


「名前呼ばれただけで赤面してるわ!?」


「何で!?」


 ルルが優しい声と共に僕の顔を覗き込んだ。

 ぁ……ルルの顔が目の前にある……ルルから僕の顔見てくれてるひゃぁ……!


「ルル先輩、今ですよ! 今こそあのスキルで創った紐で、レン先輩をエッチに縛ってやりましょう!」


「エッチに縛るって何よ」


「フルキが一番興奮してるのです」


 フルキさんがうるせぇ。

 僕はフルキさんを睨む。


「ミチルちゃんの所、何で行ったの……?」


「……んっ……?」


「ハヤタ先輩がいなくなった時……一緒に寝たって聞いた……」


 ルルは僕の顔を見つめたまま、目を細めそんな質問をした。

 ハヤタ先輩がいなくなった時……って事は、あの時の、だよね……


「私じゃなくて、ミチルちゃんの所に……」


「んっ。んんん、んっん……んんんっんーん――


「ミチル、口止め取ってあげて」


「また面倒臭い事になりそうなので嫌です」


「なかなか酷いわね貴女……」


 だってそれは……仕方無いじゃん……あの時はまだツッチーが嘘をついてたって事知らなかったんだし。そんな状態でルルの部屋行くほどの勇気はまだあの時は無かったもん!


「私だって……レンを独り占めしたい……」


「んんっ!?」


「……烏滸がましいけど、今はずっと、そればっかり考えてる……」


 僕の太腿に顔を埋めた。大きくかかる暖かい吐息が着ぐるみを通り越し、そして足を通じて僕の全身に伝わってくる。

 んぁ……く、すぐったい……ぁ……やばい、もっと息が欲しい……ひぁ……


「……ん?」


「んっ……」


「な、何で同じシャンプー使ったのに良い匂いするの……?」


「ぇ……?」


 すると何故か顔を上げ、僕の髪の毛を両手で掴み鼻に近づけながらそう言った。

 ぁ……ルルが僕の髪の毛持ってる……ルルの為だけに伸ばした髪の毛を、ルルが……はぉ……最高……


「美少女ヒロイン補正がレン先輩にあってめっちゃ面白いですね」


「態々声に出さなくてもいいじゃないの」


 じゃなくて、良い匂い? 僕から?

 僕はルルの両手を掴み、ルルの顔にずいっと近づき匂いを嗅ぐ。


「ひょぇへ!?」


「んん、んんんんんん、んんんんんんんっ!」


「いんっ、いや、レンの方が良い匂い」


「んん、んんんんん――


「違う、これ二人とも同じ匂いなのにお互いを褒めあってるだけだわ。というか何で会話できるのよ」


「口止めしてても面倒なままだったのです。というかさっさと自分の匂い嗅げなのです」


 そんな僕達を見て、カオルさんとミチルちゃんが呆れ声を出した後、ミチルちゃんが僕の口に貼ったシールを剥がした。


 ぺリッ


「っはぅ!」


 ぐっ……ルルから良い匂いがするのは事実なのに……

 そう考えながら、僕はルルの顔をもう一度じっくりと見た。


「でもそっか……」


「ん」


「考えてみると、ルルが高校生以前だとどう過ごしてきたのかは知らないなって……思った」


「……ん……」


 ルルがこんなに悩むって事は、何かが多分あったんだろう。それはルルから聞いた事は無いし、僕自身も無理矢理聞きたいとも思ってはいない。

 僕はルルの目を見つめる。


「……僕に、昔の自分を話したいって思ってる?」


「……」


 目を逸らさず、多分だけど瞬きもせず、僕はルルを見つめた。ルルも僕から目を逸らさず、でも少しだけ葛藤するように目を細めた。


「……あんまり……話したいとは思ってない」


「ならそれでいいよ」


「……」


 軈て下を向きボソッと呟いた。

 ルルが嫌なら嫌のままで。それで良いと思う。実際、今のルルに支障が無いなら無理矢理は良くないし。

 僕は下を向いているルルの背後にゆっくりと回り込み、そのまま抱き着く。今までとは少し違い、ルルの顔は直視できない体勢だ。


「しゃしっ!?」


「僕は今のルルを見続ける。だからルルも、僕の事、見続けて」


「っ……」


 そしてルルの耳元で、小さな声でそう言う。ルルの体が少しだけビクッと跳ねた。可愛い。耳舐めたい。


「んしょ」


「んっ!?」


 そしてそのまま、僕は足を伸ばし、ルルを僕の太腿の上に乗せた。そしてスマホを持った両腕をルルの両脇を通り、ルルの目の前に出す。


「じゃ、続き」


「ひゃっ……ひゃい……!」


「レン先輩って……エグいですね……」

「魔王城内主要人物が出てきたので、とりあえず前世のやつやります」

「えっと……今回はルート君とセキビさんとログ君だね」

「魔王様とカオルさんすっ飛ばしたね」

「ルート君が見たら何言われるんだろうね」

「残念ながら四天王組は選手権のゲストには出ない予定らしいですし、そもそもその二人は第三章か第四章でやる予定らしいです」

「メインキャラに言わせるセリフじゃないと思うわ……」

「えっと……初期案だと、ルート君←セキビさん←ログちゃん、っていう相関図だったみたい」

「何その悲しすぎる一方通行」

「君じゃなくてちゃん? もしかして、ログ君って性転換したの?」

「曰く、四天王の四分の三が女の子ってバランス悪いな、だそうです」

「あ……あのダボダボ白衣も性転換した後に着てもらったみたい」

「何か言葉にしにくいけど、あれだね、不憫だね」

「でも性格は皆そのままみたい。ナキハ君をストーキングする人をストーキングする人をストーキングする人を観察するライトさん、っていう風にしてたみたい」

「何やってんのライトさん」

「あと面白いのが、名前は初期の時点から変わってないみたいです」

「そうなんだ。お……もしろいのかしら……?」

「……あ……四天王なのに、唯一数学関係無い名前……」

「……初期案から既に、ライトさんだけ特別扱いする予定だったのが丸わかりって事だね」

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