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あいに溢るる  作者: 手石
スコアの変わらぬボーリングな日々
75/108

1.66 絶対重要人物でしょこの人

ショタに溢れすぎな魔王城でジワる。

2022年最終日に出していい代物か若干不安になる。

 十七時四十五分。

 一段一段が低い階段を上り終えてすぐ目の前に見えた茶色い扉を潜り、食堂へと入室した。部屋に入った瞬間、扉を入ってすぐに広がる大きなテーブルが目に入った。偽の王城の食堂にあったテーブルの四分の一程の大きさはあるだろうか。そしてその奥には大きな玉座、右を見ると大きな扉が見える。天井には金色のシャンデリアが四つほどある。偽王城の食堂を少しだけ狭くした雰囲気だ。

 ここどういう部屋なんだろう……? 食堂? 王の自室? 今が何階かは分からないけど、体感だと二階分まで歩いた気がする……何でエレベーター使わなかったんだろう……?


「あ、どうも。僕は四天王の一人のログ。どうぞよろしくぅ」


 そしてその食堂には既に机と扉の間に少年……ログさんがいた。僕達が入室したのを確認し、両手をお腹辺りに当てながらお辞儀をした。包み込むような、優しい声をしている。

 黒いシャツの上に、脹ら脛ほどまである大きくて白い服を着ている。大きすぎるせいか腕も見えず、服も肘辺りからだるんだるんになっている。動く度に揺れており、鬱陶しそう。下はルート君と同じようにスパッツを履いているのか、動く度にシャツの奥から黒い何かがチラリと見える。下半身が寒そうだ。


「ぇ……あ、えと、よろしくお願いします」


「うん、よろしくねぇ」


 両腕を動かし、だるんだるんの服をたなびかせ、スパッツをチラつかせながら笑顔で返した。

 何か……ちょっと幼く感じるな……何歳なんだろう?


「……ん、四天王……?」


「形式だけの、ね。四天王らしいことは何もしてないわよ」


 そして僕はその単語、四天王という単語に反応した。僕の疑問に、カオルさんが答えた。

 四天王って確か……何かを守護してる四神だったはず……それを模してるなら、ナキハ君を守る四人組ってことなんだろうけど……形式だけってどういうこと?


「実際やってる事四天王らしくないよな。ほぼ友達だもん」


「いえ! 我々はナキハ様の従順なる従僕! ナキハ様の為なら身を粉にする所存!」


「貴方だけよ」


「僕達別に四天王に興味なかったし」


 良いのかそんなので? ルート君以外がそんなならもう四天王名乗るのやめた方がいいんじゃない?


「まぁ……とにかく座ろっか」


「ごはんごっはんー」


 ナキハ君はテーブルに添えられるように置かれている椅子を指差しながらそう言った。それを見て、セキビさんがスキップしながら右の扉へと入っていった。その後ろをログ君が無言で着いて行った。

 セキビさんがご飯作ってるんじゃなかったの……? 作った本人があんなにはしゃぐって一体……自分の好きな物でも詰め込んだのかな?

 僕は促されるままに、ルルの腕を掴みながら扉から一番遠い椅子へと歩を進めた。体が少し痛い。


「どうも」


「んひゃぉっ!?」


 んひゃぉっ!? え、だ、い、今誰もいないであろう左側から声がしなかった!?

 瞬間、何故か誰もいないであろう左側から声が聞こえてきた。僕は驚きながらも声のした方へと向けると、


「ぇ……え、え……!?」


「い……いつ、のまに……!?」


「お、丁度いいタイミング」


 そこには一人の女性が立っていた。腕を組み、少し細められた目を僕達に向けている。それを見て、ナキハ君が待ってましたとばかりに少し声を高らかにしながらその女性に歩み寄った。


「ここに来たってことは、大体の事はセキビから聞いてるな?」


「はぁ……まぁ、そうだけど……」


 そして笑顔で女性の顔を覗き込んだ。先程来てくれるか不安そうな物言いをしていたので、来てくれたことに安堵と喜びを感じているのだろう。

 というかあの女性、すごく面倒くさそうにしてるんだけど……魔王の目の前でため息ついたよ?


「じょ早速。それぞれの課題を教えてやってくれ」


「だっる」


「何でも知ってるお前しか頼めないんだよ。頼むって!」


「へいへい」


 魔王は頭を下げた。

 何でも知ってる……? と、どういう事なんだろう? というか頭を下げるって……まさかナキハ君よりも立場上の人なのかな? というかそこまでして僕達強くしたい……? 申し訳ない気持ちがさらに強くなったんだけど……?


「どうも、私は他称四天王のライト。一応事情は全部聞いてるからさっさと課題出すわ」


「どんだけやる気ないのよ……」


 四天王じゃん。あの何で名乗ってるのか分からないで知れ渡っちゃった四天王じゃん。立場下じゃん。あ、それともこの人だけ何か特別な人なのかな?


「じゃ、まずはフルキさん」


「は、はい!」


 既に椅子に座っていたフルキさんへと近づいた。右隣まで行き、しゃがみながらフルキさんの顔を覗き込む。


「貴女のスキルは車……と言っても、おもちゃの車よね。あの……何だろう……地面に置いて後ろに引っ張って離すタイプの?」


「あ……は、はい!」


 そして右手を顎に、左手をテーブルに乗せながら話し始めた。

 えっと、何の話……? フルキさんのスキルは見た事ないから話についていけないんだけど……車?


「発車させるにはフルキさん自身が動かないといけない。空中でもパワーを貯めることは出来るけど……所詮はおもちゃね」


「あ……は、はい……」


 ……うん……いいや、本人が理解してるならそれで……

 僕は椅子に座り、背もたれに身を預けた。


「課題としては……まぁ、アクセルはまだしも、ブレーキと……後ハンドル操作もできた方がいいわね」


「ハンドル……?」


「この二つがあれば、相手に避けられた時も即座にリカバリーが可能よ」


 あ、ルルが隣に座ってくれた。よし、足触ろう。んぐっ! っ、近付くと背中と腰がギシギシ言いながら痛みを主張させてくる。近づけない! 傷邪魔すんなよもう!


「まぁ、車にミサイルくっつけるとかが出来るならそっちが良いけど」


「いや、流石に無理です……」


 そんな僕には目もくれず、話し終わったからかライトさんは立ち上がり、フルキさんの左隣に座っているミチルちゃんへと目を向けた。


「次、ミチルさん」


「んすっ」


 名前を呼ばれたミチルちゃんは全身をライトさんへと向ける。僕は椅子を動かし、ルルとの距離を肩と肩が触れ合えるほどまで近づく。


「貴女はシール……をくっ付けて生物以外の物を引っ張って伸ばす能力ね」


「どういう能力?」


 シールをくっ付けて伸ばす……? ちょっと想像つかないんだけど……特に伸ばすの部分がよく分からない。


「今レンさんの目に入ってるピンク色のハートや無色透明なやつぐらいならいける。とはいえ基本シンプルな形と色にしかできない」


「え、僕の目、まだハート入ってたの!?」


 ちょっと待って嘘でしょ!? あの変なやつまだあったの!?

 僕は両手を顔の前に突き出し鏡を出す。

 うわマジじゃん……何こ、え、何でこのままなの? え、引っ張らないでよ?


「課題らしい課題といえば……もっと細かく色や形を変えられるといいわね」


「細かくです?」


「そ。例えば……シール一枚で自画像を描く感じ?」


「自画像……?」


 今度はミチルちゃんとフルキさんの間まで行き、人差し指を動かしながら説明する。

 えっと……シールで自画像……やべぇ想像しにくい。僕ってこんなに乏しい人だったのか。


「なんか戦いに応用しにくそう……囮とか?」


「まぁ、そもそも将来の夢が戦闘系じゃないからね」


「だ、な、何で知ってるです!?」


 ミチルちゃんの一つ奥にいるルルが可愛らしく首を傾げながらの質問に、ライトさんは少し面倒くさそうに答えた。

 ……さっきは何でも知ってる、ってナキハ君言ってたけど……初対面、だよね……? 知りすぎじゃない? 怖っ。


「んで、次はルルさん」


「あ、はい!」


「……」


「何で貴方が警戒心剥き出しにするのよ」


 僕はルルに抱き着き、ライトさんを睨むように見つめる。首から下が痛む。

 いや、この人の事だからルルに変な事を教え込むに違いない。警戒にしすぎなんて多分無いんだから。


「貴女は……硬いものを斬れる縄……ね……」


「さぁさぁどうです! 今のルルにとっては完璧なスキルですよ!」


「だから何で貴方が反応するのよ」


 ただでさえ完璧なルルに完璧なスキル! これ以上無いぐらいの最高なルルに何をさせるって言うの! 参ったか! 参れ!


「ま、なら新しくスキルを覚えれば良いじゃない」


「え……?」


 が、そんな僕には興味を示さずにそう言い放った。

 新しく……? えぇ……それってルルに面倒なことやらせるって事でしょ? なんかヤダ。


「例えば、レンさんの鏡とか」


「簡単に言うけど、複雑なスキルの複数所持って結構難易度高いはずなのです……レンやハヤタでも一筋縄じゃ……」


「んでもルルさんならできるでしょ?」


「当たり前ですよ! ルルを舐めないでください!」


「これさっき見た。ルートさんと同じ流れになってる」


 何だこの人は! ルルを舐めてんのか? ルルならスキルの複数所持というハチャメチャで莫大で異常以上な技巧、そんじょそこらの連中よりも軽く捻る程度で習得できるに決まってるでしょうが!


「まぁ、何を覚えるかは後で考えるとして……後は、痛みにも慣れなさい」


「ぇ……」


 するとライトさんは虚空から細長い片手剣を右手に出しながら無神経な言葉を放った。その言葉に、ルルは身体を震わせ、一瞬顔を青ざめた。


「良い機会なんだし。腕を剣で貫かれた程度じゃ怯まない体になりなさい」


「え……ええぇ……!?」


 こんの人! 何をルルに危険な事やらせようとしてんだ!?


「何で――


「異世界を舐めないでちょうだい」


「……むぅ……」


「むぅじゃないわ」


 僕が抗議しようと身を乗り出した瞬間、まるで僕が出てくるのが分かっていたかのようにライトさんは言葉を被せてきた。

 んぐっ……ちくしょう、正論だから何も言えない……


「が……がん、ばります……」


「安心して? いざと――


「助けるな助けるな。異世界舐めるなって言ったばっかりでしょうが」


「……むぅ……」


「むぅじゃねぇっつってんでしょ」


 そして決心したルル。ルルが無理をしないようにと言葉を投げかけようとした時、またしてもライトさんが言葉を被せてきた。

 何なのこの人。良いじゃん助けるぐらい。


「で、レンさん」


「……はい」


「貴方は鏡……でも応用力が凄いわね……」


 そしてそのまま僕の方へと話を移した。が、僕のスキルの再確認をしようとした時、少しだけ言葉を途切らせた。


「攻防両方一級品。一つ一つを固定可能で移動手段や足場としても活用可能……これ、結構凄いことよ」


「あ……ありがとうございます……」


「教えるモクリサさんも凄いけど、それでここまで応用できるってのもエグたらしい」


 そして矢継ぎ早に褒められた。

 何コレ照れ……え、何でこの人モクリサさんの事知ってるの? なにそ、え、知りすぎじゃない?


「でも問題があるなら……手以外からも出せるようにした方がいいかな」


「手以外ですか?」


「そ。例えば死角からの攻撃も、手だけだと限度があるじゃない」


「た……確かに……」


 昨日のあの女性に、両手の掌を合わせられながら拘束された時は何も出来なかったし……確かに今のままだと限度があるね。んでもそれが難しいんだよね……


「じゃ、課題としてはそんな所かな。後は頑張って」


「手伝わないのね……」


「ボーリングなのよね」


「……ん?」


 短っ。僕だけ直球で簡単な事しか言ってないじゃん。何、僕が優秀すぎるせいで諦めたって言うの? ねぇ!


「そう言えば、近々王が変わるらしいね」


「え……何で知ってるんですか……?」


「偶にあるよな。どっから仕入れたの、っていうのが」


 そして急に話を切り替えた。

 本当に僕終わりなの……というか何で知ってんのそれ。つい数時間前に決まった事だよ?


「やっぱり……セルント王が……その……アレしたせいで?」


「ん……いや、どちらかと言うと、セルント王の妹さんだと思います」


「……え……?」


 まぁ確かに、セルント王が重傷を負って……そもそも王位に興味がなかったみたいだし、っていうのも関係あるかもだけど、一番は妹の帰還だとは思う。


「ほら、えっと……カウジキミさん……? が帰ってきたから。それが一番の要因だとは思いますね」


「ぇ……えっと、それもそうだけど、セルント王は……?」


「ん?」


 が、僕の説明に何処か納得いかなかったのだろう。ライトさんはセルント王を凄い推してくる。


「えっと……そもそも王様になりたくなかったらしいので……まぁ流石に許可取ってから変わるよね?」


「え、え許可?」


「ん……?」


 そしてフルキさんも説明するように付け足した……ライトさんは何故か「許可」という単語に反応した。


「セル……セルント王って……生きてるの……?」


「え……?」


「は?」


 そしてよく分からない質問をした。

 生きてる? それって、あの、あれ? 存命中か否かって事……?


「い……生きて、ますけど……」


「……ぇ……」


「え……逆に何で落命してると……?」


 そして僕の返答に、ライトさんは少し仰け反り目を見開いた。

 えっと、何でも知ってるんでしょ……? なら生きてるってことも知ってる……はず、だよね……?


「……いや、何でもない……」


「……」


 え、何その反応。怖いんだけど。何でもないって言って本当に何でもない人なんていないでしょ。何、何隠してんの?


「あれ……後確か……シメフムさん……」


 何でもあるよね絶対! 何! 呟いてるけど僕には聞こえるよ! シメフムさんが何!?


「あの、どう――


「っ!」


「あ待っ……消えた……」


 そして聞こうとした瞬間、消えた。多分瞬間移動的なやつなのだろうか。

 ……え、瞬間移動!? それ僕、難易度高すぎて覚えるの諦めたヤツなんだけど!


「……あの子、飯要らないのかしら……?」


 セキビさんが料理をテーブルの上に広げながら、ライトさんがいなくなった場所を見つめていた。

VSシメフムの時にも言及はありましたが、この世界ではスキルを複数持っている(簡単なスキル、特に戦闘に応用できないだろとかいうやつは除く)人はかなりの実力者です。一つの事象を想像のみで創造しなくてはならないので、新しいスキルを覚える際に既存のスキル生成時の想像が邪魔をしてしまうのです。説明難しいです。

「戦闘用スキルは基本一種類、二種類持ってたらかなり優秀」という事のみ把握してれば問題全く無しでございます。


因みに。多分もう察してはいると思いますが、ライトさん以外の四天王(笑)の名前の元ネタは全部数学に出てくるヤツです。トラウマよ、蘇りなさい。

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