1.64 全身傷だらけなんだからちゃんと安静にしてようぜ
レン君は傷だらけで迎えるジングルベルです。
なんかゴメン(*´・人・*)
「……ん……」
「――っ……ぁ……!」
「んゅ……ぇ……」
僕は真っ暗な視界を、掻き分けるように無理矢理開いた。そして微かに聞こえる澄んだ音色を目覚まし音に、僕は寝惚けたまま素敵な音のする方へと右手を伸ばした。
「んっ! レ、レン……」
「――たじゃない」
「ぇ……あ……」
そして次に聞こえてきた普通の音……というか声に、僕は意識を完全に取り戻した。ふと、僕は右手に伝わる暖かく柔らかくも少し硬い何かに気が付いた。そのずっと触っていたいと感じてしまう程の弾力を持つ何かへと、僕は視線を向けた。
「で、でも……不安なものは不安……」
「はぁ……まぁ、分からなくはないけど……」
そこには、椅子に座り、僕に摘まれたせいで少し凹んだ魅惑の頬を見せているルルが僕の顔を覗き込んでいた。
「ぇ……?」
そして現状を把握するため、僕はゆっくりと顔を動かした。瞬間、全身に痛みが走った。
「いっつぁ!?」
「っ!?」
全身ズタボロの状態だけど、僕は少し我慢しながら周囲を見渡す。
僕の左にルルがいる。そしてルルと二人で寝ても問題なさそうなほどの大きさの長方形のベッドと、ピンク色の中に白い水玉模様が入っている掛け布団が僕を挟んでいる。部屋は広く、同じベッドが全部で六台ある。
「だ、大丈夫……?」
「っ……だい、じょうぶ……っつ……」
ルルが心配してくれてる……やばい、全身で感じたい……
僕は手を離し、ルルに寄りかかろうと身体をゆっくりと起こし、ルルへと体重をかけた。瞬間、またしても全身に亀裂が入ったかのような痛みが響いてきた。
「っがぁっ……!」
「無理矢理動かすのは止めなさい」
「ぇ……あ……」
ふと聞こえてきたその声に僕は自分の体を掛け布団から出しながら見下した。
肩や腕、脚や鼠径部等、恐らく僕がシメフムさんに撃ち抜かれたであろう部位に白くて少し赤みがかっている包帯がグルグルと巻かれている。というかほぼ全身に巻かれている。この下着のような服よりも肌隠してくれてるって何……?
「本当に応急処置程度。無理すると、またすぐ傷が開くわよ。多分」
「多分」
「……あ、カオルさん……ですか……?」
「……そ。久しぶりね」
そして説明してくれているその人……ルルの反対側にいたカオルさんの方へと僕は顔を向けた。前回会った時と違い、ピンク色の唇や薄赤色のまつ毛等、ほんのり化粧をしている。
「全くもう……全身穴だらけで、傷を塞ぐの大変だったのよ」
「あ……ありがとうございます」
「ありがとう」
カオルさんは右手を頬に添え、左手を右手の肘に置き、少し愚痴気味にそう言った。
この包帯、カオルさんがやってくれたんだ……体殆ど隠してるし、かなり大変だったよね絶対……というか……
「……本当にカオルさんがいた……」
「私も驚いた」
「……って事は……まぁ、ある程度の事は知ってるのね」
そんな僕とルルの反応で察したのか、カオルさんは若干遠い目をしながら呟いた。
「一応言っておくと、私の記憶って魔王城に来てから全て思い出したの」
「あ……そう、だったんですか……」
じゃあ前会った時はまだ何も知らない状態だったんだ……いや、しれっと言ってるけど結構精神的にキツくないそれ?
「前世は女で今世は男……いや本当……せめて心も変わって欲しかったわね……」
やっぱりキツイよね……僕だって体が女の子になったら色々困るもん。
カオルさんは自虐気味に、少し笑いながらそう言った。僕もルルも居た堪れない気持ちになり目を伏せてしまう。
「えっと、その……ごめん……私のせいで」
「ぇ……何が?」
その時、ルルが小さく謝罪した。ベッドのシーツの上に置かれた右手は未だ震えており、僕の目は全く見ていない。
……どしたの急に? な、え、何に対しての謝罪なの?
「私がちゃんと、してれば……レンがこんな、こんな事になら……なかったし……」
「ちゃんとって貴女ねぇ……」
そしてゆっくりと、途切れ途切れに言葉を繋げる。瞳からは透明な涙が輝いている。
ルルが泣いてる……っ……僕が全身穴だらけになったせいで……
「ぁ……ダメだな僕……ルルを泣かせちゃうなんて……」
「何言ってんの……! わた……私が、ちゃんと動けてたら……」
「そんなの関係ない、ルルの目を煩わせて……それに……」
僕はルルの頬に左手を添え、親指で涙を拭う。生暖かい感触が親指から伝わってくる。
ぁ……僕がもっと良い判断が出来てたら……ルルの目を赤くすることは無かったのに……情けないよ本当に……舐めたい……
「貴方達お似合いすぎるわね……」
「ぁっと……今って何時ですか……?」
「急に素に戻ったわね」
ふと窓の外を見ると既に暗くなっていた。それを見て僕はカオルさんに時間を聞いた。
「……えっと、午後五時半よ。一時間以上寝てたみたい」
「ま……じか……凄いな僕……」
「本当、すぐ起きたわよね。というか自分で言うそれ?」
少し……というかかなり呆れているカオルさんだが、虚空からスマホを取り出し、画面をながら教えてくれた。
「と、別に敬語じゃなくてもいいわよ。むしろ私が使うべきかしらね。年下だし」
「は……はぁ……」
「あ、そうそう。それ、プレゼント」
「え? あ、このぬいぐるみ……」
そしてスマホを仕舞いながら、僕の隣にいるぬいぐるみを指差した。
鮮やかな水色で少し伸ばした、けれども広がっているボサボサの後ろ髪と真ん中だけを短くしている前髪。緑色の目を持ち、何処か儚そうな、まるで何かを求めてるような表情をしている。僕の半分程の大きさはあるだろうか、そんなぬいぐるみだ。
何でぬいぐるみ……あ、もしかして無意識にカオルさんに抱きつこうとしてたのかな……?
「あ、フルキさんとミチルちゃんは! っ!」
「急に叫ばないで。そこで寝てるわ。ちょっと怪我してるけど、まぁこっちの世界じゃまだ軽傷よ」
「よ……良かったぁ……」
「シメフムさんは、今は地下牢にいるし、一緒に怪我した門番君も既に仕事に戻ってるわ。安心なさい」
僕は前のめりになり、大きな声でカオルさんに問いただした。またしても全身の至る所から痛みが主張してきた。
っ……僕達を守ってくれた二人……後でちゃんとお礼を言っておかないと。
隣のベッドを見ると、フルキさんとミチルちゃんが手を繋ぎながらぐっすり眠っていた。
「もっと強かったら……」
「ん……?」
「……何か言ったかしら?」
とその時、椅子に座って俯いているルルが小さな声を出した。
もっと強かったら……? ぁ……もしかして僕の事かな……? 僕のせいで色んな人に迷惑かけちゃったし。
「……もし私が強かったら……レンがこんなに苦しむ事も無かったのに……」
「……え、何言ってんの……? 僕の為に心配して泣いてくれるルルが見られ――
「そういう事じゃない」
何故か、珍しく遮りながら強い否定をした。椅子からゆっくりと立ち上がり、僕の顔を覗き込んでいる。
僕が苦しんでる……? 何処が……?
「とにかく……私は強くなりたい……」
「ぇ……」
「俗に言うアレ。訓練したい」
そして右手をグッと握り、そう言い放った。
強くなりたい……? ルルが? え、何でそんなに意味の無いことしようとするの?
「一応、僕ちゃんが寝ている時に話は少し聞いてたわ」
「僕ちゃんはやめてください」
「この子は本気だし、実際この世界にいるなら自衛手段は持ってて損は無いわよ」
「そう……かもだけど……」
そんなルルに助け舟を出すかのように、カオルさんも会話に入ってきた。
いや、本当に本気なのかもしれないけどさ……というか僕ちゃんってまだ呼んでたのこの人。
「お願い……! 私も、レンを守れるぐらい強くなりたい……!」
「レンちゃんを守れる程は傲慢すぎるわよ」
「……」
そして僕の左手を両手で掴み、頭を下げながらそう言った。
僕を守れる程……剣を構えて僕の前に立つルル……ぁ……でもそういうルルも見たいかも……あ、いや、違う、惑わされちゃダメだ!
ドガンッ
「きゃぁっ!」
「なら俺が手を貸してやろうか?」
「みゃ……っう……だ……誰、ですか?」
そんなルルの両手の丁度良すぎる感触を堪能していたその時、扉が勢いよく開かれた。と同時に、一人の少年が部屋に入ってきた。
ちょ……ビックリするじゃん……僕怪我人だよ……? 少しぐらい躊躇しちょルル何で手離すのああぁ……
「俺か? 俺はナキハだ」
「ナキハさん……ですか……き、急に何でしょうか……」
少年……ナキハさんは、右手を腰に当て胸を張っている。
ちっ。ルルよりもちょっと背が高い……ん……水色でボサボサの髪……あ、もしかしてこのぬいぐるみってこの人をモチーフにしたのかな? いや似すぎでしょ。これ作った人凄いな。
「だからよ、ルルちゃんとやらの修行に俺が一肌脱いでやるってんだよ」
「あら。中々大胆……というより……珍しいわね」
そしてナキハさんは右手を胸にトンッと置き、ボサボサの髪の毛を揺らしながらそう言った。その姿に、カオルさんが少しだけ目を見開いている。
この人がどんな人かは知らないけど……カオルさんの反応からして、普段はこんな事言わない人なのかな? いやでも、教えるって言うんだからそういう仕事してる人だよね。
「えっと……教師、とかですか……?」
「あ、いや違う。一応魔王だ」
「……ほぇ……?」
「え……?」
そして僕が何の気なしに放ったその質問に、ナキハさんは躊躇いもせず返した。
……んっと……えと、魔王……?
僕もルルも思考が一瞬止まってしまった。
魔王って確か……ん? え、魔王!?
「ぇ……ま、ええぇっ!?」
「気軽にナキハ君と呼べ! な!」
「何でよ」
「何でそんな食い気味なんですか!?」
余程そう呼ばれたいのか、ベッドに手を付き、僕に顔を近づけながらそう言った。
いや、え、よ、よば、呼ばなきゃダメこれ? え、ええぇ……
ガチャ
「貴様っ!」
「にゃぁっ!?」
「お、俺ですら未だナキハ様呼びなんだぞ!」
等と考えていたその時、今度はドアを蹴破りながら誰かが入室してきた。
「ひゃ……ど……え……?」
上半身は首から腰までぴっちりとしたインナーとその上に赤いジャケットを着ている。下は太腿より上のみを覆っているぴっちりとしたスパッツのみを着ている。
そんな下半身が寒そうな格好をしている少年が、僕に目を向けながら叫んだ。
「お前、また俺をストーキングしてたな?」
「そんなの何時もの事です!」
「え、スト……ぇ……?」
えまじで? この人ストーキングしてたの? 嘘、全く気が付かなかった……凄い……何時もの事って言ってるし、経験が豊富なのかな……
「それより貴様っ! ナキハ様を魔王様と知っていての発言か!」
「え、いや、数秒前に知りましたけど……」
「そもそもどの発言?」
そして両腕を振り下ろしながら叫んだ。
ついさっき知ったばっかりなのに何をどうしろって言うの? 僕だってナキハさ……ナキハ君の事知ってたら……いや、知ってたところでだし。それに未だナキハ様って言わても。呼びたいなら普通にナキハ君って呼べばいいじゃん……いや、魔王だから難しいのかな。
「とにかくどうだ? 俺が教えてやるぞ?」
「えっと……」
「貴様っ! 断れ! 俺とナキハ様との時間が減るだろ!」
「貴方ちょっと黙りなさい」
今度は僕の足へと身を投げ出し、僕の方を見ながら両腕を伸ばしそう言った。それを見てストーキング君がカオルさんに羽交い締めにされながら暴れている。
凄い光景だな。ここ本当に魔王城? 王宮と全く雰囲気が違うんだけど。
「ち……ナキハ様に溺愛されてるからって調子に乗りやがって」
「本当何言ってんのさっきから」
軈てストーキング君は暴れるのをやめ、カオルさんに悪態をつきながら全身の力を抜いた。
「……」
「警戒しすぎだ。別に変なスキル教えるつもりなんてねぇよ」
「……ルルは見ての通り魅力的なのに要領も良いんです。無茶なスキルばっかりを教え込ませるつもりなら耳剥ぎますからね」
「お前の妄想力パネェな」
「行動力もパないわね」
警戒するに決まってるでしょ。ルル程の人間なんてこの世に存在しないんだもん。誰だって自分のスキルを教えたくなるでしょ。でもルルのレイトはルルの物って事は分かってよ。
「分かった、じゃあ教えるスキルはレン基準で良いから。コツとかで我慢するから」
「ぐるるぅ……」
「信用しろよ……俺噛みつかれそうなんだけど」
「それ以上吠えてみろ! 貴様をぶっ飛ばすぞ!」
「野蛮な変態しかいねぇなもう!」
仮に教えて貰うにしても、絶対ルルに近づかせない。
僕はルルを守るように両腕を広げる。
「こらこら。ナキハ様を困らせないの」
「ぇ……」
すると、今度は静かな声が、扉の方なら聞こえてきた。声の方を見ると、一人の女性が扉にもたれ掛かりながら立っていた。そしてストーキング君に近づき、後ろからハグをするように腕を絡めた。
……ストーキング君よりも背が高い……ナキハ君と同じくらいのストーキング君よりも大きい……何なんだよもう……
「困らせてねぇわ」
「あ、もうそんな時間か」
「そそそ。ほら、行くよ」
そんな謎の女性に、ナキハ君は何かを理解したのか小さく頷いた。そして謎の女性は僕に小さく手を振りながら部屋を出ていった。
えっと、今は十七時半だっけ……? その時間にする事……?
「ほらご飯よ。二人共起きて」
「……ん……ゆ……」
そしてカオルさんは隣のベッドに近づき、二人を揺らしながら起こした。
あ、夕飯の呼び出しだったのか。というか二人とも凄い熟睡してたみたいだね。僕達あんなに騒いでたのに今起きたよ。
「ほら、レンちゃんも。行くわよ」
「あ、はい……っと……つぅ……」
「む、無理しないで」
そしてベッドからゆっくりと降りた瞬間、ピリリと伝わる痛み。顔を顰めてしまったからか、ルルが僕を優しく支えながらそう言った。瞬間、
「……え?」
「……え?」
「え、何、ですか……?」
「……あ、そうだったわ……」
ナキハ君とカオルさんが同時に声を出し、ルルを見た。
「その程度で動かなくなる……そんな人、この世界にはいないわよ」
「え……」
「ほら、レンちゃんも言ってたでしょ。この世界にいるからには痛みには慣れてって」
確かに、僕自身痛いとはいえ、無理はしてるつもりでもないし……少なくても、昨日の吐血の時よりは傷が見えてるだけマシかな。待って、僕吐血してからまだ一日しか経ってないの?
「だから……この世界だとその程度じゃ無理してるとは言わないのよね……」
「そ……そうなんですか……」
「ふにゃぁ!?」
「んー……でもそうね……」
カオルさんの説明に、ルルは僕の耳元で囁くように呟いた。こそばゆい感覚が耳元から襲ってきて、僕は変な声を出してしまった。そんな僕を後目に、カオルさんは何かを考えるように顎に右手を添えた。
「不安ならおんぶでもしてあげたら?」
「え?」
「んぇ?」
そしてまるでからかう様に微笑み言った。
「ほら、そうすればレンちゃんも移動が楽になるじゃない」
「え……え、の……!」
「……」
え、いや、流石にそんな、ルルのおんぶは魅力的だけど、でも、そんな面倒な事をルルにお願いするなんてそんな……
等とオドオドしていたその時、
「……」
「っ!?」
突如ルルが僕の目の前で背中を向けてしゃがんだ。
「ル、え、ルル!?」
「ん……」
「にぇぁ……ひんっ……」
そして両手を背中に添え、乗ってくれと言わんばかりに僕の方をちらりと見た。
んぇ……ぇ……い、良いの……? 乗っていいの!?……ぇ……
「し、失礼――
「すんじゃねぇよバカ!」
「ひんっ!?」
僕はその力強い背中にゆっくりと体重を預けようとした瞬間、既に廊下へと出ていたナキハ君が勢いよく叫んだ。
んぐっ! あの人こんの……折角ルルが背中を貸してくれそうだったのに……
「何っですか! 邪魔しないでくださいよ!」
「邪魔じゃねぇよ。怪我人背負うのはシンプルに危ねぇだろが」
ゆっくりと僕に近づいてきたナキハ君。呆れているのか、若干渋い顔をしながら見つめている。
何この人、ルルの行為を無駄にするつもりなの? いや、確かにルルに大きな負担をかけさせるのも違う気がするけどさ。
「はぁ……いいや、俺が運ぶ」
「ええぇ……」
「あっからさまぁ……そっちの方が安全なんだから我慢してくれ」
そう言いながら、ナキハ君は僕に両手の掌を向けた。
我慢とかそういう問題じゃないってこと分かってよもう……
ここら辺から性癖の押し付けが垣間見えます。覚悟の方をどうかよろしくお願いします!




