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あいに溢るる  作者: 手石
スコアの変わらぬボーリングな日々
72/107

1.63.2 VSフルキとミチルの育ての親

「っ! うっそでしょ!?」


 その飛び出した人を……シメフムを見て、フルキもミチルも目をまん丸にしている。シメフムは体の至る所に葉っぱを引っ付けたまま、そして鳥と共に大きく跳躍したのだ。


「結構限界まで引っ張ったやつだったのに」


「っ」


 悪態を着くフルキを後目に、シメフムは空中に滞空したまま両手を外側から内側へと振り、赤黒い球を二十程出した。


「っ!?」


「フルキっ!」


「ん!」


 ドッ


「にょっ!?」


 ジュッ


「ぜごっ!?」


 ギュッ


「じずっ!?」


 フルキに目をやった直後、ミチルは飛んできた弾を一つ一つ、転げ回るように避けていく。弾は全て地面に当たった。


「当たらないわねホントにぃ……っ! すばしっこいっ!」


「んっ!」


 またしても当たらずに終わった球を見て残念がるシメフムだったが、自身と同じ高さまで上昇して来たフルキを見て、顔色を変えた。フルキはシャツに、先程のミチルの剣の時と同じように、まるで胸ぐらを掴まれたかのように引っ張られて上昇したようだ。


「っけぇっ!」


 シュンッ


 そして左手の先にある大きな車をシメフムの方へ向け発進させ、左手を羽にする。そしてシメフムへと目をやりながら羽をばたつかせ、ゆっくりと落下していった。


「……」


 少し距離があるとはいえ、勢いよく近づいてくる車。だというのに、シメフムは何故か頬を弛めている。何故か余裕そうな顔をしている。


「……に」


 やがて右手を車へと突き出し、


 グッ


 と握った。瞬間、


 ダギッ


「……ぇ……?」


 車が形を変えた。雑巾を絞るように細長くなったのだ。


「どんなに硬いものでも、見えないものや無機物でも……」


 ブォンッ


 そして車はそのままシメフムの顔の横を通り抜けた。


「……元はレイト。それさえイメージできれば簡単よ」


「んなっ!」


「締め上げて形を変えるなんて簡単なのよぉ」


 そして右手をフルキへと向け、赤黒い弾を放ち、


 ジャユッ


「にゃぎゃっ!?」


「フルキっ!」


 フルキの腰を貫いた。焼けるような音と共にフルキの悲鳴とミチルの叫び声が響いた。


「っ!」


 直後、フルキの服がまたしても伸び、今度は真下に、勢いよく引っ張られ、


 ドッ


「にっ!」


「にょいっ!」


 そしてミチルは両腕でフルキを抱くように受け止めた。


「っ……」


 トッ


 対して、シメフムは小さな音を立てながら着地をした。


「ふぅ……うーん……そうね……」


 そして二人の方を見ながら右手を顎に添え、左手を腰に当てる。何か考え事をしているのだろうか。


「もう言っちゃうけど、私はレイトを絞める事も出来る」


「……」


 やがて右手を顎に添えたまま話し始めた。フルキはミチルの肩を借りながら息を荒くしながらシメフムを見つめている。


「しかもね……」


 直後、シメフムは左手を薙ぎ払うように振り、


 シュンッ


「っ!」


「っ!」


 赤黒い弾を一発だけ放った。ミチルはフルキは抱えながら地面を蹴り、右方向へと小さく跳んだ。


「自分の」


 グニッ


「弾にも出来るの」


「はっ!?」


「にっ!?」


 が、赤黒い弾の形が平べったくなった。先程の車とは違い、薄くて細長い楕円のような形をしている。


「体積は変わらないけど、面積は変えられるの」


 ジュッ


「んふっ」


「んぐっ……!」


「っ!? ミチルっ!」


 そして楕円の先端が、ミチルの右の太腿を捉えた。太腿が赤黒く染まり、ミチルはガクリと体勢を崩す。


 ドサッ


「きゃぅっ!」


「ごぁっ!?」


 そしてフルキを放り投げるような形で、腹から地面へと転がった。フルキはすぐに起き上がり、ミチルの腕を掴む。


「それとねそれとね」


「っ……」


「はぁ……はぁ……」


 少し嬉しそうに声を弾ませているシメフムを無視し、そしてミチルの腕を肩へと回しながら立たせてからシメフムを見た。フルキは足を震わせ、ミチルは息を乱している。


「ちょっとね、二人の体内のレイトを絞めてみたのよ」


「は……?」


「ほら、今二人とも怪我してるでしょ?」


 そんな立ち上がるのもやっとな二人に、シメフムは両手の全指を合わせ、微笑みながらそう言う。


「そこから貴女達の中に私のレイトを入れたのよぉ」


「貴女達の中って何?」


「っ! ミ、ミチルもまだフルキの中を味わったことないのに!」


「フルキの中って何? 味わうって何?」


「いや、別に味わってないわよ」


 ……なんか楽しそうだな……

 恐らく、親子という関係性故にだろうか。ミチルは苦痛の表情を浮かべている。


「まぁとにかく……今二人の体内のレイトは、全身を回れないぐらいギッチギチに固定してるのよ」


「ぇ……」


「だからぁ、今はフルキちゃんもミチルちゃやもスキル使えないのよぉ」


 そして腕を後ろに組みながら二人へと近づく。余裕そうな表情、傍から見れば隙だらけな、そんな姿で。


「だからもう私の勝ちよ」


 そして歩みを止め、両手を頬に添えピースをしながら言い放った。

 この人四十歳ぐらいの筈なんだけど……何の躊躇も無くそんなポーズできるって凄いな……


「ほらほら退いて退いて」


 そして頭と髪の毛を揺らしながら二人へと……いや、後ろに聳え立つ大きなお城へと歩きだした。それを見て、フルキはふらりと立ち上がりゆっくりと歩く。


「いや、通す訳……」


 そしてミチルの前へと立ったその時、


 ガサッ


「……」


「……ぇ……?」


「なっ……」


「あんらら?」


 草むらから、丸くて大きな体を黄色と青色の長い体毛でシマシマに覆い、その体毛から小さな瞳をシメフムへと睨むように向けている誰かがフルキの前に出てきた。その体毛の中にあるのだろうか、腕や脚は見えない。


「……魔鬼者……ね……いや、なぁんで魔鬼者に庇われてるのかしらぁ」


「っ……」


 その姿を見て、シメフムは眉をひそめ両腕を組む。その光景に、シマシマは少し前屈みみになった。


「俺はラフィージのメグルだ! 魔鬼者っつう大きな括りで呼ぶな!」


 そして怒りを込めて叫び、一歩(?)前に出た。少年のような、少し高い声をしている。

 口は……何処にあるのだろうか……? 体毛が全く揺れていないのにその声量って……


 ガサッ

 ササッ


「っ!?」


 そして再び草むらが揺れ、誰かが現れた。小さな体で狼のような顔をしている人と、四角い顔に四角い体をしている人等、数十名がシメフムを囲うように草むらから現れた。


「な……何これ……」


 突然現れたその集団に、シメフムは視線を右往左往させる。フルキとミチルも口を半開きにさせ、その光景を見つめている。


「あ、でも丁度いいわぁ!」


 が、シメフムは微笑みながら両手を広げた。そして足元に大きな弾を作り出した。そしてバランスボールのように大きく、柔らかそうに跳ねているそれに乗った。


 フヨッ

 ジギュルッ


「っ!?」


 直後、弾はまるで絞った雑巾のように渦巻き上になった。恐らくスキルを使ったのだろうか。


「そぅれ!」


 グギュルッ


「ぁっ!?」


 そして、その場で回転した。巻かれた部分を戻すかのように、その場で勢い良く。シメフムは両手から赤黒い弾を、全方位に散らばせるように発射し、


 ジャッ


「ニャッ!」


 ドギュ


「ジャゥ!」


 草むらから現れた人達を次々と撃ち抜いた。体が焼ける音と同時に聞こえてくる苦しむ声が何重にも響き渡る。


「あぁほら、見てよ! 景色も魔鬼者も穴だらけになるのよぉ!」


 そんな光景と和音を肌で感じているシメフムは、興奮からか満面の笑みで回転している。フルキは目を見開き、ミチルは唇を噛み締め、シメフムを見つめている。


「んっ! や、やめっ!」


「止めるわけないじゃない!」


 フルキはミチルを背中にかばいながら四方八方へと飛んでいく弾を見つめ、高揚しているシメフムを止めようと叫ぶ。が、余程快感なのか、シメフムはフルキの言葉を遮ってなお、回転も止めようとしない。


「あぁもう! すっごい気持ちい――


 が、


「……ぇ……」


「っ……え……」


 瞬間、止まった。シメフムではなく、赤黒い弾が。何十発もあるその弾が、音も無く空中でピタリと停止したのだ。バランスボールから降りたシメフムだけでなく、フルキやミチルも漂っている弾を静かに見つめている。

 そして、


「っ」


「んぉ……」


「何が……え……!?」


「っ!?」


 弾を撃ち込まれた人達が、次々と、そしてゆっくりと浮かんだ。困惑する三人を後目に、意識がある人も無い人も、音も無く一人一人お城へと連れられるように飛んで行った。


「っ」


 その光景に、シメフムは一瞬苦い顔をしたが、追いかけようと足に力を込めた。

 が、


 スッ


「……はぁ……」


「っ!」


 目の前に一人の少年が、シメフムの進路を妨害するように、小さな音を立てながら、ゆっくりと降り立った。そして右手をおでこに当て、ため息を着く。その姿にシメフムは後ずさる。

 鮮やかな水色で少し伸ばした、けれども広がっているボサボサの後ろ髪と真ん中だけを短くしている前髪。緑色の目を持ち、何処か儚そうな、まるで何かを求めてるような表情をしている。身長はちょっと小さ……あ、いえ、何でもありません。


「魔王城は徒歩一日以内で行ける距離にある」


 少年はシメフムの方を見ずに言葉を繋げる。呆れているような、そんな雰囲気が滲み出ている。


「のに、何で皆攻めてこないか分かるか?」


「っ!?」


 やがて動かないシメフムへと、睨むように目を向けた。腕をおろしゆっくりと近づく。シメフムは腕を何度も振り払っている。が、掌からは何も出てこない。


「力の差を理解してるからだ」


「ひぁっ……!」


「お前……ヘイルのくせにそれが分からないのか?」


 やがてシメフムの目の前で立ち止まった。シメフムの顔を見る為か、視線を上へとやりながら。無警戒なその光景に、シメフムは呼吸を小さく乱してしまう。


「何ならスキルだって二種類あるし。相当優秀なヘイルじゃねぇのかよ」


「っ! そん、なの! 関係無いわ!」


「あるわ馬鹿! せめて仲間と一緒に来いよ……」


 そし項垂れながら悪態を着く。呆れている……というより、ガッカリしている、と言った雰囲気だ。


「……魔王といえど、ワンチャンあるかもしれないだろうが」


「っ……」


 そして顔を上げ、背伸びをしシメフムの顔へとずいっと近づく。その勢いに、シメフムは一歩後ずさってしまう。


「っ……そもそも!……魔王がいなければ……魔王のせいでっ!」


「はぁ……んで……何、その余程の理由って」


「っ!」


 その勢いに負けじと、少し前のめりになりながら言い返すシメフム。しかし少年はその姿にものともせず、腕を組み首を傾げながら聞いた。ボサボサの後ろ髪がファサりと音を立てる。

 ちょっと可愛い。

 その姿に、シメフムは更に眉をひそめた。


「復讐って言ったら、貴方は通してくれるのかしら?」


「……」


 シメフムは怒りを抑えるように声を低くし、バケツを取り出し、凄むように睨む。しかし少年はまたしても怯む様子も全く見せず、シメフムを見つめている。が、やがて視線を下げた。


「何で俺達が魔族って呼ばれてるか、知ってるか?」


「……何かしら急に……?」


 そしてそのまま右手を上げた。直後、


 ジャッ


「ぇ……!?」


「スキルや職業とは違う、また別の力を扱えるからだよ」


 空中を漂っていた数十の赤黒い弾が爆発した。火の粉のようなものを撒き散らし、まるで小さな花火のようだ。

 そんなに綺麗ではないが。

 その光景に、シメフムは口を開き、目も開き、周囲を見渡した。当たり前だ。自分のスキルを無力化されただけでなく消されたのだから。


「近いやつだと……あ、別世界の創作物でよくある、魔法ってやつ?」


 すると少年は唐突に後ろを振り返り、フルキの方を見た。恐らく、フルキが別世界出身だというのを知っていての発言と行動なのだろうか。フルキは一瞬驚いたものの、少年の言葉を聞き小さく頷いた。


「イメージ力が無くても使える、戦闘に特化した力。まぁ、言っちゃえばマリョクとは違う、魔力を持ってる」


「ぁ……ぇ……」


 そして左手で右肘を押えながらゆっくりと説明する。シメフムは未だ口をパクパクさせながら、目の前にいる少年を見つめている。


「職業と混合はしちゃうが……あれと違ってこっちはスキルと同時に使えるし、なんなら詠唱無しでもいける……」


「……っ……」


「……まぁ、何が言いたいかって」


 やがて正気に戻ったからか、口パクパクを止め、一歩下がりながら黙って少年を見つめた。それを見た少年は話を止めてシメフムへと近づく。そして人差し指を真上に突き出し、髪の毛を小さく揺らしながら一言言い放った。


「お前、もう既に魔法で捕らわれてんのに気が付いてないのか?」


「っ!? 何っ」


 ゴッ


「んっ!?」


 シメフムは少年へ近づこうとした瞬間、何かにぶつかったかのように、頭を仰け反らせた。少年はそれを見た後、後ろを振り返り、地面にへたり混んでいる二人へと目を向けた。


「っ! えちょ、まっ、な、なに、何これ!?」


「っ……」


「……」


 まるで檻に入れられたかのように、見えない何かに阻まれながらその場で慌てふためくシメフムを無視し、そのまま二人へと歩み寄った。


「……ま、事情はアルルージェから聞いている」


「あ……」


「あるるーじぇ……?」


 ギュンッ


「んっ、きょ、わぁっ!?」


 そして二人の顔を交互に見て、小さく呟いた。直後、シメフムの体が上空へと舞い上がった。


「それでは正式に」


 そのまま二人を通り過ぎ、お城の前に立つ。そして一瞬の間を置いてから、勢い良く振り返った。


「ようこそ。態々足を運んでくれた事に歓迎を。そして俺達の為に戦ってくれたことに感謝を」


 両腕を広げ、大きなお城をバックに、高らかにそう宣言した。

strong is cool の気持ちはめちゃんこ分かるけど、頭に overwhelmingly を付けた瞬間、あんまり戦闘に参加させたくないって思うのは自分だけかしら。

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