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あいに溢るる  作者: 手石
スコアの変わらぬボーリングな日々
71/107

1.63.1 VSフルキとミチルの育ての親

第一章の時とは違い、頭は全く使っておりません。





 グウウゥゥゥン


 十五時五十分。

 エレベーターが上がって行く機械音が少しづつ小さくなっていく。周囲は大きな木で囲まれており、風により草木が触れ合う音が聞こえてくる。半径十五m程が開けた、小さな広場のような場所だ。


「一応……話し合いを――


 ジュッ


「っ!?」


 フルキが落ち着いて話をしようと一歩前に出た瞬間、右耳のすぐ横を赤黒い弾が通った。シメフムが無言で手を前に突き出している。


「……する気は無い……と……」


「当たり前よぉ」


「一応娘の筈なのに……躊躇ないのです……」


 ズォッ

 ザウンッ


 フルキは右手を前に翳し茶色い鞭を、ミチルほ両手を前に翳し細長い剣を、夫々虚空から取り出し、大きな城を背にしシメフムを静かに見つめる。距離にして十五m程離れている。

 どうでもいいけど、自分なら顔が見えるか見えないかギリギリの距離だ。

 お互い近付かず、黙って見つめ合っている。


「こんな事になるなら、シメフムさんのお仕事についてよく聞いとけばよかった……」


「んっふふぅ」


 フルキの言葉にシメフムは手を口元に当てて微笑んだ。全身をゆらゆらと揺らしており、余裕そうだ。


「ふんらっ!」


「ん?」


 そんな時、変な声と共ににミチルが突っ込んだ。両手で持っている剣をシメフム目掛け、薙ぎ払うように左から右へと勢い良く振り抜いた。


「んっとぉ」


 ズギッ


「ぐっ!?」


 が、シメフムは右手を上げ、ミチルが薙ぎ払った剣を人差し指と中指で受け止めた。焦る様子を見せずにミチルをちらりと見る。

 この女、絶対今カッコつけたな?


「貴女は葛藤しすぎよぉ。ヤるかヤらないか、ちゃんと決めてよもぅ」


「っ!」


「簡単に摘めちゃうんだもん」


「んにっ!」


 そして満面の笑みでそう言い放った。ミチルは離れようと力を込めているが、二本指なのにがっちり摘まれているのだろう、力んだ顔とプルプル震える体が窺えるのみで、ミチルの体は全く動かない。そしてシメフムは左手をミチルの方を向けた。


「ひっ!?」


「それじゃぁ」


「らぬぁ!」


 パシュアッ


「ほわっ」


 そして左手に光が灯った瞬間、フルキが鞭をシメフムの右手へと叩き落とした。乾いた音が小さく響く。


「っつぅ……二人同時ってキツいわぁ……」


「ぬ!」


 シメフムはミチルから目を離し、右手を冷ますように振り回す。その一瞬の隙をつき、ミチルは剣を握ったまま両足を上げ、ナマケモノのような体勢になった。


「ん!?」


「ふんらっ!」


 グギッ


「んつっ!?」


 そしてシメフムの左手、剣を掴んでいる人差し指と中指目掛けて蹴り上げた。足と指、そして剣がぶつかり合う音が大きく響いた。


 ドスッ


「んぎっ……」


 ミチルはそのまま背中で着地し、直後に転がり痛がっているシメフムから大きく距離をとるように離れた。


「っ……ぐぅ……」


「ミチルちゃんを物故させるのにも躊躇しないのか……」


「……」


 フルキはミチルの傍まで行き、シメフムを睨む。シメフムは左手の人差し指と中指の間を舐めながらフルキを見つめている。舐めにくそうだ。


「三十年ぐらい前だったかしらね……」


「……何?」


「まぁまぁ聞いてよ」


 口から左手を離し、雑談のつもりなのか、シメフムが少し小さな声で話し始めた。フルキは警戒をするようにミチルの前に立った。


「確か、私が十になるかならないくらいだったかな。私には二人の親友がいたの」


「何で「確か」とかいう曖昧な表現なのです……?」


「すっごく仲が良くてねぇ。その……恥ずかしいけど、そのうちの一人の男の子に、恋をしたの」


「え、む……むぅ……」


 シメフムは頬を赤らめ、ミチルの言葉も無視し話を続けた。ミチルは頬を膨らませ、シメフムの話に黙って耳を傾けた。

 オイコラフルキ。何ミチルの頭撫でてんだよ。満面の笑みだし。何でそんな余裕なんだよ。ミチルの頬啄くのやめい。戦闘中だし会話中だぞ?


「でも、そんな時に魔鬼者がやってきたの」


 二人とも全身の動きを止め、目だけをピクリと動かした。


「あなたたちも知ってるわよね。あの謎かつ急に始まった戦争」


「ぁ……あれ……」


 警戒する様子も無く、シメフムを見つめる。


「その時に……私の好きな人が……もう一人の幼馴染を庇って……」


「……え……!?」


「幸いにも死にはしなかったわ……今も寝たきりだけどね」


「ぁ……それで今日……」


 シメフムの苦しそうな表情をしている。だからなのか、詳しい事ははぐらかした。それでも言いたいことは分かったのか、フルキは苦い顔をする。恐らく、今朝シメフムと出会った事を思い出したのだろうか。


「それ以来、私は恋をするのをやめたわ」


「……ぇ……」


 そして目を伏せ、両腕で自身の体を抱く。


「そして誓ったの。魔王を、必ず、苦しませるって」


「ちょ、ちょっと待ってです!」


「……なぁに?」


 話しているうちに魔王に対する憎悪が膨らんだからか、言葉がどんどん強くなり、呼吸も荒くなっていくシメフム。そんな時、疑問を持ったのか、ミチルがシメフムに向かって食いつくように声を出した。


「恋をするのをやめた……って……それじゃ、それじゃまるで……」


「……そう、ね……今の私が言えることといえば……」


 認めたくない故の葛藤からだろうか、震える声でそう言葉を続けた。シメフムは返答に少し困ったのか、考える素振りを見せる。が、すぐにミチルの方を向き、


「私は、ミチルちゃんの親なんて知らないってことくらいよ」


「……ぇ……」


「フルキちゃんと同じ。あの森の中で同じ日に拾ったのよ」


 微笑みながらそう言い放った。


「躊躇なんてしないわよそりゃあ。仇と拾い子よぉ。天秤にかける間もないじゃないのぉ」


「いや! ま、だとしても、ここまで俺達を育ててきたのに!」


「仕方ないじゃない! 邪魔なんだもの!」


「っ!」


 フルキの言葉をも切り捨てるように、強く、そして感情的になるシメフム。圧倒されたのか、フルキもミチルも一歩下がる。が、フルキはすぐにミチルの方をちらりと見た。


「……いける?」


「っ……いけるです……まさかアレやるのです?」


「準備してたくせに」


「何故分かったのです……!?」


 若干上の空だったミチルは、フルキの腕をギュッと掴んでから離れた。それを確認したフルキは両腕を広げる。


「ふぅ……よし」


「ん」


 そして鞭を虚空へと仕舞う。シメフムを両手を振り回しながら目を細めて、フルキを見つめている。


「あら、もう鞭仕舞っちゃうの?」


「ふっ!」


「あらら?」


 するとフルキはその場で大きく跳躍した。少しだけ斜めへと。シメフムは上空へと目を向ける。


「良いのかしら?」


 そして左手を前に突き出し、掌をフルキへと向けたまま、右から左へと薙ぎ払うように動かした。すると掌からあの赤黒い球が、左手を追うように右から左へと現れた。


「逃げ場、無いわよぉっ!」


 そして左手を勢い良く上げた。と同時に、空中に浮いていた十数もの球もフルキ目掛けて飛んでいった。


 ゴグァッ


「……え」


 がその直後、大きな音が出るほどに勢いよく、シメフムの目の前に、フルキの真下に壁が現れた。いや、まるで坂のように地面と壁が繋がっている。


 トッ


「そっ!」


「っ!?」


 フルキは突如現れたその坂の頂上を足場にし、更に上空へと跳躍した。そのせいで、シメフムが放った球はフルキを通り越し、空へと消えていった。


「な、にしたの……?」


「ふふふ」


「っ! ミ……!」


 困惑するシメフムを、目を細め、したり顔で見つめるミチル。シメフムは顔をフルキへと向けたままミチルを睨むように見る。するとフルキは空中で四分の三程前回転し、背中を下に向け、右足を上空へと伸ばした。


「っ! でも、高く跳んだぐらいで」


 ゴゴグッ


「ぇ! けひゃっ!?」


 そして再び右手を突き出そうとした瞬間、今度はシメフムの足元の地面が、シメフム諸共大きく上空へと盛り上がった。シメフムは体勢を崩し、仰向けになるように坂の頂上部分へと全身をくっ付けている。勢い良く盛り上がっているからか、全く起き上がる様子が無い。


「何でそんな、こっ――


 そしてシメフムが、フルキが踏み台にした坂と同じくらいの高さまで来た瞬間、坂の上昇は止まった。と同時に、シメフムは少しふわりと浮いた時、


「にっ!?」


「らぁっ!」


 ゴッ


「ごっ!」


 フルキは伸ばしていた右脚をシメフムの腹へと振り下ろした。真上から来たその衝撃に、シメフムはそのまま勢い良く落ちていき、


 ドサッ


「がふっ!」


 大きく伸びた坂のような壁……ではなく、地面に衝突した。蹴られた痛みと地面と衝突した痛み、同時に来るその感覚からか、シメフムは立ち上がらず、目を瞑り荒い呼吸をしている。既に壁はなくなっており、少し見晴らしの良い景色に戻っている。


「っマジ――


 ズンッ


「んぬっ!」


「ぁっが!?」


 そして背中で着地したシメフムの腹目掛けて、フルキは体重を乗せるように膝蹴りをかました。お腹に勢いよく乗せられたその体重に、シメフムは少量の唾液と共に空気を吐いた。


「っ!」


 ブォン


 その勢いのまま、フルキは両手をシメフムの右横の地面に着け、側転するように両足を上げた。そして真上まで上げた時、再びシメフムの腹目掛けて……


「んっ!」


 ガッ


「ぁがっ!?」


 振り下ろそうとした瞬間、シメフムが寝転がった体勢のままフルキの両腕を足で薙ぎ払った。支えが無くなったフルキはバランスを崩し、空中へと小さく投げ出される。


「っぅ!」


 フルキの顔と地面が接触する前に仕留める為か、シメフムは右手から赤黒い球を出した。


「っ!?」


 ゾォッ

 ズゲッ


「なっ!?」


 そして放った……瞬間、フルキとシメフムの間に大きな車が、シメフムに腹を見せながら出現した。赤黒い球は車に食い込み、小さな穴を開けた。


 ギュァッ

 ジガッ


「じゃぎっ!?」


「っ」


 赤黒い球が体に当たったからか、もしくは受け身が取れなかったからか。多分両方だろうが、車の向こう側から落下する音と声が同時に聞こえてくる。警戒故かシメフムは飛び退き、車から距離をとった。


「にんぐるっ!」


「っ!?」


 直後、車の後ろから、剣を両手で持ち斜め上へと掲げているミチルが飛び出してきた。シメフムは着地と同時にミチルの方を見て、剣を受け止める為か手を前に突き出そうとした……瞬間、


 グンッ

 ザッ


「ぇ……ぁびゃっ!?」


 剣が何故か、急発進するようにスピードを上げた。ミチルが剣を振るった……ではなく、剣がミチルを引っ張るように。ミチルも未だ空中にいる、その突然の出来事に対応出来なかったシメフムには、左肩から臍辺りにかけて一本の切り傷が出来た。


 ガシュッ


「にっ!?」


 そして肩から着地したミチルは、そのまま後ろに飛び退き距離をとった。反撃をされぬように。


「っぁ……何今の……」


「……ぁ……つぅ……マジか……!? 結構ガツンっていったはずなんだけど」


「超ハッスルなのです……それよりフルキ!」


 フルキの右肩に穴があき、血が少し溢れている。険しい表情をしながら右肩を押さえている。それに対しシメフムは膝すらつかず、傷口も抑えず、両足で立っていた。少し苦しそうに顔を歪めているが、表情だけでは重傷には見えない。


「っ……レン先輩、こんなやべぇのを全身で浴びてたのかよ……」


「む、無理しないでです!」


「なるほど……どうやって地形を変えてるのかはなんとなくは分かったわ……」


 謎が解けて嬉しいのか、両手の人差し指を重ね合わせ、目線の高さまで上げながら少しニヤリとした。


「……やっぱ油断はダメねぇ」


「っ……」


「安心してよぉ。マジるからさぁ」


 そしてシメフムは伸びをする為か、両手の親指以外の全指を重ねて前に突き出し、そして上へと掲げた。


「っ!?」


「……ぇ……」


 直後、ミチルが地面を見ながら声にならない声を出した。それを見て、シメフムが嬉しそうな顔をしている。


「うっそ……」


「え……っ!?……マジなの……!?」


「マジ、です……!」


 そして焦りながらそんな会話をした。

 何でそれだけで伝わるんだよ。意思疎通しすぎだろ羨ましい。


 バサッ


「あら?」


 するとフルキの両腕が、音を立てながらピンク色の翼へと変化した。右腕からは血が出ている。恐らくフェザーだったのだろうか。片腕が赤く染っているとはいえ、その姿は優雅で、とても片腕に穴が空いているとは見えない。シメフムは手を挙げたままの状態でフルキの方を見た。ミチルは目をキラキラさせながら……いや、本当に瞳の中に星を入れている。

 何してんだよこの人。


「羽……って事は……凶禍かしらね」


「ぐっ……無理しないとちょっとヤバいかもな……」


 ドッ


 かと思えば、一瞬ミチルの方を見てから地面を強く蹴り、空高く飛び上がった。羽を大きく広げ、斜めへと、そしてミチルから離れるように。


「フルキっ……!」


「んでもさぁ、そんなに羽広げてさぁ」


「ぇ……!?」


 が、大きく飛んだフルキを見てシメフムはニヤリとしながら、右手を横へと


 ブンッ


 と振った。瞬間、赤黒い球を大量に出した。と同時にフルキへと発射した。


 ドジュッ

 ジギャッ

 ズミュッ


「んぉっ!?」


「当てて、って言ってるようなものよぉ?」


 片腕を負傷し、動きが鈍くなっていたのだろうか。フルキは避けることも出来ず、大きな羽を何度も撃ち抜かれる。


「……」


 両羽を撃ち抜かれた……というのに、フルキが少しだけ頬を緩めていた。右の羽を腕に戻し、ゆっくり落下している。


「……ん……?」


 そんな余裕そうなフルキを見て、眉をひそめ、半歩後ずさるシメフム。

 そこそこ離れていたのに見えるとか。目が良すぎる。


「にゅっ!」


「ん!?」


 後ずさった瞬間、剣を持ち、薙ぎ払おうとしているミチルが目の前に現れた。既に剣はミチルを引っ張るように勢いよく突っ込んでいる。


「っ!?」


 シメフムは右足を一歩後ろに下げる、と同時に虚空からバケツを取り出し右手で持った。そして剣が当たる寸前にミチルの顔目掛け、


「ふんっ!」


 ズッ

 ヂュッ


「がっ!?」


「っ」


 思いっきり被せた。上からではなく、前方から。剣はシメフムの腕に少しだけ触れたが、勢いに耐えきれず、ミチルは剣を離しながら後ろに少しよろける。


「っと」


 すぐに体勢を戻したシメフムは、ミチルを殴るためか右手を握りしめた瞬間、


「よっ!」


「っ!?」


 ズザッ


 しゃがんだ。と同時に、フルキがシメフムの真上を勢いよく通過し、そのまま地面へと着地した。視線を向けていなかった事から、予想していたのだろう。そしてそのまま、


 ゴォンッ


「ぎゃぅ!」


「っ!」


 ミチルの顔に被せたままのバケツを思いっきり殴った。鈍い音と共にミチルの悲鳴も響く。


 ドサッ


「にゃふっ!」


「さってと」


 ミチルが背中から地面に落ちたのを確認し、フルキの方を見た瞬間、


「ぇ……」


「っ」


 シメフムは口を半開きにしながら声を出した。フルキが赤い車のような物を抱えていたのだ。


 グォンッ


「っ!?」


 そして車はシメフム目掛けて発車された。シメフムはジャンプする為に足に力を入れようとしたが、


 ガズグッ


「どげっ!?」


 ザザッ


 間に合わず、車に正面衝突した。シメフムほ大きく吹き飛び、音を立てながら木々の中へと勢いよく突っ込んで行った。


「っ……ミチル!」


「たつぁ……」


 そんなシメフムには目もくれず、フルキは頭を抑え悶えているミチルへと近づく。バケツから顔を出したミチルは未だ倒れたまま体を丸めている。


「頭がグワングワンなのですぅ……」


「……」


 フルキは無言で生唾を飲み込み、悶えているミチルに向けてゆっくりと右手を伸ばした。瞬間、


 ジャッ


「っ!?」


「にっ!?」


 目の前に広がる木々から、何かが上空へと飛び出した。

バケツが武器って面白いと思いません?

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