1.61 レン君にソレを着せる為だけにブティックに行ったようなもんです
現代的なショッピングモールさんのご登場です。
「え……! あ、あの執事さん、女性だったんですか!?」
「え、うん。気付いてなかったの?」
十二時四十五分頃。
王宮を出た僕達は北東へと向かっている。顔を上げれば遠くに大きな森林を見える。僕達の目的地はあの森林の中にあるという。ショッピングモールが近くにあるからか、周囲は少しだけ騒がしい。
ショッピングモールって大きな建物のはずなんだけど……ここまで聞こえるって事は、外にもお店があるのかな?
「あ、魔王にお土産でも買ってくです?」
「お土産……?」
そんな喧騒の中、フルキさんと手を繋いでいるミチルちゃんが声を出した。
お土産って……何でそんな旅行気分なの……? 楽しんでない?
「うーん……見ず知らずの人からお土産って何か怖くないかな?」
「まぁ、勝手に訪問するんだし……確かにいいかも」
「うし。行こう」
「切り替え早い」
まぁ事前に行くって連絡した訳でもないし。ケーキとかぐらいは持っていった方がいいと思うし。
「ついでに服とか買いたいです」
「それが目的でしょ」
そして直ぐに本音を言ってきた。
楽しんでるねこの人。楽観視してるねこの人。
「俺のお下がりじゃ何時も満足しないよな」
「フルキの古着は部屋着にしか出来ないのです」
「でも着るんだ……」
フルキさんが頭を抱えそう言う。ミチルちゃんは頬を膨らませながら返した。
それはダメでしょ。体格差考えなさいよこの人。そりゃミチルちゃんも買いたくなるわ。待って、部屋着にはしてるの!?
「あ、私も服は少し欲しいかも」
「うし。さっさと行こう」
「切り替えが早いですよ」
「もうレンに突っ込むのだるいのです」
ショッピングモールの入口は自動ドアになっている。自動ドアにはショッピングモール内の大まかな地図が貼られている。
ウィンッ
目の前に来るとそんな機械的な音と共に開かれる自動ドアを潜り、大きな建物内へと入る。と同時に、外にいた時とは比べ物にならないほどの騒音が耳を襲う。
これ多分、大きな声を出さないと会話がままならないんじゃない? 逸れた時が怖いな。
「ほわぁ……」
「逸れないように気をつけて下さいよ」
「全員の身長見ながら言ったよね今?」
目の前には道が右左奥へと広がっている。そんな道に分断されるようにお店も広がっている。隣同士のお店は隙間なく並んでおり、何だろう、お店自体が道を作ってくれている感じがする。今は十二月の上旬、ということもあってか、壁や柱にイルミネーションがあったり道のど真ん中に大きな木が立ったりしている。片付けるの大変そう。そして店員さんは真っ赤な服を着ながら接客している店もある。
「じゃあまずはここです」
「アイスはここ出る時ね」
「歩き食いはショピングモール内では辞めた方がいいと思う」
「むぅ……憧れだったのにです……」
ミチルちゃんは敷地内に入ってすぐ左側のアイス屋さんへと歩こうとした。のを、僕はミチルちゃんの腕をガシッと掴んで止める。
早いでしょ。手が使えなくなって買い物しにくくなるじゃん。というか何その憧れ。
「じゃあ……あそこのブティックに行きましょうか」
そんなミチルちゃんとは対象的にはフルキさんは冷静に右斜め前に見える洋服屋さんを指差しながらそう言った。
壁も扉も無く、外から中の様子は簡単に確認できる「別性」という名前のブティック。中へ入ると、目の前には服。右にも服。左にも服。上にも服。床にもふ……透明のガラスの中に色々な服が埋められている……
これ、埋まってる服は傷まないのかな……? 傷まない工夫でもあるのかな? 凄い気になる。
服に関する知識は全くないから、パッと見じゃ全部似たようなシャツやらズボンやらに見える。しかし入口付近にはサンタさんの洋服の様なものがあったのは分かった。クリスマスを全面的に推しすぎな気がする。
「これでいっかな」
フルキちゃんとミチルちゃんとは別行動をしていた僕達だったが、軈て買う服を決めたのか、ルルが買い物かごを持ちながら僕の方を見た。買い物かごには白色や黒色をしている無地のTシャツ一枚ずつ、足首まで伸びる長いスカート三枚、夫々茶色と緑色とピンク色をしているものが入っている。
ん……? ちょっと少なくない?
「それだけで良いの?」
「ん。服に拘りはあんまり無い。洗濯して着回す」
「拘りが無いなら買わなくても良いのでは……? 最悪、支援もありますし」
「あ、そっちも決まったの?」
すると別行動をしていたフルキさんとミチルちゃんがやって来た。二人共買い物かごは使わず、腕に引っ掛けるようにしている。どんな服かは分からないけど、ピンクや赤といった派手な色が目立つ。
「いえ、心配になったので見に来ました」
「心配って何?」
「支援……じゃあこれ戻してくる」
「支援頼りで何かちょっとアレなのです」
そしてフルキさんの助言を聞いたルルは、買い物かごを持って離れていった。その愛らしい背中に触りたくなる気持ちを抑え……否、フルキさんに押さえられながら見つめた。何しやがるこの人こんちくしょう。
「流石に人の目が多いので我慢してくださいっ!」
「ふ。因みにミチルは、童女と違って服に拘りを持っているのです」
「……拘ってあの服着てたの……?」
胸を張り、堂々とそう言葉にするミチルちゃん。その言葉に、僕はミチルちゃんの私服について考えてみる。
今は白と黒の縦縞の服を着ているからまだいいとして……あの「ペアルック!」って書かれた服も拘ってたの……? シンプルにダサかった気がするんだけど……? 僕の感覚がおかしいのまさかこれ?
「異世界特有の変な服とかは気になるけど……ここそういうの全く置いてないし……」
「異世界特有の変な服って何?」
そこで戻ってきたルルも会話に参加してきた。やはり買いたかったのだろう、買い物かごの中は減っていなかった。
多分あれかな、アニメや漫画とかだと定番の変な服があるのかな……? いや、分からん。どんな服なのそれ?
「あ、でもこれ面白い。どう? これとか着てみる?」
「着てみる? じゃないよ」
少しだけ奥に行った辺り。すぐ近くに更衣室がある所。そこでルルは……服と呼んでいいのかも怪しい代物を手に取り、僕に差し出してきた。一瞬ハンドタオルと見間違えてしまった。
いやあの、ごめん、流石にルルに勧められたとしてもコレは恥ずかしいんだけど……というかコレ本当に服なの? 服としての役割を八割ぐらい失ってない?
「似合うと思うのに……」
「着る。試着室何処?」
「チョロ過ぎません?」
僕はルルからその服を受け取り、試着室へと向かった。試着室は店の奥の方にあり、試着室専用のエリアだからか、洋服は一着も置いてない。
シャッ
僕は十個ある試着室のうち、唯一カーテンが開けられている一番奥の試着室へと入った。
「……ん……っしょ」
そしてセーターとショートパンツを脱ぎ、虚空へと一旦しまう。そしてレギンスのみのまま、鏡と謎の服を再度見る。
ん……え、これどうしよう。えと、足から通した方が良いのかな? ん、上と下が繋がってる服はあんまり着ないから難しい……
まず頭と髪の毛を通す。意外とすんなり体通った。後は下なのだが……今更だけど、これ、少し小さく感じる。僕の体よりも小さい服だったのだろうか、僕は無理矢理伸ばして……
ンミッ
「ふぉ!?」
わ、これすげぇ。凄い伸びる。ちょっと待って、あ、これゴムみたいになってるんだ。しかもぶかぶか過ぎずきつ過ぎずの丁度いい感じで……何で地味に着心地がいいんだよ……多分ハヤタさんも着られるかもだし、今度着せよっかな。
良い感じに着ることが出来たので、一旦鏡を見た。
「……」
いや、ちょっと……え……似合ってるの……?
僕が着てるこの服の色は黒で、形は……歪だ。うん、首から胸にかけてはまだいい。まだ洋服らしさはある。首、鎖骨、腕、そして胸をきちんと覆ってくれている。上部分だけ見ればタートルネックみたい。なのだが、胸の下から唐突に、肋骨に沿うように肌を覆ってくれる部分が小さくなっていく。そのまま両脇の下を通って背中でクロスし、股の方まで伸びていく。そして脚を通す為の穴を二つ開けVの形をし合流を果たす。
「す……凄くスースーする……」
何故胸から下を無くしたのか分からないんだけど。胸と胸の間は何故かよく分からないけどちょっと裂けてるみたいになってるし。下部分に関してはレディースの下着だよコレ。いや、何なら下着と言われた方がまだ良い。何これ、何を考えてこんなダサいデザインを考えたの? 後お尻が半分くらい出ちゃってるよね? レギンス無かったら半分見えてたよね? 恥ずかしいんだけどっ!
「……ん? 何して……」
シャッ
「お邪魔します」
「ひょぇへ!?」
「えちょ、何してるです!?」
更衣室に入って数分。心配したからか、鏡越しにルルが前触れもなくカーテンを少しだけ開け入って来るのが見えた。
「ん……」
「ぁ……えっと……」
そして僕を上から下へとじっと見回した。いたたまれない気持ちになった僕は、左手で臍、右手でお尻の当たりを隠しながらルルの方を見る。ルルは何も言わず、息を荒くしながら見つめている。
「はぁ……はぁ……凄く似合ってる」
「これいくらだっけ?」
「もうチョロいじゃなくてただの馬鹿なのです」
僕の声を聞いたからか、外からミチルの声が聞こえてきた。
別に、レギンス脱げば尻尾も出しやすくなるって思っただけだし? 着こなせばかっこよくなりそうだし?
シャァッ
「いや値段なんて知らない三着買う!」
「うはぁ……今のレン先輩、エグいほどエッチな格好です……」
そして勢い良くカーテンを開け、試着エリアから出た。同じ服を更に二着棚から取り、虚空へと入れた。下着みたいな服は着たままで、計三着を持ってレジへと向かった。
「……ん……? あれ、今服取った……?」
「じゃあ、俺達はもう少し服見てますね」
「了解」
レジは三つあり、五人程が一列になって並んでいる。フルキさんとミチルちゃんは再び服選びの為に何処かへ行ってしまう。僕はルルと手を繋ぎながらレジを待つ。
レジ……だけど、周りにも服やらズボンやら、何なら靴まで置いてある……少し狭く感じる。
「……そういう服って当たり前なの?」
「当たり前……?」
「その、露出エグいやつが普通に置いてあったし。周りも今のレンをガン見してないし」
並んでいる時、ルルが僕の持っている服を見ながらそんな疑問を言った。自分が別世界の人だとバレないようにする為か、少し曖昧な言い方をしている。
「ん……どうだろ……僕はあんまり詳しくないから……ハヤタさんに聞いてみようかな」
「ん」
「まぁでも……肌を晒しまくってる服自体は確かに珍しくは無いかもね」
「ほえぇ」
でも確かに……こんな服、向こうの世界にはなかったし……寒そうな格好している人なら見た事はあるし。いや、でも最近はあんまり見ないなそういうの……肌を出すっていう流行は去ったのかな?
「……というか、今の寒い季節にこれを売ってるのって何でだ……? おかげで良い買い物は出来たけど……」
「ん?」
「……ん? どうしたの?」
「あの人……」
ルルが会計中の一人の男性に目を向けた。背が小さく、可愛らしい顔をしている。見た目だけなら十歳……にも満たないのではと思ってしまう。
え……あの人がどうかしたの……? ん……あ、もしかして。
「あ……いや、何でもない」
「え……?」
「あ、えと。今朝のフルキさんの会話を思い出した」
「……あ……なるほど」
そして目線を外し、僕の方を見てそう言った。
子の国の事を思い出したのかな。こっちの世界だと見た目だけじゃ大人か子供かっていう判断はされないからね。だから僕も安心して街を歩けるんだもん。最高だよ。知らない人に迷子かどうか聞かれてた前の世界とは全く違うよ。
「こちらどうぞ」
そんなこんなで順番が回ってきた。僕はルルから離れ、男性の前に立つ。ルルが少し困惑していた。
「二点……と、着用中のやつの計三点で一万二千ドユーですね」
「あ、空間に入れたままでも……え、一万二千ドユー……?……というか着たままでも会計できるんだ……」
「……この服結構高いんだね……」
「と、そちらのカゴにあるシャツ二点で二千、スカート三点で五千五百五十……合計で一万九千五百五十ドユーです」
そして両手を突き出していた男性が個数と値段を呟いた。
一着で四千ドユーもするのかこれ……一体どの部分がここまで高価にしているんだろうか……大事に着なくちゃ……
「……お金は……」
「大丈夫だよ。モクリサさんの仕事手伝ってて、多少はあるから」
心配しているルルの二の腕を左手で触りながら、僕は右手を前に出す。掌を上にし、台から少し浮かせる形で。
「では失礼します」
「え……?」
「はい」
「え……?」
そして店員さんは僕の掌の上へと右手を差し込んだ。掌を下に向けている。僕は困惑するルルの背中を左手で擦る。
「……はい、頂戴しました。ありがとうございました」
「ありがとうございます」
「え……?」
「行こっか」
「え……うん……」
そして店員からレシートを受け取ったのを確認し、僕はお礼を言った。そしてルルの手を引きながらルルの洋服を虚空に入れ、すぐ横に積まれている買い物かごの上に、ルルが持っていた買い物かごを入れブティックの外へと歩いた。
「ドユーは通貨。前の世界で言う、円みたいなものなの」
「そ……そうなんだ……間違えそう……」
「まぁ、最悪数字だけ言うのでも大丈夫だよ。お値段は三千です! みたいに」
僕とルルはブティックから出て数m先にある、少し大きめなソファに腰掛け、フルキさんとミチルちゃんを待っている。背中とお尻が少しゾワゾワする。
「後、会計の仕方がよく分からなかったけど……何したの?」
「あ、あれは自分の掌から店員さんの掌へとお金を移す……って感じかな……?」
僕は先程の会計を再現するように手を前に出した。右手を上に向け、左手をその上に差し込む。ルルは僕の両手を見ている。
「……何か、電子マネーみたい……」
「あ、イメージとしてはそれが当てはまるかも。その感じでレシートも受け取ったし」
「……それもレイト……スキル……なの?」
「うん。虚空の応用的な」
僕は手を戻し、ルルの方を見る。
流石、直ぐにその考えに至るとは。抱きつきたい。頭触りたい。キスしたい。頬、頬だけでも良い? 駄目?
「……今度、虚空とかそういうの教えて」
「え、何で?」
「ここで暮らしてくなら必要な技術だし」
するとルルは僕の目を見て、何故かそう懇願した。
え……何でそんな意味不明なお願いするの……?
「……僕がずっと一緒にいれば問題ないと思ってたのに……」
「えっと……便利には変わりない」
何でそんな事言うの……? 僕と一緒ならそんな心配は全く無いじゃん。え? 何考えてんの? 僕と一緒が嫌なの? ねぇ!?
「別に、レンと一緒にいるのが嫌とか、そんなのじゃないから」
「……まぁ、うん。そうだね。覚えておいて損は無いよね」
僕はその言葉を聞き、ルルの左手を両手で握る。絶対離したくない。
「えちょ、強、強いよ?」
……僕は左手だけを離した。
「んみゅぅ……」
「……そ、それと自分で勧めておいてなんだけど……」
「ん?」
ルルは少し苦笑いした後、話を切り替えるように僕の体を脚から上までじっくりと眺めた。
ど、どう、どうしたの……? え、何、凄い恥ずかしいんだけど……もっと見て。
「寒くないの?」
「ん」
軈て僕の見つめたまま、真顔でそう聞いてきた。ルルの瞳に僕の上半身が反射する。
本当、上だけ見たら普通の服だよねコレ。今度二人っきりの時にルルに着てもらおうかな。
「……意外と寒くはないよ」
「……本当?」
「……最悪、ルルに抱き着いて暖を取るから」
「んぇっ! え、いやそうじゃなくて! ちょ、はな、はな、離れて流石に!」
僕はルルに抱き着く。何時もよりも肌を晒しており、お風呂の時みたいにお湯が邪魔をしている訳でもないので、ルルの体温がダイレクトで伝わってきて、全身がふわふわしてきた。
やばい、はわぁ……ずっとこうしてたい……くそ、ルルの服が凄い邪魔何だけど。脱がしちゃ駄目……? あ、いや、駄目だ、他の人にルルの体見られる……ぐぅ……
「だって……ルルが似合うって言うんだもん。もう着るしかないじゃん」
「そんな駄々をこねる感じに言わなくても」
ルルの意見は絶対だもん。ルルが言うなら確実なんだもん。真冬の外でも我慢して着るよ。
僕はルルに頬擦りし、左手でルルの右太腿を撫でる。ルルの体が少しだけビクついたが、構わず上と下を擦り続ける。
「でも良いでしょコレ」
「んぇ……ん、眼福」
「でしょ……え、眼福?」
「お待たせです」
そんな至福のひと時を、ミチルちゃんが邪魔してきた。良い買い物が出来たからか、二人ともニコニコしている。僕はルルから離れ、立ち上がる。
「じゃ、次に行きたい場所ある?」
「ゲーセンに行きたいです」
「んじゃケーキ買っちゃおっか」
「アイスです」
「それは後でね」
「ゲーセンはスルー……くぅ……」
その後、僕達は色々寄り道をした。
「ドーナツが売ってある……」
「そんなに意外?」
「異世界だと……あ、でも王宮だと唐揚げとかあったっけ」
「ついでに買ってくのです」
「フードコートにGOしたいです」
「お昼食べたじゃん」
「ステーキはおやつです。故に故にです!」
「アイス食べられなくなるよ」
「ステーキはおやつ……?」
「ん何これ、薬草……?」
「あ、それは亜の国にある万能薬。凄いんだよこれ、塗ると痛みが和らぐんだよね!」
「亜の国は凄いんですよ! これだけじゃなくて、熱さや火傷を抑える薬草とか、技補具にも使われてる増強草とかもあるんです!」
「色んなものの開発やら栽培やら繁殖やらさせてるのです」
「皆凄い興奮してる……!?」
後にも先にも、こんな過激な格好するのレン君かハヤタさんぐらいしか出てこないと思うので今のうちに堪能しておきます。
因みに、この洋服屋さんでは全ての商品にセンサーが仕込まれていて、会計の時にそのセンサーを全て抜き取っています。もし会計をせずに外に出た場合、センサーが反応して洋服から警告音が響くという仕組みになっているのです。虚空を利用した万引きがこれで行われない……はずです……




