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あいに溢るる  作者: 手石
スコアの変わらぬボーリングな日々
68/107

1.60 確信的な証拠が全く出てこねぇな

「到着っと」


 十二時二十分。

 その後は誰も何も喋らず、重い空気のまま裏口へと辿り着いた。


「貴方達はこれからどうするの?」


「あ……ちょっと、魔王の所に……」


 扉を潜り、目の前に大きな門が見える。そんな中、ヴェンドロキ王妃の質問に僕は少し小さな声でそう返す。

 いやなんか……ちょっと言いづらくない?


「は……?」


「え、何ですかその反応……?」


「聞いたのそちらですよね?」


 やはりその反応。予想通りだよある意味。

 ルルとフルキさんは苦い顔でヴェンドロキ王妃に目を向けた。


「はぁ……まぁ、どんな用かは知らないけど……気をつけなさいよ」


「……え?」


「あの魔王だし、何をするか分かったもんじゃないし」


 が、次に出てきた言葉に、僕は再び重い気持ちになった。

 ヴェンドロキ王妃なりに心配はしてるんだよね……でもやっぱり……ん……いや、それを証明する意味でも、魔王の元に行くんだから!


「それじ――


「……ヴェンドロキ王妃」


「あら? 何かしら」


 等と考えていたその時、ヴェンドロキ王妃の後ろで待機していたドウルさんが小さく声を出した。ヴェンドロキ王妃は顔だけを後ろに向けた。瞬間、


「っ!?」


「どうか……魔王に対する考え方を……どうか、改めて下さい!」


「え……ど、うしたの急に……!?」


 両手と膝を床に着け、頭を下げた。突然の行為に、全身をドウルさんに向けたヴェンドロキ王妃のみならず、全員が驚愕の表情をした。


「っ! ちょっと!」


「魔王は恐らく、悪い人ではありません!」


「ちょ……えぇ……」


 戸惑う僕達を他所に、尚も土下座と共にそう懇願するドウルさん。ドバイさんも何故かゆっくりと腰を下ろし、土下座をした。


「だからどうか……今一度、どうか……」


 頭を下げたまま、少しずつか細くなる声。やはり怖いのだろうか。それに対しヴェンドロキ王妃は無言で見つめている。


「……はぁ……」


「……」


「ドウルの口からそんな事を聞けるとはね……」


 軈てため息を一つ吐いてからそう呟いた。呆れているのか、頭を抱えた。

 やっぱりドウルさんの発言するのは意外だよね……? 正直僕も驚いたもん。


「どんな事情があるのか、考えを持ってるのか、それは分からないけど……」


「……」


「正直……改めたいとは思わないわね」


「っ……」


 が、そんな懇願も虚しく、ヴェンドロキ王妃は残念そうに言った。

 まぁ無理だよね……いくら信用してる人にお願いされたとしても、急に改めたいとは思わないよね……思わない、ね。


「なら示せばいいんですか?」


「え……?」


「魔王が安全だという証拠です」


「まぁ……可能なら、証拠は欲しいわね」


 なら簡単だ。

 ヴェンドロキ王妃に確認した僕は小さく息を吐き、カウジキミさんの方を見た。


「カウジキミさん」


「ん?」


「向こうでどんな生活をしていたのかは分かりませんけども……」


「ん」


「少なくても、魔王に囚われてはいませんよね」


「っ!?」


 そして僕は目を細め、少し小さめの声でそう言う。カウジキミさんのみならず、隣にいるコフクさんも一歩後ずさった。


「な……何でっ!」


「シンプルに窶れてないし……服とかも綺麗ですし」


「確かに……服は着替えたとかって言えるけど……窶れ具合はどうにもならない」


 僕はカウジキミさんの全身を見ながらそう言う。それに同調するようなフルキさんの声が聞こえてくる。

 ……着込んでるからか、正確なことは分からないけど……顔を見るに窶れているとは思えないし。

 そして今度はカウジキミさんに二歩近づき、見上げる。


「それと……貴女、妊娠してますよね」


「……え……」


「は……?」


 顔を見て、その黒い目を見つめながら僕は言う。


「食事中の嘔吐……胸の痛み……身体のだるみに睡魔……全部妊娠中に起きる症状です」


 嘔吐と胸の痛み……片方ならまだしも、両方となるとまさかって思ったし……胸に至っては未だに違和感らしいし。


「それに嘔吐……つまり悪阻の時。コフクさんは瞬時に袋を取り出しました」


「……」


「つまり常に携帯している。コフクさん自身も知っていたという事はつまり……妊娠自体は最近じゃない」


 もしあれが初めてなら、あんなに迅速に袋なんて出せないし……仮にアレルギーとかがあったとしても言わない理由が無いし。


「かなり長い期間余裕ありな生活していたということ……囚われ生活と言うには無理がありますね」


「もしくはシンプルに牢屋の中でイチャイチャコラコラなのです」


「まぁ……可能性は皆無とはいえ、真っ直ぐ帰らないで寄り道ばっかりしてたとかなら分かりませんが」


「帰る途中で情交なのです」


「うるっさい!」


 牢屋から出たのはかなり前で、そのまま何処かで寝泊まりしていたとかなら分からないけど……でもそれならお家に直行しない理由が分からないし。というかミチルちゃんの合いの手うるさいんだけど。態々言わなくてもいいから。


「まぁでも……妊娠が僕の早計だって言うのなら……その服、脱げますよね」


「はい……?」


「は?」


「は?」


 僕の提案に二人のみならず、ルルも素っ頓狂な声を出した。


「少しゆったりとしてて身体の形が分かりにくいベストと、胸から足元まで広がるドレス」


「……」


「仮に妊婦だったとしても多少はごまかせますね」


 そして僕は再びカウジキミさんの全身を見る。

 本当に偶そういう服を着ているなら、別に拒むことも無いはずだし。


「まぁそれよりは、今から検査薬買ってくる方が良いかもですけど。どうしますか?」


 僕は二人から離れ、ルルの隣に戻りながらそう言う。

 確か近くにショッピングセンターがあったし。ドラッグストアもそこら辺にあるはず。


「……今なかなかのこと言ってる自覚ある?」


「ルル以外の気持ちなんて二の次だもん」


「こいつマジで……?」


「その他の気持ちを意識しなさすぎなのです」


 僕はルルの右手を両手で掴む。周りが何か言ってるけど知ったこっちゃない。


「後それと……カオルさんという名前に聞き覚えはありますか?」


「……ぇ……!?」


「何で、その子……っ……そうだ召喚……!」


「……知ってるんですね」


 そして更なる質問に、カウジキミさんとコフクさん、二人共目を見開いた。

 カオルさんの所在については、半分位……いや、八割位かも……不安な部分があったけど、この反応からしてほぼ確実になったかな。


「カオル……?……え……カオル……」


「あ……えと、カオルさんは例の召喚でこっちに来た別世界の人です」


「あ、そっち……え、別世界……? 何でその子が?」


 事情を知らぬヴェンドロキ王妃は、その名前を小さく呟いた。僕はヴェンドロキ王妃を見て説明をする。


「昨日、カオルさんが姿を消したんです」


「それも複数人ではなく、カオル一人がピンポイントで」


「えっ!?」


 僕とフルキさんの言葉にヴェンドロキ王妃は少しだけ前のめりになる。


「カオルさん一人……だから僕達は、カオルさんを狙った行動の可能性が高いという考えに至りました」


 ヴェンドロキ王妃から目線を外し、今度はカウジキミさんの方を見る。


「で……まぁ、詳しく省きますが……カオルさんは魔王が連れ去った、という結論に至りました」


「その詳しい部分が欲しいわ……」


「……その、魔王の恋人も、カオルという名前だったらしいのです」


「……え……ど……何処情報……?」


「……確かに何処情報……?」


 あの女性の言葉を鵜呑みにしちゃってるけど……あの人が嘘をついてる可能性もあるよね……あ、あの人の名前聞くの忘れてたわ。


「何方にせよ、召喚者であるカオルだけが居なくなる理由は他に思い当たりませんし……今の所魔王誘拐説が一番有力なんです」


「まぁ……情報が少ないならしょうがない……のか……?」


 フルキさんの言葉に、ヴェンドロキ王妃は疑問を持ちながらも納得してくれたようだ。首を傾げているけども。


「……」


「もしこの説が本当だった場合……」


「……魔王の恋人であるカオルがいなくなった……とほぼ同時にカウジキミは帰ってきたということになるわね」


「……っ……」


「三十年も行方が分からなかったのにこんな好タイミングで……偶然とは思えません」


 ヴェンドロキ王妃も状況を理解したのか、フルキさんに続くように呟いた。

 まぁ、偶然の一言で片付けることも可能だろうけど……流石に無理矢理過ぎる気がする。


「カオルさんが魔王の元に戻って来たから、カウジキミさんも帰されたと考えるのが妥当です」


「っ……」


「まぁ……まだ憶測の域は出ませんが」


「いや、カウジキミさんの反応が露骨すぎなので、ほぼ確で大丈夫だと思います」


 あ、やっぱりそう思う?

 僕の言葉一つ一つに小さく肩をピクつかせているカウジキミさんを見ながら、フルキさんが呟く。


「だから多分……カウジキミさんは魔王の近くで生活してた……もしくは連絡手段を手にしていた可能性は高いですね」


「あ……すぐ連絡出来るように、ですね」


 僕の言葉に頷くフルキさん。

 状況的に、魔王とは少なくない交流はあったはず。いや、仮説が正しい場合はだけど。


「兎に角。カウジキミさんは魔王の近くでぬくぬくと生活していたという仮説が出てきます」


「ぬくぬくって貴方ね……」


「で、コフクさん」


「……」


 僕はカウジキミさんから目を逸らし、コフクさんへと目を向ける。コフクさんの眉が少しだけ動く。


「そんな貴方が……魔族ですよね」


「っ!?」


「なっ!?」


 僕の言葉に、コフクさんは体の半分程をカウジキミさんの背中へと隠す。ヴェンドロキ王妃は左足を後ろに引き、右手を前に出した。ぎらりと睨みつけている。


「魔王ってのは皆が恐れている存在……その近くにいる人とか、魔族ぐらいですからね」


「っ……」


「まぁ、そこら辺は詳しくないので。他にも魔王が好きな人はいるかもですけど」


 コフクさんは目を伏せ、少しだけ泣きそうな顔をしている。カウジキミさんがコフクさんの頭を撫でている。


「それにカウジキミさんは魔王が攫った人ですよ」


「……」


「仮に本当に馬鹿だったとしても……そう簡単に助け出せる訳ないじゃないですか」


「防犯管理ガバガバなのです」


 僕の言葉に、カウジキミさんもコフクさんも口を閉ざしている。何ならミチルちゃんですら呆れている。

 皆が恐れる程の存在である魔王だよ? そんな魔王から助け出せる程甘いとは思えないじゃん。


「全員が全員そうだとは限りませんが……少なくても魔族であるコフクさんは人間と仲良くしている。それは導き出せます」


「……心を見た方が早いのでは……?」


「みたくないから言ってるんですよ」


 ドウルさんが僕に耳打ちしてきた。少しイラついてるように見える。

 あれか、自分の心はみたくせにとか思ってるのかな。しょうがないじゃん。ドウルさんの時だってみたくてみた訳じゃないんだもん。


「……」


「……」


「本当……なのね……」


 黙っている二人を見ながら、ヴェンドロキ王妃はコフクさんの頭に触れているカウジキミさんに近づく。そしてゆっくりと、優しく撫でるように、カウジキミさんの胸に手を置いた。


「……」


 僕の予想通り、洋服は少しだけ凹んだ。ヴェンドロキ王妃はそのままゆっくりと手を下の方へと滑らしていき、やがてお腹に触れた。


「っ!?……何で……黙ってたのよ」


 瞬間、表情が変わった。お腹は凹まなかったからだ。一瞬歯を噛み締めた後、カウジキミさんを少し悲しそうに睨む。居た堪れない気持ちになったからか、カウジキミさんは目を逸らした。


「……そんなの……決まってるじゃないの……」


「まぁ、それに関しては確かに仕方がないとしか言えませんね」


 僕はヴェンドロキ王妃とカウジキミさんの間に入る。ドバイさんがヴェンドロキ王妃の腰を掴み、後ろへ下がらせた。


「魔王好きな物好きなんていない……という解釈が蔓延る世界ですから」


「魔王に脅されてる、とか解釈されそう」


「そ。だから黙ってる方が自然です」


 僕は何故か隣に立っていたルルの手を掴み、そう説明する。

 この世界、結構流されやすいイメージがあるし。寧ろ言わない方が自然だと思うもん。


「で、今までのコフクさんの行動を見てどう思いましたか?」


「……」


「人間と同じように接し……カウジキミさんと恋仲にまでなっています」


 僕は未だ目を少し細めているヴェンドロキ王妃に一歩近づき、少し微笑みながらそう言う。

 当初の目的は魔族が……魔王が悪い人じゃないという証明。これだけ言えば、多分大丈夫……だよね……?


「何なら王にしても構わないぐらい……心も許してはいましたよね」


「はぁ……」


 そしてダメ押しとばかりにもう一言。ヴェンドロキ王妃は頭を抱え、しゃがみながら深くため息を吐いた。


「分かったわ」


「……ぇ……」


 やがて小さくそう呟き、立ち上がった。今度は睨むのではなく、少し優しい目でカウジキミさんを見つめている。


「別に……これを利用して魔王と和平交渉でも出来れば万々歳って思った。それだけよ」


「……」


「私だって……三十年前みたいな事、二度と見たくないもの……」


 そして目を伏せ、先程よりも小さな声でそう言う。

 三十年前……って確か、魔鬼者がやって来たっていうアレ……の事だよね……?


「だから大前提として、心を許した訳じゃないわ」


「……」


 やがて顔を上げ、コフクさんの方を見た。


「……信じたいって気持ちになっただけよ」


「っ……!」


 そして一歩近づき、右手を前に差し出した。突然の行動に、コフクさんは一瞬固まったが、


「あ……ありがとうございます……!」


 消え入りそうな声と共にお礼を言い、ヴェンドロキ王妃の右手を両手で掴んだ。目からは大きな涙も見える。


「感謝なら、あの子にしなさいな」


「っ……」


 そんなコフクさんを見て、ヴェンドロキ王妃は僕の方を見ながらそう言う。コフクさんは僕の目の前まで来て頭を下げた。


「あ……ありがとうございます!」


「あ……ぼ、僕自身、魔王が悪い人とは思えなかっただけなので……」


 そして僕の両手首を掴みながら額を押し当て、そうお礼を言った。

 この反応をするって事は、魔族側は仲良くしたいって事なのかな……にしてもこの人何か大袈裟な気が……あ……ん……場、場を和ませた方が良いかな……?


「ん……あ、僕の心臓触ってみます? 凄くうるさくなってますよ」


「では失礼します!」


「ひゃんっ!?」


「あマジで触るのです?」


「場を和ませるためだと思ったわ」










「ある程度の支援内容は決めてるけど……例えば、これが欲しいとか買ってとかあるかしら?」


「私達は子供ですか?」


 コフクさんが泣き止み落ち着いた後、僕達は裏門を潜り、敷地外へと歩みを進めた。瞬間、ヴェンドロキ王妃がそんなことを聞いてきた。


「衣食住は確定として。他にも必要なものはあるだろうし」


「あ……それなら、土の国のガイドブックを三十冊ほど……」


「……ガイドブック……?」


「や……やはりこの国の地形については、実際に見て歩いてをした方が良いかと考え……」


「……まぁ、今日中には届けておくわよ……」


「っ! あ、ありがとうございます!」


「何というか……何、何だろう、何かしらこの謎のもどかしさ……」

ある意味勇気のいる要求。

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