1.59 カウジキミさんだという決め手は、右肩・右腕・右足首にあるホクロらしいです!
2023年7月追記:タイトルから右脇腹を消しました。右脇腹確認してたらこの後の展開は普通に矛盾するやろがいってなりましたごめんなさい。
「……ご……ごめんなさい……」
「あ、いや……仕方が無いことですよ」
「気にしちゃダメよ。急に来たんだもの。ね?」
吐き気が納まったカウジキミさんは、一度口を濯ぎに一度退席した後、謝りながら戻ってきた。
「何かアレルギーとかあったの?」
「いや……ちょっと最近、調子が悪いから」
「そ……そう……じゃあ、ちょっと寝室に行く?」
「あ、いや、大丈夫よ」
心配するヴェンドロキ王妃を、カウジキミさんは手で制しながら返す。
大丈夫なの……かな……? 嘔吐って事は結構……
「王都で嘔吐……」
「最高。もっと大きい声で言おうよ」
「へ!? え、聞こえてた!?」
「失礼します」
「んぁ……」
すると執事さんが間に入ってきた。何も乗っていない食器を回収しに来たようだ。またしても慣れた手つきで、一枚一枚手際良く回収していく。
「どうする? 無理して食べなくてもいいけど」
「……ちょっと、今は無理かも……」
「……では、失礼します」
そして最後に、カウジキミさんのお皿を回収し、そのまま台車を押して部屋から出て行った。
……廊下とは違う扉……そっちが台所なのかな……ちょっと気になる。どう料理すればあんなに美味しくなるんだろ。
「と、ヴェンドロキ王妃」
「何かしら?」
そんな扉を見つめて数秒、僕は確認したい事を思い出し、ヴェンドロキ王妃の方を見る。
「召喚者達の支援をするなら、やはり色々と相談が必要です」
「相談……それもそうね」
「また日を改めて訪問したいので、ご都合の良い日を今のうちに教えて頂きたいです」
場所とか人数とかもそうだけど、後は派遣する人とかも相談したいし、支援はどのくらいにするのかも話し合いたいし。
「なら、ちょっとスマホ貸して」
「はい?」
「連絡先よ。そっちの方が楽ちょっとその子の目が怖いわ」
スマホを取り出し、手渡すために席を立ってヴェンドロキ王妃に近づくと、何故か怯えた目をルルに向けていた。
「どうしたの?」
「……別に……」
「ん……?」
何をしたのか、僕はルルに短く問う。が、少し不服そうに濁される。僕は仕方なく、そのままヴェンドロキ王妃にスマホを渡した。
瞬間、ルルの目が大きく見開かれた。
「そ……それと、一応ドウルとドバイも残らせていいかしら?」
「二人共ですか?」
「そ」
僕のスマホを弄りながらそう提案する。そして僕に返した後フルキさんの方を見た。スマホを受け取った僕は、そのまま自分の席へと戻る。
「牢獄にドーンするのです?」
「その辺の処罰に関してはおいおい考えるつもりよ」
「おいおいマジかよなのです」
「……何と言うか……この子ヤバいわね」
そう言えばこの二人、セルント王襲撃計画に加わってたっけ……牢獄って何処にあるんだろう……いや待って、王妃相手にその口の利き方は危ないと思う。人が人なら罰せられるよ。ミチルちゃんって怖いもの知らずだよね。凄いわ。いや凄くねぇよ。
「僕は構いませんが……その……セルント王の事もありますし大丈夫……」
「大丈夫よ」
「そう……ですか……」
僕の心配の声に、ヴェンドロキ王妃は少し食い気味にそう答える。
本当に大丈夫なの……? いくら幼馴染だとはいえ、自分の夫を傷つけた人だよ……?
「じゃあ、そろそろ行ってもいいんじゃない?」
「あ……そうですね」
「んにっ」
ヴェンドロキ王妃は話を区切るかのように、壁にかけられている丸い時計をチラリと確認しそう言う。その言葉を聞き、僕も時計を見る。
何だかんだもう十二時は過ぎてるのか。早いな。
そんな事を考えながら、僕は椅子から降りるためにルルの方に全身を向ける。
「っ!」
「んぉん!?」
そして立ち上がった瞬間、カウジキミさんが小さな声を出しながらしゃがみ込んだ。
「ど、どうしたんですか?」
「あ……あぁ、いやね……その……ちょっと胸が痛いなって……」
そしてコフクさんに支えられながらゆっくりと立ち上がり、胸に手を当てながらそう答える。
胸が痛い……? って、結構危ないんじゃない?……あれ、でもそれって……
「やっぱり、寝室行く?」
「大丈夫大丈夫。まだ慣れてないだけだから、気にしないで」
「……」
ヴェンドロキ王妃の提案にもやはり笑顔で返すカウジキミさん。苦しいのか、少し曇ってるようにも見える。
ん? 慣れてないってどういう事……?
「では、裏口までお送りします」
全員が立ち上がったのを確認したからか、ヴェンドロキ王妃の後ろで待機していた執事さんが声を出す。
「あ、私が見送るわ」
「……左様ですか」
が、ヴェンドロキ王妃に遮られ、目を伏せ意気消沈した。
ヴェンドロキ王妃のすぐ後ろにカウジキミさんとコフクさん。その後ろに僕とルル。更に後ろにミチルちゃんとフルキさん。そして最後にドウルさんとドバイさん。夫々二人ずつ、長い廊下を縦に並んで歩いている。
「カウジキミさん」
「ん? 何かしら?」
そんな中、僕はすぐ目の前にいるカウジキミさんの隣まで行き、声をかける。カウジキミさんとコフクさんは僕の顔を横目で見ている。
「眠いとか、体がだるいとか。そういった事、最近よくありませんか?」
「あ、あるある。最近寝ても寝ても眠いってことよくあるし、動くのだるい時あるし」
「……」
カウジキミさんは何の疑問も持たず、すぐに答える。隣にいるコフクさんは少し怪訝そうな顔をしている。
やっぱりだるいのか……
「どしたの急に?」
「いえ……後、胸の方は大丈夫ですか?」
「ん……? まぁ、多分ギリ大丈夫だけど……」
そしてその流れで胸の痛みについても聞く。平気そうな顔をしているけれど、少し我慢しているようだ。
「……本当にどしたの急に?」
「いえ……無理はなさらず」
流石に不思議に思ったのか、カウジキミさんは首を傾げた。僕は少し言葉を濁しながらルルの隣に戻ろうとした瞬間、
「んぬっ」
「ふにゅっ!?」
後ろから右腕を引っ張られ、そのまま腕に良い匂いの何かが絡められた。僕は引っ張った主であろうルルの方を見ると、少し眉をひそめたルルがいた。
何、何!? え、ぁ……ルルの腕……か細くて硬いけど、少しぷにぷにしてる腕……
「凄い近いわね……あつくはないのかしら……?」
「……あ、そうだ」
「ん?」
そんな僕らを無視しながら、ヴェンドロキ王妃は体を此方に向け、後ろ歩きになりながらカウジキミさんを見る。
やば……暖かいとかそういうレベルじゃなくて、包まれる感覚が凄くする……
「カウジキミ。貴女、王妃になりなさい」
「……はい……?」
「ん……?」
「……ぬん?」
そして目の前にいるカウジキミさんとコフクさんを交互に見てそう言った。
え……? え、どういう事……? だって、え、そんな勝手に、セルント王に何も言わずに……?
「ほら。元々セルントは王位を継ぐのは嫌だったし。好タイミングよ」
「いや……え……今更じゃない……?」
「そう言うって事は、吝かではない……って事かしら?」
「……そりゃまぁ、セルントには悪いことしたなとは思ってるけど……」
動揺はしているものの、否定しないカウジキミさんを見て、ヴェンドロキ王妃は微笑んだ。
そういうのって、そんな簡単に決めてもいい事なの……? もっと複雑な……何だろう、手続きみたいなことしてると思ってたんだけど。
「セルントの妹とその旦那……なら、誰も反対しないでしょ」
そういえば……今まで疑問には思わなかったけど、この人がカウジキミさんだ、っていう確固たる何かがあるんだろうか。偽物を疑わないんだもの。
「コフク。王になる?」
「……陛下はそれで良いのですか? 私と陛下は今日が初対面……赤の他人と言っても過言ではございません」
そんな中、コフクさんは少し不安そうに声を出した。コフクさんの言葉を聞き、ヴェンドロキ王妃は前に向き直った。
まぁ……まだ会ってから一時間ぐらいなのに、そこまで心を許すのも少し怖いよね。
「……不妊症なのよ。私」
「……え……」
「まぁ、詳しい事は省くけど。私は妊娠できない体なのよ」
が、次にヴェンドロキ王妃から放たれた言葉を聞き、この場にいる全員が言葉を失った。
「笑えるわよね? セルントの血を引き継がせないといけないのに……子が宿らないなんて……」
「……」
「まぁだから……今の私よりも、カウジキミの方が王女に相応しい。そう考えただけよ」
「そう……なのですか……」
まるで自虐するかのように半笑いで言葉を続けるヴェンドロキ王妃。何と言えば良いか分からない僕達はオロオロと視線を動かすばかりだった。足が重く感じてしまうほど暗い空気になる。
「私もセルントも王に向いてない。元々私達の世代で血は絶たれる予定だった! そう! それだけよ!」
カウジキミさんに王位を継承させる……でもそれって……簡単に言ってるけど、ヴェンドロキ王妃にとってはかなり辛い決断だよね……というかそんな簡単に王の血筋を断ち切っていいの? ダメでしょ絶対。
「……ドウル、ドバイ……ここにはいないけど、ドセルも」
「え……」
「は……はい……?」
今度はドウルさんとドバイさんの方を見た。二人は一瞬驚いた顔をしたが、直ぐに返事をする。
「セルントは王になるために、辛い毎日を送ってたの。何ていうか、お勉強とか?」
「……」
「だから……セルントの事、嫌わないで……」
「っ!?」
二人に向けて、少しか細い声で、頭を下げた。その行動に、ドウルさんとドバイさんのみならず、僕達全員が驚愕した。
「貴方達は唯一の癒しだったの……だから……」
「……そ、んな事言われましても……直ぐに、気持ちを切り替えるのは無理です」
軈てドウルさんが口を開いた。ヴェンドロキ王妃からは目を逸らしながら、少し気まずい感じで。
「私達は無理矢理、気を使ってセルントの側に立ち続けていました。それが、私達三人の見ていた世界です」
「……」
ドウルさんはヴェンドロキ王妃の目を追うように合わせる。訴え描けるように、少し強く、前に出ながら。が、一度振り返り、ドバイさんと目を合わせた。ドバイさんはそれを見て、小さく頷く。
「だからこそ……私達もセルントも……きちんとお互いの気持ちを曝け出していれば良かった……と、思っています……」
「ぇ……」
「その、つまり……は……前進できるよう、善処する……つもりです」
「っ! あ、ありがとう!」
「ぅえっ!?」
が、続いて出てきたその言葉に、ヴェンドロキ王妃は大きな声で反応し、二人へと突進するように抱きついた。
「っ……その……本当は、セルントは殺すつもりでいました」
「……」
そして抱かれたまま、ドウルさんはゆっくりと語り始めた。ドバイさんが嗚咽する声も聞こえる。
「でも、本当にふと、森の中に入った時に声が聞こえたんです」
「……そう……」
「……「アナタ達の場合、命は一つしかないから。例えその時嫌いだと言っても、もう一度心に聞いてみて」と」
「……そう……」
「「ちょっとでも躊躇するようなら、殺すのはダメ。他の方法で制裁をしなさい」と」
「……」
恐らくその森の中で聞いた声だろうか。その文章を、真似するように話す。
というか他の方法って。良い言葉なのだろうけど、こう、絶妙に変な気がする。
「たまたま聞こえた声。私達とは関係ない声……でもそれを聞いて、私達は……躊躇してしまったんです……」
「躊躇してくれた、よ」
「……」
ヴェンドロキ王妃は震える二人の頭を優しく撫でる。二人とも顔を合わせられないからか、ずっと埋めたままだ。
「ありがとう。躊躇してくれて」
やがてヴェンドロキ王妃が小さく呟いた。
「っ……違います……お礼なんて……欲しくないです……!」
「言わせて。いいから」
「っ……」
そして二人は押し黙り、下を向いた。
自分の気持ちはどんな理由でもキチンと伝えなきゃ意味が無いのです。




