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あいに溢るる  作者: 手石
スコアの変わらぬボーリングな日々
65/108

1.57 今更だけど、別世界の人達は王妃に失礼な態度をとりまくってんな

殿下とか陛下とか、そういうので普通は呼ぶ気がする。気がするだけです。は?

「さぁさ。貴方達も座りなさい」


 予定よりも少しだけ早い時間に謁見という名の交渉が始まった。ヴェンドロキ王妃がソファに座ってから放たれたその言葉を確認し、僕とルル、フルキさんとミチルちゃんはヴェンドロキ王妃の対面に座る。


「一応再確認するわ。召喚者の支援をして欲しい、だったかしら?」


「は、はい」


 側近二人が座らないのを確認した後、ヴェンドロキ王妃が話を切り出した。


「ドバイ」


「はい!」


「更衣室。バトラーのやつを」


「承知しました!」


 そして僕達の後ろで立っていたドバイさんにそう命令した。その言葉に、ルルとフルキさんが首を傾げた。


「バトラー……?」


「ん……?」


「そ、バトラー。深く考え無くてもいいわ。でも……貴方達別世界の人達を助ける価値があるか否か。私に教えて頂戴な」


 ヴェンドロキ王妃は微笑みながらそう言い、僕達の左右に出現した計四つの個室に目を向けた。









 十時二十分。

 白くシンプルなシャツ。その上に白いボタンが着いているが、開けっ放しにしている黒いタキシード。パンツは黒くて細長く、少しぴっちりしているので尻尾は仕舞っている。そして最後に白い手袋を身に付けた後、僕は個室を出る。ヴェンドロキ王妃の発言通り、個室は更衣室だった。一人一部屋で割り当てられ、中に入っている服に着替えろと言われた。


「執事ですねこれは」


 最後にミチルちゃんが個室から出てきた時、フルキさんがポツリと呟いた。

 これが執事……なのか……聞いた事はあるけどピンと来ない。


「ちょ……私ばっかり見ないで」


「んぐぅ……それで……僕達は何をすれば宜しいのでしょうか?」


 僕はヴェンドロキ王妃の方を見て聞く。側近を含む全員の視線がヴェンドロキ王妃に注がれる。


「さっきその子が呟いた通り、それは執事の格好よ」


「……」


「貴方たちにはこれから、執事というお仕事をしてもらうわ」


 そして人差し指を立てながらそう言った。

 お仕事……? えっと……何をする職業なんだろう……?


「男性は執事、女性はメイドと区別されることがよくあるけど、実際の仕事内容は全く違うわ」


 やばい、全然分からない。メイドって何だっけ? 掃除とか料理とかをする職業だった気がするんだけど……あ、なら執事も家事全般を担う職業って事でいいのかな。あれ、でも実際は違う? って事は皆勘違いして……うん。一回考えるの止める。


「余談だけど、女性でも執事は執事。執事に性別は関係無い。重要だから覚えておきなさい」


「一生役に立たない知識な気がするのです」


「因みに。メイドの男性版はボーイよ」


「何故」


「じゃあメイドじゃなくてガールで良いと思うのです」


 あ、じゃあボーイが家事全般を担うってことなのかな。で、ガールは……あ、違う。ん? じゃあ執事は家事をしない、ん? あれ? じゃあ執事は何する職業なんだ?


「頭がパンクしそうな子もいるし、話を戻すわ。仕事内容に関してなら、執事とメイドは全く違うわ」


「……」


「執事は、常に主人の気持ちを考えて、先回りをして行動をするのよ」


「先回り……ですか……?」


「臨機応変、とも言うわ」


 腕を組み、説明を再開する。

 良かった。話についていけてなかったからありがたい……成程、執事ってそういう事するんだ。


「で、ここから本題。今から一時間。私を満足させてみなさい」


「っ!?」


「満足……ですか」


「えぇ。私の先回りをして、気分良く過ごさせてちょうだい」


 そして右手を口元に持っていき、微笑んだ。値踏みでもするかのように、少し不気味な笑みだ。


「まぁ、実際の執事の仕事は他にも沢山あるけど……今回は吟味するための特別なものよ」


「まぁ、そうですよね」


「とはいえ、これも仕事の一つに変わりはないわ。全身全霊で取り組む事ね」


 ん……? じゃあやっぱり家事の可能性もまだあるのかな? じゃあ後でルルの事を色々お世話したいな。


「……この試験に何の意味が」


「意味のある試験なんて無いわ」


「元も子も無い!」


「と……後はシチュエーションも必要よね」


 するとヴェンドロキ王妃は右手を握り、口元に持っていきながらそう言った。

 シチュエーション……か……確かにその場その場で判断しなちゃいけないから大事なのか。


「時間は夕方の五時頃。仕事が終わってソファで一段落、という感じでどうかしら?」


「やけに具体的なのです」


 そして人差し指を立てながらそう言った。

 仕事終わりの夕方……先回りして考えなきゃいけないから……結構大変な気がする……


「それじゃ……」


「……」


「……」


「……」


「……」


 脚を組み、右手の甲を頬に当て、右膝をソファの肘掛けに置いた。空気が変わったのを感じとったからか、全員が身構えた。


「スタート」


 そして少し高らかな声で、囁くように小さな声でそう言い放った。


「ほら? 何かしてちゃうだい」


 スタートしたというのに固まっている僕達を見兼ねたのか、変わらぬ緊張感で話すヴェンドロキ王妃。少しだけ目を細めながら僕達を見つめる。


「ん。肩を揉みます」


「あら。悪くない判断ね。百点の回答ではなちょっとあの子の目が怖いわ」


「ちょっと目を逸らせです」


「へにゃっ!」


 ルルがヴェンドロキ王妃の肩に手を置き、その柔らかくもコツコツとした手と腕と肩をゆっくりと動かした。それを見ていた僕たったが、唐突にミチルちゃんに僕の顔を片手でグイッて横に逸らされた。

 相手は王妃相手は王妃相手は王妃相手は王妃相手は王妃……ちくしょう職権乱用か!


「此方をどうぞ」


 するとフルキさんがヴェンドロキ王妃の目の前の机の上にカップを置いた。湯気が立っていることから、中にお茶か何かが入れてあるのだろうか。


「あら。良いじゃない?」


 それを見て、ヴェンドロキ王妃は嬉しそうに顔を綻ばせた。


「定番だけど、中々良い判断ね」


「うしっ」


「ガッツポーズが無かったら完璧だったわ」


 しかしフルキさんの喜びを見て苦い顔をした。

 まぁ、お茶を注いだだけでガッツポーズってあんまり良くはないと思う。逆の立場で見なさいよ。


「では、ミチルが靴をお舐めするのです」


「何言ってんの貴女?」


 ヴェンドロキ王妃の目の前に近付き、右膝を着きながら謎の発言をした。

 舐める……? 靴を……? え? 舐めて何になるのそれ?


「……でもフルキはコレされると喜ぶのです」


「おいコラ」


「素足にやると尚良しなのです」


「コラおい」


「むにゅっ」


 次々と恐ろしい発言を連呼していくミチルちゃんにフルキさんは近寄り、ミチルちゃんの口を勢い良く塞いだ。

 わぁ……聞きたくなかったなそういう個人的な事情……参考になる。


「あ……あ、貴方は何をするのかしら?」


「……」


 ヴェンドロキ王妃がニヤリとしながら僕を見た。僕は湯気を放出するカップを持ち、肩を揉まれやがってるヴェンドロキ王妃を見て、一考した。

 ……先回り、だよね……? それでいて今この応接室内で出来ること……


「……これ、今は何もしないのが正解な気がするのですが……」


「あらら? 先回りにやりすぎなんて無いのよ?」


「というよりも……他に出来る事が思いつかないのですが……」


「やりすぎが無いのであれば、ミチルちゃんに靴を舐めてもらいましょう」


「何言ってんの貴方?」


 僕の言葉に、ヴェンドロキ王妃は未だニヤけ顔のまま僕を見つめる。

 うん……でも実際そうだよね。仕事終わりの夕方なら、後はもうお風呂とか夕食とかぐらいしか思いつかないし……


「えと、着替えのお手伝いとか、料理……」


「はぁ……」


「……」


 すると、先程から黙って見ていたドウルさんが急にため息を吐いた。僕は思わず、後ろを振り返る。


「この試験に意味なんて無いのでしょう?」


「あら? 意味なんて考えちゃダメなのよ」


「そうではなく……試験の善し悪しに関わらず。結果なんて既に、決められてるんですよね?」


「……」


 そして少し低い声でそう話した。ヴェンドロキ王妃は黙り込み、にやけ顔も無くなっている。

 え……結果は決まってるって事は……え……じゃあこの人、無意味な試験を立ち上げて挙句の果てにルルに肩揉んで貰ったって事? は? 何この人? 王妃だけど抓りたいんだけど。


「えぇ……そうよ」


「なら……キチンと自分の気持ちをお伝えください。見るに堪えないので……」


「……はぁ……分かったわ」


 軈てヴェンドロキ王妃はゆっくりと立ち上がり、扉の前に立った。ソファの近くにいた執事服三人は僕の隣に戻ってきた。

 え、認めた? 認めたって事はそういう事だよね? そういう事ってことは抓っていいって事だよね?


「私、ヴェンドロキは……」


「……」


「っ……」


 軈て此方を振り返り、小さな声を出した。辺りの空気がガラリと変わったのを感じた。

 っ……いや、決まってるって事はつまり……最初っから支援をするつもりは無い……


「召喚者に対し、誠心誠意を尽くす所存です」


「……え……?」


 が、続く言葉と膝を着くヴェンドロキ王妃の姿を見て、僕は、恐らくこの場にいる全員の、全ての思考が吹っ飛んだ。


「私で宜しければ、彼ら彼女らの生活の補助させて頂きたい」


「何故……ですか……!?」


「そうですよ! だって、俺達の、別世界の人間なんて……」


 真っ先に正気に戻った僕、そしてフルキさんが、目の前の光景を否定するかのように、頭を下げているヴェンドロキ王妃にそう問い質す。

 支援したくないならどころか、寧ろしたいって……この世界の人達の考え方からすれば、おかしい事だと……


「……」


 そう思った瞬間、ヴェンドロキ王妃が近づいてきた。屈んで僕と目線を合わせ、両手で僕の肩を掴み、


「っ!?」


「私は別に嫌ってないわよ?」


「え……」


「は……?」


 僕の考えを全否定するかのように、僕の頬に自分の頬で触れながら、ヴェンドロキ王妃はそう答えた。


「あ、私だけじゃなくて、セルントも別世界の人達は好きよ?」


「はい?」


「……ええぇ!?」


 そして僕から離れながら、更に脳内をぐちゃぐちゃにするなのように、ヴェンドロキ王妃はそう付け加えた。

 え……ちょっと、ちょっと待って!? え? 王も王妃も、えぇっ!?


「嘘……ですよね……!?」


「まぁ、この国にいる人で好いてる人なんていないも同然だから、驚くのも無理はないわよね」


「初耳よ……私も、ずっと嫌っているものと……」


 驚きで目を見開いているミチルちゃんの後ろで、同じく目を見開いているドバイさんも小さく呟いた。

 ドバイさんとドウルさんも知らなかったんだ……あれ? もしかしてドウルさんから読み取った、セルント王の「黙らせればいい」発言ってアレかな? 本当に殺める訳では無かったのかな……?


「……まさか僕達の放校処分って……」


「あ、はい。私達がセルント王に相談せずに行いました」


「マジかよ」


「嘘だろ……」


「やりやがったなこいつなのです」


 そっか……側近がこういう考え方をするんだし、セルント王も好意に関しては黙っててもおかしくはないのか。


「ん……?……じゃあ、セルント王が襲われた理由って……」


「……別世界の人を好いてる人間故に、と判断された可能性もありますね」


「成程ね……一応協力者でもあるセルント王を、動機を持つ側近でも無いのに襲った理由、やっと分かったわ」


 そこで何かに気がついたのか、フルキさんがポツリと呟いた。それを聞き、ドウルさんもドバイさんも納得した様に声を出す。

 あ……そっか……側近がセルント王を恨む理由はあれど、ソウヘイさんが……加担かな? するには十分な理由なのか。あの人、何故か別世界の人を亡き者にしたがってたし……ん? あ、待って!?


「っ! それなら! それなら、ヴェンドロキ王妃も危ない状況……!」


「……まぁ……その辺は上手くやるわよ」


「う……上手くって……」


 上手くって何するつもりなの……ちょっと不安何だけど……いくら王妃とはいえ、やっぱり危ないと思うんだけど……


「まぁとにかく。私もセルントも、貴方達の事は好きよ? 安心して」


「……セルント王が何故、嫌ってるはずの人を召喚したのか分かった気がします」


「元々嫌ってなかったのなら、無不自然なのです」


「変な言葉を作るわね」


 理由はどうあれ、本当に嫌ってないならおかしくないんだね。というか無不自然って何? 自然でいいじゃん。


「でも……それもあるけど、他にも理由はあるわ」


「え?」


「他……?」


 と、納得しかけていた時に、ヴェンドロキ王妃は更なる何かを発表しようとした。

 好き以外の理由……? 何っ……何だ……?


「それは、別世界人は想像力が豊かってこと」


「……え……?」


 僕にはピンと来なかった。

 想像力が豊か……なの……? 召喚者達を見ても、あんまりそういうイメージ湧かなかったんだけども……


「聞く所によるとそちらのルルさん。異世界生活たったの数日で、既にレイトを良い感じに操れるのだとか」


「そう! そうなんですよ! ルルはこんなに素敵で可憐で、なのに優秀! もうルル以――


「うるさいわ」


「何故バラしたんですか」


「シンプルに驚いたからですよ」


 聞いてよ。折角ルルの魅力を詰まらせたブレゼンをしようとしたのに。というかルルの個人情報を勝手に流さないでよ。ルルも不満がってるじゃん。


「確か貴方達の世界だと、創作物が恐ろしい勢いで生まれて往生してるらしいじゃない?」


「他の言い方は無かったのですか?」


「二次元はエグいと聞いたわ」


「他に言い方は無かったのですか?」


 ヴェンドロキ王妃は右の掌を上に向け、ギュッと握りながら真顔で言い放った。その言葉に、ルルとフルキさんが交互にそう返す。


「こっちの子達は創作物……特にファンタジー物を子供のうちに見聞きすることは少ないのよね」


「アニメを見ない……のですか?」


「興味を持ちにくい、とは思いますね。身近な題材なのにリアリティが全くと言って良い程無いですし」


「それと、やっぱり別世界っていうブランドがあるせいなのかしらね」


 ルルの問に、今度はドウルさんとドバイさんが答えた。発言を取られたからか、口を尖らせた。

 でもそっか……ファンタジー系の物語って作品によって設定とかが違うのに世界観が似てるし、何ならこの世界に似てるのも多いから、ちょっと入り込みにくいのかな……ん? 別世界っていうブランド……?


「あの……え、私達の世界の漫画とかってあるんですか……?」


「え? あるわよ? あ、アニメは無いけど、漫画とか小説とか、色々あったはず」


 僕と同じ疑問を持ったからか、ルルが質問をした。すぐ隣にいるフルキさんは一瞬だけ口を開いたがすぐに閉じた。

 ……あ、そりゃそうか。フルキさんも一応十何年もこの世界にいるんだから。知っててもおかしくないか。寧ろ知らない僕の方がおかしいのか。おかしいのか……?


「何で……置いてあるの……」


「さぁ? それは私も知らないわ。まぁでも、安心しなさいな。キチンと召喚者の――


 ドガッ


「失礼します!」


「まにゃっ!?」


 召喚者の支援の話に戻ろうかと思われたその時、勢いよく扉が開かれた。ノックもせず、非常に焦った様子だ。


「……ノックもしないという事は、セルント入院の件に匹敵する程の事件かしら?」


「はい!」


 そして扉の方に振り返らず、ヴェンドロキ王妃は少し顔を顰めながらそう言った。扉を開けたその男性は、少しだけ乱れていた息を整えてから、応接室内にいる全員に目を通し、口を開いた。


「セルント様の妹を名乗る赤髪赤目の女性、及びその旦那と名乗る男性が、あの合言葉と共に現れました!」


「はぁっ!?」


 そんな報告を、叫ぶように残して。

「そもそもの初期設定、ミチルちゃんは無口な子だったらしい」

「気がついたらお喋り謎語尾ちゃんに早変わり」

「無口とは」

「叫びまくってるもんねあの子」

「ルルちゃんのはどうなんだろ?」

「ルルはただの天使だから格が違うよ」

「んぇ!?」

「サラッと言えるの凄いわね」

「僕も見習わないと」

「見習わなくても大丈夫だと思いますよ……?」

「対してフルキさんは冷静で物静かな性格だったらしいです」

「二人共似たような性格してたんだね」

「でもなんか、気が付いたら変態属性も追加されたみたいです」

「何故に?」

「凄い、主要メンバー変態しかいない」

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