表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あいに溢るる  作者: 手石
スコアの変わらぬボーリングな日々
64/108

1.56 合言葉は双方完全一致型です。良いシステムですね。ね? ねっ!?

でっかいお城に元現役高校生が到着しました。

普通は本物かどうか分かるはずなのになんでどいつもこいつも知らなかったんだよ……

 九時十分。

 僕たちの目の前に大きな門が聳え立つ。あの偽物の方も凄かったけど、こっちは段違いだ。

 まず門がある。全体像を見ようものなら、首を曲げて真上を見つめなければならない程の大きさだ。少し離れているところから見ているというのに迫力が違う。勿論、門の目の前には警備員のように人が何人も配属されている。そして門の奥にちらりと見えるのが中庭だ。擬きでもなく本物の。広がる緑色に混じり、道路の様に細長く伸びる赤色のタイル。更には噴水まで見える。


「……僕達、もうちょい社会科を徹底的に勉強しないとだね」


「ですね……」


「寧ろ何でミチル達が知らなかったのか、本人ながらも甚だ疑問なのです……」


「先生の教え方が悪かったとか?」


 王城……なのだが、僕達は正門は通らず、そのまま裏へと回り込む。所謂裏口へと向かうためだ。







 遠かった……早歩きしたのに十分以上歩いた気がする……


「ド……ドウルさん……?」


「私がそんなくだらない事をするとでも……?」


「ですよね……」


 なら大きすぎでしょ本物。偽物の比じゃねぇや。

 ドウルさんが前頭前野を弄ったのではと一瞬考えたが、違ったらしい。


「ふぅ……」


 そして目の前に見える裏門。裏とはいえ王宮。正門と比べれば小さいが、それでも少し見上げてしまうほどの大きさはある。


「あ、俺が行きます」


「え? あ、ちょっと待っ……」


 勿論、警備員のように扉の前に立つ人影が四人程。女性が三人、男性が一人。騎士とは違い、動きやすそうな服装をしている。全員背が高ぇな……フルキさんが行ってくれたのありがたいや……


「……どちら様ですか?」


 そして息を切らす僕らを見て、警備員の一人の女性が声をかけてきた。警戒しているのか、少し身構えている。


「あ、えっと……本日の十時に予約したものなのですが……」


「何でレストランみたいな言い方なの?」


 そしてフルキさんが警備員に向かって、小さくそう伝える。僕はその背中を黙って見つめている。


「合言葉は?」


「……え……?」


 すると唐突に、 フルキさんに担がれているドウルさんがそんな事を言った。僕だけでなく、ルルもミチルちゃんもキョトンとした顔をする。

 僕達側が合言葉を求めるのっておかしくない……? そういうのって基本訪問する側が聞かれるんじゃないの……?


「何言ってんだ貴様」


 そして案の定、警備員は強い口調でそう聞き返した。

 ねぇ、これちょっと怒ってない……?


「よし、通れ」


「え、いや、何をどう判断したのです?」


 が、ドウルさんは訳も分からぬ言動を続けた。何故か自信満々に。

 え……まさか本当は王宮に入らせる気なんて無いんじゃ……?


「合言葉合致。身内の者と判明」


「は?」


「え?」


 と思っていたその時、警備員が身構えるのを止めた。そして裏門へと歩き出した。

 え……? え、え? 合致……? 今の何処に合言葉要素があったの?


「では行きましょう」


「え、あの……え?」


「ほら、キチンと着いて行きなさいよ」


 戸惑う僕らを他所に、ドウルさんもドバイさんも、僕達を急かすような事を言った。






 裏門を潜った瞬間、目の前に広がったのは大きなお城。正門と違い、中庭が無いので直ぐ目の前に裏口があるのだが、目をくれる暇もない。軈て警備員の案内で裏口を潜った。そしてやはり、僕達は言葉を再び失う。

 裏口を潜った瞬間、左右に大きく伸びる廊下。床や壁、柱は真っ白で、常に手入れされていると瞬時に理解出来る。廊下も恐ろしく、七.八人が横に並んでも余裕で通れるほどに広い。流石王宮。偽物の王城も広かったとはいえ比べ物にならない。


「合言葉、ですよ。あれ」


「あれの何処が合言葉なのです……?」


 そんな恐ろしい廊下を警備員に案内されながら、僕達はドウルさんの話を聞いていた。


「まず、訪問者が「合言葉は」って言うの」


「で次に、待機してる人が「何言ってんだ貴様」と言います」


「何ですかそのややこしすぎる合言葉は!?」


 訪問者が何か言うだけで良いと思うんだけど!? 何なら単語一つで良いじゃん。何でそんな変な形にしたの?


「最後に訪問者が「よし、通れ」と言えば完了です」


「この合言葉を考えた人に会いたいです」


「俺も」


 僕も会いたいや。面倒な分確実なんだろうな……って思ったけど、よく良く考えれば合鍵とかは持ってなかったのかなこの人達?


「まだ九時四十分……ですので、十時になるまではこの部屋でお待ちください」


 等という話をしていると、案内をしてくれていた警備員が立ち止まり、部屋を右手で指し示した。僕達は導かれるがままに、その部屋へとぞろぞろと入る。

 パッと見で何となくわかってたつもりだとはいえ……今そこそこ長い距離歩いたはずなのに、一回も曲がらなかっ事に凄い恐怖を抱いたんだけど。


「それでは、私はこれで失礼します」


 僕達全員が部屋に入ったのを確認した警備員は、そう言ってから部屋の外へと出ていった。

 部屋の中央には細長いテーブル。それを囲うようにソファが四つ。テーブルの上には丸いお皿の上が三つ置いてあり、夫々クッキーやチョコレート、飴が入れられている。更に部屋の隅にも背の高いテーブルが置いてある。テーブルと棚を兼用しているのか、側面がガラス張りになっている。上には大きなポット、中には取っ手付きの小さなコップが置いてある。ここは応接室なのかな。


「ん……じゃあ失礼しよっと」


 僕はソファに腰かける。僕の体を受け止めながら、ソファはゆっくりと沈んでいく。

 何だこれ……!? ソファってこんなに深く沈むもんだっけ!? 頭二つ分ぐらい沈んだ気がするんだけど!?


「菓子が美味いのです」


 目の前では、同じくソファに座っているフルキさんがチョコレートを摘み、膝の上に座っているミチルちゃんの口へと運んでいた。中々見ない満面の笑みで、幸せほうな顔をしていた。


「まぁ、お客様をもてなすんだから、それぐらいは普通よね」


「流石王宮」


 ルルが隣に座り、ドバイさんの言葉に呟くように反応する。僕はその横顔をじっと見つめる。


「逆に言えば、菓子以外何も無いのです」


 すると今度は謎の文句。ミチルちゃんは脚をバタバタさせながらそう言う。フルキさんは、そんなミチルちゃんの頭を撫でながら、ミチルちゃんが舐めた指を咥えていた。

 自然な流れで行う間接おしゃぶり。憧れる。自分もいつか絶対やってやる。

 そう思いながら、僕は真横でクッキーに手を伸ばしているルルの肩にもたれ掛かる。


「まひゃっ!」


「ん……」


「ちょ、あ、い、今はやめて……!?」


 が、ルルが僕の頭を両手で支え、そのまま押し返した。

 何で何で何でねぇ!? 今やらずしていつやるのねぇ!?


「た、食べづらくなる……!」


「んぅ……肩ぐらい良いじゃん……」


「っ! が、我慢して!」


 僕は僕の頭に手を添えているルルの両手をそれぞれの手で掴み、押し返す。ルルも強い力で押してくるので、中々近づけない。


「今朝はイチャつき過ぎで遅れたくせに……何を躊躇ってるんですか……?」


「っ! TPOは弁えるもの!」


「Tを弁えてなかった人が何を言ってるんですか!?」


「うるさいっ!」


「辛辣ですね」


 呆れてため息を吐いたフルキさんに対し、強く言い返すルル。

 そこまで拒否しなくてもいいじゃん……何でそんな周りのこと気にするのさ……


「とってもが弁えてなかったのです。やーいやーい」


「Timeだからね? とってものTじゃないからね?」


「うゆ」


 そしてミチルちゃんがルルを煽るかのように言ったが、フルキさんの言葉を受け、黙ってソファに座った。

 何故「とっても」だと思ってたの? その後のPとOには何を当て嵌めてたの?


「……この調子ならレンの友好度はミチルの方が高いのです」


「は?」


「え?」


「え、何を持ってそう判断したの?」


 かと思えば、急にそんな変なことを言ってきた。僕はルルの腕に、見せつけるようにしがみつく。

 え……いや、何処をどう見ればそんな感想になるの……? 馬鹿なの?


「何せこの童男……一昨日の夜に、一人で寝るのが寂しいからとミチルの部屋に来たばかりなのです」


「っ! ち、ちょっと!」


「は?」


 が次の瞬間、ミチルちゃんはまるで恐ろしいものを語るかのように、その言葉を口にした。その言葉に、ルルは僕から離れ、ソファから降りながらミチルちゃんの方を睨むように見つめた。


「ふふ。あの時は、自分のせいでハヤタがハヤタがとか言う泣きレンには、母性本能をくすぐられたのです」


「やめて」


 それに気づいているのかいないのか、ミチルちゃんは意気揚々と僕の醜態を晒し続けた。

 ちょ、やめ! ルルの前で、そんな恥ずかしいことっ! 何でそんな事言うの!?


「……」


「っ! しょうがないじゃん! ハヤタさんがいなくなって、一人で! 寂しかったの!」


 そして無言で僕の方を見た。僕は全てを見透かしてそうなその虚無な瞳に興奮しながらも、ルルにそう訴える。

 頼れる人がもうミチルちゃんしかいなかったんだから、他に丁度良い人がいなかったんだもん!


「じゃあ何で……私の所に来なかったの……?」


「それはまだルルとツッチーの関係を勘違いしてた時だったし。しょうがないじゃん……」


「……でも寝たのは事実」


 そして再びミチルちゃんの方を見て、軈て視線を下に向けた。ミチルちゃんもフルキさんも無言で見つめている。


「……何だろう。よく分からない、この変な感情は」


「それこそ嫉妬です」


「嫉妬……なのかな……?」


 そして険しい表情のまま悩んでいたルルに向けて、ミチルちゃんは端的にそう言う。少し違うのか、首を傾げている。

 嫉妬……嫉妬ってことは、逆に言えば心配させちゃったってことだよね……でも……


「ルルが嫉妬……不本意だけど感激する……」


「いや、ただの殺意じゃないの?」


「あ、多分そう。それですね」


「ええぇ!?」


 が、ドバイさんの一言に、ルルは今度は瞬時に納得した。

 え殺意……? 嘘でしょ……!?


「凄い……よくそんな答えがスっと出てきましたね」


「そうだ……いっそ私がレンを泣かせれば……」


「ん? ちょっと? 何言ってるのかな?」


 そんな殺気宣言を聞いたからだろう。ルルが変なことを口走った。

 僕を泣かすって何? ルルの為なら泣くけど、泣かせればって何? やれるもんならやって。


「ん。縄なら、俺のやつを貸しますよ?」


「ありがと」


「え、何でそんなもの持って……何に使うのそれ?」


 そんなルルを見て、フルキさんは虚空から縄を取り出した。茶色で細く、先端で輪を結んでいる。

 いや、それを渡して何するの!? 僕に? 僕に使うの!?


「なら早速録画の準備をしましょう」


「えスマホ!? 何を撮るつもりなんですか?」


「なら私がマイクの準備をするわね」


「またスマホ!? 何を拾うつもりですか?」


 するとドウルさんとドバイさんがスマホを取り出した。ドウルさんはスマホを横にしながら、ドバイさんは僕の後ろへと回り込みながら、夫々スマホをこちらに向けている。


「確保ぉ! です!」


「ひやぁっ!? ちょっ、急に、え、何、なんで羽交い締め!?」


 すると唐突に、ミチルちゃんが叫びながら後ろから僕の両脇に腕を通し、そのまま後頭部を固定した。

 え、いつの間に後ろに!? ちょ、力強っ! 離してよ!


「レン」


「ひゃっ! ひゃいっ!」


 すると、唐突に僕の名前が聞こえた。驚きながら顔を上げると、すぐ目の前にルルの顔があり、反射的に声を出してしまう。


「私は――


「今ですっ!」


「ほぇぁっ!?」


「っ!」


 がルルの言葉を聞こうとした瞬間、ミチルちゃんの声と共に、目の前にピンク色のハートが現れた。瞬間、僕の目目掛けて飛んで来た。僕は反射的に目を瞑る。


「ひぇ……な……何したの……?」


「あれ……レンの目が……」


「え……?」


 そしてゆっくりと目を開ける僕を見て、ルルが僕の瞳を見て小さく呟いた。僕自身は何が起こってるのか分からず、ハテナを浮かべる。


「ふふふ。レンの目にハートを入れてやったのです」


「……は……?」


「え……?」


 そんな僕の為になのか、ミチルちゃんが何故か自慢げにそう語った。

 え、何その無意味なイメチェン……そんなくだらない事のためにスキル使ったの!?


「ほいです」


「ほぁっ!?」


「んっ!?」


 等と考えていたその時、またも唐突に、ミチルちゃんが僕を強く押し、ルルへとぶつけた。衝撃で僕もルルもバランスを崩してしまう。


「っ! 危っ!」


 僕はルルの足元に手を突き出し、ルルの後ろと膕辺りに鏡を召喚する。後ろの方は大きく、少しだけ斜めにして倒れないようにルルを支えてもらう。膕の方は少し小さめにし、椅子のシートのように伸ばし、ルルに座ってもらう。


「ほぁっと……」


「大っ……丈夫……?」


「にぇっ……! ひゃぁ……」


 そして僕は、ルルを挟まないように鏡に両手を付き、ルルが座っている鏡に右膝を置く。少し見下ろす体勢になったからか、髪の毛がルルの顔のすぐ横に垂れる。そして僕の目の前にルルの顔とルルの後ろにある鏡に反射したルルの背中が広がる。

 ぁ……ルルが目の前いっぱいにいる……ひゃ……赤らめた顔してるルル可愛い……!


「ふ……これが粋な計らいと言う奴なのです」


「……何か違う」


「ほぇ?」


 背後からは二人の変な会話も聞こえてきたけど、そんなのどうでもいい。ぁ……顔……はぁ……触りたい……


 ガチャ


「失礼するわ」


「にゃひっ!?」


 とか考えていたその時、何の前触れもなく、応接室の扉が開かれた。前方にある扉を見ると、青色のドレスに身を包んだ一人の女性が立っていた。


「……」


「……」


「んぇっ!?」


「え……?」


 すると、ソファの傍に立っていたドウルさんとドバイさんは突如、同時にしゃがんだ。視線を下に向け、右膝をつき、右手を握り地面につけ、左腕を左膝の上に乗せている。

 え……そのポーズを取るってことはつまり……


「……ドウル、ドバイ」


 そして一瞬ルルと僕の方を見た後、表情を変えず側近二人の名前を呼ぶ。二人は膝を着いたまま女性の方を見る。


「貴女達は本物かしら?」


「合言葉を使用し応接室に通された。これこそが私達だという証拠です」


「えぇ知ってるわ。そうじゃない、きちんと別世界の子達の性欲を抑制しなさいってことよバカ。場所を弁えなさいよ」


 そして呆れたようにため息を一つついてから、再び僕達の方に目を向けた。僕はルルの両手をつかみながら鏡を消し、ルルと共にゆっくりと膝をつく。


「まぁいいや……さてと」


「……」


「……」


「私が土の国の女王……セルントの妻のヴェンドロキ。以後お見知り置きを」


 少しだけ掠れた声を出しながら、ハリのはる肌の中に薄ら見えるシワを持つ顔をし、ヒールでフルキさんと同じくらいまで水増しされた身長の女性……ヴェンドロキ王妃が小さくお辞儀をした。

「前世はなんじゃろな選手権。フルキさんとミチルちゃんです」

「えっと……二人の性別はギリギリまで決まってなかった……?」

「ほえぇ。そなんだ」

「まぁ、二人ともどっちの性別ともとれるような言動してるもんね」

「というか今もふわっとしてるみたいですよ」

「どういう意味それ?」

「因みに、本編全体を見ると、この二人が居なかったらGL要素がかなり少なくなるらしい」

「ん?」

「ん?」

「……ん?」

「あそれでも。フルキちゃんは高身長、ミチルちゃんは低身長、ってのは決まってたみたいだね」

「ミチルちゃんは低身長からは避けられない運命だったのか……」

「いや、レン君に至っては見た目も性別も変わってなかったよね?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ