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あいに溢るる  作者: 手石
スコアの変わらぬボーリングな日々
63/107

1.55 まぁ、何十年もやってるし……喧嘩を売る相手を間違えたねとしか言えないよね?

多分、レン君の男運はガチゴチに悪いと思う。

 偽の王城を出て二十分程たっただろうか。先程よりも明確に人の数が減り、今なら走り回ることも可能な程、周囲がガラリとしてきた。


「こっちには会社が少ないのかな」


「かもしれないです。詳しくは知らんです」


「優等高校は通り過ぎましたし、学生も少なくなっているのかもしれないですね」


 そんな謎のお散歩気分になって駄弁っていたその時、


「ひいっ!」


「んっ!?」


「ぇ?」


 唐突に、背後から叫び声のような何かが聞こえてきた。僕達はその声の方へと目を向ける。

 そこには青と黒で彩られ臍を出したオフショルダーを着て全力疾走をしている女性と、サングラスを付け、フード付きの黒いマントを全身に纏い腕を出さずに全力疾走をしている男性がいた。

 その勢いの良い光景に、反対側の建物沿いのやり取りだと分かっていても思わず後ずさった。


「んぉっ」


「な……え、な、何あれ」


 ルルも一歩引きながら疑問を口にする。

 まぁ確かに。パッと見追いかけっこみたいだもんね。涙目になっている寒そうな格好の女性とおっかない顔をしている暑そうな格好の男性。これはもう……そういう事だね。


「っ!」


 グッ

 ザッ


「るつっ!?」


 すると寒そう女は突然急カーブし、路地裏へと入った。暑そう男も追いかけるように続くが、少しよろけてしまう。偶見える位置にいた僕達はそのまま路地裏の中を見ている。


「ちょ、あ……助けなくても良いの……?」


「助けたいのは山々だけど……」


 そして僕のセーターの裾を掴み、麗しい声を震わせながら出した。

 流石ルル。自らを顧みず人助けしようとするとは。やっぱり最高……ん……でも、この場合はあんまり良くはないかな……


「丸腰に見えて、あの人もこちらの住人ですよ。どんな反撃をするのか分からない限り、手助けは危険過ぎます」


「え、いやでも……」


 フルキさんの背中にいたドウルさんも同じ考えなのか、より詳しく説明をしてくれた。が、ルルは未だ不服そうな表情をしている。


「っ!」


 すると突然、寒そう女は急停止した。距離にして二十m程で行き止まりになったからだ。


「ふぅ……やっと捕まえられる」


 そして暑そう男はゆっくりと寒そう女に近づいた。


「っ!」


 トトトトトッ


「なっ!?」


 すると寒そう女は行き止まりの壁へと走り出した。突然の謎行動に、僕も暑そう男も一瞬体が硬直した。


「ふっ!」


 ジザッ

 ゴジッ


「っ!?」


 壁に衝突するかと思われたその時、女性は飛び上がり壁を蹴った。その反動で、空中に浮いたまま縦に方向転換をする。


「がっ!」


 トッ


「っ!」


 そして呆然としていた暑そう男の頭を踏み台にして、そのまま一回転をし暑そう男の背後へと着地し、そのまま路地裏の外へと駆け出した。


「え、え何、何今の!」


 そして僕は興奮した。

 やば過ぎない!? あの壁を利用して進行方向を変えつつ、ジャンプして飛び越えるとか! カッコイイ!


「ふっ」


「っ!?」


 かと思えば唐突に、路地裏から飛び出た寒そう女目掛けて後ろ回し蹴りをする男せ……え? あれ?


「っ、ふんっ!」


 スッ

 ザザガッ

 フォンッ


 寒そう女は男性の後ろ回し蹴りをスライディングで躱し、そのまま男性の股の下を通り抜ける。男性の踵は空を切った。


 ドズッ


「んなっ!?」


 が次の瞬間、通り過ぎた故に油断していたのだろう。寒そう女は立ち上がった瞬間、脚に硬い何か……否、鏡がぶつけられた。


「んらぁっ!」


 ドッ


 回し蹴りで使用した右脚は上げたまま、左の掌を女性に向けている男性は、瞬時に右脚を地面に叩きつけた。瞬間、


 ズグッ


「んがっ」


 寒そう女の足元から大きな木が生えた。貫かんばかりの勢いで寒そう女体を真下から持ち上げる。直後、大きな葉っぱで全身を包み、完全に動きを封じた。葉っぱがモゾモゾと動いているところを見るに、寒そう女が暴れているのだろうか。

 すっ……ごい……!


「な……何あの人……!?」


「あー……多分ヘイルね」


「ヘイル……?」


 ルルの問に対し、僕の背中にいるドバイさんが答えた。向こうでは後から来た暑そう男が、男性の元まで行き頭を下げている。息一つ乱していないあたり、流石プロだ。

 カッコよかったな今の……やっぱり凄いな……


「あ、ありがとうございます!」


「いえ。街中じゃ追いかけっこもきついですよね」


「ホント、被害を出さないタイプの子で良かったねぇ。私は何もしてないけども」


 そして男性の後ろから見覚えの無い女性が一人、会話に参加した。会話の内容からして知り合いなのだろうか。


「ちなみにあの暑そうな人。ペップ、っていう職業の人」


「ペップ?」


「protect equality peaceの頭文字をとってペップ。警察みたいな人」


「あの暑そうなフードがペップの証なんですよ」


 等とルルに説明していたその時、


「あら?」


「ん……?」


「あららら?」


 女性がこちらに気がついた。そしてにこやかに手を振る。

 え……何で手……?

 ふと隣を見ると、フルキさんとミチルちゃんが小さく手を振り返していた。


「え……何、知り合い?」


「……ん……まぁ……うん」


 僕は思わず聞いてみる。フルキさんは少し恥ずかしそうにそう答える。

 この反応……多分、友達とかよりももっと親しい人なのかな……例えば、育ての親とか。


「んっ、何してんのここで?」


「ふふん」


 そしてにこやかな女性と男性……モクリサさんの二人が、こちらに駆け寄って来た。

 モクリサさんは淡い金色のボブショートヘアー。大きくて緑色の瞳を持ち、右目を前髪で隠している。フルキさんと同じくらいの背丈をしている。

 女性は小さな瞳をしており、その瞳を更に細めている。ほぼ閉じてんじゃないの? ってぐらいのその細さに、前が見えているのか少し不安になる。髪の毛は黒く、頭のてっぺんで束ねてお団子を一つ作っている。モクリサさんより頭一つ分小さいが、デカい。


「て……あら、もしかしてレン君?」


「え……?」


 と思えば、女性が僕の顔を見て名前を言い当てた。

 え……何で僕の事知ってるの……? えと、モクリサさんの知り合いだから、多分この人もヘイルだよね?


「あ……!」


 と考えた時、思い出した。

 そうだ、確かモクリサさんの仕事場に着いて行った時にこんな人がいたはず。名前は……


「あの、あの、えっと……」


「……シメフム……」


「そう、シメフムさん!」


「覚えててくれたのね! ありがとぉ!」


「明らかに忘れてましたよね?」


 違う。天からのお告げだ。決してモクリサさんの囁き声は関係ない。


「……んで、ここで何してんの?」


「あ、買い出しだよ、買い出し!」


 と、モクリサさんがそう聞いてきたので、僕は咄嗟にそう答える。隣にいるフルキさんもミチルちゃんも、口を挟まず僕を見つめている。

 そりゃそうだ。王城で別世界の人達に会っている筈なのに、朝の早い時間に徒歩で数十分はかかるような場所にいるのだから。どうしよう、背負ってる二人は迷子とかでも言おうかな……?


「……側近二人をおんぶしながら?」


「っ!?」


 が、そんな事を言う前にモクリサさんは目を鋭くしながらそう言った。


「驚く事か……? ヘイルやってりゃ、そういう知識は自然と入るもんだよ」


「私はチラッとしか知らないんだけどねぇ」


「ほら、訓練! 側近背負ってさ!」


「流石に無理あるです……!」


「遠回しに私達は重いっ言ってるのかしら?」


 僕はモクリサさんから目を逸らし、必死に誤魔化す。ルルもミチルちゃんも呆れた目で僕を見る。

 しょうがないじゃん他に思いつかなかったんだから! 後、人間は大体は数十キログラム以上もあるんだから! 基本重い生物だから!


「……まぁ、レンが言うなら本当なんだろうな」


「疑わないの……!?」


「流石レン君の育ての親。露骨ねぇ」


 僕の説明に、モクリサさんは納得してくれたようだ。僕は心の中でほっと息を着く。


「そっちは何してるの?」


「あ……それは……」


 そして今度は僕の方から質問をした。が、モクリサさんは何故か目を逸らし、言い淀んだ。


「病院に野暮用よ」


「病院に……?」


「そそ。私は毎月行ってたのにモクリサ君ったら照れ屋でねぇ。なかなか一緒に来てくれなかったのよ」


「っ! い、言わなくてもいいだろ!」


 が、そんなモクリサさんとは対照的に、シメフムさんが笑顔でそう言った。

 病院に用事……この言い方だと、誰かが入院してるのかな……? 入院……か……


「あら? 実際、今回は特別だって事でやっと――


「それより!」


「んっ!」


「誰その女?」


 そしてニヤニヤしているシメフムさんの言葉を勢い良く遮り、ルルを睨みつけた。

 えちょ、何でそんな目でルルを見るの?


「あ……えと……」


「婚約者です」


「……え?」


「は?」


「え……え、もうそんな進展してたのです!?」


 どう説明すれば良いか分からず、一瞬モゴモゴしていた僕だったが、唐突にルルがそんな事を言った。

 え……えちょ、ルル!? いや、事実だけど、ちょ、まだ初めましてなのにそんな事伝えちゃうの!?


「親である俺に会わずか?」


「……ん」


「ひょぇっ!?」


「っ!?」


 そして低い声を出すモクリサさんにも全く怯まず、僕の腕にしがみついてきた。

 ちょ! ぇ、ちょ急に! ひぁっ! ぁ、 頬が腕に当たって……へにゃぁ……!


「のっ! ちょ、危、落ち、落ちる! 惚けないで頂戴よ!」


「それなら、以後お見知り置きを。私はルルと申します」


 そして僕から離れ、お辞儀をした。

 ぁ……ルルの頬……あぁ……もっと堪能したかったのに……


「ち」


「え……」


「ん」


「じゃ、またな」


 するとモクリサさんは舌打ちをし、そのままずっと遠くにいた暑そう男の元へと歩いていった。

 え……何でそんな不快そうな顔してたの……?


「え……あ、うん……また……」


「ね? 照れ屋さんでしょ? 早くツルナギ君に会いたいのよねぇ」


 シメフムさんはニヤニヤしながら、モクリサさんの後を追いかけて行った。

 いや、明らかに居心地が悪かったから離れた、って感じに見えたけど……えっと、ツルナギさんが入院してる人なのかな。


「……」


 そして惚けていた僕の手を掴みながら、ルルは小さく微笑んだ。

 そうだ、後でちゃんと放校の件も報告しておかないと……いや、でも僕が別世界の人だって分かっちゃうし……


「い、行こ?」


「……うん……」


 うん。後で考えよう。どうでもいい。ルルの顔をもっと集中してみたい。


「ルル先輩」


「ん……?」


 と思った瞬間、フルキさんが集中を乱してきた。こちらは見ず、歩きながら。


「さっきの襲撃の時。最初、逃げてる女性の方を助けようとしてましたよね?」


「えと……うん……」


「もし、逃げてたのがムキムキマッチョの男性だった場合。同じように逃げてる方を助けようとしましたか?」


「え……あ……あぁ……」


 ……ん……? どういう会話なの……?

 二人共真剣な顔で話を進めているけど、僕には全く分からない。何で逆にしただけで分からないになるんだろう……?


「か弱い女性を助ける……まぁ、向こうの世界ならよくある考え方ですけど」


「え……よくあるの?」


 そしてフルキさんの発したその謎発言に、僕は更にハテナを浮かべた。

 確かに体格の際でそういうのはあるかもだけど……何故態々そんな絞り込むように……?


「レン先輩は知らないと思いますけど、漫画とかラノベとかだとベタ中のベタな展開なんですよね……」


「ベタなの……?」


 フルキさんの説明に、僕は全くピンと来なかった。

 ライトノベルの事は詳しくないから分からないけど……でも僕が見てた漫画にそんなシーンあったっけ……? 全然覚えてないや。


「でもルルが見――


「パンを加えて「遅刻遅刻」って言いながら曲がり角でイケメン転校生とぶつかるぐらいベタ」


「え……そんなに!?」


 余程キョトンとした顔をしていたのだろう。ルルが人差し指を立てながら、補足するように説明を加えてくれた。


「ま……まぁとにかくですよ」


 するとフルキさんはこちらを振り向いた。ミチルちゃんはフルキさんの方を見て、次の言葉を待っている。


「この世界では性別や体格、背丈等で態度を変える人は基本いません」


「うん」


「です」


「でも別世界の人は、そこを加味して判断する人も少なくありません」


 そして相槌を打ちながら話を聞き、僕は漸くフルキさんの言いたい事を何となく理解した。


「郷に入ってるくせに郷に従わないって事?」


「ですね」


「なるほど……」


 僕の言葉に、フルキさんが小さく頷く。

 見た目……向こうでは当たり前に行われる判断基準も、こっちの人達には馴染みが無く、あまり快くは思わないのだろう。


「多分ですけど、別世界の人が嫌われてる理由はそこだと思います」


「あー……そういえば野蛮ってサリム君が言ってたっけ……」


「まぁ、それが全てとは言いませんけど。俺的には関係性は大きいと思います」


 前回召喚した人がどんな事をしたのかが少しだけ分かった気がする……どっちにしろ、悲しいって気持ちは変わらないけど。


「だから……ハヤタさんにキューブと別世界の差異を教えておいて、ってお願いしておけば良かったですね」


「性欲皆無も結構重要」


「見た目とか性別とか、そういう系が大きく異なってますからね」


 そして前へと向き直り、フルキさんは少しため息を零しながらそう呟く。

 ん……前も思ったけど、僕って無知なのかな……? 確かに差異はあるけど、まさか教育レベルで違うとは思わなかった……


「思ったのです」


「ん?」


「子の国と姐の国を見せたらどう思いそうです?」


 するとミチルちゃんはフルキさんの腰に抱き着き、唐突にそんな提案をした。

 何故何の前触れも無く抱き着いたの、とかいう事は言わない。でもそっか……今の話を聞く限りだと、その二つの国について触れておく事も重要かも。


「ん……社会科見学的な意味でもありかもしれないね」


「ふふん」


「えっと……この国とその国……? って、何? 社会科見学?」


 と、その二つの国の存在を知らないルルが最高の角度で首を傾げながら、僕にそう聞いてきた。


「端的に言えば、子の国は老若男女問わず、童顔低身長の人が住む国です」


「わぁお」


「姐の国は……乙女心……? ですかね。老若男女問わず、乙女チックな人が住む国です」


「わぁお」


 説明が雑すぎる気がするんだけど。ミチルちゃんもちょっと驚いたような顔してるし。ルルも「わぁお」しか言ってないからもっとやって。


「明らかに環境が違うから、そんな場所に召喚者達を連れて行くのは良いと思うのです」


「確かにね……そこも含めて、ちょっとハヤタさんに連絡してみよ」


 そして僕はスマホを取り出し、


「召喚者達に、見た目や性別、体格等で判断するのは止めて、と教えておいてください」


「スマホ大きいですね」


「レンが小さいだけです」


「後、子の国と姐の国に連れて行くのも検討して欲しいです。お願いします」


 と入力した。


「どう……?」


 そして送信せず、その画面を三人に見せた。三人は画面をじっと見つめていたが、


「突然すみません、とか入れておかないのですか?」


「後、何でそう考えたかの経緯とか」


 軈てルルとフルキさんがそう提案した。

 まぁでも、訂正箇所はそのぐらいね……なら大丈夫かな。


「ハヤタさんなら問題無いよ」


「……あの人、レンにとってはどういう存在なの……?」


 僕はスマホの送信ボタンを押し、メッセージを送った。そしてスマホを虚空――


 ぶわあぁぁっ


「んぇっ!?」


「くぁ!?」


 に仕舞おうとした瞬間、スマホから例の着信音が響いた。僕は慌ててスマホの画面を見た。


「え、返信早っ!?」


 そこには「ハヤタ会長からメール。開く?」という文字が浮かんでいた。

「前世はなんじゃろな選手権! 今回からは!」

「私、ルルもメイン司会者です」

「やったああぁぁああああっ!」

「レン……?」

「で、今回のゲストはこの二人」

「美少年のハヤタ!」

「美少女のマユカ!」

「暫く全く登場しないのでこちらで騒ぐそうです」

「言い方に刺がある」

「温度差もエグいわね」

「というわけで、次回からはフルキさんとミチルちゃんに関するやつをやります」

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