1.54 土の国は自然豊かで人も蔓延る街です。説明ばかりで話が進まんのをどうにかしたい
今気がついた。この国についてまともに説明したの初めてな気がする。
八時十五分。
偽の王城の目の前には大きな建物がいくつも並んでおり、奥があまりよく見えない。右も左も、形も大きさも違う建物が、等間隔で並んでいる。そして人が通れるほどのスペース……道路のようなものがある。整備されており、車が無い世界なので人が通るにはかなり広いスペースがあるが、今は人で埋まっている。
「っと。離れないように気をつけて」
「レンの方こそです。小さいから迷子になるななのです」
「はいはい。変な意地を張らなくていいから」
「は?」
そんな都会の雰囲気を纏っているが、下を見ると緑色が広がっている。一歩踏み出すと、ザッ、という軽々な音が聞こえてくる。視界いっぱいに人がおり、走って移動するのは困難だろうという状況なので、今この場は少しうるさい。ザッザッザッザッという音が四方八方から鳴り響いている。
時間的に通勤通学の時間帯かな。一時間後ぐらいには人も減るかな?
「こういうの見ると、電車が欲しくなりますね」
偽の王城を出た僕はドウルさんを担いでいるミチルちゃんとフルキさんの後ろを、ドバイさんを左手でおんぶしながら右手でルルと手を繋ぎ、建物のすぐ目の前……前の世界だったら恐らく歩道だったであろう位置……を歩いていた時、不意にフルキさんがそう話し出した。
「確かに……今回のとは関係無しに、欲しいとは思いますね」
「な……無いんだ」
僕は道の中央に目をやり、フルキさんの意見に賛同する。
あ、ルルがやっと喋ってくれた。今のうちにぐいぐいいかないと。
僕はルルの方をバッと見る。
「そう、無いんだよ。路上電車も無いから、もう本当に歩くことしか出来ないんだよね」
「人力車はありますけど……この人の数じゃ、乗せてくれなさそうですよね」
「うはぁ……」
ルルは溜息にも似た声を出した。恐らく、これから暫く歩きっぱなしになるということが分かり、落胆しているのだろうか。
電化製品は普通にあるのに……技術がまだ足りないのかな……? 冷蔵庫とかドライヤーとかは回路を組み込めば何とかなるけど、大きなモノを動かすってなると大変になるのかな。車も無いし。
「ん……安心して! 疲れたら僕がおんぶするから!」
「その場合、私は引き摺るのかしら?」
「え、あ、いや……そこまでしなくても大丈夫」
僕の提案に、ルルは困惑しながら遠慮した。少し苦笑いをしている。
そっか……歩きたいなら別に止めるつもりはないけども……でもちょっと寂しい……
「今からカオルを助けに行くつもりですけど……その前に、確認しても良いですか?」
「ん? 何?」
そんな朝の喧騒の中を歩いている時、フルキさんがこちらを見ずに話し始めた。
いつもと違って一段階低い声色……何か重要な確認をするのかな……?
「お二人は……カオルについて、どう思いますか?」
そして一瞬間を置いてからそう聞いてきた。
「どう……?」
「その……えっと……」
「……ん?」
僕は質問の意図が分からず、聞き返した。
どう思う……? と、言われても……一日しか一緒に居た事がないから詳しいことは分からないし……強いて言うなら横に並ばないで欲しいぐらいだけども……いや、それはフルキさんにもハヤタさんにも言えることだし……
「カオルは……その……一応、お股に棒と玉を持ってはいますが心は女の子なんです……」
「棒と玉……?」
「男の子って事」
「え、男の子って事なの!?」
そして今度は少し恥じらいながら、そんなことを言った。
つまり、男の子なんだけど心は女の子……って事? それについてどう思うか、って事……? というか棒と玉って言い方も流行ってるの? この前の「り」もそうだったけど……もしかしてこの人、流行の最先端にいる人なの!?
「まぁ、聞きたいことは分かった」
「……」
「正直に言えば……」
「……」
質問の意図を理解した僕は、間を開けず、思った事を率直に言うことにした。未だ前を向いているフルキさんの方を見て、僕は口を開く。
「どっちでもいい、かな」
「っ!?」
そして僕の考えを、嘘偽りなく、端的に伝えた。僕の発言に、フルキさんはこちらを向き、口をパクパクさせている。
「えと、その……カオルは、さっきも言ったように、心は女の子です……可愛い人や物が好きな、ただの……」
「……」
「だから出来れば……女の子として、接して欲しいんです……」
「……」
そして僕の方を見て、静かに、懇願するようにそう言った。
あ……確かに「どっちでもいい」はあんまり良くない言い方だったかも。いや、でも……
「……残念だけど、相談する相手が違うよ」
「……はい?」
僕はフルキさんの目を見てそう言う。フルキさんは悲しそうに僕を見つめ、ミチルちゃんは驚いたような表情で僕を見つめている。
「例えば、マユカさんが男の子だったとしても、ハヤタさんが女の子だったとしても」
「……え……?」
「僕は今と同じ接し方をしていたよ」
「っ!?」
僕の言いたいことが伝わったのか、フルキさんは目を見開き、声にならない言葉を出した。ミチルちゃんは未だ理解していないのか、怪訝そうに見つめている。ルルは何も言わず、無表情で僕を見つめており、その澄んだ目が僕の劣情を激しくくすぐる。頑張って耐える。
「言っちゃえば、僕の区分はルルかどうか。後は仲の良さとかで変わる。それだけだよ」
「っ!?」
「っ!?」
そして続く僕の言葉を聞き、ミチルちゃんとルルも声にならない言葉を出した。特にルルは恥じらいからか、目を大きく見開いている。
「ちょ、よ、よくそんな恥ずかしいこと!」
「恥ずかしいけど事実だもん。僕の判断基準は性別じゃなくてルルか否かなんだもん」
「ひぇぁ……」
そして僕の顔を覗き込むように詰め寄った。顔を赤くして詰め寄るルルもイイ。
「まぁとにかく。カオルさんの性別はあんまり気にしてない、そういうこと」
僕はそんなルルをガン見しながらそう言う。
実際、この問題はカオルさん次第かなって思う。カオルさんが女の子として振る舞いたいなら別にそれで良いし。
「男だとしても女だとしても関係ない。一人の「カオル」っていう人として接するつもだよ」
「……気持ち悪いとか、思わないんですか……?」
「それ、僕に聞く?」
「え……どういう意味ですかそれ……?」
そして僕の言葉を聞き、掠れるような声で的はずれな質問をした。
見てよ僕の容姿。自分の意思で髪の毛伸ばしてんだよ? こんなことしてる人がそんな感情抱くの?
「でも敢えて言うなら……」
と、僕はそこでルルから視線を外してフルキさんの方を見た。急にこちらを見たからか、少し驚くような表情をした。
「……」
「今現在、こうやってフルキさんと普通に接してる。それが僕の気持ちの答えだよ」
「っ!?」
そしてなんの迷いも無く、僕はそう言った。僕の言葉に、フルキさんは足を止め、僕の顔を見る。フルキさんだけでなく、ミチルちゃんも目を見開いている。
「そうですか……」
「……」
「……ありがとうございます……」
「お礼を言われることなのかな……?」
少し泣きそうな、けれど嬉しそうな顔で、フルキさんは僕にお礼を言った。
「そうだ、レン先輩について幾つか気になる事があったんでした」
人の数が少しだけ減り、歩くペースも少しだけ上げたその時、フルキさんがそう話し始めた。
「ん、何?」
「レン先輩って、アリサちゃんとどういう関係なんですか?」
「……」
そして一発目から不快になる質問を投げかけてきた。
あ、違う。フルキさんは純粋に気になっているだけだから、不快になるのは違う。けどまぁ……別にもう隠さなくてもいいかな。
「一応、前世で婚約者だった」
「……ん?」
「……え?」
「……のふ?」
そして僕の言葉に、三人共同じような反応をした。
まぁ、知らなかったら驚くよね。
「は……え、嘘ですよね?」
「本当。お互い言いふらさないって約束だったから、知らなくてもおかしくはないと思うけど」
「噂では聞いた事がありましたが……まさか本当にいたとは……」
「え、何でそんな噂があったの?」
おかしくない? え、誰が流したのそれ? 誰も得しないよその噂?
するとルルが僕の目の前に立ち塞がった。少しだけ涙ぐんでいる。
「じゃあ……え……私って二番目の女……?」
「っ! 違う!」
そしてそんな勘違いをした。
っ!? ルル!? 何考えてるの!?
「もう向こうの世界とは違うし、婚約者とかそういうのはやめようって言ったから!」
「うぉんっ……!? ほ、本当……? 本当なの?」
「本当だから! 僕はあの女何て大っ嫌いなんだから!」
そしてルルの手を強く握り、そう答える。フルキさんが目を開きながらこちらを見ている。
何もう! 僕がルル以外の人間に興味を持つとでも!? 何ならあの女だよ!?
「……なら……信じる……」
本当!? ねぇ! 信じるよ!? 僕はルルしか見てないからね! ねぇっ!
「き……嫌い、何ですか……!?」
「はぁ……まぁ、大方猫でも被ってたんでしょ。あの女はただのクズですから」
「そ……そんな言います……?」
未だ受け入れられないからか、僕の「嫌い」という発言に、まるで自分の事のようにショックを受けている。
まぁ、あの女なら繕っててもおかしくなさそうだし……というかさ……
「カオルさんがいなくなった事について報告しなかった時点で察してよ」
「いや、まさかそういう事をする人じゃないと思ってたので……」
「とにかく。あの女……アリサの本性はクズだから。関わらない方がいいよ今後」
そしてフルキさんの方を見て、僕はそう忠告をした。フルキさんはまだ迷いがあるからか、僕の言葉には返答せず、下を向いた。
「それと……」
「ん……」
「あ、話は変わりますよ?」
「え、急、急だね」
先程までの声色は何処へやら。また少し明るめの口調で次の話題へと転換した。
そんなに僕に聞きたいこと沢山あったの? 何かゴメン。
「その……もしかして、前世は三つ子……だったんですか……?」
「んぇ!?」
「ん!?」
が、今度は不快とかそういう分類の質問では無かった。
え……何で……!? 前世で関わりが無かったはずのフルキさんが、その事知ってるの!?
「何で……何でそれを……!?」
「もしかして僕って、どっかで会って……」
「……事実なんですね……」
僕だけでなく、ルルも僕と同様に驚いている。僕達の反応を見て確信を持ったのか、フルキさんは小さく呟いた。
「……部活で帰りが遅くなった日……冬だったので、街灯が灯る程暗くなってた日です」
「……ぇ……」
「……路地裏……だったかな?」
記憶を辿るかのように顎に手を当て、ゆっくりとした歩みになる。僕も釣られてゆっくりと歩き、フルキさんの次の言葉に集中する。
「レン先輩と同じ顔の人が二人……刺殺されるのを目撃しました」
「……ぇ……」
「犯人はフードを深く被ってたので、どんな人なのか……性別すら分かりませんでした……」
そしてフルキさんの言葉を……十七年程前から有耶無耶になっていた真実を聞き、僕は絶句した。
刺殺、されたの……!? それも路地裏で!? そんな目立つ所で!?
「嘘……!?」
「本当です」
「嘘……嘘っ!」
僕の言葉も即座に否定される。
何で、だってそんな、行方不明だったのに……何で見つからなかったの……!? いや、それよりも、それが本当なら何で父さんは……!?
「一人は既に動いておらず、もう一人は俺の方へと這い寄りながら……助けて、と……」
「っ……」
「ん」
するとルルが僕の頬に手を伸ばし、何かを拭うように撫でた。
ぁ……泣いてたんだ……ん……
僕は頬に触れているルルの手をガシッと掴み、動かないようにする。
「え、えちょ……」
「……その、すみません……もし本当に三つ子なら、話す意味はあるかと思ったので……」
「ん……うん、ありがとう……」
「その……はい……」
僕は二人の最期を知ることが出来た……それだけで……うん。
僕は小さくお礼を言う。フルキさんは少し俯きながら小さく返した。
そうだよね……フルキさんも、リンとナナの二人と同じ被害者なんだもん……僕よりもよっぽど辛い体験を話してるんだもんね……
「お、思ったんだけど!」
「ふにゅっ!?」
「レンみたいに耳とか尻尾を出してる人っていないんだね?」
そんな重い空気を察知したのか、ルルが突然大きな声でそんなことを聞いてきた。
あ……ん……心配させちゃった……ごめん……
「えと……まぁ、アンスロだったとしても出す人は少ない方だと思うよ」
「そうなの?」
「うん。フェザーとマーなんて出さない人が殆どだし、そもそも出すこと自体が少数派だもん」
「ふ……え、フェザー? マー?」
僕はそれに応えるように説明する。
まぁ、耳はまだしも尻尾は邪魔になりそうだし。フェザーは腕、マーは脚が変わるからね。生えるじゃなくて変わる、だもんね。
ルルは聞き慣れぬ単語に首を傾げ、復唱するように呟いた。
「あ、フェ――
「あ、説明は俺からいいですか?」
「え……何……何でそんなに横取り……」
「レン先輩よりも分かりやすくできる自信があるからですよ」
そしてその単語について説明しようとしたその時、何故かフルキさんが会話に乱入してきた。
え、ちょ、何でそんな、自信とかそういう、えええ……
僕は仕方なく一歩下がり、ルルに説明できる権利をフルキさんに譲った。むぅ……
「まず、フェザーというのは」
「あ……は、はい」
そんな僕の行動を見て、フルキさんはルルの方を見ながら説明を始めた。後ろ歩きになっている。
「まぁ、ハーピー的な奴だと思って構いません」
「え……何それ」
そして謎の単語を発した。
……ハーピー……? ん? 向いてる向いてないとかじゃなくて……ハーピーって何……? 幸せ? いや、微妙に違うか。
「な、成程……」
「え……何で分かるの……!?」
が、何故かルルは伝わったようだ。頷いている。
……え嘘でしょはぁっ!? え、何っ! 何で分かるの! え、ええぇ……
「で、マーは」
「はい」
「まぁ、人魚的な奴ですね」
「成程……」
そしてマーの説明もまた単語一つのみだった。
狡っ。僕はルルの為に色々考えてたっていうのに……でも、うん……人魚ならギリ分かる。あれでしょ? あの、上半身が人間で下半身が魚の、あの……マーみたいな人種でしょ?
「あでも、マーの方はちょっと説明は必要ですね」
「ん?」
「マーは、水の中で呼吸ができる、とか水中で素早く移動ができる、とかの定番なもの以外にも出来ることがあるんです」
「ほ……ほうほう」
そして補足付き。
意外とやるじゃん。まぁ人魚的な奴、っていうなら確かに……
「それは、地面の中にも潜る事が可能、という事です」
「……え……?」
「あ、正確には自然物のみですね。人工物には潜れません」
地中に潜れるっていうのはあんまり想像がつかないよね。空を飛べるフェザーと地中を移動できるマー。両人種とも移動が楽そう。
アンスロとフェザーとマー。よく良く考えれば陸空海で分かれてんだよね。亜の国はその三人種が多く住んでる国だし。バランス良い国だよね。
「え……水属性のみならず、土属性も持ってるの……?」
「この世界に属性という概念は無いですが……まぁ、確かにそんな感想は抱きますよね」
属性とは一体……?……まぁでも……ルルが理解してるなら良いかな……うん……もっと勉強しないと……
「えじゃあ……下から覗き放――
「題って思うかもしれませんが……実際、そんなことをする人はいませんね」
「いない……?」
「はい。そんな如何わしいことをする人は、そもそもいないんです」
確かに地中から顔を出せば下から見上げることは出来るけど……覗く……? 下から覗く如何わしい事……? いかが……ん……? スカートの中でも覗くの?
「……昨日も思ったけど……」
「はい?」
するとルルは地面を見つめながらそう呟いた。
Attractive。
「もしかしてこの世界にいる人たちって……性欲が無いの……?」
「……」
そして直球で、そんな質問をした。
「概ね、そうですね」
「マジか」
「あ、少し違いますよ。好きな人に対してド変態になるという人もいますので」
「マジか」
「事実だとしても僕を見ないでよ」
attractive.
というかタイトル通りだとしても情報量多すぎる。頭まともに使ってないだろこの作者。




