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あいに溢るる  作者: 手石
共愛を求め狭隘な心を持った狂愛な少年
6/103

1.6 ササッと流した十六年

因みにこの作品、顔や服装の描写が極端に少ない人は再登場の可能性が低い傾向があるんですよね。

 モクリサさんに魔法もといスキルについて教わり始めて二ヶ月経った時、


「ヤベェな。教えてから二ヶ月しか立ってないのに、イロハだけじゃなくニホヘトまで完璧にこなしてやがる……!」


 と、モクリサさんは驚きの声を上げていた。

 ニホヘトって何?


 そこからさらに四ヶ月、教わり始めてから半年ほど経った時、


「うぉぉぉぉ! こいつはやべぇ! 教えてからたった半年で、俺でさえ覚えるまでに一年はかかったこの鏡のスキルを、こうもいとも簡単に操れるようになるなんて! 天才だ! 天才がいる!」


 何でそんな分かりやすいぐらいの説明口調なの? 誰に向けての説明なの?









 モクリサさんは意外とおかしな人だった。


 例えば、この世界では空間を操るスキルがある。このスキルだけは誰でも使えて当たり前らしい。


 曰く、日常生活でも応用がしやすいのだという。物の出し入れ程度なら簡単に出来るので、スキルを扱うのが苦手な人でも、空間スキルは必ず覚えるのだそうだ。普通は生物以外なら様々なものを出し入れできるらしい。だというのに僕が初めて使った時、


「なにぃ! 空間スキルを使えただとぉ! よぉし、今夜は碧飯だ!」


 不思議なくらい喜んでいた。ガッツポーズしてた。

 これがあの親バカってやつかな? 前の世界だとあんまり味わってなかったからなんか新鮮……というか、


「何ですかそれ……ブルーベリー味のご飯ですか?」


「正解だ!」


「……美味しいんですか?」


「まずい」


「何故そんなものを食べさせようとするんですか!?」


 ごめんなさい。流石に青色のご飯は美味しくなさそう……









 そんなこんななんやかんやあって、僕は十七歳に、落命した時と同じ年齢になった。拾われた時とは違い、今の僕はふさふさの耳は隠している。長く伸ばしてる髪の中に。折りたたみ可能な耳だった。便利。


「その長髪、流石に邪魔じゃない?」


 一度、モクリサさんにそんな野蛮な事を聞かれたことがあった。

 まぁ、髪の毛の手入れは大変だけど……


「いや別に。むしろ長い方が良いの」


「そう? なら良いけど」


 邪魔だとか何だとか、そんなもんは知らん。ルルちゃんが好きだと言っていたこの長髪を切ってたまるか。


 アンスロ特有のこの耳は危険な代物だった。触ると不思議な感覚が体を襲う。遊び半分で触られたら溜まったものじゃないって感じるほどにだ。


 ちなみに尻尾は耳とは違い、仕舞う事ができた。折りたたむのではなく。仕舞う……どういう原理かは分からないけど、出し入れができる……? 自分で言っといてあれだけど、何を言ってるのか分からないやこれ……






 僕は制服に袖を通す。

 この制服、僕が元いた世界には絶対に無いであろうデザインだな……かっこいい……普段着にしたい……無理だけど……


 ピンク色で袖の長いTシャツ。少し可愛らしいデザインだけど、今は冬だから茶色いVネックセーターを着ているから今はあまり気にならない。

 そしてその上に大きなカーディガンを羽織っている。表が黒色、裏が赤色。ボタンが一番上にしか付いていないので、ヒラヒラしている。あ、違う。多分これマントだ。めっちゃ良い。

 下半身は細長くて脚全体を覆う黒いパンツ……確かスキニーパンツだったはず……と、黒色で脚全体を覆うスカート……確かプリーツスカートだったはず……のどちらかを選べるので僕はパンツを選び、履いている。

 そういえばこっちの世界だとスカートを短くする人がいないんだね。「マキシ丈とか嫌だわ。ミニになるように折るか」みたいな事を考える人がいないのかな。

 パッと見はあまり制服には見えないけど、これが当たり前らしい。実際、首元には赤いリボンが付いてる。ここだけ不服。何故男子もリボン。ネクタイじゃダメだったの?


「いってきます!」


 僕はモクリサさんに向かって大きな声で言った。少しだけ風が吹いているので、長い髪が静かになびく。

 生前とは違い、さほど大きくない家。それでも長い間育ててもらった、大切な人の家。その家の玄関の前にモクリサさんは立っている。


「いってらっしゃい」


 モクリサさんは優しく返してくれた。


 この十六年間は、はっきり言って辛かった。あの時とは良いところが違い、悪いところが同じだったのだ。

 でも、今は生きる目的がある。

 十六年間、何度も僕を助けてくれたモクリサさんに恩を返すこと。それまで僕は絶対に果てない。そう誓った。








 こっちの世界にも学校はあった。だからある程度の常識は学校で学べた。

 十歳から十五歳までは、モラルや歴史、基礎知識等を学ぶ低校に、十五歳から十八歳まではより実践的なことを学ぶ高校に通う。


 女神さんが詳しく教えてくれなかったのは、学校があったからなのかな? って思ってしまったが、多分違うだろう。あの人のことだ素で忘れてたのだろう。


 別世界の学校、ということで、最初はワクワクしていた。でも実際は違った。授業内容は違えど、本質的にはあの時と同じような、変わらない毎日だ。入学当初は、いろんな人と話してはいた。けど、気がついたら周りには誰もいなくなっていた。










 僕が通っているのは優等高校という名前の学校だ。名前の通り、ここに入学する人達は優秀な人達ばかりで、いわば進学校のようなもの……なのだが、授業についていけず中退する人が続出しているらしい。

 何がすごいって、この高校には第一校舎と第二校舎があるんだけど、両方とも十階まであるんだよね。専門学校と合併しているとはいえ、広すぎだよね。

 そして、僕が今いる場所は第二校舎一階の最東にある教室。ここは実験室。教室とは違い、細長い机が並んでいる。ここでは主に自分のスキルの手助けをしてくれる、技補器、という道具に関する授業が行われている。


「まず、技補器が何かについての復習だ」


「僕達が使用するスキルを直接補助する道具です」


「使い方は?」


「技補器の中にある蒸気を吸う。もしくは浴びる」


「この学校の何処にあるか」


「至る所にありますが、一番近くだと教室を出てすぐの小さな扉に技補器があります」


「使用例」


「これは火事が起きた時、または不審者侵入時に使用します」


「完璧だ」


 先生の言葉を聞き、僕は席に着いた。

 一問一答のような形で説明するだけ……とはいえ、こういうものは普通に緊張する。

 

「それじゃ、今日はそんな技補器を作ってく。必要なものは机に置いてあるから、ペアで協力して作ってみろ」


 長い髪を揺らめかせながら、前方に立っている先生は言い放った。目の前に置いてある細長い机の上には色とりどりのコンデンサと大きくて丸い箱、そして鉄鉱石と赤紫色で短い草が置いてある。


「何これ……全然分かんない……」


 周囲からはそんな呟きが聞こえる。

 おかしい……先月習ったばかりなのになんでそんなに首を傾げるんだろ。確かに複雑かもしれないけどもさ。


「復習がてらのつもりだったんだが……できた人から私に言ってくれ。分かんないことがあっても私に言ってくれ」


「え、あ……」


 僕の隣に座っていた少年、メリダ君も分からないのか、小さな声でたじろいでいる。

 というかあの先生、私に聞いてくれとか言ったくせに椅子に座った瞬間頭を教壇に乗せて眠り始めたよ。聞きに行けないじゃん。


「はぁ……メリダ君」


「ぇ……」


「まずは赤と青のコンデンサを繋いで」


 僕は左手でコンデンサを持ちながら、ペアでもあるメリダ君に小声で教える。


「あ……ありがと……」


 そう言い、赤と青のコンデンサーの先を掴んで、


 ジュッ


 熱そうな音を出しながらくっつけた。

 簡単でシンプルなことだけ、とはいえハイテクな世界だよね。はんだごて代わりにスキルを使うんだもん。


「えと……」


「んで、次に罪詰みをここに繋げる」


「あ……りがと……」


 罪詰みとは、大雑把に言えば手錠だ。これを両腕に付けると、動きづらくなるだけでなく、悪い事をした人が付けるとスキル等が扱えなくなるのだ。それまでの普通の手錠は悪いこととか関係無しにスキル等が封印されていたから、中々の躍進だよね。罪詰みはここ数十年で普及したもので、主に犯罪者に取り付けられている。神からの授かりものとか言われてる。何で?

 友達が完全にゼロになった、といっても、誰かに何かを教えるということは頻繁に行っている。何かを教えるのは好きだ。こうやって「ありがとう」って言葉を聞けるから。











 ゴーン……ゴーン……


 授業が終わるチャイムがなった。少し重々しい雰囲気があるチャイムだ。


「終わったのは……メリダとレンのペアだけか。終わってない人は再来週の授業までに作っておけ。今度使うから」


 そう言い、


 ガララ

 ドン


 と、音を立てながら実験室から出ていった。挨拶すらしない先生。しようよ。


「無理難題を押し付けやがって。死に晒せ独身くそババア」


 だからなのかは分からないけど、そんな声が教室に小さく響く。

 怖。平気でそんな言葉を出せるとか恐怖。

 僕は自分の荷物を持ち、関わらないようにそそくさと教室を出る。

 えっと、次は……体技術だっけ。じゃあ更衣室に直接行かないと。というか、まだ三階に跳んだり飛び降りたりも怖いし……あ、そういえば、そろそろチームで殴り合うって言ってたな。ちょっと怖いなぁ……


「レ、レン君!」


「んぁっ!?」


 教室を出たところで、背後から大きな声で誰かに呼ばれた。


「あ、ど、どうしたの?」


 振り向きながら声の主を確認すると、そこにはメリダ君がいた。


「あ、えと、今日もありがと……」


 もごもごしながら僕の隣に来てお礼を言った。メリダさんはいつもこんな調子だ。教えている時も終わった時も「ありがとう」とずっと言うのだ。


「あ、いや、別に。メリダ君、困ってたし。それに教えるのは好きだし、大丈夫だよ」


 メリダさんの方を見ながら、なるべく不安にさせないよう微笑みにながら言う。

 でもそうだな……強いて言うなら、隣に立たないで欲しかったかな。


「あ、あの……」


「何かな?」


「……やっぱりなんでもない! また更衣室でね!」


「ん……? うん」


 そう言って、教室へと早歩きで行ってしまった。

 いつもそうだ。メリダ君はいつも、何かを伝えようとする度に「なんでもない」の一言で濁してしまう。

 いつか聞けると言いけども……いや、毎回思うだけの僕も悪いんだけども。


 こんな毎日のまま、僕は二年生に進級した。二年生になっても相変わらず同じような日々。そんな僕だったが、学校内で楽しみなことが一つできた。

どうでもいいけどメリダ君、最初は女の子にしようかなって思ってました。レン君はモテモテ的な。でも何か、よう分からんけど男の子になってました。スカート履いてます。何で男の子になっちゃったの……?

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