1.51 肺と心臓
前回までで感じた事。
「二日に一回とか何処が牛歩なん?」
ゾロ目の日に再開どうもすみませんおまたせしました。半年開けての第二章の投稿です。
\('ω')/ネンナイニトウコウデキタヤッタァ
某月某日。十七時過ぎ。季節は多分冬なので外が暗い。
そんな中、車のライトと該当を頼りに崖際の道路を走る一台の小型車があった。
運転席には、茶色い髪の毛を踝まで伸ばし、前髪を眉毛まで伸ばしている青年。恐らく脚が長いのだろう、座高は低く見える。が、容姿は少し幼く見える。大きな瞳は左目が黒、右目が赤色。そして少し丸い輪郭。恐らく中学生ぐら……ん? あれ、でも運転してる……? え、童顔すぎない?
「揺れは大丈夫?」
「えぇ。あ、でも私じゃなくてこの子……激しいと起きちゃうかも……」
「そっか……じゃあ、もう少しゆっくり走るね」
そして青年は、後ろの席に座っている二人に質問をした。後ろの席には赤ちゃんを抱いている銀髪銀目の女性、その隣には……レンの母親が、ベニヒメが座っている。
赤ちゃんの髪の毛は銀色で、暗い夜道で街灯の明かりを反射しているのか少し輝いて見える。左目は銀色、右目は赤色のオッドアイが特徴的だ。
「……そうだ、テルヨシさんの番組。今やってるんじゃない?」
「あ、そだね。ちょっとスマホ良い? ちょ、顔抓らないで」
「オッケー。その子、寝てても顔抓るの大好きよね」
ベニヒメはポケットからスマホを取り出し、何度かタップをする。そしてスマホを横に持ち、赤ちゃんを抱えている女性に近づける。女性も身を寄せベニヒメに近づく。
「……はぁ……」
「……しょうが無いよ……身を削ってくれてるんだから……」
「いや、まぁ……分かってるけど……」
スマホの画面を見つめながら、女性はため息をつく。カーブに差し掛かったからか、青年は車の速度をさらに少し落とし、ハンドルを傾けながらそう言う。
「そうだ。確か、暫く活動休止するって言ってたわ」
「え……!?」
「テルヨシなりに、キチンと寄り添うつもりなのよ」
「……そ……なんだ……」
そんな悲しそうな表情をしている女性を見兼ねたのか、ベニヒメはスマホを片手で持ち直しそう言った。女性は顔を下に向け、赤ちゃんを撫でる。どこか嬉しそうにも見える。
「……この子も、ワタルみたいに元気に育ってくれるかな……」
「くれるよちゃんと。あの子、まだ幼稚園にも通ってないのに元気だよね……」
「うちの三つ子達に負けないぐらい、元気に泣いて笑って育ってくれるわよ」
「……そう……」
そして赤ちゃんを撫でたまま顔を上げた。
ベニヒメの……三つ子……
「そだ。その子、何ていう名前なの?」
「あ、まだ言ってなかったわね」
と、ベニヒメが聞いた。女性はスマホを一瞥した後赤ちゃんへと視線を落とし、赤ちゃんの名前を言う為に口を開いた。
その後、対向車の脇見運転により、この車は吹き飛ばされ、崖から放り出された。
車に乗っていた四人のうち二人は即死。赤ちゃんは海に放り出され行方不明。もう一人は重症を負ったものの一命を取り留めた。が、車の下敷きになっていた故か、下半身不随となり、脚が動かなくなった。
小学校。校門に校舎に校庭に体育館のあるこの施設。まだ朝早い時間だからか、外は静かで中は少し握やかな雰囲気。
「やぁい。なんで男なのに女の格好してんだよ」
そんな校舎の二階にある二年二組の教室内にて。一人の少年が、ピンク色の膝丈のスカートを履いている少年……「男なのに」と言っているから少年なのだろうか……を指差し笑いながらそう言う。指差し少年の後ろにも、スカート少年を指差している少年が二人いる。
「な、何よ? 別にいいじゃない、可愛いんだから!」
「うわっ、こいつ口調まで女だぞ! 気持ち悪!」
大きな声で、周囲に知らせるように、少し大袈裟に振舞っている。その光景に、周囲からの視線に、スカート少年の瞳から透明な液体が見え始める。
「う、うる、さいわよ!」
「泣くの! ダサ! おい! 女の格好してる男が泣くぞ!」
「うるさ……ん……うる……!」
スカート少年は下を向き、軈て小さな啜り泣く声を響かせる。その姿に、指差し少年は嬉々として更なる大声を放った。
「はぁ……おい」
「……ん?」
「俺からしたら、お前の方がダサいぞ」
「は?」
スカート少年の背後から、誰かがため息をしながら近づいてきた。スカート少年と指さし少年三人が声のした方へと目を向けた。
「は、じゃねぇよ。そんないちいちダサいダサいって。お前の方が気持ち悪いわ」
「なんっ、何お前、こいつの方が気持ち悪いだろ!」
「何でだよ。可愛い服着てるだけだろバカなのかよ」
「っ! う、うるさいばぁか!」
そして背後から来た誰かに言い負かされた指差し少年は、泣きながら廊下へと逃げていった。その後ろから指差し少年二人も追いかけて行った。
朝なのに教室の外出てって良いのか……? すぐ授業始まらない?
「あ……の……」
「好きなことを好きって、そうやって堂々と貫き通せるの。俺は凄いと思うよ」
「え……あ、べ……つに、すごいなんて……」
「俺はこんな見た目なのにさ……」
「え……?」
そんな二人の……フルキとカオルの出会いから八年後。
とある通学路を歩いているフルキ。大きな灰色のリュックサックを背負い、白いシャツの上に腕を覆う紺色のブレザー、足首まで覆い尽くす灰色のズボンを履いている。
「おはよう」
学校へ向かう途中、フルキの後ろから声がした。男だと分かるが、少し高めの声。
「ん……あ、カオルか……おはよ」
「ちょっと、また眠そうな顔してるわね。また夜更かしら?」
「いえすあいあむ」
後ろからやってきたカオルは、瞼が上がりきっていないフルキの顔を見て、心配そうな声を上げる。フルキと同じ格好をしていることから、同じ学校に通っているのだろう。フルキはその声に、適当そうに返答する。
「はぁ……何度も言ってるじゃない。夜更かしのしすぎは健康の大敵って」
「寝たくなかったのだからしょうがない」
「だからってねぇ……」
何度も言っているのだろう、カオルは若干諦め気味にそう言う。が、真顔で見つめながらの返答に呆れたように額に右手を置いた。
フルキとカオルは並びながら登校するほど仲がいい。幼馴染故にだろう。
因みに、そんな仲のよろしすぎる二人に対し周囲からは「あの二人は恋人なのでは?」という声が頻繁に上がる。が、お互い恋愛感情はないと公言している。
(カオルはちっちゃくて可愛い人が好みだからな。俺とは正反対で逆に面白いんだよな)
(いやいや、そういうフルキちゃんこそ。小さい女の子が好みのくせに)
余程近い距離で過ごしたからこそ、そういった感情は無いのだろう。いや、カオルが母親過ぎるからなのかもしれない……実際、この日もフルキのお弁当を作って来たのだから。
二人は扉が開けっ放しになっている教室に入る。二人の名前はフルキとカオル。基本的に席の順番は、廊下側の前の席から名前の順に、後ろに並んでいく。席は名前の順で並んでいるので、二人の席が近くになることはあまりない。隣同士ならしばしばあるが。
「十月ももう終わるな」
「そうね……ん……何でこの学校には席替えが無いのかしら……」
「それはマジで思う」
故にフルキは自分の席に荷物を置くと、二つ左の列にあるカオルの席へと歩いていくのだ。
なんかこういうの……ちょっと憧れる……
「……改めて考えると、俺ら今まで同じ列になったことってないよな。不思議だよな」
「不思議かしら……? 同じ列になりたいなら改名すればいいじゃないの」
「それだと手続きとかが面倒なんだよなぁ……」
「そこじゃないでしょ。何簡単に真剣に悩んでんのよ」
「フ」と「カ」の関係性を、少し残念そうに語るフルキ。そんな姿に、フルキは雑な返しをする。
自分の名前を変えようとか、そんな発想パッと出る……?
「まぁ、私はアリサちゃんの隣だから別にいいけどね」
カオルは椅子に座り、自身の右隣にある机に目を向けながらそう呟いた。
「ア」で始まるアリサが「カ」で始まるカオルの隣にいる。それが余程嬉しかったのだろう、顔を綻ばせている。
「あらそうっすか良かったっすね」
「興味が無いからって返事が雑すぎよ……」
が、フルキはあらぬ方向を見ながら、早く終われとでも願うかのようにコクコクと頷いた。
「おーいフルキー。今日の数学の宿題、見せてくんない?」
「ん……えまたかよ……別にいいけど、自分でやろうって気持ちはないのか?」
「無い」
「嘘でもいい、あると言え」
するとカオルの背後から一人の少女が近づいてきた。フルキは自身の席に戻り宿題であろう、緑色のノートを机から取り出して少女に手渡した。受け取った少女は小さくお辞儀をする。
この光景、このクラスではよくあることだ。地味に頭が良く、そして真面目なフルキに宿題を見せてもらう人は多いのだ。フルキ自身も、これは自分のポジションだと自覚している。寧ろ謎に誇りに思っている。
「ちょっとあなたぁ。フルキちゃんに見せてもらってばかりじゃ、成長しないぞっ」
「黙れオネェ」
「ダァレがオネェよ!」
軈て人も増え、教室内のざわめきも増してきた朝の時間。
ガラッ
「おは」
「おはよっ!」
「んおー、カオルんは相変わらずの元気」
何故か今度は閉まっていたドアを開けながら、一人の少女……
「うぉぉ、アリサが来たぞ! 皆の者、祭りの準備じゃぁ!」
「ヘイヤァ!」
「ソイヤァ!」
「賑やかなクラスだな」
「賑やかで括っていいのかしら……」
……アリサが教室に入ってきた。心なしか教室全体の空気も明るくなっている。というか登校しただけでお祭り騒ぎだ。カオルの言う通り賑やかというレベルではない。
彼女は、このクラスの中心人物。誰とでも壁無しに接し、様々な人と仲を取り持つ、そんな女子。
「アリサちゃんとのお話は毎朝の楽しみ! うるさい子たちは置いといてさあっ!」
「今のカオルも十分うるさいぞ?」
「あはは……じゃあ、今日は、何の話をするのかな?」
カオルは椅子を横に向け、全身をアリサの方へと向ける。フルキは立ったままアリサへと視線を向ける。アリサはチラリとフルキを見やる。
「はっ! 興奮しすぎて何を話すか忘れたわ!」
「ええぇ……」
そんなことある? 興奮しすぎでしょ。
アリサは右手を頬に当て、肘を机の受けに置き、カオルを見ながら呆れながら目を細める。
「そういう時はこれ。駅ビルの中に放置してあった寒ブリの話が最適だ」
「ごめんなさい。流石に無理があると思うわ」
「逆に気になる……」
するとフルキが、そんな興奮中のカオルに助け舟……その綴られた言語を助け舟と呼んでも良いものかはさて置き……を出した。謎の発言に、カオルは真顔でアリサは苦笑いで答えた。
「ビルの中に寒ブリがピチピチ言いながら置いてあった、それだけだ」
「盛り上がらないわよそんな話!」
「ある意味続きが気になるぅ!」
そして駅ビルの中に放置してあった寒ブリの話の詳細を話した。案の定、謎しか残らない話のようだ。
というか気になるのかそれ……? アリサ、お前本当に気になってんのか?
「フルキ。これ借りてもいい?」
「あ、大丈夫だ」
「サンキューな」
そんなこんなで再び貸し出しの申し出。フルキに声をかけた少年は、フルキの机から何かを取り出していた。
「……フ、フルキ君、今何貸したの?」
「ん、検尿のやつ」
「何やってんのよあんた!? ちょ、待ちなさい、そこの検尿借りた人!」
「流石にそれは貸しちゃダメでしょ!」
先ほどの宿題や検尿のように、断る、ということをほとんどしない……度が過ぎているだろう。恐らく既に、今の関係性が彼女にとっての「普通」になっているのだろう。
「そいや……昔は可愛い服着てたけど、最近全く着てないよな?」
同日の帰り道。ジャンバーを着て静かな道を歩いているフルキとカオル。フルキは右側を、カオルは左側を。横並びで、歩道と車道の境目が無い道路の左側を歩いている。
そんな中、ふと思ったからか、フルキはカオルの全身を見ながら質問をした。
「まぁそもそも……昔から両親、私が可愛い格好するの気に入らなかったみたいなのよね」
「ん……」
「……可愛い服……お姉ちゃんから借りてたの」
カオルは自身の制服の袖に手を添え、フルキの方を見ながら説明をする。
「でそれがバレてね……家の中で可愛い服、着れなくなったんだよね……」
少し放心しているのだろう、フルキは小さく口を開け、呆気に取られたかのような表情でカオルを見た。が、すぐに口を閉じ視線を下へ向けた。
「まぁそれだけよ。どっちにしろお姉ちゃんの服ももう入らないもんね」
「……じゃあ、俺の家来るか?」
「ぇ……」
視線を下に向けたまま、フルキはそんな提案をした。カオルは目を丸くしながら立ち止まり、フルキの後頭部へと目をやる。
「あぁ……あ、今は持ってないからな? でも俺の家になら可愛い服があってもおかしくないじゃん?」
「え……え……!?」
「背丈も同じぐらいだし、大丈夫だろ」
「良いの……?」
「おん?」
そして同じようにフルキも立ち止まり、後ろ歩きでカオルの隣まで戻った。そのまま話を続けるフルキにカオルは小さく声を出した。
「んだってさ、カオルはまだ可愛い服着てたいんだろ?」
「ん……まぁ……そう、だけども……」
「ならだよ。俺にも協力させて」
「きょ、うりょくって……そんな、大層な事じゃ……」
嬉しかったのか、カオルは少し綻んでいる。が、未だ迷いがあるのか、自分を否定するように途切れ途切れの言葉を繋げる。
「大層な事だよ」
「んっ……?」
「諦めたくないって気持ちは」
「っ……」
すると、フルキはカオルの頭に右手を置き、優しく撫でた。突然かつ予想外のその行為に、カオルは若干反応が遅れながらも方を肩をビクつかせた。が、そのまま黙って、されるがままになっている。
というか、幼馴染とはいえ、よくそんな躊躇いもなく頭撫でられるな……尊敬するよこの人。
「じゃ、じゃあ……是非、お願いします」
「おう」
フルキの言葉に決心が着いたのか、カオルは目を逸らしながらも頭を下げる。フルキは嬉しそうに頭から手を離した。
「……俺も……部屋の中でぐらいは……」
「ぁ……うん……」
直後、呟いた。その呟きの意味を悟ったのか、カオルは小さく頷くのみでそれ以上は追求しなかった。
「じゃあ、そうと決まれば買いに行くか!」
「え……」
「そうだな……早い方がいいし、今週の土日とか空いてる?」
「っ……ん、うん!」
そんな約束を交わしたのは、十一月ももうすぐ終わる日。部活で遅くなったからか、街灯が照らす静かで暗い道路を歩いていた。既にカオルとは別れたのか、今は一人だ。
ガッ
「……ん……?」
いつも通りの道……だったのだが、何故かその日はいつもと違かった。もっと言えば、路地裏から変な匂いと音がした。
「……」
トットットッ
ザッ
フルキはその匂いと音の根源であろう場所の暗い路地裏へと駆け寄り、覗き込んだ。
「っ!?」
そこには、血まみれで倒れている二人の人間と、真っ白な服と顔の三分の一程まで覆っているフードに赤い染みを数ヶ所つけている人間がいた。
ザッ
「ぁ……」
「……」
「……ん?」
血まみれのうち一人はうつ伏せになりながら、フルキの方へと這うように動いていた。二人とも同じ容姿と髪質をしていることから、恐らく双子だと思われる。
見た目年齢は九歳ほどの美しい少年少女。低身長かつ童顔で左目が黒色、右目が赤色の、所謂オッドアイというものを持っている。そして自身の持つ茶色い髪をうなじが少し見える辺りまで伸ばしている。
やがて少年がフルキの存在に気がついた。
「助っ……あ、逃げっ――
ドスッ
「っ!?」
が、涙ながらの掠れた乞いも無残に散る。無慈悲にもその少年の背中を、鋭い短剣が貫いた。
「ぁ……ま……」
「……」
フルキは突然襲いかかってきた、自身とは無縁だと思っていた殺人という出来事に、思考回路を停止させ体を硬直させてしまった。が、少年を刺した誰かは次にフルキへと顔を向けた。
「ひぁっ……!」
軈て腰を抜かしてその場にしゃがみこんでしまったフルキを見つめ、ゆっくりと少年から短剣を引き抜いた。
そしてフルキにゆつくりと近づき、
「……」
「ぁ……」
ジュズッ
「がぁっ……!?」
心臓目掛けて、躊躇いもなく、まるで初めからそのつもりだったからのように、流れるようにゆっくりと、赤く染っていたナイフを差し込んだ。
ザッ
フードが深く更には暗い道。故に顔が見えなかったその人間。だがフルキを刺す直前、何故か笑っているように見えた。
「……ん……? 何だここ……? 見たことがない場所……いや、空間?」
「……お、来た。どうも、俺はヘレス。今あんたは――
「よし確認だ。俺は……フルキ……よし、大丈夫。名前さえ覚えいれば、大抵のことはなんとかなるからな」
「いやならねぇよ!? 甘く考えすぎだろ!」
「んぇっ!? え、いつの間に!?」
「え嘘、今気がついたのか……!?」
「ツンツン。ツーンツン」
木々に囲まれているこの場所で、とある女性が揺りかごの中で毛布にくるまっている赤ん坊の頬を、ツンツンと言いながらツンツンしている。
……何で口に出しながらやってんだこの人……?
「あ、起きたわね。おはよー」
すると、赤ん坊の瞼がゆっくりと開かれた。赤ん坊は少し驚いたように目を見開き、女性の顔を見つめている。
「お、おはよう……」
「うふふ、ご挨拶、よくできました。あれ、ご挨拶……?」
そして赤ん坊が返事をするように挨拶をした。なんとも異様で不可解な現象に、少し反応を遅らせながらも、女性は右手を頬に当て首を傾げた。
「うーん……気のせい、かしら……? ねぇ君、ばぶーとかおぎゃーとかって言えるかしら?」
気づけよ。はっきりと「おはよう」って言ったぞこの赤ん坊。というか言えるかしら、じゃねえよ。それで言ったらそれもそれでおかしいだろ。
「……ば、ばぶー。おぎゃー」
「うーん、聞き間違いだったのかしら。ちゃんとばぶーとおぎゃーって言ってるし、れっきとした赤ちゃんね」
なんでやねん。おい? お、この赤ん坊、十中八九赤ん坊じゃねぇよ? 気づけよ? 何をどう解釈すれば「れっきとした」赤ん坊になるの?
赤ん坊の方は「な、何とか誤魔化せた」とでも言いたいのか、ほっとしたかのような表情をしている。
「よかった……」
「へっ?」
「ばぶーばぶーばぶー!」
「うふふ。可愛い赤ちゃんね」
ほっとしてたわ。というか気づけよ女性。もうこの赤ん坊、おぎゃらない赤ん坊って気づけよ。モクリサは一発で気づいたぞ?
「やったわね。兄妹ができるわよ」
すると女性は自分の背中の方に向け、そう言う。よく見ると、何かを背負ってるようだ。恐らくそこに赤ん坊がいるのだろう。
「すぅ……すぅ……」
背中にいる赤ん坊は、顔は見えないが、寝息は聞こえている。寝ているのだろう。
「あらあら。嬉し寝しちゃったのかな?」
「ただのお昼寝だろ」
「あらっ?」
「おぎゃーおぎゃーおぎゃー!」
「うふふ、可愛いわ。お腹が空いちゃったのかな? 早くお家に帰りましょっか」
この人大丈夫かな? 何か雑なコントに見えるんだけど。というか嬉し寝って何だよ。
「ばぶ〜ばぶ〜」
すると今度はゆりかごの赤ん坊に近づき、突然ばぶばぶ言い始めた。まるで会話を試みるかのように……いや、流石に無いよね?
「ば……ばぶばぶ」
赤ん坊もそう解釈したのだろうか。同じようにばぶばぶと返した。若干不安そうに、戸惑いながら。
「ばぶ! ばぶばぶば!」
その言葉を聞き、女性は喜んだ。どうやら会話は成功したらしい。何だコレ?
「ば、ばぶー」
「うふふ、通じてる通じてる」
何だコレ? 一体この二人の間にどんなやり取りが行われたのだろうか……いや、多分赤ん坊の方は何も通じてないだろう。何を伝えたかったのか全く分かってないだろう。すんごい戸惑ってる。
「あらやだぁ。ミチルちゃんだと思って背負ってたけど、ミチルちゃんじゃなくて魔鬼者だったわ。えへへ」
「すぅ……はっ! んぅ……ぎゃふぅぅ」
すると今度は背中の赤ん坊……魔鬼者を見ながら、間延びした声で言う女性。
はっ? え、背負ってたの赤ちゃんじゃないの? 一大事じゃん!? そんな間延びした声出してる場合じゃないでしょ! 赤ちゃんいなくなってんだよ!?
「ほっ!」
「ぎゃひっ!?」
ドゴッ
すると女性は、魔鬼者を掴んで地面目掛けて叩きつけた。
ゴスッ
「んぎゃあっ!」
「……ぇ……」
そしてそのまま、恐らく同じく赤ん坊であろう魔鬼者の頭目掛けて拳を叩き落とした。その光景に、ゆりかごの赤ん坊は放心しながら見つめている。
「おぅらっ!」
フォンッ
「じゃずぃっ!?」
そして魔鬼者の頭を掴み、上空へと投げ飛ばした。
「ぼふぅ……んぎゃ」
「……は……?」
「きゃふう! きゃっきゃ」
直後、ゆりかごの中から、もう一人の赤ちゃんが出てきた。
「あ、そんなところにいたの。も〜」
すると、先程までの恐ろしい光景は何だったのか、再び間延びした声でその赤ん坊に近づきゆりかごを持った。
「さ、帰りましょ」
「んぎゃ」
「バ、ブ……っ! い、て、ちょ、抓らないで……!」
トヨお兄ちゃああん!
えぇ、困ったら叫ぶ精神です。故にこのお話とトヨお兄ちゃんは全く関係ありません。




