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あいに溢るる  作者: 手石
共愛を求め狭隘な心を持った狂愛な少年
57/107

1.裏話1.1 効果と好感と後悔と

 彼には好きな人がいる。その子は、いつでも彼に笑顔を向けてくれる素敵な女の子だそうだ。


 某年某月某日某時某分某秒某の朝、彼は教室に入り自分の席に向かう。

 流石に某を多用しすぎたかな? まぁいいや。


「おはよ」


「ん。おはよう」


 が、教室に入った直後、一人の少女が彼、レンに挨拶をした。うなじの少し下まで伸ばした黒い髪に、眠そうに細めた目、レンより少し高い身長の少女。その少女、ルルはいつもレンよりも先に挨拶をしている。この光景は日課のようなものらしい。

 レンも短く挨拶を返し、席に着いた。


 大丈夫だったかな? 顔とか赤くなってなかったかな? 声色とか変じゃなかったかな?


 と、席につきながらそんなことばかり考えるレン。

 まだ年頃の男の子。好きな子との会話は不安ばかりをなのだろう。可愛いな。


 因みに、席順は廊下側の前の席から名前の順で並んでいる。故に、レンの席は一番左後ろかつ、一つ前の席にルルがいる。だからレンはルルの背中を独り占めできるのだ。奇跡としか言いようがないだろう。彼からしたら神のご加護を受けたのではと思っているに違いない。


「おっはールルちゃん。と、レン」


「おはよう」


「ツチ」


「おはようだけでも言ってほしいな」


 すると一人の少年が教室に入り、二人に挨拶をする。このツッチーことツチヤという少年は友達が全くいないレンにとって、数少ない友達だ。

 この学校でレンが裕福な家庭だと知っているのは教師を除くとルルとツチヤだけだ。レン自ら教えたのだ。それほどまでに信頼しているのだろう。


「相変わらず眠そうだね」


「……そう、私は眠いのです。寝ます。だから静かにしててください」


 態とらしく、ルルが机に突っ伏しながら言った。それを見たツチヤは、「ええっ」と言った表情をしている。


「えっ? 寝ちゃうの!?」


 そしてレンは絶望したかのように心を鎮めている。それほどルルと話をしたかったのたろう。

 露骨すぎるわ。


「……冗談……」


 そんなレンの声を聞いたルルは、顔を上げレンを見ながらそう言った。

 露骨すぎるわ。


「よかったぁ……」


 声に出してしまうほど、安心をしている。分かりやすい。


「だよねー。俺なんて、まだ数秒しか会話してないし」


 ツチヤも同じことを思ってたようで、少し微笑みながらそう言葉にする。


「あ、そうだ。ルルちゃん、これ」


「……何ですかこれ?」


 すると徐に懐から白い手紙を取り出したツチヤ。ルルはそれを警戒しながらまじまじと眺める。


「「ツチヤ君って、ルルちゃんと仲が良かったよね? 一生のお願い! これ、渡してくれ!」だってさ」


 手紙の主がどんな思いで渡したのかは分からないが、他人経由ではなく下駄箱とかにしておいた方が良かったのではないのだろうか。

 それはそれでありきたりがすぎるかな?

 そんなことより、その手紙の主は何故レンではなくツチヤを選んだのだろうか?


「ぇ……え? え、わ、私に!?」


「そ。受け取ってくれないかな?」


 小さく驚きの声を上げ、若干顔を赤らめているルル。不慣れ故か、動揺しながらツチヤとラブレターとレンを交互に見る。


「っ……あ……えっと……いや、その、ごめんなさいと伝えておいてください……」


 が、左手を前に突き出し、手紙を受け取ってすらないのに断った。顔を下に向け、目を逸らすように。


「中身ぐらい見てやれよおい……」


「……直接、とまでは言わないので、せめて他人を巻き込むのはやめてほしいです」


「ほへぇ〜そうですか」


「何その反応?」


 不思議な声を出すツチヤ。何を考えてるのだろうか。心なしか会話に全く入ってこれていないレンの顔が少し綻んでいる気がする。嬉しいのだろう。


「ま、多分アイツも気にせんか。最近結婚願望激しすぎて猫に求婚したって聞いたし」


「それを私に直接話すのは失礼だと思ってくれませんか?」


「……下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる……」


「特大の的を持ちながら突っ立っていて悪かったですね」


 そしてそのまま返事を伝えに行くのか、ツチヤ余計にしか思えない言葉を残しながら教室から出て行った。心なしかレンが少しドヤ顔をしている気がする。やはり嬉しいのだろう。しかし何故ドヤ顔を?


「まぁ……誰がどんな告白をしようと無駄だけど」


 するとルルが、どう考えても態と聞こえるように言っただろ、と思えるほどの声量でボソリと呟いた。レン自身は気付いてはいないが、意図的だ。


「……えっ?」


 そして引っかかる少年。気付こうよ。

 酷く動揺する少年。顎に手をやり、何かを真剣に考えている。


「ルルちゃんって、まさか……」


「ん、どうしたの?」


 やがて一つの可能性を導き、こちらもボソリと呟いた。が、ルルの耳には聞こえたようだ。振り向き、首を傾げるルル。いや、この距離なら寧ろ聞こえない方がおかしいだろう。

 

「へっ、い、いや、な、何でもないよ」


「ん? そう。なら良いけど」


 どう考えても何かあるような言い方をしているレン。そんなレンに対して、深く詮索しようとしないルル。何故だろう、心做しか微笑んでいるように見える。

 成程。さっさと結婚しろ。








 そんな二人の馴れ初めは高校一年生。二人は一年生の時も、全く同じ席順になっていたのだ。流石名前がラ行スタートの二人。運命の赤い糸でもあるのだろう。

 もちろん、この時はまだレンもルルのことを好きだったわけではない。ただ単に、席が近いから話ぐらいはしてみたいな、程度のことしか考えていなかったのだろう。


 そんな二人の関係が変わったのは、こんな出来事がきっかけだ。









「ねぇルルちゃん。この後時間あるかな?」


「へっ? あ、えっと、だ、大丈夫ですよ」


 五月初旬。各々友達を作り始め、ある程度の話し相手は決まってくるであろうこの時期の放課後。

 皆一様に、帰り支度をする中、レンはルルにそう声をかける。突然の事だったからか、驚きつつもそう返すルル。


「それじゃ、今は三時過ぎだから……三時半に体育館裏に来て。話したいことがあるから」


 この頃のレンは、髪の毛はまだ伸ばしていない。のだが、うなじをすっぽり覆い隠せるほどはある。しかもサラサラしている。どんなケアをすれば女子のようなサラサラヘアーにできるのだろうか。羨ましいし興味深い。


「ま!? あ、あいつ、嘘だろ!」


「すげぇよ、逆に……」


「だ、大胆……!」


「はわぁ……」


 するとその光景を見たクラスメイトは動揺を隠さずに声を上げた。もちろん、誰もが告白だろうと考えた。むしろそれ以外に考えられないだろう。


「ん……? あれ……?」


 すると、教材を取り出そうとしたのか、机に手を突っ込んでいたルルは机から一枚の紙を取り出した。

 レンはそれをチラリと確認するように見た後、


「それ見てからでいいから、後で体育館裏にお願いね」


 と言い、レンは早足で教室に出ていった。ルルは何が何だかよく分からず、頭にハテナを浮かべている。


「おぉぉい! あいつ頭おかしいんじゃねぇのか!」


「か、かか、考えられない! 彼はもっと、賢い人間だと思っていたのに!」


「生徒会といえど恋をすると冷静な判断ができなくなるんだねぇ……」


「はわ、わわわぁ……!」


 レンは生徒会をしているので、皆、彼がどういう人物なのかをよく知っている。真面目で近寄り難いが、何処か楽観的に過ごしている人物だ。

 そんな人物がこんな大人数の前であの発言。このクラスにとっては、世紀のカップルの誕生する瞬間を目撃できると、バカみたいに大盛り上がり中なのだ。


「え……っと……え?」


 そんななか、ルルは動揺していた。机の中にいつの間にか入っていたこの紙を読んで。


「さっきは体育館裏でって言ったけど、本当は生徒会室で待ってるからね。他の人に見られるのは、ちょっと恥ずかしいからね」


 と、紙には書かれていた。ご丁寧に生徒会に行くまでの道のりを地図付きで。意外と生徒会室が何処かをよく知らない人は多いもの。故の気遣いだろう。

 知ってる人っているのかな? 少なくても自分は知らない。


「……っ」


 そしてルルはカバンを持ち、全力で廊下へ飛び出て行った。


「えっ? あ、ルルが行っちゃったぞ!」


「追え! 絶対に逃すんじゃないわよ!」


「いや、居場所も時間も分かってんだからそんな慌てなくても良いだろ」










 生徒会室前。息を切らしたルルが立っていた。息が整うまで待っている。周囲を見渡せば、生徒はちらほらいるものの、同じクラスの生徒は一人もおらず、とりあえず一安心している。


「ふぅ……うん……よし」


 そして右手を握り、拳の裏側を扉に向ける。ルルは今、内心ではかなりドキドキしている。あのレン君がこういう風に呼び出すなんて、と。


 コンッコンッ


 二度、小さく扉を叩く。周囲の喧騒が小さく響いて来る空間だったが、やがて、


 ガララッ


「ん、いらっしゃい」


「……」


 中からレンが出てきた。

 本当にここで待っていたのだ、と思い、ルルは少し驚いた。


「さ、入って入って」


「んぉっ、お、邪魔します」


 そしてルルの手を取り、部屋の中へと招き入れた。ルルは掴まれた手を見つめ、心臓をバクバク言わせながら生徒会室に入る。

 真ん中には透明なテーブルとそれを挟むように両サイドに灰色のソファ、そして両方の壁には茶色のロッカーが置いてある。奥には横に長いテーブルと大きな椅子が一つ、小さな椅子が四つ置いてある。広い部屋だが、少しだけ圧迫感がある。


「安心してね。生徒会の皆にお願いしたから、今は二人っきりなんだ」


「っ!」


 レンは恥ずかしげもなく、堂々と言い放った。緊張、というものがまるで感じられない。

 逆にルルは余計に気持ちが上がってしまった。ここまでハッキリ言ったのだ。特別な意味を持っているに決まっている、と。


「さて、こうやって面と向かって話すのは初めてだし、ちょっと緊張しちゃうね」


「あ、うん。そ、そうだね」


 左右で向かいあう形でソファに座る二人。

 レンは顔を逸らさず、ルルを見つめるているのに対し、ルルはその視線から逃れるかのように目を伏せた。


「それじゃ、長引くのはあんまり良くないし、単刀直入に聞くね」


「は、はい! ん? 聞く?」


 そしてレンの言葉で、ルルは身構えた……瞬間、ハテナを浮かべた。

 これから告白をされるのかと思っていたのに、「聞く」という単語が出てきたのだ。


「ねぇルルちゃん。修学旅行のお金、返してくれないかな」


「っ!?」


 レンはそんな困惑しているルルを見つめ、鋭さを感じるような声色で言い放った。


「な、えっ……なん……」


「なんっ、じゃないよ。全く。盗るならもう少し怪しまれないようにしようよ」


「……っ!」


 ルルを見つめたまま、いつもと同じように楽観的な話し方で、でも低い声でそう言い放つ。威圧感が無さそうなのに、この時は何故か恐怖を感じる程の恐ろしさを持っている。


「体育の授業中、「トイレに行きます」って言ったのに、トイレとは正反対の方向に行くんだもん。そりゃ気になっちゃうよ」


「……み、てたの?」


「そういうこと」


 するとレンは、ブレザーのポケットから携帯電話を取り出し、弄り出した。目を伏せているからか、ルルは気づいていない。


「ご……ごめ……」


「ん?」


「ごめん、なさい……」


「いや、僕に謝られても。どんな事情があろうとも。他人に迷惑をかけた時点――


 コンコンッ


「んっ!?」


 と、不意に扉が叩かれた。

 レンは無言で扉に近づき、開ける。そこには、


「……ん、どうぞ。お入りください」


「失礼しますーって、ここの管理者同然の人が何言ってんだって感じかな?」


「……というか来るの早すぎませんか?」


 生徒会長のマユカがいた。


「えっ?」


「おっ? この子があの子?」


「はい。そうです」


「レ、レン、君……?」


 動揺するルル。当たり前だ。二人っきりだと言われていたのに、人が来たのだから。

 マユカはルルと向かい合うように座る。そしてレンはルルの隣に座った。


「さて、と。まぁ、レン君からもう聞いてるとは思うけど……どうしよっかなぁ」


「……」


 両手を組み、肘をテーブルの上に乗せ、マユカは話し始める。

 明るい声が響いている。のに、重々しい雰囲気が漂う。


「レン君的にはどう? 退学?」


「流石に極論すぎますよ」


「いやぁ。これが私の平常運転なもんですから」


 ヘラヘラしながら恐ろしい言葉を出すマユカ。レンも若干引いている。

 これが平常運転の生徒会長とかただただ恐怖なだけだ。せめてもうちょい真顔で言って欲しい。


「まぁ……最悪、僕が肩代わりして、全部無かったことにするのが良いかなと思いますけど」


「……ん? え……!?」


 が、レンがおかしな事を言った。ルルが驚くのも無理はないだろう。窃盗事件を無罪にしてくれるような提案なのだから。それに、レン自体にメリットは無いはずだ。


「ほう、そうきたか。まぁ、レン君っぽい考え方だけどね」


「え……いや、な、なん、何で……?」


 予想の範疇だったのか、驚きもしなかった。レンの提案をすぐに理解したのだろう。右腕をソファの背もたれの上に乗せている。

 それに対し、未だ状況が呑み込めていないのか、ルルは言葉をなかなか紡ぐことが出来ない。


「ま、先生とかに話をつけるのは簡単だけどさ。でも、その子の処罰はどうするの?」


「それなら大丈夫です。安心してください」


「ほう……ま、その「何」をちゃんと考えているなら……うん。いっか」


 処罰を考えているから、ルルはお咎めなしにしてほしい。解釈してしまえば、こういうことなのだろう。


「な、何を言ってるんですか……!?」


 そんな楽観的な二人に対して、ルルは目を大きく開き、前のめりになって二人に問いかけた。


「なになに? 不満?」


「そういうわけではなくて……その……」


 しかし、マユカの一言に、どう言い表せば良いのか分からず、もごもごと口を動かす。が、動かしているだけで、声は全く聞こえない。


「それでは僕達はこれで失礼しますね」


「え……?」


 そして唐突に、レンがルルを置いていくように、無理矢理話を切り上げた。ルルは席を立ったレンの方を向いて絶句した。


「ありがとうございました」


「ん。お疲れ」


 マユカも当然のようにそれを受け入れ、直ぐにスマホをポケットから取り出した。そしてソファの肘置きを頭に置き、寝転んだ。

 家に帰ればいいのに。目隠しイケメンの事でも待っているのか? 多分そうだな。


「んぇ……え、ちょ!」


 ガララッ


 そしてマユカにお礼を言ったレンは、ルルの手を引きながら、振り返らずにスタスタと生徒会室の外へと出ていった。


「ちょ、ね、ま!」


「……」


 何か言いたげなルルを置いて、スタスタと歩く。

 軈て生徒会室から離れたのを確認したレンは、歩くのを辞めルルの方を振り向く。


「……ど……うしたの……?」


「……その、人のプライベートに介入するのは良くないって分かってるけどさ……」


「ぇ……?」


 そして少し目線を下にし言い淀んだ。何か言い難いことでもあるのだろうか。

 ルルはその光景をじっくりと目つめながら待った。


「……ルルちゃんの家。あんまり裕福じゃないんでしょ」


「ぇ!?」


 軈て、レンの口から衝撃的な一言が飛び出た。

 ルルは驚きのあまり、無意識に一歩だけ後ろに下がる。


「だからしょうがない、とは思わないけど。まぁ、ここで責めるのも違うかなって」


「何で……知ってるの……?」


「マユカさんにお願いした」


「……」


 淡々と告げたその恐ろしい一言。ルルはレンを嫌悪の目で見る。


「人のプライベートを……」


「お金を盗んだ人が言わないでよ」


「……」


 レンの言葉を聞き、瞬時に目を逸らした。ぐうの音も出ないのだろう。そう考えるとプライベートを調べたのはおかしいことではないのかもしれない。多分。


「レン君の家は、裕福なの……?」


「……まぁ、そうだよ……」


「っ……」


「……そんな事はどうでもいいよ。ちゃんと「何」な処罰を受けてもらえば良いから。それだけ」


「……な……何、って……何すればいいの……?」


 レンは一歩近づく。それに連動するかのように、ルルも一歩後ずさる。レンは少し不服そうな顔をしたが、直ぐに微笑んだ。


「これから毎日、僕とお話する事」


「……ぇ……」


 そしてその「何」を告げた。内容を聞き、ルルは一瞬固まってしまう。


「ぇ……いや……何、何それ……」


「そうすれば、今日の事を忘れる事は出来なくなるでしょ?」


「っ……」


 そして今度はニコリとし、ルルを見つめる。可愛らしく見えるが、悪い笑顔だ。


「ふふ……まぁ、今日はまだいいかな。それじゃ、また明日ね」


 そして固まっているルルをそのままにし、手を振って廊下を進んで行った。


「……ぇ……え……」


 ルルは言葉にならない声を上げるばかりだった。周りの部活動に勤しむ声と廊下を駆け回る生徒たちの喧騒に、ルルの言葉にならない声はかき消された。






 ルルは一人っ子。父親は他界しており、母親とは離れて暮らしている。仕送りを貰ってはいるが、なるべく自分の力で何とかしたいと思っており、バイトを多めに入れている。

 学校から徒歩二十分程とかいう羨ましい位置にある、少しボロい建物、ルルの住むアパートだ。

 十九時過ぎ。そのアパートの一室にて、


 ドサッ


 と音を立てながら、ルルは布団の上に倒れるように寝そべった。お風呂から出たばかり故か、湯気が見える。


 レン君の家は裕福……そう考えるとちょっとムカつく……


 腕を広げ、天井を見つめながら、ルルは心の中でそう悪態をつく。


 毎日お話するとか、訳分からない事言ってたし。やっぱりお金持ちだから変人なのかな。


 軈て起き上がり、そう結論を出してから、もう一度枕に頭を乗せ、


「……ぅ……すぅ……」


 小さな寝息を立てた。


 ルルは節約の為かか夕飯を食べていない。そして電気を無駄にしない為か早くに寝ている。

 こんな生活をしていて……ちょっとどころかかなり心配になる……









「……ご馳走様……」


 そして不安を抱えたまま次の日に。ルルは鏡の前で睨めっこをした後、少ない朝食を……具体的にはパン1枚……を食べて学校へと向かう。

 昨日の夜から考えると、今ルルの胃はほぼ空っぽと言っても過言では無いだろう。






 ガララッ


「おは」


「あ、おはよ……」


 比較的平凡な時間帯にやってくるルル。教室のドアを開けると、既に席に着いて談笑している男女が四グループほどいる。

 そんな中、ルルが入室した瞬間に目の前の席に座っている一人の少女が挨拶をした。ルルも小さく返した。瞬間、


「おはよっ!」


「んぇっ!?」


 背後から元気な声が聞こえてきた。

 ルルは驚きながら後ろを振り返ると、そこには満面の笑みのレンが立っていた。


「お……え、おはよ……」


「んふふ」


 ルルは戸惑いながらもそう返し、レンの方を見つめた。レンは微笑みながら、自分の席へと向かった。


「おい……おいあれ……!」


「そうよ絶対……! やっぱりそうよ!」


 勿論、昨日のアレを聞いていた方々にとっては興奮する展開。

 ルルもレンの後を追うように席に着いた時、先程ルルに挨拶をした少女が近づく。


「ね……ねぇ……」


「んぇっ!?」


「ん。何かな?」


 そして二人に話しかける。未だ緊張状態だったからか大きな声を出すルルと、未だ満面の笑みをしながら声を出すレン。


「えっと……昨日、告白、したの……?」


「……」


 そして誤魔化さず、真っ直ぐにそう聞いた。ルルはどう答えれば良いのか分からず、目を泳がせている。


「うん。したよ」


「っ!?」


「っ!?」


 対するレンはその質問に、目を逸らさず真っ直ぐそう答えた。


「ど、どんな、どんな風に!」


「どんなって、普通に」


「その普通を聞いてのよバカ!」


「口悪くない?」


 そのレンの言葉を皮切りに、質問女は前のめりになり、レンに勢い良く聞いてくる。我を少し失っているのか、冷静な判断ができていない。


「別に。友達になってください、って。それだけだよ?」


「……ぇ……」


「え?」


「は?」


 しかし続くレンのなんて事ない一言に、質問女だけでなく、ルルや周囲も固まった。


「え、そ、とも、友達?」


「そ」


「え、告白……したのよね?」


「したよ。隠してた気持ちを伝えたよ?」


 勿論、予想していないその言葉に、質問女は動揺をしている。動揺しつつも、確認するかのように言葉を繋げた。


「好き……じゃ、ないの……?」


「いやいや。まだ話したこともないのに判断するのは早いじゃん」


「えっと……」


「目の前にいるのに話したこと無かったなぁ、って思っただけだよ」


「えぇそんな……」


 軈て自分達が思っていた展開になっていなかったからか、クラス中が落胆の声を出した。









 軈て放課後。

 部活は無いからか、静かな……否、下校している他の生徒もいるので少しザワついている……学校の敷地外。


「ルルちゃんっ」


「んぃっ!?」


「一緒に帰ろっ」


 歩いて帰ろうとしていたルルの背後から、そんな無邪気な声が勢い良く飛んできた。


「な……何、何で、そんな……」


 レンからすれば、犯罪者と一緒にいるようなものなのだ。友達になったからとはいえ、何故ここまで、自分と一緒にいるのか分からないのだろう。

 そんな震えているルルを見ながら、レンは微笑む。


「そ。そんな風に怯えてるのが良いよ」


「……ぇ……」


「それが罰なんだから。ね」


「ひっ……!」


 そして笑顔を消し、声を低くしてルルにそう言い捨てた。その一言に、ルルはレンから離れるように一歩後ずさった。






 こうして二人の交友関係は始まった。






「おはよ!」


「お……お、はよ……」


 次の日も。次の週も。

 レンは変わらずルルに声をかける。やはりあの怖い顔をしたレンがフラッシュバックするのだろうか、ルルは声をかけられても、下を向きながら小さな返事ばかりをしている。


「おっはよ!」


「お、おはよ」


 が、一ヶ月もすれば慣れたのだろうか。相変わらず声は小さいが、震えずに、そしてレンの顔を見ながら挨拶をできるようになっている。


「それ。いつも読んでるよね」


「えと……お金が無いから、同じ小説を何回も読んでるの」


「……ごめん……」


「何で謝るの……?」


 そして少しづつだが、友達らしい会話も出来るようになってきている。他の友達とは違い二人きりで、尚且つ常に緊張しながらの会話なので、ルルは挙動不審ではあるが。





 ある日の会話。


「さ……最近、お母さんから仕送りが届いた」


「僕に話すって事は……何か面白いもの?」


 なんとルルの方から話し始めたのだ。それが嬉しかったのか、レンは少し身を乗り出して聞いている。


「大量の小説」


「……ん……?」


「中古なのか元々持ってたのかは分からないけど、凄く嬉しかった。誕生日だからって奮発してくれたみたい」


「……うん……よ、良かったね……」


 少し嬉しそうにそう話すルル。だが、予想の斜め上を行ったからだろうか、何と答えれば分からないのだろうか、レンは戸惑った。







「そうだ。この前言ってた「恋は盲目」。見てみたよ」


「え、本当に!?」


 今度はレンから会話を切り出している……が、「この前言ってた」という事はつまり……二人はかなり仲良くなっている、という事だろうか。

 少なくてもレンは、何故ルルと友達になったのかを忘れているとしか思えない。


「うん。特に最後の電車に乗るシーン。優しくキスした後に涙したあそこ? あれは涙出そうだったよ」


「え、全部見たの!?」


「DVD借りた。後やっぱり演技力も凄いよね。涙も多分本物だろうし、カメラアングルも上手で。思わず声出た」


「そ、そこにも注目してるの……?」


 そして凄い行動力だ。恐らく普段なら見ないであろうジャンル……というかそもそもドラマ自体見ない……だというのに、ルルが紹介したというだけで、ここまでガッツリと見ているのだ。





 が、ある日そんな日常が少しだけ変化した。


「……」


「……ん……?」


 六月上旬。

 何時もと同じように学校へやってきたルルは何回も読んでいる小説を取りだし、読み出す。


 ガララッ


 そして何時もと同じように教室へと入ってきたレン。何時もと同じように元気な挨拶をする……


「……」


「……ん?」


 と、思っていたのに声が聞こえてこない。

 ルルは戸惑いながらレンの方を見る。


「お、おはよ……?」


「んっ! お、おはよ!」


 何時もなら教室に入ったタイミングで挨拶を返してくるはずのレン。だが何故か、自分の席に着くまで無言だったのだ。しかし、ルルから挨拶をされると何時ものように元気に挨拶をした。


「……どしたの?」


「いや、何でもないよ! うん!」


「……」


 僅かだけど分かりやすいこの変化に、ルルは心配になり声をかけた。が、レンははぐらかしてしまう。

 レンはこの日、何時もと同じ様に接していた。






 が次の日。


「おはよ」


「っ……ん……お、おはよ……」


「……」


 またしても席に着くまで無言だったレン。ルルの挨拶に顔を赤らめ、目を逸らしながら小さく返した。それを見て、ルルも黙り込んでしまう。恐らく、考えないようにしているのだろう。


「えと、そう! この間言ってたあのドラマ! 僕も見てみたよ!」


「……そう。どうだった?」


「えと、うん! あの、凄く良かったよ!」


「……」


 そしてまたしてもドラマの感想……なのだが、何時もならもっと詳しく、何なら内容以外の感想まで話すのに……何故かそんな曖昧な感想を返した。ルルはレンの行動に違和感ではなく、確信を持っておかしいと感じていた。







 七月上旬。夏休みまであと一ヶ月。残りの授業はラストスパートをかける人がいたり、逆に少ないからとだらけたり、そういうの関係無しにだらけりと、多種多様な生徒がいるであろうこの時期。


「その……お弁当作ったから、一緒に食べない?」


「え……?」


 ルルは何時ものように友達と共に購買へ行こうと席を立った。瞬間、レンからお昼のお誘いを受けた。今まで全くそんな素振りを見せていなかったので、ルルは頭が追いついていないのだろう。


「ほら、何時もはもやし一袋しか食べてなかったから……その……」


「わ、私の分も作ったの……?」


「あ、何時もは弟が作ってくれてるんだよ! でも今日はその、お願いして一緒に……えっと……」


 そして手に大きな弁当箱を持ち、そう捲し立てた。例の如く顔は赤い。ルルは動揺しながら友達の方を見る。友達であろう女子二人のうちの一人、あの質問女は腕を組みウンウンと頷き、もう一人は手を前に出ししっしと追い出すような仕草をしていた。


「じゃあ……」


「っ!」


「い……頂かせていただきます……」


「あっ……ありがとう!」








 その日の放課後。

 生徒会の仕事故か、レンは近くにいない。

 この言い方だとレンが彼氏みたいな言い方になってる気がする。まいいや別に。


「ねぇ、ルルちゃん」


「ん……」


 質問兼ウンウン頷いていた女が廊下で下駄箱へと向かいながらルルに声をかけた。ルルと質問女の後ろに、しっし女もいる。

 しっし女は茶色い髪の毛は後ろで束ねポニーテールに。少し細い顔には青い瞳とつり上がった目があり、前髪で少しだけ隠されている。そして小さなホクロが右目の下から垣間見える。


「その、レン君ってさ……ルルちゃんの事好きなんじゃない?」


「……」


 そして直球で聞いてきた。ルルは質問女をじっと見つめ、


「やっぱりそう思う?」


「思う」


「本人も気づいてるし……気づいてない人、クラスに居ねぇんじゃね?」


 軈てそう答えた。しっし女含め、三人とも同じ考えを持っていたようだ。


「友達になった時とはもう、別人よ」


「な。変わりすぎだろあれ」


「私自身一番驚いてる」


 そんな二人に同調するかのように、ルルも頷きながら話に加わる。クラスメイトどころか本人にバレるほどの反応をしているということなのだろう。


「……で、実際どうなの?」


「え?」


 すると質問女が唐突にそう聞いてきた。何の事か分からず、ルルは一言返した。


「ルルちゃんもレン君の事、好きなんだろ?」


「……え?」


 そしてしっし女がルルにそう問う。むしろそういう展開を望んでいたはずなのだろう、凄いソワソワしている。


「……いや……分からない……」


「え何で。楽しそうに話してるじゃん」


 が、ルルは曖昧な答えをした。

 レンに対しては、どちらかと言うと戸惑っているのだろうか。当初は「何」な罰なのだから。


「本当に。ルルちゃんが恋愛ドラマをゴリゴリに見てるとか初耳だったもん」


「な。いつも私達の話を聞いてばっかりだったから。腐らせたかったな……」


「腐らせたかったね」


「あ……はは……」


 ルルの好みを把握していなかったということは……ルルに腐った話しかしていなかったのだろうか……

 というか腐女子の友達が二人もいるとか羨ましい。


「ん……でも……その……」


「ん?」


「最近のレン君……可愛いとは思う……」


「分かる」


「攻めに見せかけた受けよあの子」


「分かる」


「ごめん、分からない」

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