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あいに溢るる  作者: 手石
共愛を求め狭隘な心を持った狂愛な少年
53/108

1.50.1 VS超バカ力な爆発をしてくる男子と物覚えが良すぎる男子

また新たな戦闘の始まりですね。

レン君とは関係無い戦闘という点については予めご了承ください。<(_ _)> ゴン!

 平和が崩れる瞬間は、必ず「突然」訪れる。予期せぬ事態ということだ。

 当たり前だろう。予想外ということは、対策をしていない、ということなのだから。








 生徒会の三人+一人が王城に向かった四日後。つまり王の暗殺が発覚した翌日。さらに詳しく言うと、サリムがハヤタに電話をしてくる少し前、十五時十五分。優等高校は放課後のお時間。


「着いたな」


 その優等高校の正門の前に二人の男がいる。

 一人は体格は良いが背を丸め、少し目つきの悪い男。もう一人は逆に背筋を伸ばし、穏やかそうな顔と眼鏡をかけている。

 正反対な二人、という印象だ。


「……でけぇな……もうこれ面倒だからぶっ壊す方が早いんじゃねぇの?」


「かもしれない……けどまぁ、どっちにしろ俺はそういうのは苦手だな……」


 背中丸め男が眼鏡男の方をちらりと見ながら言う。背筋ピン男は頭を掻きながら返す。

 何やら不穏な空気。ぶっ壊そうとしている時点で怪しさ満点だ。


「だからこそ、俺もこっちに選ばれたんだろうな」


「かもしれないな。いや、というかそうだろうな」


 事件の香りしかしない。恐らくこの学校を襲うつもりなのだろうか。


「とにかく、さっさとやろうぜ。別世界の人間が逃げるかもしれねぇし」


「だな。作戦とか考えとく?」


 うずうずしている背中丸め男に対し、背筋ピン男が知的な提案をする。

 恐らく、パワーと知能のコンビなのだろう。見た目から一目で分かる。


「へっ。俺がこの建物をぶっ壊して、お前は別世界のやつをぶっ壊す。完璧だろぉ?」


 背中丸め男がドヤ顔で言い放つ。恐らく、作戦というものが嫌いなのだろう。

 いや、流石にもっとまともに考えようぜ? ただの無鉄砲野郎か?


「なるほど……完璧。最高だよ」


 背筋ピン男が眼鏡の縁を掴み、クイッと上げた。

 どこが完璧なん? 誰この人を知的そうって言ったやつ。どこが知的なん?


「だろぉ! うし、行くか。ばれねぇように慎重に探せよ」


「分かってる。はぁ……俺も派手にやれるかっこいいスキル考えとけばよかったな……」


「お前の苦手分野なんだからやめとけよ」


 何故だろう、さっきまで嫌な予感がしていたのに……何だろう、何か……何とかなりそうに思えてしまった。









 同日。同時刻。とある教室。

 放課後なので教室には生徒がほとんどいない。


「ん……んぁ……」


 今は一人青年だけだ。かわいそうに、寝ているのに誰も起こしてくれなかったのだろう。かわいそうに。


「ん……んがっ」


 青年は机に突っ伏して寝ていた顔を上げ周りを見渡す。

 青年は黒い前髪の先端が全て左側を向いているという不思議な髪をしている。目つきはキリッとしているが、何処か哀愁を感じさせる。一体何を考えているのか、表情からは読み取りにくい。

 周囲に人がおらず、一瞬焦る青年。だが、外からちらほら聞こえてくる声を聞き、今は放課後なのだと理解した。


 いや、一声かけてくれてもいいじゃん……


 不機嫌そうな顔をし、心の中で悪態を吐く青年。きっと心地よく寝ていた彼を起こすまいとしたクラスメイトの優しさなのだろう。多分。


「……なんか、ドラマのワンシーンみたいだな」


 窓の外を眺めながら、独り言をポツリと呟く。放課後の教室で夕日をバックに机に座る青年。

 確かに。綺麗な光景だと感じる。


「ザ、平和! って感じだな」


 そしてフラグをポツリと呟きやがった。


 ドゴォォォッ


 瞬間に即回収。

 一瞬にしてその平和が崩れたようだ。


「っ!?」


 普通の音ではなく、まるで何かが爆発したかのような音に慌てるフラグ建築者。

 青年は勢いよくを立ち上がり、音のした方へ走って行く。が、


「なっ! なんだ、これ……!」


 教室を出てすぐ左側を砂煙が包んでいた。大きな煙で、奥が全く見えないほどに濃い。


「っ!」


 すると青年は急いで教室に戻り、自分の机の横に置いてあるバッグを手にし、廊下に戻る。廊下につくと、未だ舞っている砂煙の方を向く。

 そして手にしているバッグに手を突っ込んだ。そして中から自分の身長の三分の二ほどの大きさの釣竿を取り出す。

 次にバッグを床に置き、右足を後ろに下げ、手に持っている釣竿を両手で思いっきり振りかぶり、


「エルモナナカスっ!」


 と叫びながら、


 ブォン


 前方へ糸を伸ばした。

 すると、青年の後ろに魚の群れが現れた。浮いている。そして釣竿の糸を追いかけるように勢いよく空中を泳ぎだし、


 ビュオォォ


 と、風を起こしながらそのまま砂煙に突っ込んでいった。すると砂煙が魚を中心に勢い良く晴れていった。

 成程、今回は攻撃ではなく魚の泳ぐ風圧を利用し砂煙を晴らしたのだろう。

 青年は目の前の晴れた景色を、目を凝らしてみようとした。が、その必要はなかったようだ。


「な、なんだ、これ……!?」


 校舎の一部が崩れていたのだ。

 青年の前方数十mを境に、丸い穴が空いたかのようにぽっかりと、球状に被害が出ていた。更地と化しており、微かに瓦礫が崩れ落ちる音が聞こえる。

 青年は周囲を見る。周囲の人たちは、何事かと校舎に近づくものや混乱する者がいる。


「……つぅ……っと。あぁ、手応え無しか」


「っ!?」


 と、突然、声が聞こえた。瓦礫の真ん中……被害の中心から聞こえた。これだけの被害が出たのに、無傷で背中を丸めている男が。


「何だよおい……」


「壊れて……何で、こんな一瞬で……」


 周囲で傍観していた人達も、混乱から解けたのだろうか、ちらほらと現実を受け止め始めている。


「あぁ……やっぱ目立っちまうよな……ん?」


 と不意に、男は青年を見た。正確には青年の持っている釣竿を見て。


「釣竿……あぁ、お前がやったのか。ここの砂埃晴らしたの」


 ニヤリと微笑み、男は青年へと歩き出した。


「良いなぁそういうの。強そうでよ!」


「……」


 戦う気満々でそう強く言い放つ。それとは対照的に、青年は黙って男を見つめている。


「おら。ヤろうぜ。来いよ」


「……行かないと、また爆発起こして校舎をボロボロにするぞ、てか?」


「分かってんじゃんかよ。分かりすぎて怖ぇよ。おら。さっさと降りろよ」


「はぁ……」


 トスッ


 ため息を一つつき、青年は無言で校舎から飛び降りる。小さな音だが、静かな空間でははっきりと聞こえてくる。


「……」


「騒いだ方が良い、ってあいつも言ってたしな。うし、じゃあ――


「な、何、これ!?」


「穴が……これは……!」


 とそこへ、新たに二つの声が響いた。青年が後ろを見ると、そこにはカルソラとサリムの二人がいた。


「あ、あんたら、生徒会の……」


「んぁ。生徒会……? 面倒な奴らが……」


 それを見て、青年は小さく呟いた。男はその呟きに反応し、悪態を着く。


「丁度良い。あそこで呆然としてる人たちの避難を頼んでもいいか?」


「はぁ? え、あ、まぁ、別に言われなくてもやるけど、あんたは――


「あの男を叩く。これをやった犯人を」


 青年は中心に佇んでいる男を見ながらそう言う。二人も男の方を見て、現状を理解する。


「……ん? あぁ、そういうこと」


「いや、それならあんたが救助をした方――


「てめぇら何俺抜きで何こそこそ楽しそうなこと話してんだよ! 俺も混ぜろよなっ!」


「なっ!?」


 そして二人が話をしようとしたその時、男が大きな声を出しながら青年の目の前に飛びついた。急に、現れるように。


「炎……纏ってる、のか……?」


 そして青年は気が付いた。男の全身はメラメラと燃えていた。男自身は何ともないので、恐らく纏っているのだろう。


「っ! 息を止めろ!」

 

 炎を纏う男。そして先ほどの爆発。青年は何かを感じ取ったのか、両手を前に伸ばし、後ろの二人にそう叫んだ。生徒会の二人はお互いを守るかのように抱き合っている。


「遅い!」


 そして男が纏っている炎が急激に大きくなり、


 ドゴォォォッ


 そして大きな音を立てながら爆発した。先ほどと同じ音を立てながら。先ほどもこのようにして校舎を攻撃したのだろうか。大きな砂煙が辺を舞う。すぐには周囲の状況は分からないだろう。


「っ、あっつぅ……」


 やがてそんな呟き声が聞こえてきた。


「あいつとはタイマンしたかったけど……はぁ……タイミング悪りぃだろ……」


 男の周囲の校舎や地面が無残な形になっている。更地、という表現ではむしろ贅沢なほどに。


「ちっ。まだ出てこねぇのかよ。まさか本当に帰ったんじゃ……」


 シュルルッ


「んっ?」


 男が喋っている途中、男の真上に糸が垂らされた。そして、


「……イルタ……」


 ザバァッ


「ご、はぐぅっ!」


 地面から巨大な鯨の形をした水の塊が現れ、男もろとも糸の端にかじりついた。


「リズク!」


 そして糸の他端には、一人の男が立っていた。


「油断するなら、せめて死体ぐらい確認してからにしろよな」


 釣竿を持っている青年だ。あの大爆発を無傷でやり過ごしたのだ。


「っ!」


 驚きを隠せない男。当たり前だ。周囲数十mが更地になるほどの威力を耐えたのだから。


「うらぁっ!」


「ごあっ!」


 トヨは左足を一歩下げ、釣竿を背後に向けて振り下ろし、クジラもろとも男を地面に叩きつけた。


「が、はぁ……はぁ……て、めぇ……」


「……すまん」


「……え……何で無事なの……?」


 トヨは周りを見渡しながら、傍で未だカルソラと抱き合っているサリムに話しかけた。

 サリム……そしてカルソラも。あの大爆発を、トヨ同様無傷でやりすごしたのだ。


「わ、私達に何したの!?」


「これ……流石に俺らが卒業するまでに校舎を元通りにすんのは無理だわ」


「いやいやいや!? 今そこを気にしてる場合じゃないと思うんだけども!?」


 そして今気にすることではない事を口にした。もちろん、サリムは勢い良くそう返した。それよりも重要な事があるだろう、そう言いたいのだろう。


「なんっなんだテメェら……はぁ……はぁ……邪魔、すんじゃねぇよ! はぁ……はぁ……」


「邪魔するな……ね。というかあなた、何が目的なのよ」


 クジラから脱出した男は、息を大きく乱しながら三人を睨む。そんな男に対して、カルソラは返される筈のない質問をした。


「んなこたぁどうでもいいんだよ! 俺はさっさと別世界の人間を消さねぇといけねぇんだよ!」


「口軽ぅ」


 普通言わないでしょそんなこと。いや、忘れていた。この男は脳筋だった。恐らく常に深く考えずに発言をしているのだろう。

 カルソラもまさか返してくるとは思っていなかったのか、男の発言に驚きを隠せないようだ。


「なるほど……」


「その、辞めた方が良いんじゃないの……? だって……その……」


「ちっ、そんなこと言ってももう遅いんだよ。こちとら建物ぶっ壊してんだ。テメェらを灰にしてでも――


「二人は逃げ遅れた人の避難を頼むな」


「……はっ?」


「え、いや、だから何で私らに……」


 イライラが頂点に達しているであろう男を後目に、突然、意味不明なことを口走った青年。カルソラもサリムも言いたいことが理解できていない。


「いやだってさ、あいつの目的、俺じゃん」


 が、次にそんな、衝撃的な発言をした。

 サリムもカルソラも、あの背中丸め男も、驚きで言葉を発する事が出来ていない。


「……っ……おま、マジかよ!?」


「そ。マジよ」


 そして理解した男は青年を見ながら叫ぶ。青年は深呼吸をしながら男に近づいた。その行動を、生徒会の二人は黙って見つめている。


「俺の名はトヨ。別世界から転記……あ、えと……やってきた男。あんたが消したい人間だ。運が良いね。手間が省けたじゃん」


 そして左手を胸に当て、青年……トヨは言い放った。


「……えっ? な、どういう……え……?」


 その告白に動揺を露わにするカルソラ。理解に苦しんでいるのが見て取れる。サリムも無言でトヨを見つめている。


「お前……マジで言ってんのか……?」


「マジもんのマジ」


 すると男は、懐から何かを取り出した。掌サイズの、赤い水晶玉のような代物。それをトヨに向けてかざした。


「ん? 何してんの?」


「……へぇ。お前だったのか。なるほど」


 すると水晶玉は真っ黒に染まった。それを確認した男はトヨを見ながら笑みを浮かべた。そして、


 ゴオォォッ!


「確かにラッキーだな」


「ぐぅ!?」


「なっ!?」


「俺の目的はお前だけ、お前を消すことのみ! そういうふうに言ったはずなんだが、分かって公表したのか?」


 身に纏う炎を大きくした。それを見て、サリムとカルソラは動揺している。


「そんな、一瞬で……!?」


「っ!? 普通だったら、炎をあそこまで大きくするのには時間が……何をしたんだ……?」


「はっ。教えるとでも?」


「まぁ、だろうね……」


 小さく呟くサリムと何故そんなに驚いているのか説明てくれるトヨ。男の炎の出処を考えているのだろう。


「どうして瞬時に大きくできたのか……そこが分からないと、危険だな……レイトに変わるエネルギー……エネルギー……?」


 トヨを睨む男と考え事をし空を見上げるトヨ。お互い違う形とはいえ、生徒会の二人には目もくれず、前のめりになっている。


「どうやって俺の爆発から逃げられたのかは分からねぇけどよ」


 すると男は両手を合わせた。そして両手に、自分が纏っている炎を移した。男の声を聞き、トヨは男の方を見やる。


「テメェみてぇな雑魚を殺ることなんざ、息を吸うぐらい簡単なんだぜ!」


 そして右手をを指鉄砲の形にし、


 ドンドンっ!


 人差し指の先から掌ほどの大きさの炎の弾を撃った。


「っ!」


 トヨは一瞬驚くも、すぐさまカルソラとサリムを守るようにの前に立ち、自身の胸に手を当てた。


 ドゴゴッ!


 トヨに当たった瞬間、炎の弾は大きな爆発をした。煙がトヨだけでなく、男にも降りかかるほどだ。先ほどの爆発には及ばずとも、威力としては十分すぎるのだろう。


 そして沈黙。微かに風の音が聞こえるのみだ。だが、


「なぁ、あんたさぁ」


「なっ!?」


 ドグッ


「がぁっ!」


 砂煙の中からトヨが飛び出てきた。そして男のお腹目掛けて、パンチを打ち込んだ。いや、その手には丸い何かを持っている。


「「息を吸うぐらい簡単」ってセリフ、引くほどダサいよっ!」


 そして振り抜いた。と同時に、


 ドゴゴォォッ


 と、大きな爆発を起こした。爆弾か何かを放ったのだろう。そしてその爆風を利用し、トヨは男から大きく距離をとった。


「……え……? 何で……?」


「っつう! てんめぇ!?」


「と、わぁしぶとい」


 しかし男は立っていた。何事も無かったかのように。自分自身を爆発するようなことができるのだから、このぐらいは慣れているのだろう。


「というか、指鉄砲でそのセリフはないわぁ。もっといいのあったでしょ絶対に」


 自身の左腕を右腕で抱えながら、トヨは直立し、煽るように言い放つ。


「っ!? ぶっ殺す!」


 そのトヨの言葉で怒りが爆発したのだろう。男はトヨに向けて指を突き出す。そして


 ドドドドドォッ!


 五発、放った。が、トヨは驚く素振りを見せず、更に避ける素振りすら見せない。


 ドゴゴゴゴゴッ!


 もちろん、五発全てが体中にクリーンヒットした。先程と同じように砂煙が舞う。


「はぁ……はぁ……」


「いったぁ……」


「っ! あーもう! 何したんだテメェ!」


 が、またしてもピンピンしているトヨが現れる。眉をひそめ、少し目を伏せている。


「何って、見ての通りじゃん」


「そうじゃねぇ! 何で俺の技をもろに喰らってんのにそんなピンピンしてんだよ!」


「ピンピンって……結構痛かったんだけどなぁ」


 モロに当たったはず。なのに、トヨは平然と立ち尽くしている。いや、ダメージはあったのか、小さく痛みを訴えた。


「っと。おーい。あんたらはさっさと行けよ」


 と唐突に、後ろを振り返り、未だ唖然としているカルソラとサリムへと声をかけた。


「なっ! い、行くわけないじゃない!」


「いや何でよ」


 が、二人は……というかカルソラは……その場から動こうとせず、応戦しようとしている。誰かに連絡をしていたのか、スマホを手に持っている。


「生徒会の役員として、あいつをここで止めないと! 生徒の安全――


「お前、流石に血気盛んがすぎないか?」


 カルソラの言葉を遮るかのように、トヨは呆れ声で言う。そのトヨに一言に、カルソラは黙り込んでしまう。


「よく見ろよ。あいつ、無防備なあんたらを無視して、俺ばっかりに攻撃してんだぜ?」


「だとしても!」


「何? あんたが大っ嫌いな別世界人のこと、助けようとしてるの?」


「っ……」


 トヨの言葉を聞いても尚、食い下がるカルソラ。サリムは未だオドオドとしている。そんな二人の様子を見て、トヨはため息をついく。


「はぁ……ったく……」


「……」


「はっきり言って邪魔なんだよ」


「っ!」


 そして今度は目を合わせずに、男の方を見ながら、低い声で言い放った。先程とは全く違う声色に、二人とも一歩引いてしまう。


「あんたらはさっさと逃げ遅れた人を西にある門へ誘導させてろ」


「っ……」


 軈てその命令にも似たトヨの言葉に、カルソラはトヨを一睨みし、サリムは戸惑いながら、トヨに背中を向け走り去っていった。


「ひゅー。ここは俺がやる。あんたは逃げろっ、てやつか?」


 そんなやりとりを黙って聞いていた男。まるで茶化すかのように口笛を吹き、そう言った。トヨは表情を変えずに男を見つめる。


「そんな悠長なことを言ってられるほど余裕があるんだな」


「黙れダサ男」


「……殺す」


「そのセリフ自体がダセェんだよ。せめて手を合わせながらはやめろ。笑う」


 真顔で手を合わせる男。釣竿を背負い、両手を顔の前まで上げ、ファイティングポーズとるトヨ。


 ヒュウ


 という風の音が聞こえる。今の二人を邪魔するものは無いと思わせる程のの静かさは、まるで西部劇を彷彿とさせる。

 そして、その沈黙は唐突に破られた。


「うらぁっ!」


「っ!」


 トヨが男に一瞬で近づき、


 ゴッ


 男の腹を、右腕で振り抜いた。

 が、


「んぉっ!?」


 当の男は涼しい顔だ。

 そして既にトヨの右腕を掴んでいた。


「ぐっ、マジか」


「俺がただの爆弾魔だと思うなよ?」


 トヨを逃がさないように両手でがっしりと掴んだ。トヨは左手で右腕を掴み、男から離れようと思いっきり引っ張っている。

 そして、


 ゴォォォ


 男が一瞬で炎を体に纏った。


「っ! ヤバっ!」


「死ね」


「っ! 熱っ!」


 男の声と共に、


 ドゴォォォッ!


 またしても、大きな爆発が起こった。

 大きな砂煙を巻き上げ、辺り一面を覆い隠す。視界が遮られる。


「……っつぅ……」


 ヒュオォォ


 爆発の影響か、静かな空間に小さな風の音が響いた。

 そしてそんな静寂を破ったのは。


「爆発ばっかだとさ、爆弾魔だって思ってもしょうがないじゃん」


 やはりトヨだ。


「……ちっ」


「ちょっと。舌打ちは酷くない?」


 至近距離。逃げ場無し。爆発直面。

 だというのに、男の両手には未だピンピンしているトヨの右腕が握られていた。


「あぁぁ!」


 苛立ちが募ったのか大きな声を出し、目の前にいるトヨから手を離してから拳を振り抜く。


「よっ」


 トヨは一瞬早く、後ろに飛び退いた。そして着地と同時に、


「『エルモナナカス』」


「っ!」


 フォンッ


 釣竿を手にし、魚群を召喚した。至近距離だというのに、少し飛び退いただけで姿が隠されてしまう所をみるに、砂煙を晴らすためだろう。


 ビュオォォォ

 

 激しく風を切りながら、景色を晴らしていく。魚群の影響で先程の静かな雰囲気とは違い強風が吹き荒れる。


「……」


「……」


 やがて音が無くなる。

 二人は無言でお互い睨み合っている。特に男の方は今にも噛みつかんばかりの……否、苛立ちだろう……眼差しをしている。


「なぁ。もし俺がお前を無視したらどうするつもりだったんだよ?」


 唐突に男が落ち着いた口調で聞いてきた。唐突だったからか、トヨの体が一瞬ピクっと動く。


「……まさか追うつもり?」


「……目の前に目標物があるんだぞ?」


「……」


 周囲を見渡しながらトヨはそう聞く。未だ周囲には人がちらほらいる。最初にいたのとは違う人物だろうか、二人のやり取りを不思議そうに見つめている。


「何でわざわざどこに行ったのかも分からねぇやつを探さないといけねぇんだよ」


「……なるほどね……」


 そんなトヨを見つめ、男は質問に答えた。その返答を聞いたトヨは顎に手をやり、何かを察知したような反応をする。


「なら、俺が逃げれば追うのか?」


「おっ? まさか、逃げる気なのか?」


「……」


 するとトヨは男に向かって全力で走った。


「ん?」


 そして男とすれ違う瞬間、ニヤリと笑みを浮かべ、


「大正解」


「は?」


 と呟き、丸い何かを男の近くに落とした。


 パシュッ


 そして音を出しながら、丸い何かが白い煙を出した。

唐突の煙幕とトヨお兄ちゃああん!

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