1.46 お仕事舐めんなってやつです
またしてもカットされますお昼ご飯。
昼食も終わり、お皿を台車の上へと運ぶ。僕はそれを手伝いながらふと思った。
何故、部屋の冷蔵庫に入っていたやつはあんなに質素なものだったんだろう。
いや、ね。作ってもらってる立場だから、こういうことは考えない方が良いってのは分かるよ? でも気になるじゃん。
「さてと。では、私達はこれで」
「あ、ありがとうございます」
仕人達は台車を持ち、僕達に声を掛けながら部屋から出ていった。
仕人達はこれから何をするのだろうか。分からない。分からないけど……凄い安堵はしているようだ。すれ違う時に、「精神すり減ったよ」とか「やっと解放される」とか聞こえてきたから。なんか悲しい。
「今日は無理らしいです」
「ん?」
「あ、連絡してくれたの?」
そして全員が退出したのを見計らって、ドウルさんがそう言った。
今日は無理……まぁ、急な連絡だし、それが普通だよね。そもそも応じてくれるかも分からないし……
「ですが、明日の十時頃なら、お話は大丈夫そうです」
「急なのに明日OKなの?」
が、明日は大丈夫らしい。しかも午前中。
何? 暇なの?
「ま、まぁ良かったじゃん。明日なら明日で……」
と言いながら、またしても地図を取りだした。静かに地図を見つめる。
「……うん……良いね」
「何がですか?」
「その交渉。レン君とフルキさん達に行ってもらおっかな」
「……え?」
軈て一つ頷き、僕とフルキさんを交互に見ながらそう言った。
「んでその後。魔王の元へ行く。うん。これが一番良い」
「別に、俺達だけでも大丈夫だとは思いますが」
「念の為。殴り込みの人数は多い方が良いに決まってるし」
「……まぁ、確かにそうですけど……」
果たして本当に一番なのかどうかは分からないけど、よく良く考えれば、王城に行く間に襲われる可能性もあるし。まぁ、少ないよりはマシかな。交渉もそうだし。効率面を考えたら確かに最善かもね。
「ハヤタさんは一人でお留守番ですか?」
「そだね。Only so lonely」
「オー。ソーリーなのです」
まぁ、お留守番の方が襲われる可能性は高いと思うけどもね……いや、ハヤタさんなら大丈夫かな。やっぱり寂しいらしいけど。良いじゃん別に。どうせ召喚者が沢山いるんだから。
「オー、じゃなくてオゥ、ね。そんな棒読みじゃダメだよ」
「どうでもよすぎるのです」
「明日は……そうだね。お留守番兼先生でもしようかな」
「先生? 授業でもするのです?」
「うん。せめて低校の知識ぐらいは無いとね。色んな意味で生きていけないからね」
「……確かに……知識がなかったら、この世界で働くどころか生活すら困難かもですね」
流石ハヤタさんだ。もうそんな先の先まで考えてるとは。やっぱり尊敬する。あんな性格じゃなけりゃ。
「ええっ!?」
「んぇ!?」
「あ……えと……この世界で働けないって……もしかして冒険者ギルドって無いの?」
「冒険者……?」
って、何?
僕達の会話に余程驚いたからなのか、大きなを出した一人の少女。誰かは分からないけど、ハヤタさんの元クラスメイトの人が、僕達に向かって、恐る恐るそう聞いてきた。
「まぁ、無いこともないよ」
「え、本当!?」
「え、あるんですか!?」
冒険者ギルド……というものが全くピンと来ないのに、ハヤタさんはその女性にすぐ言葉を返した。
えあるの……? ハヤタさんが知ってて僕が知らないもの……? え何?
「似たようなやつ、だけどね。ヘイルの事」
「え……え、は、ヘイル!?」
「そ」
「はぁっ!? えちょ、ま、なぁ!?」
「ちょ、驚きすぎだよ」
ハヤタさんから出てきたその三文字の単語。それを聞いて、僕は動揺が隠せなかった。
いや、驚くに決まってるでしょうが! え、何、いくら知らないとはいえ、何を考えてんのって思っちゃったよ!?
「いや、いやいや! 対人検定、対魔鬼者検定、正薬検定を取得して初めて就職試験を受けられるという、あのヘイルですよ!」
「え……何ですかそのよく分からない検定?」
「え、何ですか、そんな就職倍率が馬鹿みたいに高いあのヘイルになりたいんですか!? 馬鹿なんですか!?」
「言い過ぎ。言い過ぎ」
言い過ぎなわけが無い! 人生舐めてんのかこの人たちは?
でもハヤタさんの雑に宥めてくれたおかげで、少しだけ冷静になれた……はず……
「んぐ……はぁ……あれですね。どうせまたライトノベルの影響ですよね?」
「あ……あはは……」
「あははじゃねぇですよ」
苦笑いしながら目を逸らした。
畜生。ライトノベルに携わっている人達に申し訳ないとか思ったのが間違いだったよ。
「そうそう」
「はい?」
とその時、女性が会話に入ってきた。
この人がこんな感じに入る、って事は何か重要な何かかな?
僕は女性の方を向き、少し前のめりになる。
「ヘイルが創設された理由。さっき話した魔王の進軍が原因なのよ」
「へぇ……そうだったんだ」
「凄かったわよ。創設から数年は倍率が四桁はあったもの」
「怖……」
マジか。今でも就くのが難しいって言われてるのに、昔はもっと難しかったの?……あれ、モクリサさんがヘイルに就職したのって三十年前って言ってたような……え……僕そんなに凄い人に拾われたの?
「それと、ほら。ヘイルの正式名称」
「……あ、Light And Hopeですか」
「希望と光、的なやつだね。成程……だからそれなんだ。初耳」
あれってそういう意味があったんだ……魔王の彼女事件が無かったら素直にかっこいいって言えたのにな……マッチポンプ感があるよ。
「まぁとにかく。この世界は冒険者ギルドは簡単に入れる……どころか、就職試験を受けるだけでも大変な職業なんだよね」
「倍率が恐ろしく高いですからね。一つの席を数百人で取り合う程」
「実際は用意されてる席自体が少ない、っていうのもあるのです」
「ひえぇ……」
僕も頑張って目指してはいるけど……対人検定が大変何だよね……人との最適な接し方とか簡単に分かるわけないし。何で最適なんだよ。二、三番目でもいいじゃん。
「まぁでも……今日は疲れてるだろうし、もう解散にしよっか」
「疲れ……まぁ確かに。ここにいる皆、命を鷲掴みにされるとかいう普通なら味わわない体験をしましたし」
ハヤタさんの提案に、僕は小さく頷く。
今回は僕を狙ってくれたから良かったものの……もし僕以外が狙われていたら……
「違うよ」
「……はい?」
「……レン先輩の事では……?」
「……え?」
「何でそんな素っ頓狂なのです?」
が、何故か三人が僕の発言に対し疑問の声と眼差しを向けてきた。
えそんなにおかしいこと言った? というか僕の事? 僕が何、疲れてると?
「自覚してなくても無理をする。それがレン君」
「え……えと……」
「甘えろなのです」
「あ……え、甘えるなの?」
まるで僕が強がってるみたいな言い方をする。そんなに僕は身の丈に合わない振る舞い方をしていたのか。
と唐突に、ハヤタさんが虚空からピンク色の拡声器を取り出した。
「ん? 拡声――
「んじゃ今日これからは各々部屋に戻ってゆっくり休んで。まだ半日と一時間ぐらいしか経ってないけど……まぁ良いよね」
「雑ね」
サラッと大事な事を流そうとするハヤタさんに、すかさずマユカさんが言い返す。召喚者達は突然の行為と言葉に、戸惑いの声を上げている人が沢山いる。
ねぇでもそれよりもさ。何で拡声器持ってるの?
「ドバイさん。このお城にある部屋全部を、この部屋にのみに出すことって可能?」
「出来るわよ」
「そ。じゃお願い」
「……なんか人使い荒くないかしら?」
雑……と言うより、素っ気ない、かな。ハヤタさんはドバイさんにそうお願いした。
ドバイさんの言いたい事は分かるが、現状、部屋を創れるのはドバイさんしかいないから。頑張って。
「んじゃ、何か困ったらまた僕たちに相談よろ。って事で、はい。今日は解散」
「えっと……こっちが二階の女子……えっと……こっちが三階の女子……えっと……」
再び拡声器を使い、ハヤタさんはそう言い、拡声器を虚空へとしまう。その隣でドバイさんは小さく溜息をついてから、壁に沿うように扉を次々と出していく。
改めて見てみると凄いなこれ。一つ一つ、ちゃんと保存できているんだもん。一部屋でも凄いのに百以上って……うへぇ……
「っと……で、貴方達の部屋はどうすればいいかしら?」
軈て全員分の部屋を出し終えたのか、ドバイさんがこちらを見て言ってきた。
すげぇ、もう出したの? まだ部屋に入ってない人が殆どなのに……もう……すげぇ……
「んじゃ、僕とレン君の部屋はこの扉の右側、フルキさんとミチルちゃんは左側にお願い」
「はいはい」
ハヤタさんは、自分達が入ってきた扉を指差しながらそう言った。それを見て、ドバイさんは扉の両隣に扉を出した。
こうして見ると……食堂の扉って大きいんだな……中庭へ行く時もそうだったけど、何でこんなに大きくしたんだろう。
「それじゃです」
「あ、ちょっと待って。これ、その人に」
「ん? あ、ありがとう……ございます?」
そしてフルキさんとミチルちゃんが、女性とドウルさんを連れて部屋へと入っていく。のを僕は止める。そして虚空から、ハヤタさんから口渡しされた手錠を渡す。手錠を受け取り、一瞬戸惑いの顔を僕に向けたフルキさんだったが、軈て小さくお辞儀をして部屋へと入っていった。
そりゃね……先輩二人が咥えた手錠だもの。そんな顔もしたくなるよね。ごめん。
「じゃ、僕達も行こ。また後でね」
「うん。またね」
そしてハヤタさんはマユカさんに声をかけてから、ドバイさんを連れて部屋に入って行った。
これ後で会うつもりだな。凄いな。二人の間に何があったか分からないけど、まぁ、良かったかな。マユカさん、自分では気づいてないかもだけど小さくスキップしてる。浮かれすぎでしょ。
「じゃ」
「ぇ……あ……うん、じ、じゃあ……」
そして唐突に聞こえてきたルルちゃんの短い言葉に、僕は動揺しながら答える。そしてルルちゃんを含む、全員が自分の部屋に入ったのを確認してから、僕も扉の横の扉へと入っていった。
「まぁ予想してたけど。暇だね」
「……」
「じゃあ何故解散させたのよ」
部屋に入った瞬間に目に入った光景。ベッドの上でハヤタさんは正座、ドバイさんは寝転んでいた。そして僕を見た瞬間、ハヤタさんが声を出した。
まぁ、だろうねとしか言えないけども。
僕はため息を吐き、立ったままハヤタさんの方を見る。
「明日の授業の準備でもすれば良いのでは?」
「それはもう終わってる」
「……」
「頭の中ではもう完璧よ」
自分の頭を右の人差し指で指し、足をぶらぶらと揺らしながらそう言う。
そう……まぁ、うん。この人が自信満々に言うなら大丈夫だよね……うん。
「じゃあ、筋トレでもしてます?」
「やだ」
「……」
「……昼寝してて良い?」
「……」
僕の提案すらサラッと流していたが、やがて、僕の目を真っ直ぐと、真顔で見つめながら寝たいと訴えた。
この人マジかよ。
「おやすみ……」
「……」
ハヤタさんは僕が反応しない事を確認してからベッドの上に寝転がり、目を閉じた。
この人マジかよ。
「ん……ぅう……すぅ……」
軈てハヤタさんから小さな寝息が聞こえてきた。
この人マジかよ。おやすみから数秒しか経ってないよ? 寝つきが良すぎない? 逆に危ないんじゃないのそれ?
「はぁ……まぁ、暇なのは事実ですけども……」
「なら、テレビでも見る?」
「あ……そういえばありましたねそんなの」
「まさか使ってなかったのかしら?」
扉は(ベッド側から見て)壁の右側に配置されているので、扉の左側にはスペースがある。その大きなスペース、というか壁にテレビが設置されている。
存在には気が付いてたけど……そういえば全く見てなかったな……暇潰しには確かに良いかもだけど。
「テレビ……って、あんまり興味が無いんですよね……」
「アニメもドラマも見ないの?」
「まぁ……たまにニュースを見てたぐらい、ですかね……」
「ええぇ……」
ドバイさんはリモコンを手に取り、テレビを付ける。因みに、ルルちゃんの縄は既に解かれている。失礼だが、この人なら取っ組み合いになっても勝てる自信はあるから。
今も生前もニュースを嗜む程度でしかテレビは利用していないからね……モクリサさんも父さんも驚いてたな……
「今は午後二時三十分……アニメもドラマもやってない時間だわ……」
「見せたいんですか……」
「勿論よ」
一体何故そんな事をしたいのか、皆目見当もつかないが、凄い真顔で返されたら何も言い返せなくなる。
正直、あんまり興味は無いけども……まぁ、暇を潰せるなら興味が無くても見た方がいいかもしれないけどさ。あ、でもルルちゃんが見てるやつなら興味はあるかも。
「よし……なら……」
そう小さく呟きながら、リモコンを操作する。テレビからは愉快な音楽と笑い声が響いている。バラエティ番組かな? 画面は文字がズラっと並ぶ、番組表が広がっている。
「ん……何ですかそれ……?」
と、僕はテレビ画面を見て疑問の声を上げた。
あれ、番組表って今日以降の情報が広がってるはずだよね……? 何で上部に記載されているのは今日以前の日にちになってるんだろう?
「今のテレビは凄いのよ。時間とチャンネルさえ指定すれば、二週間以内の番組全てを録画してくれるもの」
「あ、これがその……へぇ……それは凄い……の? 録画でも良いと思うんですが……?」
「録画と違って勝手にやってくれる、ってのがイイのよ。画質とかはちょっと悪くなるけど、楽よ」
あ、成程。録画を忘れちゃったりとか、後で「やっぱりあの番組見ればよかった」とか、そういう時には便利かも。後「二週間以内の番組を保存」って事は、録画の管理もしなくていいから楽かもしれない。
「何が良いかしらね……この男が好きそうなアニメ……あるかしら……?」
「自分が言うのもあれですけど、多分無いと思いますね……」
僕が好きな作品って、基本的にルルちゃんが好きな作品なんだもん。
実際、資格とか何にも持ってないのに簡単になれる冒険者ってもうただのバイトだよね。面接ぐらいはやってよ。
というか動画配信サービスじゃなくて、ただの録画系のやつでアニメ見させるとか何考えてんだこの人。




