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あいに溢るる  作者: 手石
共愛を求め狭隘な心を持った狂愛な少年
47/107

1.44 地図の需要がいつかは無くなる世界です

「それじゃあまず常識から」


「ゴホン。平和な日々を魔王が壊した」


「正確には、魔鬼者に壊せと命令を下した」


「魔鬼者は人々を襲い、街を壊した」


「人々は抵抗をした。けれども数と力、両方の圧倒的な差に次々と壊滅していった」


「挙句の果てに土の国の姫……セルントの妹までも攫った」


「ちなみにこの妹。今でも捕まったままよ。生死も不明。死んでるだろうと皆言ってる」


「話が逸れたわね。とにかく、そんな殺戮が三日程続いたある日」


「魔鬼者が帰って行った」


「勿論理由なんて分からない。でも、人々には歓喜と安堵……そして憤怒。三つの感情で溢れた」


「学校で習う内容……まぁ、大雑把に話すならこうね」






 話が終わったからか、女性は僕にゆっくりと目を合わせた。

 成程……確かに常識だ。低高で習った内容だから、多分、ここにいる召喚者以外の全員は知っている内容だろう。


「確かに……僕もそう教わりましたね」


「でもこれに一つ……たった一つ加えるだけで――


「分かった! そこにカ――


「やめたげて!」


 と、女性の言葉を被せるようにフルキさんが勢いよく何かを発しようとした。瞬間、フルキさんの言葉を被せるようにハヤタさんがフルキさんの口を抑えながら勢いよく止めた。女性もフルキさんの事を凄い目で睨んでいる。


「……真実にはね、魔鬼者が人々を襲ったという一コマの前に、この一文が加わるわ」


 そして勿体ぶるかのように、ゆっくりと、そして微笑み小さな声で話を続けた。


「王様は、魔王の伴侶という理由だけで、カオルという無害で善良な女性を殺めた、と」


「っ!?」


 やがて小さく告げられたその一節。ドウルさんは勿論、騎士や使用人たちもザワついている。かくいう僕も、驚きで言葉が出ない。ハヤタさんも目を見開いている。

 何かはあると思ってはいた……けど、まさかそんなことがあったなんて……


「っ! 有り得ません!」


「有り得る有り得ないとか、そういうのは関係ないわ。真実だもの」


「んなっ……!?」


 大きな声で否定をするドウルさんだったが、女性の一言に何も言い返せず、怯んでしまった。


「だからカオルがいなくなった理由……」


「……」


「魔王に攫われた……が妥当かしら?」


 フルキさんの方を一目見て、直ぐに上を見上げそう言う。フルキさんは俯いたまま、何も喋らない。複雑な気持ちなのだろう。


「いや、でも……それは流石に早計なのでは……?」


「かもね。ただの同名なだけかもしれないわね」


 僕の言葉を否定せず、女性は小さく頷く。

 人が室内で居なくなったんだから、誘拐を疑うのってちょっと違うと思う。いや、僕自身も知らない場所だからなんとも言えないけども。


「でも、他に何があるの? カオルって子がいなくなった理由」


「……それは……その、思いつきませんけど……」


「魔王なら、カオルの位置を突き止めて遠方から連れ去る……なんて芸当、出来てもおかしくないわよ」


 でもそうか……考えてみれば、僕達は転記やら転生やらでこっちの世界に来てるんだから……カオルさんも逆転記みたいな事をしてあっちの世界に行った可能性もあるといえばあるのか……


「いや、だとしてもですよ……」


 でも憶測の域なんて出ないし、正直魔王が関わってない可能性の方が断然高いとは思うけども……


「じゃあもう一つ。確信になるであろう言葉を送るわ」


「……言葉ですか?」


 未だ納得いかない様子の僕達を見兼ねたからか、女性は更に言葉を続けた。

 確信になるって……どういう……


「神界は天にあるから空を飛べるフェザーが一番近しい存在。水は神と交信できるからマーが一番近しい存在」


「……ぁ……聞いた事あるのです。夫々が夫々の人種を信仰してるっていう……」


「そそ」


 その少し長い文章に、僕は一瞬ハテナを浮かべた。ミチルちゃんは知ってたみたいで、少し俯きながら呟いた。


「でも実際は全く違う……」


「……」


「神に一番近しい存在は魔族」


「……え……?」


 軈て女性は勿体ぶった口調で、口元を手で隠しながらそんな言葉を放った。


「例えば。貴方達、転記した時最初に何処にいたのかしら?」


「何処……? あ、森だったはず」


「あ、俺も森です」


「そう、森よ」


 その謎の質問に素直に答えた直後、僕はハヤタさんとフルキさんを見た。二人共同じように驚いたからか、目を丸くしている、


「あ……じゃあ皆同じ森に……」


「その森はね。魔王の管理してる……まぁ、大雑把に言えば庭みたいな場所よ」


「え……?」


「え、庭、ですか?」


 そんな僕達を無視し、女性は話を続ける。

 まだ赤ん坊だったからとはいえ……あの森、かなり広かった覚えがあるんだけど……あれが庭……?


「庭と神域が直通してる……なら、近しい存在と言えるわよね?」


「そ……そう、ですけども……」


 でも確かに……妖精の間に繋がってる森って考えると……フェザーやマーよりも信憑性はかなり高いけども。


「魔王が神にお願いして、死んだカオルを別世界に転生させる事は出来るのよ」


「な……なるほど……」


「んで、一番後ろの席で一切こっちを見ずに震えてる貴女、これを聞いてどう思ったの?」


「っぁ!?」


 すると急に大きな声を出した女性。その声に反応するかのように、少し離れた位置に座っていた女が変な声を上げた。その声を聞き、女性はそいつの方を見てニヤリとした。少し不気味だと感じてしむう。


「カオルの話題になってからずっと下向いてて、ねぇ?」


「……怯えすぎだろあいつ……」


 僕もそいつの方を見て、ため息をついた。フルキさんとハヤタさんは困惑した表情をし、女性とあいつを交互に見ている。ミチルちゃんとマユカさんは理解したのか、納得した顔をしている。ルルちゃんは可愛い。


「すげぇ……目良すぎだろ」


「羨ましい限りだね」


「……いや、目が悪いからこそよ」


「……え?」


「……まぁとにかく……」


 カオルさんと一番仲が良かったはずなのに、一切報告をしなかった……僕が嫌だったからだとしても、ミチルちゃんに報告……も、嫌だったのか? いや、そうじゃなくて。

 僕はその女、アリサを一睨みしたその時、


「今はその子の事はどうでもいいのです」


「え……?」


 後ろから、そんな衝撃的な声が届いてきた。僕は驚きつつもゆっくりと振り返り、声の主であるミチルちゃんの顔を見つめる。


「ちょ、どうでも良いは……」


「どうでも良いのです」


「っ……」


 フルキさんもその言葉に反論しようと何かを言いかけたが、腕を組み呆れたような表情で言い放ったミチルちゃんを見て、尻込みをしてしまう。その行動に、ハヤタさんも少し驚いた表情をしてる。


「魔王の元に行くのが確実なのです。事実関係の確認なんてどうでもいいのです」


「いや、事実関係が先じゃない? もしかしたらあの女が殺めて埋めた可能性も……」


「その可能性は無いです」


 何故かあの女の取り調べをしようとする僕を止めるミチルちゃん。続く僕の言葉にも何故か力強く否定した。


「その女が童女を襲う直前まで、アイツはいたのです」


「……カオルさんのこと……?」


「アイツ呼ばわり」


「殺めて埋めるにしても……色々と足りないと思うのです」


「な……なるほど……」


 でもそっか……時間もそうだし道具もそうだ。いくらあの女が優秀だとしても、そんな簡単に完全犯罪なんて出来るわけがないか。でもミチルちゃん。出来れば早めにそれは教えて欲しかったかな。

 僕はミチルちゃんの言葉を聞いて大人しく身を引いた。


「なら、まぁ……一番都合のいい解釈は、魔王が攫ったになるけど……」


「居なくなったのが一人だけ、となると……それが妥当だね」


 ハヤタさんも同じ考えなのか、そう言葉にする。

 でも……本当に合ってるのか……としカオルさんがいなかったら……いや、魔王と友達になりたいっていう気持ちも無くはないし……最悪、無駄足にはならないと思いたい。


「えっと……今僕達はど真ん中のちょい左あたり。魔王城は……中央だから北東……だよね」


 ふとそんな声が聞こえた。ハヤタさが虚空から大きな地図を取り出し、現在地を照らし合わせながら呟いている。僕とフルキさんはその地図を覗き込む。


 地図は土の国全体。大きな緑色の正方形が描かれており、それを分断するかのように黒い線がある。正方形の真ん中に角度が甘い「く」の様にひかれた線と、その「く」の背中より少し下の部分から斜めに伸びている線の二本。これは前の世界で言う県境のようなもので、三つの地域に分けているという事になる。

 セルント王は土の国の王だけど、各々の地域には各々の長がいる。あれかな、総理大臣と県知事みたいな感じかな?


「レン君。本当の王城の位置は分かる?」


「え……あ、はい。えっと……」


 ハヤタさんは地図を折りたたみ、くの右側のみを見えるようにしている。

 というかこっち側の地域だけデカイな。何で三等分にしなかったんだろう。配分間違えてない? そもそも何で土の国の地図なの? くの右側だけでいいじゃん。

 地図と言っても、大まかな地形が描かれているだけだ。何処に王城があるのか、何処に魔王城があるのか、というのは記載されていない。が、今僕達がいるこの偽物の王城と優等高校にのみ、丸で記されている。魔王城は大陸からは隔離されているって習ったから、場所が分かったのかな。

 僕は本当の王城の位置、くの部分から大きく離れた位置を指差す。


「北北東……地図で言うと……街の中央にある優等高校、それよりもっと北にあるそうです」


「おっけ。なら……」


 こっちの世界にも早く地図アプリが出来て欲しいな……とか考えていた僕に対し、ハヤタさんはそう一言返し、黙り込んだ。何かを考えているのだろう。僕は邪魔にならないように黙ってその横顔を見つめる。


「この距離なら、一日で行ける距離だよね」


 右手の人差し指で僕達の位置、緑色の正方形の右上を中指で指しながら、そう発した。


「……まぁ、そうですね。今から行くと、日帰りできるかは怪しいかもですが」


「なら明日、朝一で殴り込みが良いんじゃない?」


「殴り込み」


「後は……念の為にもう一人ぐらい一緒のが良いかも」


 ハヤタさんは右の拳をグッ、と握り意気込んだ。

 まぁ確かに。この女性の話を聞いた限りだと魔王が酷い人とは思えない……けど、簡単に街を壊せる人でもあるから、人数は多い方がいいかもしれないね。


「あ、あの……」


「ん? どうしたのかな?」


「ミ……ミチルが一緒に殴り込みに行きたいです……」


「……」


「……です……」


 恐る恐る、でも強い闘志が宿っている目で放ったミチルちゃんの一言に、ハヤタさんは無言でミチルちゃんを見つめる。

 恐る恐る言った……って事はつまり、自分でも適任じゃないって思ってるのかな? 確かに、ミチルちゃんとフルキさんだけだと心配な所はあるかもだけど……そんな恐る恐る言うほど……?


「はぁ……分かったよ」


「っ!? あ、ありがとうです!」


 黙り込んでいたハヤタさんだったが、軈てため息をひとつ吐いてから、ミチルちゃんの要求を飲んだ。


「僕かレン君の方が良いと思ってたけど……まぁ……大丈夫でしょ」


「雑ね」


 ハヤタさんの言葉に、即座にマユカさんが反応した。

 というか、そんな重要そうな事をそんな即決しなくても……何でそんな半分投げやりな言い方なの?


「えっと……ありがとうございます……」


「……別にお礼を言われるほどじゃないよ……とにかく、今は目の前の事だけ考えよう」


「はい!」


 ハヤタさんのその一言に、フルキさんは大きな声で返事をした。

 暇だからなのか、後ろではルルちゃんとマユカさんがジャンケンをしていた。ルルちゃんのああいう、小さな勝利にも大きな喜びで表す所もイイ。

寧ろスマホがあるのに地図アプリが無いって何でだよ。というか土の国小さくない?

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