1.43 しれっと三人目の転記者が発覚しました
察しの通り、あの人ですはい。
「っ!?」
「え何その展開」
予想外の発言だったからか、ハヤタさんもマユカさんも手を止め、こちらを向いてきた。
内容を全く理解していないであろうユウ……じゃねぇミユウちゃん……あれ、ユウキちゃんだっけ? あれどっちだっけ? まぁいいや。も、僕の方を見ている。
「その第一段階として、出入口……でいいよね……である妖精の間にいる妖精を、全滅させるつもりらしいです」
「なるほどね……妖精は神界への侵入を防ぐ存在でもあったのかな……?」
「かもしれませんね」
やはり飲み込みの早いハヤタさん。周囲と違い、既にある程度の予測まで立てている。
でも女神さんは、力を授けるだけの存在って言ってたし……いや、知らなかっただけなのかも。いやあの人の事だ。多分伝え忘れただけだろう。
「でも……途方もない気がするよ? あの時パッと見でも何百人はいた気がするし」
「えぇ。何百年もかけて行うらしいです」
「うへぇマジか……執念深いね。子供にでも託すのかしら?」
「実際、セルント王の両親も、行ったらしいので、多分そうだと思いますね」
ハヤタさんは背中を丸め、渋い顔をする。
つまり、僕達が行った召喚は二回目なのだ。確か……二、三十年ぐらい前に一回だけあったらしい。
「というか……何で神界なんて侵略するんだろ?」
「そこまでは……ドウルさんも知らなかったみたいです」
「うーむ」
ハヤタさんは右手を顎に当て、右肘を左手で支えながら唸る。正直、こればっかりは直接聞きでもしない限りは分かる気がしないな。
ふとハヤタさんの後ろを見ると、上の空になっているマユカさんが目に入った。多分、途中で考えるのを諦めたのだろう。ごめん。
「あ、これはついでですけども。魔王退治は本当にやらせるつもりだったみたいです」
「うわぁ……」
ハヤタさんは右手で口を覆い、そう小さく漏らす。
流石のハヤタさんも、若干引いている。正直、僕もうわぁとは思った。嫌いな人を利用し、嫌いな存在を討つ。セルント王にとっては、結託をされない限りは損をしないという……何か腹が立ってきたな。
「えっと……い、良いでしょうか……?」
「ん?」
「んっ!?」
と、気配を消していたのか、背後から唐突に声が響いてきた。後ろを見ると、僕の肩からひょっこりと顔を出しているフルキさんがいた。
「あ、ごめん待ってたのね……」
「全然気が付かなった……ごめん……」
「……」
そして僕達二人を苦々しい顔で睨んできた。
ごめんじゃん。こっちだって重要な会話してたんだもん。そんな顔しないでよ。
「えっと……カオルが、いません!」
「……Who?」
「え? ま、本当ですか!?」
「え知ってるの? ちょ、僕を置いていかないでおくれ?」
そして切羽詰まった表情で報告をした。
カオルさん……というと、男性が女性か分からない、あの人のこと……だよね……?
誰だか分かっている僕に対し、誰か分かっていないハヤタさんが少し悲しそうな顔をしている。
「あ、えと、俺の幼馴染です!」
「あぁね。理解」
「え、そうだったんですか!?」
「知らなかったんかい」
フルキさんが案内をしていたグループだから、だと思っていたけど……まさか幼馴……ん? あ、フルキさんもこっち側の人間だったの!? あ、だから案内人なんて引き受けたのか……まさか前世も同じ学校だったとは……
「……あれ……でも誰も……」
と、そこで嫌な考えが頭を過った。僕は顎に右手を当てる。
おかしいよね……? クラスメイトがいなくなったのに、誰一人騒がなかったって……何かまるで……
「……」
僕はカオルさんがいたであろうグループの机の前へと歩く。そしてその列を見渡す。僕の行動に怪訝に思ったのか、フルキさんも後ろから着いてきた。
「……」
僕は後ろを振り返り、フルキさんの顔を見る。そしてさり気なく、距離が近くないかを確認しておく。
あれ、見上げる形になったな。近い。離れろ。僕が惨めな男に見えるでしょうが。
「カオルさんって……何か悪いことでもしたんですか?」
「は? いや、な訳……」
「……ですか……」
僕はそんな疑問を投げる。一瞬素っ頓狂な顔をしたが、直ぐに真顔に戻り、疑問に答えてくれた。
フルキさんに心当たりはない……か……多分、この調子だと、このクラスメイトも話してくれないだろうし……この人数をみるのは精神的にも体力的にも無理だし……
「カオルさんが居ないのに僕達に何も言わなかった……」
「……」
「……ち……」
「え、レン先輩?」
考えたくない事を想像し、僕は舌打ちをしてしまう。
もしかしたらツッチーの時みたいに、フルキさんの知らぬ間にって可能性もあるし、逆に本当に何もしてなかったらしてなかったで……どっちにしろ面倒なことになるね。
僕は顔を上げ、ルルちゃん達がいる方へと歩き始める。
「……今はいいや。他に優先することもありますし」
「ちょ、カオルの事は放っておくんですか!?」
「そうじゃないよ」
僕の発言に対し、フルキさんは珍しい焦り方をした。
この焦り方は……余っ程カオルさんの事が大好きだったんだろうな。でも、今はそういうことを言いたい訳じゃない。そもそも、カオルさんの居場所の目星が全く着いてないんだもん。
「とりあえず城内を調べ回るつもりだけども……それは話し合いが終わった後が……」
「カオル……カオル……?」
「……ん……?」
すると、壁を背にし黙って寝転がっていたはずの女性のブツブツと呟く声が聞こえてきた。僕だけでなく、ハヤタさんもフルキさんも、女性を見ている。
どうしたんだろう……?
「思い出した!……そうよ、魔王の彼女!」
「……え……?」
「……は……?」
「……ん……?」
漸く思い出したのか、大きな声で衝撃的なことを言った。僕だけでなく、ハヤタさんもフルキさんも、多分、今この場にいる全員が、その短い言葉の意味を理解しようと頭を勢いよく回していることだろう。
えっと……は? 彼女? 魔王の……? え、誰が? まさかカオルさんが?
「確かカオルって名前だったのよ。懐かしいわ……もう三十年ぐらい前かしら?」
「ま、え!? 魔王のって、本当ですか!?」
「本当よ? 意外と知られてないのよこれ。不思議よね」
信じられない……! え、じゃあ、え? いや、フルキさんの幼馴染っていうのは?
困惑する僕達を見て女性は、寧ろ何故知られてないの、とでも言うように、少し呆れたような顔をしている。
「でも確か……殺されたのよね。確かセルントの親にだっけ?」
「えぇ!?」
「なっ!?」
「はぁっ!? いや、そんなの聞いたことありませんよ!?」
そして、更なる爆弾を投下した。ドウルさんや騎士やシェフ、王様の元で働く人達が、よりいっそう大きな声を出しながら驚きの表情をしている。ドウルさんに至っては前のめりになりがら反論までしている。
「そりゃ無いわよね。自分に不利益な情報を流すとでも?」
「っ! いや、だとしても、セルントの幼馴染だった私にすら届かないって!」
「なら、セルントも知らなかったとか? 知ってるのは本当に極々一部だけだし」
認めたくないのか、両手を上にのばし、仰向けになったまま必死に否定する。その様は……何だろう、一昨日の僕とドウルさんみたいに見える……のかな? 後ろにいるハヤタさんが僕の耳元で「き……既視感……」と言いながら笑いをこらえているのは無視しよう。
笑わないでよ。こちだって必死にハヤタさんの無罪を主張してたんだから。
「そうだ。聞く? 何で皆魔王を嫌悪しているのか?」
「それは……」
「聞かせてください」
正直、聞きたい。単純に気になる、というのもあるけど、教科書の内容に疑問も持っていたから。
「あら? 意外と素直ね」
「ちょっと……というかかなりですけど……魔王に対する認識に疑問はありましたから」
「あ、俺も俺も」
「それに……カオルさんの行方にも関わっているかもしれませんし」
「あら? かも、じゃなくて関わってると思うわよ?」
妖精さんはそこそこ長い年月をかけ、ゆっくりと繁殖していきます。数十年に一人ずつ、的な感じで。だから一気に減ったらちょっと大変なんです。




