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あいに溢るる  作者: 手石
共愛を求め狭隘な心を持った狂愛な少年
44/107

1.41 この話以降、レン君には獣耳と獣尻尾が標準になります。やったね

タイトル通りです。いよっしゃあああぁぁっ!

「そういえば……大丈夫なの?」


「え……? 何が?」


 すると唐突に、ルルちゃんが僕の真後ろに来て、心配の声を上げた。


「偶に左手を離してたし……本当に大丈夫なのかな……って……」


 と、可愛らしく、左手を上げながらそう説明してくれた。もしかしなくても、僕の体を心配してくれているのだろう。素敵。

 なら僕はキチンと返答しないと。こんな心配してくれるルルちゃんとか貴重すぎるし。


「あ。あれは、痛みを抑えるためと自然治癒力を上げるためにやってるから」


「……ん……」


 が、ピンと来てないのか、素っ頓狂な表情をしている。

 んー……もっと端的に言うと……


「えと……少しでも早く治って欲しいから、出来るだけやっておきたいなって」


「ほえぇ」


 納得したのかしていないのか、分からないけども感嘆の声を上げている。直立不動だけれども。

 分かっては……いる、よね?


「まぁ、この世界にいるからには痛みには耐えないとだから、痛み止めはついでだけど」


 と一言付け加える。

 実際、この世界にいるのならあの程度は耐えられる、ではなく耐えなくてはいけないだからね。あれに耐えながら体を動かさないといけないから……ん、本当に大丈夫かなこの子達……


「自然治癒力だけで平気なの……? こう、一気に治すとかは?」


「……さぁ? 僕は医療には詳しくないから」


「ええぇ……」


 まぁ、怪我を治すのだって自然治癒力が大事だし。まぁでも、そんな一気に治すなんて芸当は流石に無理かな。そんなの専門学生でもひと握りじゃない?


「……ん。じゃあ、戦ってる時にもやってたのは?」


「シンプルに殴打と呼吸器からの出血のダブルパンチは流石にキツかったから」


「お……おへぇ……いや、医療に詳しくないんじゃなかったの? 呼吸器からって」


 少し苦々しい顔をしてから、そう言う。

 そういえば……僕が吐血と呼吸器の関係について調べたのって何で……あ。


「ルルちゃんのせいじゃん」


「何で!?」


 僕の呟きに、驚きの声を返してきた。何時もと冷静な雰囲気のあるルルちゃんの驚き声。ずっと聞いてられる。

 ルルちゃんの読んでた漫画で、貧血になるんじゃねぇの? ってぐらい吐血シーンが多かったから、大丈夫なのかな、って調べたんだっけ。懐かしい。


「まぁ、今回のは比較的軽傷な方だったから、もう大丈夫だよ」


「そ。なら良かった」


 まぁ嘘だけども。これは安心させる為に言ってるだけだ。支障はないとはいえ、吐血してる時点でもう軽症ではないからね。


「じゃあ次は」


 と、話を変えるように、僕は放ったらかしにしていた女性へと目を向けた。


「ひぇ……!」


「……」


 小さく声を出しながら、

 凄い怯えた顔と声……何? そんなにみられたくないものでもあるの……?


「別に、質問にきちんと答えてくれるのならみませんよ」


「っ! んっ! んっ!」


 僕の言葉に対し、激しく、そして何度も頷く。

 何か僕の方が悪者みたいじゃん。それに僕だって出来ればみたくはないんだからね。シンプルに興味も無いし、変な気分にもなるし。


「……」


「っ……」


 僕は腰を下ろし、女性と目線を合わせる。まだ、周囲は少しだけざわついている。


「多分ですけども」


「……」


 そしてゆっくり。どんな言葉を発するのが良いのか考えながら、口を開く。


「……貴女はツッチーを殺めてませんよね?」


「っ!? な、ん!?」


 結局直球で聞いてしまった。が、女性の同様の仕方からして、本当なのだろうか。


「壁に押し付けてからの連続殴打」


「……」


「それで、ツッチーを殺めたって言いましたよね?」


 僕はもう一度、女性が言った事を声に出して確認する。

 黙って聞いているのを見るに、今のところ、間違っているところは無さそうだ。


「まず大前提として、殴殺の時点でシンプルに効率が悪いですし」


「……」


 戦いに不慣れな人を殺める。なら、もっと簡単な方法があったはずだ。なんならナイフ一本で楽に出来るはずだ。遠回しかつ非効率なやり方をする意味が分からない。


「それにあの見えないやつも。正直、あの程度で人を殺めるのは厳しいですね」


 あの見えない攻撃。体を動かせなかった分、余計に痛いと感じたのかもだけど、でも……慣れてる僕だったから、なのかもしれないけど……致命傷とはならなかった。直接殴ったならまだしも、あれで殺めた、というのは嘘だとすぐ分かった。


「んで、往生際に「だったらせめて、弱点だけでも! 弱点さえ、どうにかできれば」って言ってたんですよね」


「……え、全部覚えてるの?」


「……貴女が言いますそれ?」


 驚いてるけど、そっちがそう言ったんでしょ? 何でそんなやばいものを見たかのような顔するの? 辞めてくれないかな? ルルちゃんの若干引いてる目はもっと欲しい。


「あのラッシュを喰らいながら喋る……痛みに慣れてる僕でもキツかったんですよ」


「っ……」


「慣れてない人なら、喋る余裕なんてある筈ないんです」


 そして突きつけるように、僕は少し強い口調で女性に言い放つ。

 両方の世界で生きてきたからこそ分かる。ツッチーのあれは、往生際に出せるような言葉では無い。


「い、いや……普通に、ラッシュ後のセリフかもじゃん?」


「痛みに慣れてない人が往生際にそんな長文を、それも聞き取れるほどの声量で紡げるとでも!? 舐めてるんですか!?」


「っ!」


 何を焦っているのか分からないが、女性はあたふたといった様子で謎の弁明をした。

 百歩譲って、この世界の住人ならまだ分からなくもないよ。でも、突き指で騒ぐ世界の住人だよ? 自分の命が亡くなる瞬間に意識を保てるわけが無いでしょうが。


「確かに。よく考えたらダイイングメッセージって、リアルだとあんまり聞かない」


「ぇ……?……あ、あうん。そう、そう」


「え、ダイイングメッセージも知らなかったの?」


 ルルちゃんが発した単語に対し動揺が隠しきれない僕は、ルルちゃの目から逃れるように、顔をあらぬ方向へと背ける。

 別に? 知らないわけじゃないよ? 聞いた事はあるし。うん。聞いた事は……うん……


「で、どうなんですか?」


「……」


「……今、ツッチーはどこにいるんですか……?」


 そんな目など素知らぬ振りをし、僕は再び女性へと詰め寄る。

 あんな嘘をついたんだ。ツッチーが今何処にいるか、知らないはずがない。


「……確かに。私は彼を殺してないわね」


「やっと認めてくれた……」


 と、ここで初めて女性から諦めに似た声が上がった。

 良かった……ここでも拒否されたら、また面倒くさい事になってたから……

 僕は更に前のめりになり、女性の顔をのぞき込む。


「で、何処にいるんですか?」


「彼を殺したのは、彼自身よ」


「……は……?」


 が、続いてやってきたその言葉に、僕は前のめりのまま固まってしまった。その言葉の意味を理解するのに、数秒かかった。

 え……いや……何言ってんの……? 彼自身……?……それじゃまるで……ぇ……嘘……?


「だからその長文。彼の往生際に聞いた、じゃなくて、最後に聞いた、が正しいね」


「いや……う、嘘ですよね……?」


「ん? ならもっとはっきり言うわね。彼、自殺したのよ」


「っぁ……!」


 そして今度は遠回しにはせず、はっきりと、耳にしたくもないその言葉を口にした。

 確かにそうだ。今ここで、ツッチーが自殺したという嘘をついたところで、この人にメリットなんか……というか脳内を覗けるんだから、嘘が無意味なんだけど。


「さっきも言ったけど、あの子は私たちを裏切ろうとしてたから」


「……」


「頭を冷やしてもらう為に一人っきりにして、戻ってきたら首を吊ってたのよ」


「っ……首……!」


 僕の目を真っ直ぐ見据えそう言う。やはり嘘を言っているようには見えない。

 ……そうだ。それなら匂いについては納得いく。それなら血の匂いがしなくてもおかしくはない。


「……や、よくよく考えればかなり無責任だよな」


「ぇ……無責任……?」


 と急に、今まで会話に入ってこなかった僕のクラスメイトの……えっと……ユウキちゃん? あ、違う。ミユウちゃんだ。が、座ったまま声を出した。僕は声のするほうへと振り返りながら、その言葉を繰り返す。

 無責任……ってやっぱりあの嘘のこと……?


「確かに。レンに嘘ついてまで……元気なかったし、後悔でもしたのか?」


「あ、あの水に浸かる時だっけ?」


「そう。レンの言葉聞いてさ」


 タツヒロ君とヒロタ君も、同調するかのように会話に入ってきた。遠くにいたからか、こちらに近づいてきて。

 確かに元気は無かったけど……あれ……それじゃつまり……僕がツッチーを殺めたってこと……?


「何でなの?」


「ひぇい!?」


「何でそんなに、あんな自分勝手なクズ野郎の事を気にするの?」


 唐突に、静かだったルルちゃんがずいっと近づいてきた。落ち着く匂いを周囲に漂わせながら、生きとし生けるもの全てを堕落させてしまうような麗しいその容姿が、僕の視界を覆い尽くす。

 お……恐ろしい……普段は温厚なルルちゃんがここまで怒りを表に出すなんて……ツッチーが羨……違う、狡い。いや、そんなこと言ってる場合じゃない。


「だって……その……数少ない友達だったし……」


「……」


「嘘をつかれたとしても……一緒にいた、っていうのは事実だし……」


「……はぁ……」


 俯きながらポツポツと語る僕を後目に、ルルちゃんは呆れにも似たため息をつく。

 確かに傷ついたのは事実……だけども、今までの関係が楽しかったのも事実。だから簡単には忘れたり出来ないかな……


「そういえば」


「ぇ……にゃぁぁっ!?」


 唐突に、お尻を中心に全身を巡っていく変な感覚に、僕は堪らず変な声を出してしまった。

 っ!? え、何!? 急に……ん……待って……ちょ……変な、何この味わったことの無い感触……!?


「耳と尻尾が無い」


「……にぇ……ぇ……?」


「は?」


 豪快、なのに優しく、ずっとされたいと感じてしまうような触り方をしながら、ルルちゃんは僕の顔を覗き込んでそう言う。

 んな、何でだろう……触られてるだけなのに……耳を触られた時みたいに、変な感覚が……


「後で弄るって言ったのに。何処にやったの?」


「ん……と、何処って……普通に、しまっただけだけど……」


「しま……え、しまうって何!?」


 ルルちゃんは僕のお尻の上で優しく動かしていた手を止め、声を荒らげる。まだお尻に触れたまんまだけど。


「な、何でそんなことしたの!?」


「いや……別に、もう出しておく必要がないかなって……」


「っ……!?」


 僕の言葉を聞いたルルちゃんは、まるで緊急事態だ、と言わんばかりに酷く焦っている。今日は色んなルルちゃんを見ることが出来た。

 凶禍は強くなれるけど、半ば無理矢理耳と尻尾を露出させるからしょうがないけど……その時以外で出してる理由ってあんまり無い気がするんだよね……実際、街中で耳や尻尾を出してる人ってあんまりいないし。というかやっとお尻から手を離してくれた……ん……あ、いや、ダメだ。あの美麗な細腕をわざわざ煩わせるようなことは……


「そんなぁ」


「んぇ?」


 などと考えている時、不意にルルちゃんから変な声が聞こえてきた。いつものように真顔だけど、何処か子供じみた言い方だ。


「あのみみとしっぽ、すごくにあってるとおもてたのにぃ」


 ズオッ


「んっ……そ、へぇ、そうなんだ……」


 まぁでもね。オシャレ? 意外と色んな洋服とかに合いそうだし? ちょっとぐらい出しててもいいかな?


「……ちょろすぎんだろ」


「プライドとかって無いの?」


「さぁ何のこと? 別にたまたま? たまたま出したい気分だったってだけだし?」


「こいつ……バカだろ」


 周りから軽蔑にも似た声が聞こえてくる。

 何とでも言えばいいさ。別に? 何か出したいな、って思っただけだし? 偶然だし。


「ふん」


「みゃぁぁっ!?」


 すると急に、僕の尻尾を中心に、謎のピリピリがまたしても襲ってきた。唐突だったので、またしても変な声が出てしまった。


「はふ……はふ……」


「ちょ、はげっ、きゅぁぁっ……!」


 ルルちゃんが僕の尻尾を抱き、顔をスリスリさせている。僕は思わず、膝から崩れ落ちてしまった。

 あ……あのがっつき方。多分、ルルちゃんは狐が好きなのか……ん? おかしいな。別にそんなの好きな子じゃ……んぁ……! ん、耳と比べて、尻尾の触覚は鈍いから、感覚はあんまりないはずなのに……何で、さっきのお尻の時みたいな感覚が……ぁぁぁあ……


「……女の子座りしてる……」


「ぁ、にゃ……!」


「……で、これからどうするの?」


「ん、め、え、ど……!?」


 そしてゆっくりと僕の尻尾を撫でながら、ルルちゃんが小さく何かを聞いてきた。が、よく聞こえなかったので、思わず聞き返してしまった。


「王様もいないし、私たちはどうすればいいの?」


「……っぁ……え、っと……」


 と、今度は撫でるのを辞めてから、僕にそう告げた。

 ちくしょう。ルルちゃんの口を煩わせてしまった……不覚……と、そうじゃない。折角ルルちゃんが聞いてきてくれたんだから、ちゃんと答えないと。


「とりあえず、ミチルちゃん達が戻るまで待とうかな。相談は揃った時がいいし」


「ん……」


 が、一番良いよね。ハヤタさんが戻ってきてくれれば、何となくの方針は決められるし。


「ぁ……あと……」


 と、僕は座り込んだまま、後ろへと体を向ける。追いかけるようにルルちゃんも僕の後ろへと移動する。そして女性へと目を向ける。


「その……ツッチーが今何処にいるか、教えてくれませんか?」


「は? いや、え?」


「あ、えと……ツッチーが永眠してる場所……ってこと……」


「あ、そういう」


 せめて最期の言葉くらいは……届かないってことは分かってるし、意味がないのも分かってるけど……贈りたいから……


「ならごめんなさいね。もうどこにも居ないわ」


「え……?」


「埋葬なんかしてない、燃やして灰にした、って事よ」


「……は?」


 そして今度は遠回しにせず、はっきりと言い放った。ド直球に聞こえた言葉に思わず、低い声で反応してしまった。


「ま、こっちにずっと居た貴方なら分かるでしょ?」


「ぁ……いや、まさか、そこまで嫌悪してるとは……」


「はぁ……ま、そもそも話題にすらしたくないのよね。皆」


 そうか……嫌ってるなら、あんまり傍に置きたいなんて思わないのか……いや、だとしても埋葬すらしてくれないなんて思ってながた……


「えっと……それってどういう?」


 と、何も知らない召喚者の一人であるヒロタ君が、恐る恐るといったふうに聞いてきた。


「こっちの世界にいる人達はね。あなた達異世界人が大っ嫌いなのよ」


「え……?」


 そして女性は、またしても遠回しにはせずハッキリと、そしてシンプルに、ヒロタ君に力強く説明した。


「いや、いやいやいや! 勝手に呼んだんでしょ!? おかしいじゃん!」


「おかしくはなかったよ」


「……え?」


「あ、いや……嫌ってる人を召喚してでも成し遂げたい何かがあった、ってことだよ」


 前のめりになり、女性に勢いよく迫るヒロタ君。最もな反応だ。実際、僕自身も分からない事だったから。

 でも……僕はみちゃったからな……意外とこれ、ちょっと狡いのかもしれないな。


「その、一応、僕はドウルさんから計画の全てをみたから」


「あ。え、じゃあそれ教えてよ」


「……多分、何言ってんの? って返ってきそうだからやめる」


「ええぇ……」


 ミユウちゃんが不服そうな、というか明らかに不機嫌な顔をした。後ろにいるヒロタ君も、えぇ、という顔をしている。

 しょうがないじゃん……正直、僕にだって聞き馴染みのない言葉が出てきたんだもん。ハヤタさんとかじゃないとちんぷんかんぷんだよ絶対。


「とにかく……そっか……」


 ツッチーはもういない……こんなに軽々しく言ってしまうと、薄情な人に見えるのかもしれないな。


「せめて、最後に一言ぐらいは……」


 もう生きていない人に対して何かを言う。それで気持ちの整理がつくかどうかは分からないけど、何もしないよりは遥かにマシだったと思うし……


「ねぇ」


「ひゃいっ!?」


 と、後ろからルルちゃんの声……と同時に、僕の肩に小さな何かが触れられた。柔らかくて、でもちょっとだけコツコツとしている、繊細な指一本一本が僕の肩へと添えられる。唐突に訪れたその感触に、またしても変な声が出てしまった。

 やばいやばいやばい! 今日情けない声ばっかり出してるじゃん! 恥ずかしい!


「……私はあいつの事は大っ嫌い。尚且つ、あいつの嘘の大の被害者」


「ん……ぁ……ひゃ、ひゃい……」


「……せめて私の前では、あいつの話はやめて」


「ぁ……」


 ルルちゃんが一番の被害者だというのは重々承知している……つもりだった……これが気遣いだとしても気遣いじゃなかったとしても、ルルちゃんに失礼なことをしていることに違いはない。


「ん……その……ごめん……」


「ん……分かればよろしい」


「へ? みょぁぁっ!?」


 そう決意し、僕はルルちゃんの方を向き、小さく謝罪をした。直後、遂に、ルルちゃんの右手が僕のアンスロの方の左耳を捉えた。

 にゃ!? ぁ、ぁぁ何コレ! ハヤタさんの時とは違う、変な感じが……意識はハッキリとしてるけどピリピリが……


「んっと……第三者から見たらさ」


「ん、ひぇ……?」


 そんな中、微かに聞こえてきた声。が、全身を変な感覚が襲っているので、誰の声か分からない。

 ひぁ……ハヤタさんの時よりも荒々しい触り方……でも、ずっと触ってて欲しいような……ぁ……


「あいつ、レン君に敵対心向けてるように見えたよ?」


「……ぇ……!?」


 が、そんな曖昧な意識の中聞こえてきた衝撃的な言葉。


「いや……嘘……嘘だよね!?」


「あ、ちょ」


 僕は後ろに飛び退いてルルちゃんから離れ、その声の主、タツヒロ君の目の前に迫った。

 ちょっと待って、僕の事が……って、どういうこと!?


「本当だよ。何か、あんたら二人の間に割って入って荒らしてる感があったし」


「レンの家が裕福だって知ってたから、嫉妬でもしてたんじゃないの?」


「……ぇ……」


 隣にいたミユウちゃんとヒロタ君も、同じように肯定……の声よりも何よりも……

 ぇ……何で僕の家庭のこと知ってるの……?


「あ、確かテルヨシさんの子供だっけ?」


「何……ぇ……」


「そそ。正確には、姉の子供らしいけど」


「待って……ねぇ……!」


 目の前で、淡々と話すミユウちゃんとヒロタ君を見て、僕の震えは止まらない。

 何で僕が……あの酷父……テルヨシの家庭で育っているって事を……


「ん? どした?」


「何で……何で、僕の父さんについて知ってるの……?」


 あの高校に通って一年と八ヶ月程、僕はずっと秘密にしてた。ルルちゃんとツッチーしか知らない、僕の秘密……の筈なのに、何で皆当たり前のように……!?


「うちの学校にテルヨシさんが来た」


「……ぇ……」


「で、謝罪してた」


「……は……?」


 いや……おかしい……あの人が学校に来た? それだけならまだしも……謝罪?


「そうそう。で、あの人が帰った後に召喚されたんだよな」


「え……ぁ……そ……だったんだ……」


 訳が分からない僕は、俯いて考える。

 ……いや……受け入れられるわけがない……謝罪? あの人が? 世間の目を気にしてそんなことを……いや……だとしても警察をどうにかして揉み消すのは本当に出来そうだし……


「ん? 何か引っかかることでもあるのか?」


「ぇ……いや……何でも――


 ドガキャッ


「知らん! 空気を読まずに!」


 ドガキャッ


「ひぇぁっ!?」


「っ!?」


「颯爽と美男子登場!」


 と、そんな時、不意に扉が悲鳴をあげながら小さく吹き飛んだ。

 ぇ!? え! ちょ、はぁ!?


「ふふふ。ノックするのが面倒だったから、ぶち破っちゃった」


 そしてそんな無邪気な声が聞こえてきた。恐らく、ミチルちゃんとマユカさんが、ハヤタさん達を連れて戻ってきたのだろう。

 へ……平常運転だから怖い……ん……大丈夫かな……ちゃんと顔を見れるかな……いや、そんなことを考えてる場合じゃない。

 僕はゆっくりとぶち破られた扉の方に体を向ける。そして、


「と……心臓に悪――


 髪の毛がクシャクシャになり、顔を両手で覆っているマユカさんをお姫様抱っこしているハヤタさんが目に入った。


「……は……?」


「おや? この静けさ、まさか重要なシーンの真っ最中だったのかな?」


「……何をしてるんですかあんたら?」


 およそ僕が思う重要なシーンでは流れてこないであろう楽観的なセリフを吐くハヤタさんに向けて、僕は冷たい声で言う。

 何を……いや、えマユカさん? さっきのあの葛藤はなんだったの? 見てるこっちが恥ずかしくなるぐらいの構図よそれ?


「でっすぅ」


「ん」


 と、そんな二人の後ろからまたしても声が聞こえてきた。高めかつ緩い声から、ミチルちゃんだということはすぐに分かった。

 僕は二人から視線を外し、扉の方から聞こえてきたその声の方へと顔を向ける。そして、


「あ、おか――


 髪の毛がクシャクシャになり、顔を両手で覆っているフルキさんをお姫様抱っこしているミチルちゃんが目に入った。

ルルちゃん相手だとどんなこともしそう。

というかゴリゴリで積極的だなこの女。もっとレン君のエッチで卑猥な声と顔を見せてくれ。ルルちゃんかハヤタさんにしかできない役目なのだから。

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