1.38.3 VS一撃が重いくせに素早くて尚且つ見えない攻撃をしてくる女性
でも事実モテないんだもん。
「……私を蚊帳の外にするのが好きなのかしら?」
「……」
腕を組み、足を揺すりながら、少しイラついた口調で女性が呟いた。
それを聞き、レンは再び女性の方へと目を向ける。
「今の言葉……ルルちゃんは今、彼氏はいないって事ですよね?」
「……私に同意を求める意味は?」
「……」
待たされた挙句、自身の質問までもを無視された女性。あからさまに不機嫌になりながら会話をしている。
「……別に、蚊帳の外にしたつもりは無いですよ」
「……舐めてるのかしら……? まぁ確かにそうよね。隙が見つからなかった、ものっ」
「っ」
ガッ
と、唐突に、女性は右腕を振り抜いた。
レンは瞬時に右手を掲げ、左側から伝わってきた見えない攻撃を防いだ。
「っぶな……」
両手がクロスするようなポーズをしたが、すぐに腕を戻し、女性を睨むように眺める。
「……」
女性はそんなレンの姿を見て、少し考え込むような顔をした。
「私のこの能力、ちょっと扱いにくいのよね」
「……?」
そしてニヤリとしてから、レンに何かを教えようと口を開いた。
突然の行動に、レンの眉が一瞬ぴくりと動く。
「一つ。自分の意思で動かせる部位からしか出せない。腕とか足とか」
レンの顔を見ながら、左手を腰に当て、右手を前に出し、人差し指をたてる。レンはいつでも動けるように、腰を落としている。
「……」
「そして二つ」
そして中指を動かした瞬間、
ガッ
「ゴガッ!」
と、唐突に、レンの体が後方へと吹き飛んだ。
女性は右手をピースの形に、左手は未だ腰に手を当てている。もちろん、足も全く動かしていない。のに、見えない攻撃をしたのだ。
「っぁ! がぁっ!?」
「これ……固定ダメージなのよね」
そして左手を前に突き出し、
「ぎゅぁっ!?」
レンの体を、またしても見えない何かで、見えない空間へと押さえつけた。レンは再び、両腕を伸ばしながら宙に浮くような体勢になった。
「腕一本でも指一本でも、大振りでも小ぶりでも、全部同じ威力になるの」
が、女性はそんなレンの姿を見ても声色を変えず、ゆっくりと、レンに近づきながら言葉を繋げる。
「だからこうやるとね」
そして左手を突き出したまま、今度は右手を前に突き出した。左手と同様、掌をレンに向けている。
「結構凄いことになるの」
そしてその右手の指を折りたたむように、ギュッと握りしめた。
瞬間、
「んっ! が、ぁぁあ!?」
「本当は、あんな大振りじゃなくても良かったのよね!」
レンが大きな悲鳴をあげ、体を捩るように悶えた。
それを見て、女性は小さく微笑む。
「ま、この攻撃。楽とはいえ」
そして握りしめていた右手を、今度は勢いよく開いた。
「ぎゃっ!」
「これはこれでシンプルにダサいから」
と同時に、レンが叫び声を上げながら、体がまたしてもぴくりと動く。
「これで攻撃するの、ちょっとヤだったけど」
そしてもう一度右手を開こうとした時、
「ぬらっ!」
ドガッ
低い叫び声と共に、およそ蹴破っただろとしか思えないような音を立てながら、扉が勢いよく開かれた。と同時に、セルント王の部屋からルルが飛び出してきた。両手で小さな机を抱えながら。
「っ!?」
「ぬぅら!」
そしてその小さな机を、女性目掛けて大きく振り下ろした。
え……この子本当に女子高生なの……? ダイナミックすぎない?
ガギャッ
「んみっ!?」
「っ」
「ル……ルルちゃん……!」
机は女性の肩に勢いよく当たった。女性は一瞬だけ苦い顔をする。対してルルは、机から衝撃が伝わってきたのだろうか、表情を曇らせた。
「いっ……たぁ……」
「だ、大丈夫!?」
ルルは机を横に置き、ゆっくりと呼吸をする。レンは未だ身動きが取れないが、ルルの行動を見て、焦ったように声を荒らげる。自分自身の心配など全くしていないように見える。
「ル……ルルちゃん?」
とそこへ、扉の影からマユカが顔を出した。
急に扉を蹴破ったルルの事を心配しているのだろうか。
「ちょ、マユカさんまで何して! 危険ですってば!」
「いや……でも……」
もちろん、レンからすればゾッとするような行動だろう。マユカの方に顔を向け叫ぶように言い放つ。そんなレンの訴えに対して、マユカは若干目を逸らしながら小さく返す。
「はぁ……」
「ひぃ!」
「まぁ、素手で来られるよりはマシかな」
そして女性はため息をする。そして大きく脅えているマユカを無視し、未だ自分の真後ろにいたルルの方を振り向き、
「んぐっ」
「っぁ!」
「どっちにしろ、シンプルに腕力が足らなすぎだけどもね」
左手をレンの方へと翳したまま、右手でルルの胸ぐらを掴んだ。胸元……と言うより、お腹当たりの洋服を。洋服が凄い伸びており、肋骨も少し見えている。酷い。
「ルルちゃん!?」
「にゃ!? やめ、ルルちゃんを離して!」
そんな光景を目の当たりにしたレンは、大きな声で抗議した。
何故だろう、少し顔が赤いような……それに目をギュッと瞑っている。
「はぁ……嫌に決――
「ルルちゃんのお臍が見えて、えと、その……」
「レン君……?」
なかなか言葉が出てこないのか、レンはしどろもどろになりながら言葉を繋ごうとしている。
「ひぅ……」
が軈て変な声を出した。
初い。初すぎる。
「え、ちょ、レン君?」
「ん……べ、別に私は……ごめん、やっぱりまだ恥ずかしいかも……」
「……」
「……」
マユカと女性は二人の反応に対し、呆れている。特に女性は無言で、無表情でレンを見つめている。怖い。
ドサッ
「んがっ!」
すると、女性は無言でルルから手を離した。
優しい。
「……アンタら今の状況分かってんの?」
イラついていると分かるような声色で呟く。そして今度はルルの右腕を掴み、無理やり立ち上がらせた。
「立て。おう。おら」
「っ! ルルちゃん!」
そして再び緊張感が走った。
途切れ途切れになる緊張感って何?
「そうね……じゃあ――
「んっ!」
ズァッ
と唐突に、レンの目の前に細長い鏡が二つ、女性とレンの間に立つように出現した。見えない壁を背に、三角柱の空間を作り出すように。
「っと……まぁそうよね。両手とも塞がってなかったし」
「……ひぎ……ん……」
左腕を下ろし、小さく呟く。
鏡の奥、三角柱の空間の中からは、レンの乱れた息と我慢する声が小さく響いてくる。
「で? まさかこの――
ズンッ
「なっ!?」
「おぉ!?」
レンの方を向き、何かを話そうとした女性に向かって三角柱の鏡が勢いよく突進してきた。
「っ! こんの!」
が、女性はルルから手を離し、突っ込んで来る鏡をスレスレで避けた。唐突かつ予想外の出来事だったのか、一瞬遅れて飛んだようだ。
「あっぶ……」
そして避けたことに安堵しようとした時、
バババッ
「っ!?」
鏡の頭頂部から……いや、三角柱の空間だから、恐らく中にいたレンからだろう……大量の、小さな鏡が飛び出してきた。塊になっているのだろう、大きな球のように見える。
「な、何……?」
ヒュッ
ビュッ
ピュッ
「んなっ!?」
次の瞬間、鏡の塊から一つ一つ、女性目掛けて勢いよく飛んでいった。まるで弾丸のように、一直線に。
「っ」
女性は瞬時に横に飛び、避ける。対象を失った小さな鏡は、そのまま床にぶつかり、消滅した。
「ちっ!」
もちろん、そんな状況でも鏡は絶えず塊から発射されている。
と、女性は直ぐに体勢を戻し、横に走り出す。
「ふらっ!」
ブンッ
そして走りながら右手を勢いよく振り抜いた。
空中に留まっている大量の鏡を振り落とすつもりなのだろう。が、
ガッ
「なっ!? ま、じか!」
塊はビクともしなかった。飛んできたものは振り払えたが、未だ数百、数千はあるであろう塊からは未だ小さな鏡が飛んで来ている。
「そういうこと……面倒くさいわね!」
何かを理解したであろう女性は、横に大きく飛びながら、今度は両手を前に出し、
「ふっ!」
ガッ
着地と同時に両手で団子を作るような動作をした。
恐らく、自分の能力であの大量の鏡に蓋をするためだろうか。
「……ふぅ……」
そしてそれ以上鏡が襲ってくることは無く、やがて鏡の塊は音もなく消滅した。
「今のやつ……本当にあの子一人でやったの……?」
そして背後にある見えない壁に寄りかかりながら、女性は目の前にいるレンとルルの方を見ながらそう言う。
「何で!? だって今だって!」
「だから、そういう問題じゃない」
「そ、そういう問題なんだってば!」
絶賛猛抗議中だ。
二人を危険に晒したくないと考えているレンと、レン一人だと危ないと考える二人の考え。見事に対立している。
「いい、よく聞いて」
「……何ですか」
レンは小さく聞こえてきたマユカの方を、少し膨れっ面になりながら見やる。
「私達は、ちゃんと覚悟してるの」
「……」
「危険は承知のつもり」
「いや、でも……あぁもう……」
レンはマユカの言葉を聞いても尚、葛藤をしている。頭を抱え、どうしようかと熟考している。
「……はぁ……」
そんな光景を見て、女性は大きくため息を一つつき、
「別にどっちでも良いわよ。どうせ貴方から殺らないと難しそうだし」
レンの方を真っ直ぐ見据えながらそう言う。そして腰を落とし、何時でも動ける体勢になる。
「……ですか」
そんな女性の言葉を聞いたレンは、二人との抗議を辞め、女性の方を向く。そして、
「じゃあせめて……」
ゆっくりと腰を下ろし、女性から目を逸らさないようにじっと見つめながら、
「僕の指示には従ってくださいよ」
そう言い放った。
後ろにいる二人は空気を感じとったのか、無言で頷く。いや、見てないんだから無言じゃ意味が無いでしょ。
「……」
「……」
そして再び訪れた静かな空間。いつ動き始めてもおかしくないような空気だ。
やはり戦いはこうじゃないと。
「……ふ!」
「っ」
と唐突に、女性が突進してきた。
最初と同じように真っ直ぐと。
「らぁっ!」
「んぎっ!」
そしてレンに向けて右の拳を、上から下へと振りかぶった。
もちろん、警戒をしていたレンは右手を翳し、自身の目の高さほどに鏡を出現させて攻撃を凌ごうとした。あまり大きくないところを見ると、必要最低限の力だけで防ごうとしているのだろうか。
「何て、ね!」
ガシッ
「え!?」
が、鏡と拳が接触しようとした瞬間、女性は握っていた拳を開き、レンの鏡をガシッと掴んだ。
「はぁっ!?」
「らぁっ!」
そして右足をガラスの床に強く踏みつけ、左足を浮かし、そのまま右手と右足と軸にするように、全身を回した。本当の狙いは、この左足による回し蹴りだったのだろう。
ガゴッ
「んぎゃっ!?」
ドゴッ
そのまま左足はレンの腹を捉え、思いっきり振り抜いた。壁の近くにいたからか、レンの体は、今度は勢いよく壁に衝突した。
「んがっ!」
「おっけ」
それを確認した瞬間、女性はレンの元へと駆け出す。
「うらぁっ!」
壁に背中を打ちつけ、体勢を大きく崩したレンに向かって行き、右手の拳を握りしめた瞬間、
ズォッ
「んぉっ!?」
女性の目の前を、光の球が通り過ぎた。
急の出来事で驚いた女性は大きく飛び退いた。結果的にだが、レンから距離を話す形になっている。
「んぐっ! また外した!」
後ろでは、マユカが右手を拳銃の形にして悔しがっている。咄嗟に放った一発なのだろうか。
と、次の瞬間、
シュルルッ
「ぅぇえっ!?」
「っ!」
突如、女性の方を向き未だ地に顔をつけていたレンの体に、縄のようなものが巻きついた。
「のぉっ!? ぇ、ひぇぇっ!?」
「マジで!?」
そしてそのままレンを攫うかのように、縄がレン諸共大きく上昇した。突然の出来事に、二人は驚きの声を上げている。レンからは少し恐怖も混じっているであろう悲鳴も。
トスッ
「んっと」
やがて軽い音を立てながら、レンの体はルルの腕にすっぽりと収まった。レンをキャッチする為だったのだろうが、お姫様抱っこのような形になっている。
「ぇ……ぅええっ!? ル、え、ルルちゃん!?」
突然目の前に現れた顔を凝視し、その人物を認識した瞬間、レンはルルの腕の中でもがく。
「おぉん」
「みっ! の、な、えぇおあおっ!」
そしてルルの腕から抜け出し、ガラスに着地しながら、言葉にならない声を上げた。
「大丈夫?」
「え……あ、えっと……」
そんな取り乱しているレンに対し、優しい口調で安否の確認をする。
お姫様抱っこをした……のに、恐ろしく冷静なルル。レンとは正反対の反応だ。
「ありがとう……」
「ん」
そんなルルの反応を見て冷静さを取り戻したのか、レンは顔を赤くしながら小さな声でお礼を言った。少し微笑みながら、ルルはそれに短く返す。
「……だるっ……」
だろうね。
チャンスだと思っていたのに、横から邪魔が入ったのだ。絶賛イライラ急上昇中なのだろう。
「うるさい」
「え、そんな直球で言う?」
それを知ってか知らずか、ルルは真顔でそう言う。怖いもの知らずだ。
「……レン君……」
「あまり、長引かせない方がいいですね」
心配そうなマユカを後目に、レンはそう言い放った後、右の掌を下方へと翳し、女性から目を離さずにゆっくりと、扉から離れるように歩いた。女性との距離を一定に保つように。
静かに気を伺っている様子ではあるが……
「な……何してるの……?」
「え……? な、何でそんな事……」
「……今は二人とも静かにじっとしてて」
「……?」
そんな奇妙な行動に対し、ルルとマユカは頭にハテナを浮かべていた。行動……と、言うより、レンの足元を見ながら。
「……何してるのかしら……?」
「……」
「……余計に攻めにくくなったわね……」
そんなレンの姿を見て悪態を着く。先程までタイミングは見つめ合うようにして見計らっていたので、より慎重になっているのだろう。
「……」
「……」
キュッ
女性は床を蹴り、レン目掛けて走り出した。
「っ」
ブォンッ
それを確認したレンは、瞬時に足元に鏡を召喚した。
レンと女性の間に……攻撃というよりも、地面に敷くように。
「っぇ!? 下!?」
自分の足場が鏡になってしまった女性。恐らく、目の前に来ると思っていたのだろう。不意に現れた鏡を踏んでしまった。
瞬間、
ゴリッ
「あがっ!?」
鏡が滑った。
ドサッ
何故か摩擦の仕事をしなかった鏡に驚きながら、女性は仰向けになって倒れた。
「っ! 痛ぁっ!」
ズォッ
顔を抑えながら悶える。
立ち上がろうとして地面に手を着いた時、
「っ!?……何っ!」
ズォッ
女性の手を小さな何かが触れた。女性は恐る恐る、その何かを確認するように掴んだ。
「ぇ……何この棒……?」
そしてその棒……いくつもばらまかれている鉛筆の一つを摘みながら、疑問の声を上げた。
ズォォッ
「っ!?」
その鉛筆に気を取られていたからだろうか。女性は、先程から自身の周囲に鏡が囲むように設置されていることに、気づくのが遅れた。
「っ! ま、じか!」
女性は立ち上がり、鏡に近寄る。既に女性の前後左右全て方向、夫々三つずつ鏡で囲まれている。
ドンッ
「っ」
そして鏡に向かって勢いよく拳を振るった。が、鏡は鈍い音を出すのみで、微動だにしない。
「やっぱり固定してるわよね……」
予想していたこととはいえ、その硬い鏡に対し、女性は小さくイラついた声を出す。
「だったら」
「多分ですけど」
「っ!」
と、不意にレンの声が響いた。
何処にいるかは分からないが、鏡のすぐ外側にいるのだろう。
女性は警戒をするように、周囲をゆっくりと見回す。
「貴女、目が不自由なんですよね?」
「うぇっ!? な、なん……!」
そのレンの言葉を聞き、女性は大きく狼狽えた。図星だ、と伝えるかのように。
「最初の違和感は、僕がノートと鉛筆を使った時です。あの時、貴女はこう言いましたよね」
(ん……? 何してるのかしらあの子?)
「……まぁこれだけだと、「ノートと鉛筆を使って何をしてるの?」と捉えることも出来ますけど、もっ」
ズンッ
「っ!」
と、唐突に、女性の背後の鏡が、真ん中にあった鏡が勢いよく迫った。
女性は瞬時に反応し、横へと避けた。
鏡が無くなったことでてきた隙間から、螺旋階段と大量の扉が垣間見える。
シュッ
「っ」
が、それも一瞬だった。すぐに新しい鏡でその隙間は塞がれてしまった。いつの間にか、動いた鏡も無くなっている。
「次の違和感は、僕が最初に鏡を投げた時です。貴女に蹴飛ばされた直後の」
「……」
そしてレンは話を続ける。焦った様子は全くない。今の行動は女性への攻撃では無かったのだろう。
(これは……レイト……?)
「急に現れた謎の物体を見て、瞬時にレイトと認識する……流石に変だなと思いました」
「っぁ!」
今度はやってしまった、とでも言うように分かりやすく動揺する。
「次に短刀でスカートを切ったときです」
が、そんなことを意に介さず、レンは言葉を紡ぐ。
(レンの言葉を聞き、女性は自分の足をぺたぺた触った)
「見れば分かるのに……触るのはおかしいかったし」
(え……何それ……?)
「短刀だって、ちゃんと見えるように出したのに、貴女は何かを認識していませんでした」
「……やばぁ……」
顔に手を当て、蹲る。やらかしてしまった、というように。
「そして確信に変わったのは、僕が貴女の目の前に出しためっちゃ大きな鏡です」
「目の前……?」
「あの……貴女に蹴り上げられて、蹴落とされた直後の」
「あ、あれか。ぇ……それで……?」
目の前という言葉に一瞬考え込んだが、レンの説明で直ぐに何の鏡かを思い出す。が、それだけは何故なのか分からなかったのか、女性は今までとは少し違う反応をした。
「えぇ。あれ、本当は目眩しに使ったつもりなんですよ?」
「……?」
「……今は太陽が真上に当たる時間……丁度お昼時ですよ」
「……ぁあ!」
レンの言葉を聞き、女性は真上を見上げ、漸く理解したのか、大きな声を出す。
「上手く鏡を傾ければ、太陽の光が反射して、貴女の目に届く……はずだったんですけども、ねっ」
「……っ!」
またしても鏡が飛んできた。先程と同じ方向だ。
不意に飛んできたので、今度は避けるのが一瞬遅れてしまった。
「でも貴女は、太陽の光なんか見えてない、といったふうに、その後の僕の攻撃を受け止めました」
「うわぁ……」
「あの時、別にあなたを愚弄した訳ではありませんよ。寧ろ逆です」
鏡に右手をつきながら、女性は俯く。
「まとめると、貴女が見えなかったものはノートや鉛筆、短刀に太陽の光。全てレイトを使わないもの、ですっ」
「……」
また同じ方向から鏡が飛んできた。女性はもう驚きもせず、無言でそれを避けた。
隙間から人型の影がちらりと見える。
「多分……いや、もうほぼ確信してますけども……」
「……」
「貴女は目が見えない代わりに、レイトを形として見ることが出来る、ですよね?」
「っ!?」
全てお見通しだ、と言わんばかりにいつもよりも少し高くて大きな声が、鏡の中で響く。
「ルルちゃんから流血していたのは、僕と勘違いして攻撃したから」
「っ!?」
「それも多分、一昨日、僕がルルちゃんの体内にレイトを大量に注いだから、それと間違えたんですよね」
レンが一つ一つ紡いでくるその言葉に、女性は全く声を出せないでいる。
「実際、僕を探していたかのような口ぶりをしていましたし」
(ねぇ、あなたがレンなのかしら?)
「……どうでしょうか? 結構自信はありますけども」
「……なるほど……想像以上の子ね」
「……」
女性は俯きながら、ゆっくりと言う。
褒め言葉から入る、ということは、レンの推理は当たっていたのだろう。
「で、もういいかしら?」
「……」
が、直ぐに余裕そうな声色に戻る。
女性は顔を上げ、腰を落とした。
「別にね。この程度の壁……鏡だけど、飛び越えるくらい、どうって事ないのよ?」
瞬間、女性が真下を向きながら鏡の空間から姿を表した。大きくジャンプしたのだろうか。
「っ、そこね!」
「……」
そしてレンのいる方向を……先程から何度も鏡が飛んで来た方向と同じ方向にいる、ということを確かめた直後、左腕を振りかぶりながら、
ズンッ
「んなっ!?」
体を逸らした。後ろから来る光の球を避けるように。
後ろでは、驚きの表情をしたマユカが鏡の上に乗っていた。右手を拳銃の形にし、左手はポケットに入れている。
「やっぱり、ねっ!」
「ひっ!?」
そして体を逸らしながら、女性はそのまま左手を振るった。
シュルッ
シュバッ
「んぇ!? えおぁっ!?」
「っ!?」
瞬間、マユカの胴に黄色い縄が括り付けられた。と同時に、マユカの体が後方へと引っ張られた。
トスッ
「あ……危い……」
「あ……あり、ありがとう……」
そして鏡のすぐ下に待機していたルルの腕の中へと、すっぽりと収まった。ルルは緊張からか、マユカは恐怖からか、二人の体はプルプルと震えている。
「ちっ。マ――
「らぁっ!」
ズォッ
「は?」
ふと甲高い声が聞こえた。女性が声の主であろうレンの方に目を向けると、腕を振り抜いたであろうレンの姿と、
ズピュ
「んがっ!」
つい今しがた女性が避けたばかりであろう光の球。おそらくレンが打ち返したのだろうか。まるで、野球ボールを打ち抜いたバットをのように、レンが右腕を伸ばして佇んでいた。
「空中で避けにくい今なら、貴女のもう一つの「弱点」に当てることは容易です!」
流石の女性も、そんな一瞬の判断で、尚且つ空中にいる状態で避けられるはずもなく、球を項にモロに受けてしまう。
「あ、がぁっ!」
「弱点」を攻撃された女性は、更に上空へと飛ばされるながら悶える。
その光景を見ながら、レンは足に力を込めるように腰を落とし、
キュッ
女性目掛けて大きく跳躍した。
ゴスッ
「うがっ!」
そしてその勢いを殺さないように、女性の首元を、まるでラリアットをするかのように振り抜いた。
その直後、絶対に逃すまいと空中で女性の両腕を掴む。
「それじゃあ……」
そしてそのまま右足を上げ、
「落ちてください」
女性の腹へと、思いっきり振り下ろした。
鏡の応用力が凄いなと思いつつ、これ鏡である必要無いよねというのも出てきてます。いや、ある! 絶対ある!




