1.38.2 VS一撃が重いくせに素早くて尚且つ見えない攻撃をしてくる女性
この展開、ちょっと無理あるんじゃね? って思ってます。ツッチーこの世にいないくせに何でツッチーの職業はまだ有効中なんだよって。
「ぁ……ぁぁああ!」
「ひっ!」
「はぁ……はぁ……」
アキレス腱を撃ち抜かれただけ……だというのに、今までに無いほどの悶える声が、女性の口から放たれた。
レンは息を整えながら左手を胸に当てる。またしても左手が青色に輝く。
「気づいてなかった、と……はぁ……思いますが……」
そして途切れ途切れな息のまま、ゆっくりと、数十m離れている女性に、胸を抑えながら足を動かした。先程までは吐血をし、息も絶え絶えになるほどの重傷を負っていたはずなのに、しっかりとした足取りをしている。
「貴方のアキレス腱に……はぁ……「弱点」、の……はぁ……文字がありましたよ」
そして、未だ痛みで転げ回っている女性を、見下ろすように言い放った。
「っぁ、ぁあっ! つぁ!」
「魔法使いは……漢字を叫ぶイコール詠唱……はぁ……だから多分……ツッチーが残してくれた魔法ですね」
(だったらせめて、弱点だけでも! 弱点さえ、どうにかできれば!)
「だから僕は……確認と見やすさの二つの意味で……貴方のスカートを短くしました」
「はぁ……んぐっ……はぁ……」
「あ、そうだったんだ」
痛みが治まったのか、女性は四つん這いになり、息を整えながらレンを睨むように見つめた。
「普通に考えて、蹴りを封じるとかいう、変な理由、なわけないじゃないですか」
「まぁ……それもそうね……」
「それと、察してくれてありがとうございます。やっぱり尊敬します!」
「いや、でもすんごい緊張したわ……」
マユカの方を見て、無邪気な瞳で感謝を伝える。キラキラという音が聞こえてきそうだ。
というかもう息が乱れていない。腹を抑えているとはいえ、回復早いな。
「はぁ……ん……っ……」
「っと。僕は……貴女と違って優しくないので……」
すると徐に、自分の足元にいる女性の左腕を右手で掴み、
「貴女のように、休ませる気はありませんけどもっ!」
「っ!」
ブンッ
そのまま振り回すように、女性と共にぐるりと回り、
「ぅらあっ!」
ブォン
「テヤァッ!?」
女性を大きく投げ飛ばした。およそ人が人を、それも片手で投げたとは思えないほど、軽々と。しかもまだ腹抑えてるし。
そして間髪入れず右手を横に伸ばし、
ズォッ
右の掌から大量の鏡を出した。一つ一つが大きく、真後ろにある大きな扉とほぼ同じ大きさをしている鏡を十八個、一列に横に並ぶように創り出した。
そして右手を振りかぶり、
「っらぁ!」
ブォッ
「……ぇ?」
空中で体勢が崩れている女性目がけて、一つずつ、タイミングをずらして飛ばした。
「だぁっ!」
ビュンッ
「なっ!?」
上手く着地できるようにと、ゆっくりと体勢を直していた時、ふと目に入った異様な光景を見て、女性は驚きの声を上げる。
「ふにゃ!」
ブアッ
「っ!」
が、すぐに真剣な顔に戻り、そのままの体勢で右手を素早く薙ぎ払った。
ビュッ
すると、飛んでいた鏡が一つ、払い落とされるように、あらぬ方向へと進路を変えた。
「んきっ!」
ズヒャッ
直後、今度は左手を払う。またしても一つ、鏡があらぬ方向へと飛んだ。
「くっ!」
カシュッ
小さな声を出しながら、右手を、左手を、交互に振り回し、鏡を払い落としていく。
が、やがて、
ゴッ
「っが!」
捌ききれなかったのか、鏡が右腕に当たった。堪らず攻撃の手を止めてしまった。
ズゴッ
「ぎっ!」
ガゴッ
「つぁ!」
鏡を弾き飛ばす手段が無くなったその一瞬のうちに、鏡が女性の身体に次々と衝突する。
そして、
ドサッ
「っ!」
女性は受身をまともにとれず、背中から床に強く打ち付けた。
「痛ったぁ!」
顔を歪めながら、体をゆっくりと起こし、顔を上げた。
「ぅらぁっ!」
「っ!? んぐっ!?」
瞬間、女性の目の前にまで、レンが迫っていた。右手を後ろにやり、左手で未だ腹を抑えながら、既に振り抜く寸前だ、というように。
がしかし、
ブンッ
「ぇ……?」
レンの拳は女性には当たらず、女性の目の前で空を切った。
ドサッ
「んがっ!」
そして勢い余ったのか、そのまま転倒してしまった。
「っ」
咄嗟のことで、一瞬呆然としていた女性だったが、すかさず馬乗りになる。そしてレンの両腕を掴んだ。
「貴方……掌からしか、鏡は出せないのよね?」
「っぁ!」
「こうすれば反抗はできない、と」
「んぐっ!」
そしてレンの両手を合わせ、そのまま動かないようにと自分の手で拘束する。
流石にやばいと思ったのだろう。拘束から逃れようと、焦る様子で、全身をじたばたと動かそうとするレンだったが、
「っが! ぁああ!」
唐突に、大きな声で、まるで痛みに悶えるように叫んだ。声だけが響いており、体は動かない。
「……左手で、痛みを抑えてたのね」
「っぎぁ! ふぅ、んぁっ、はぁ……はぁ……げほっ!」
ピチャッ
叫び声が少しずつ小さくなった、かと思えば、口から血を吐いた。そしてもう力が入らないのか、微動だにしない。
トスッ
「……ひんっ!……ぇ……?」
その時、優雅に、そして軽やかに、左手と右膝を床につきながら、小さな音だけを出し、真上から誰かが降りてきた。
真上……ということは、あの吹き抜けている所から、あの恐ろしいほどの高所から降りてきたのだろうか……?
「どうも」
「っ!?」
そしてレンは、未だ片膝をつき、目線だけを向けてくるドウルの姿を見て、固まった。両腕が鳥の羽のようになっているドウルを見て。
「ありがとね。お陰様で乗馬出来たわ」
「いえいえ」
ドウルは立ち上がり、両腕を人の腕に戻してから両手を前で組んでから、短く返す。
「フェザー……だったんですね……!」
「……えぇ。まぁ」
「何っ……何を、したんですか!?」
「……」
女性とドウルのやり取りから、ドウルがレンに対して何かをしたのは明白。だが、何をしたのか分からない。
レンは思っていたことを、率直に、ドウルに叫ぶように聞く。ドウルはチラリとレンの方に目を向ける。
「レンさんの脳内を少々弄らせていただきました」
「……は……?」
レンの問に対し、自分の頭につけた黒いカチューシャを指しながら、さも当然のような言い方でドウルは返した。
もちろん、その程度の説明では分かるはずがなく、レンは小さな声で呟く。
「レンさんの前頭前野の働きのみを、他よりも早くした、ということです」
「……は……?」
「そうですね……」
レンの反応を見て、ドウルは詳しく説明した。が、それでもやはり反応は著しくない。
実際、自分もよく分からない。
「これを使えば、実際は五mしか走ってないのに、五十m走ったのと同等の疲労を感じさせることが出来る……ということです」
「……何となく分かりました。螺旋階段を上った時、僕とハヤタさんが何で疲れたのかを」
「流石レンさん……と言った所でしょうか」
レンは少し語気を強めながら言う。ドウルはようやく伝わった事に、少し安堵の息を漏らした。
自分は未だによく分かってないや。
「では、私はあの人を捕らえてきますね」
「っ!」
そして二人を一瞥し、ゆっくりマユカの方へと歩き出した。
マユカは体を震わせながら、腕を女性の方へと向けていた。撃とうとしたのだろうか。
「あら、何から何まで。有難いわね」
「っぁ……」
「マ、マユカさんっ!」
マユカは腕をドウルの方へと向け、そして小さな叫び声を出して、後退りをする。
そんなマユカとは対称的に、ドウルに焦った様子は全く無い。現地人故の余裕、なのだろうか。別世界の住人を捕まえるのなんて訳ない、と思っているのだろう。
「まぁまぁ。今は痛くはしないつもりなので、ご安心下さい」
「ひっ……」
小さな子を宥めるように、優しい声色でマユカに話しかける。
マユカは恐怖に怯える表情をしながら、前に出している右手から、
ズンッ
光の球を出した。
「……」
が、ドウルはそれを無言で、体を少しだけ動かして避ける。
「ぁ……」
「そんな在り来りなものをバレバレなやり方で……そりゃ簡単に避けられますよ」
ドウルは呆れた、という顔をしながら、ゆっくり歩く。対し、マユカは半分諦めたような顔をしながら、ゆっくりとへたり込んだ。
「マユカさん! ん、がっ……!」
「はいはい。事が済むまで黙っててね」
「んぐっ!」
両手を拘束されていて、叫ぶことしか出来ないレン。そのせいか、またしても血を吐いてしまう。先程よりは動けるようになったとはいえ、力の差がありすぎるのか、どんなに暴れても女性が退く様子が全く見られない。
「だ、ったら……ぇ……」
と、その時、レンの体が止まった。
「……あれ……!」
「ん? どうしたの?」
何かを感じ取ったのだろう、少し興奮した様子を見せる。まだレンしか感じ取れていないのだろう。女性はそんなレンの姿を見て、ハテナを浮かべる。
シュルルッ
「っぇ?」
「え?」
「……ぇ?」
すると唐突に、小さな音を立てながら、セルント王の部屋から黄色い縄のようなものが伸びた。やがてその縄は、
シュビッ
「んぁ!」
ドサッ
ドウルの両足に巻きついた。
唐突に巻きついてきた何かに、ドウルは驚きながら、まともな受身を取れずに顔から転んでしまった。
「ぇ……嘘……嘘!」
「何……何で……!?」
その光景を見て……いや、感じ取って、レンは驚きと興奮の声を出した。
セルント王の部屋から、右手から縄を出し、額に大きな絆創膏を貼っているルルが、静かに出てきた。
「何で……! ルルちゃん、どうやって……」
周りは空間スキルで囲まれており、出入りなど出来ない筈なのに……と、そんなレンの問いには答えず、ルルは顔を動かさず、無言で左手を伸ばし、
シュルル
再度ドウルへと縄を伸ばした。
シュビビッ
「っ!」
そして今度はドウルの全身を縛るように巻き付けた。
「なっ!? ほ、どけない!」
「ド、っ、マジ!?」
そしてそのまま、驚いている女性の方へ右手を向け、
シュルル
縄を伸ばした。
「っ!」
それを見た女性はレンの体から離れ、大きく右へと避けるように飛んだ。
「何で、貴女がここにいるのよ!」
そして着地をし、ルルの方を見ながら、叫ぶように疑問をぶつけた。
空間スキルを利用し、レンとマユカを隔離するように分断をしたのにも関わらず、自分の目の前に現れた少女。焦るのも無理はないだろう。
「別にどうでも良いじゃん」
「っ! 良くないわよ!」
ダルそうな声色でルルは返す。もちろん、そんな返答を望んでいない女性は、強い口調になった。
「ルルちゃんが良いって言ってるんですよ! 素直に受け入れてください!」
「貴方もさっき、何で、って呟いてたじゃないの!」
いつの間にやら起き上がり、腹に左手を添えているレンにも返されてしまった。
ちょっと哀れだ。
「そ、れより! 大丈夫なの!?」
そんな哀れな女性なんぞ気にも止めず、レンはルルの方を向いて目の前まで一瞬で駆け寄り、心配の声をあげる。
「ん……ぇ……耳? っ! 血!」
「え……?」
が、ルルはレンが目の前に一瞬で迫ってきたことには一切驚かず、頭に付いている耳と服についた赤い血を見て、大きな声を上げた。
「だ、血! 血が!」
「あ、これ? これは大丈夫だよ」
「ぇ……」
自分の体に右手を添え、少しオドオドした声色でそう言う。
ルルは少し不服そうな表情をしているが、それ以上は何も聞かなかった。
「いやそれよりも! 大丈夫なの!?」
「……今のレン君に言われたくない……」
「だって! さっき、おでこ、から……」
取り乱すレンに対し、冷静な話し方でルルは返す。
「……平気。心配ありがと」
「ひゃぁ……いや、にゃ、なら、良いけど……」
「……ん……」
少し不服そうな顔をしながら、そう返す。その姿を見て、さっきまでとは違い腑抜けた声を出すレン。
「……ぁ……えっと……あ、あいつはどうすれば良い?」
ルルは話を変えるように、縄で繋がっているドウルをあいつ呼ばわりしながら聞いた。
「あ……じ、じゃあそのまま動けないようにお願い」
「了解」
ギュ
「んがっ!」
レンの言葉を聞き、ドウルに巻き付けていた縄を、より一層強く絞めた。
「……」
「……」
「……まだかしら?」
「……」
それを確認したのか、今まで黙っていた女性が声を発した。
声を聞き、レンは振り向く。腰を落とし、恐らくファイティングポーズをとっていたであろう、女性が怪訝な表情でレンを見つめている。
「おかしいでしょ……あんなゆるっゆるな会話なのに、隙が一切無いとか」
そして再度、無言で見つめ合う。
が、やがてレンはマユカの方に顔を向けた。
「マユカさん。ドウルさんを連れて、部屋の中に入っててください」
「はぇ! あ、う、うん!」
先程まで恐怖しかない空間だったから、その落差に呆然としていたのだろう。未だ地面にへたり混んでいたマユカの口から、変な声が出た。
「なるべく……ドウルさんを壁にするように運んでください。攻撃されないように」
「っ!?」
「ぇ!? えぇ、え、わ、分かった」
マユカはレンの発言に大きく動揺している。恐らく躊躇いがあるのだろう。
女性は無言で、鋭く、睨むようにレンを見つめる。
「……貴方もなかなか酷いことを言うわね」
「さっき言いましたよね? 僕は優しくない、って」
そんな会話を尻目に、マユカはドウルにゆっくりと近づく。
少し腰が引けている。
「し、失礼します! 動かないで、動かないでよ!」
「……はぁ……」
そして強く警戒しながら、ドウルを立たせ、後ろに隠れながら、部屋へと歩き出した。
対し、ドウルは呆れたようにため息をついた。まだ何処か余裕そうな顔をしている。
「に!」
「……」
「ぎっ!」
「……」
「ぎっ!」
「あの子、大丈夫なの?」
ドウルを抱え、盾にするように歩くマユカ。顔が歪み、一歩進む度に変な声を上げ、顔を真っ赤にしている。如何にも辛そうに運んでいる。
「あ、あり、ありがとね」
「い、いえ。無事で良かったです」
そしてすれ違う時、ルルは左手から伸ばしていた縄をマユカへと渡し、マユカはそれを受け取りながら、小さな声でお礼を言った。
「ルルちゃんも。中で待ってて」
それを確認したレンは、今度はルルの方を見る。危険だ、という理由だからだろう。そうお願いするレン。
「やだ」
「……へ?」
しかし、視線を前へと戻した瞬間に聞こえた返答に、素っ頓狂な声を出しながらルルを二度見した。
「い、いや、危ないんだから!」
「レン君も危険じゃん」
「っ……にゃ、そう、だけど! そうじゃなくて!」
ルルの言葉に対し、強く反対する。
もう完全に背中を向けている。女性のことなんか全く見えていないであろう角度になっている。
「……じゃあ後でその耳と尻尾、弄る」
「え……?」
やがて諦めたのか、それだけを言い残し、ルルは部屋の中へ入っていった。
「ちょ! 待って、まさぐ、えぇ……!?」
ルルの背中に向けて、叫ぶように声を出したレンだったが、既に部屋の中に入ったのを見て諦めたような声を上げた。
「後」
「ひゃっ!?」
が唐突に、ルルが扉の影からひょっこりと顔を出した。レンから変な声が出る。
「……すごく遅れたけど、HBD……」
「……え……あ、ありがとう……」
数日遅れの祝福をした。レンは少しぎこちなくお礼を言う。それを確認したルルは部屋の中へと身を入れ
「……それと」
「んぇ?」
ようとしてまた顔を出した。
さっさと部屋入れよ。
「私、彼氏いない歴イコール年齢だから」
「……へ?」
少し顔を赤らめながらそれだけを言い、ルルは部屋の中へと、今度は扉を閉めながら引っ込んでいった。レンはその言葉の意味を考えようと俯いた。
つまりそういう事です。
ルルちゃんはモテn(°ε°((⊂(`ω´∩)




