表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あいに溢るる  作者: 手石
共愛を求め狭隘な心を持った狂愛な少年
37/107

1.37 待つタイプの敵

大切な会話シーンに入らないでくれるんだから、この人優しいですよね。

 先程までと違う声色。僕の全身に冷たい何かが駆け巡った。多分、悪寒だ。目の前にいる女性から放たれる、強い殺気を浴びているのだろう。

 僕は震える体に鞭を打つように立ち上がろうとした。が、


「っ……ゃ……嫌ぁ……」


 立てなかった。足が震え、力が入らない。


「あらら。大丈夫かしら?」


「っ! 黙って、ください!」


 そして再びへたり込む僕を見て、またしても嘲笑うような言葉を投げかけてきた。


「戦意喪失。なら遠慮なく」


「あれ……」


 とその時、ふと僕の鼻に、微かに刺激が走った。


「ん?」


「……何これ……?」


 すぐにその刺激が、匂いの元がルルちゃんのものだと分かった。と同時に、微かに、ルルちゃんの匂いに混じって別の匂いも届いてきた。

 僕はゆっくりと、その匂い――


 ドドドドッ


「ひぅ!?」


「っ!?」


 がする方を見ようとしたとその時、頭の中がその匂いでいっぱいになっていた僕の耳に、唐突に、静かだった部屋に激しい足音が響いた。


「え? ちょ!?」


「な、何!?」


 戸惑う僕と女性。すぐにその音の方を、匂いと同じ方向を見ると、


「ぉぉおっ!」


「んぇ!? ま、何してるのです!? 待っ! 止まってです!」


 マユカさんが、ミチルちゃんの静止の声を諸共せず、こちらに全力で走っていた。小さく、白い光を放っている右手を後ろに伸ばしながら。


「ぅぅうらぁ!」


 そして、その右手で光っている球のようなものを、女性に向けて思いっきり投げた。


「うぇっ!?」


「なっ!? 嘘でしょ!?」


 想定外の行動に驚く僕と女性。

 え……もしかしなくてもあれ、レイトだよね!? いや、え、マジで!? まだ一日二日ぐらいしか経ってないよね? もうそんなことができるの!? 早すぎるでしょ! 天さ――


「っ!」


 が次の瞬間、身の危険を感じたのか、女性は横へと大きく飛んだ。光の球は女性には当たらず、そのまま僕の方へと飛んできた。


「あっ!?」


「えぇ!?」


 青ざめるマユカさんと、急に大きく飛んだことに驚く僕。

 マユカさんの反応からして、多分僕を巻き込むことは考えてなかったのかもしれない。

 でも……これくらいなら多分大丈夫だ。

 僕は左腕を後ろにやり、


 ズォッ


「っ」


「っ!? レン君!」


 そして大きく振って、その光の球を受け止めた。野球ボールをバットで打ち返すように。


「っと。え?」


 す、ごいなこれ。僕でさえ、こんなにビリビリしたもの、作れなかったのに。

 もちろん、僕の左腕には刺激が飛んでくる。想像以上の痛みが僕の右腕を襲う。


「っとお!」


 でも、その痛みも一瞬だけだ。このビリビリが全身に届く前に、僕はこの光の球を、進路を変更させるように、右方向へと飛ばした。


「えっ!?」


 そして球は、飛ばした方向にいた女性の顔に向かって飛んで行った。


「ちょっ!?」


 が、既の所で光の球が消えた。女性の目の前で、音もなく。

 狙ったのに……ギリギリ届かなかったか。ちくしょう。


「ひぇ……危なっ!?」


 避けたはずの光の球が進路を変え、更には自分の顔に向かってきたからか、女性は引き気味に怯えていた。


「……惜しい」


「ちょ、レン君!? 大丈夫!?」


 マユカさんが駆け寄り、僕の腕を掴みながら心配の声を掛けてきた。


「大丈夫です……けど、何で来たんですか!?」


「何でって……心配だったからに決まってるでしょ!」


「そうだとしてもですよ!」


 十分な理由、だけれど、納得はいかない理由だ。少なくてもマユカさんよりは自衛できる自信はあるし、むしろマユカさんの身の方が危ないでしょ。

 そんなやり取りの最中、ふと前方を見ると、螺旋階段の奥の扉の前に群集が出来ていた。どうやらいつの間にか、女子も集まっていたようだ。ザワザワしている。


「どしたのどしたの?」


「ねぇあれ平気なの?」


「ん? あ、ちょ、みんなも! 戻ってです! 危ないです!」


 先頭にいたミチルちゃんが、その群衆に向かって叫んだ。

 あの人たち……危機感皆無すぎる……


「レンさんかっけぇ……」


「僕もあんな風に打ち返してみたいな……」


 後ろは後ろでまだ男子たちのざわめき声が聞こえてくるし。何考えてるん?


「その、大丈夫なの……?」


「のな!?」


「えと……私にも出来ることとか……」


「むしろ何もするななのです!」


「っ!?」


 そんなざわめきの中、一つ、その声だけがはっきりと聞こえた。ルルちゃんの声だ。でもよく見てみると、額にハンカチを当てている。そしてそのハンカチが……


「ルルちゃん……血……出て……!」


 微かに、けれどはっきりと、水色のハンカチが赤く染っていた。額から血が出ている、ということが分かる光景だ。


「ぁ……ぁぁあ!?」


「ぇ? レン君? っ! ちょ、落ち着いて!」


 これだ……! この匂いだ……!

 そんな悲惨な光景を見て青ざめた僕は、堪らずルルちゃんに向かって走った。


「ルルちゃん!」


「あ! ちょ、待って!」


 ピイィ!


「ひぁ!?」


「んぉ!? え、えぇ、な、何!?」


 そんな僕を止めるかのように、謎の音が響いた。音のした方を見ると、女性が指を咥えていた。


「っ……い、今何をした……ぇ……」


「ね、ねぇ、危なくない……? ちょ、一旦逃げようよ!」


「……あれ……?」


 すぐ後ろで慌てているマユカさんを意に介さず、僕はゆっくりと、右腕を突き出しながら歩いた。ミチルちゃん達のいる方へと。


「え……レン君……?」


「……」


 女性は僕が何をしたいのかが分かっているのだろうか。何もせず、黙っている。

 そして歩き出してから数メートル地点。丁度、ガラスの床と普通の床との境界線の辺りの地点で、


 コツン


「ぁ……ぁぁあ……」


「え……今……え?」


 僕の右腕が、見えない何かに、壁のような物に当たった。それを確認した僕は、見えない壁に手をつきながら、膝から崩れ落ちた。


「多分……これ、空間スキルですよね?」


「そ」


 震える声で、僕は女性に聞いた。対し、女性は短く楽観的に答えた。


「え……? 何……?」


「周りの声も、ルルちゃんの匂いも、感じられなくなりました」


「ど、ういうこと……?」


 僕は立ち上がり、戸惑っているマユカさんの方を見ながら、説明する。


「多分ですけど、閉じ込められてしまいました……」


「閉じ……え!?」


 ガンッ


 僕は無駄だと分かっていても、目の前の見えない壁に向かって一発殴る。

 つまり、僕とルルちゃん分断しやがった。あの女……! 何てことをするんだ! 悪魔かよ!


「いや……それより、助けないと……!」


「……え……?」


 それでも……動かないと……やらないと……!

 僕は壁に手をつきながら立ち上がる。


「ルルちゃんを、助けないと……!」


「いや、今じゃないでしょ!」


 ……マユカさんの言い分はご最もだ。僕だって分かってる。分断されて、声や匂いが届かないということは、外に出る手段は無いと言っているようなものなのだから。


「別にあの子、致命傷だとかそういうんじゃないんだよ!」


「だから……何ですか……?」


「……え……?」


 マユカさんの、説得するような声に対し、自分でも分かるぐらい低い声を、僕は絞り出した。

 それぐらい僕だって分かっている。今だって二本の足でちゃんと立っているんだから。


「致命傷じゃないから……何ですか……!」


「レ……レン君……?」


 振り向きながら、僕は小さく叫ぶ。マユカさんは動揺した顔をしている。

 違うんだよ。息をしているとか、落命してないからとか、そういう問題じゃない!


「苦しんでるんですよ! 痛がってるんですよ! だったら、少しでも、和らげて」


「っ! どうやって! 閉じ込められた私たちじゃ、そもそも届かないじゃん!」


「こん……なの、こわ、壊せば……!」


「ねぇまだぁ?」


 そんな僕の心境なんて知ったこっちゃない、といった声色で、女性が言った。

 ダメなら……やっぱり、あの女をどうにかしないと……

 と、ふと前方に目を向けた時、


「……んぇ……?」


 誰かが走ってくるのが見えた。

 音が全く聞こえないけど、あれは……ミチルちゃん……!?


「――――!」


 ミチルちゃんが、全力疾走で壁に近づいてくる。全く聞こえないが、何か叫んでいる。


「え……何する気なの!?」


「あら?」


 そして壁の目の前に来たその時、壁に向かって、僕の真横に向かって、大きく右腕を振り下ろした。


「――!」


 ゴチン


「え、あ! ちょ!」


 が、鈍い音が小さく響いただけで、何も起こらなかった。ヒビ一つ入らなかった。


「――――!」


 右腕を抑えながら、ミチルちゃんは悶えている。が、何も聞こえない。


「ちゃ、凄い鈍い音が聞こえたんだけど!?」


「……脳筋すぎるわ……この子……」


「だ、大丈夫!?」


「――――!――?」


 僕は、目の前で自分の右手に息をかけているミチルちゃんに声をかける。が、何も聞こえなかったのか、こちらを見て首を傾げた。


「あ、えっと……」


 そうだ、声がダメなら……

 僕は虚空からノートと鉛筆を取り出す。床にノートを置き、伝えたいことを鉛筆にのせて書き記す。


「え……何でそんなもの持ってるの?」


「ん……? 何してるのかしらあの子?」


 今ここには、自衛はともかく、他人を守れる人は僕とミチルちゃんしかいない。騎士や側近を探したいけど、まだ他にも敵がいたら危険だから……


「多分この壁簡単に壊せない」


「――――」


 ミチルちゃんに見えるように、両手でノートを掲げる。ノートに書かれた文字を見て、ミチルちゃんはウンウンと頷いた。


「えっと、次に……」


 僕はノートのページを捲り、鉛筆で言葉を綴る。

 今更だけど、急いで書いたから結構汚い字になっちゃってるな……


「ミチルちゃんは皆の避難をお願い」


 分断され、別行動を強いられているこの状況で、僕はミチルちゃんにそうお願いした。

 壊せる……とは、正直思えなかった。実際、今のミチルちゃんの一振だって中々に痛そうだったし。それでビクともしないんだから……


「……」


「……」


 ノートをガン見しているから、伝えたいことはちゃんと伝わったはず。だから後は、ミチルちゃんが……

 僕は一度振り返り、女性を見る。


「ん。ハロハロ」


 敵……そう判断してもいいはずなのに、呑気に手を振ってきた……余裕なのか……?

 僕は再度、鉛筆を走らせる。


「こっちは何とかなるから。そっちは避難に集中して。食堂とか、そこら辺に」


「……」


「出来れば男女一緒に。まだ他にも誰かいるかもしれないから」


「……」


 そして、今度は少し長い文をミチルちゃんに見せた。今は僕の心配よりも、特にまだ自衛がままならない人を優先してほしいから。


「ん?」


 僕のノートを見て、少し考え込んでから、うつむいた。そしてため息を一つする。

 これは……呆れてる……? え、何故?


「――、――」


「っ!」


 すると、ミチルちゃんは口パクで何かを言ってきた。

 これは……多分、「勝て」って言ったね。


「うん。分かってるよ」


「……」


 どっちにしろ、今は僕が何とかしないとダメなんだから。

 頷きながら発した僕の言葉を聞き……読み取り、僕をじっと一睨みしてから無言で立ち上がった。


「――――――――、――」


「……ごめん。それは守れる保証は無いや」


「……」


 そして一言、守れそうにない約束をしてから振り返り、女子達の方へと走っていった。

「ぬおぉっ!」

「ふっ!」

「ねふるっ!」

「ふぅふぅ! んぬ?」

「ふぬふぬ」

「勝て、です」

「無理だけはするな、です」

ってミチルちゃんは言ってました。

次回戦闘シーン。ジャンルが恋愛からファンタジーになった決定的瞬間です。見逃したい人は見逃せ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ