1.35 推理じゃなくてただの凡ミスよなこれ?
ここまで頭使うのは多分最初で最後だと思います。
虚無。
そんな感情を持ちながら、僕は今日も訓練を始める。
「じゃあ、えっと……今日、は……」
消え入るような声を出した。僕の変わりように周りは気づいているのだろうけども、何も言ってこない。
「どうしたんですか? 消えそうな声ですけども」
「え……? あ……い、いえ! 何でもありません!」
そうだ。今は訓練中なのだ。目の前の事に集中しないと! 集中……できる自信がないけど……
「あの。ツチヤ君……だったよね? がいないし、普通にレイトの訓練で良くないですか?」
「俺もそっちがいいです」
「そう……ですか……まぁ、そうですよね……」
「そんなに職業教えたかったの?」
そんな僕の心境なんて梅雨知らず、僕の元クラスメイト以外の人達がグイグイ来る。
今更かもだけどさ、結構フレンドリーだよねこの人達。
「まぁそれもそうだよな……実際、あいつの付き合いでやってたようなもんだし」
「……そ、そんな言い方しなくても……」
「言い方も何も、事実じゃん」
「あいつのこと好きすぎだろお前」
対し、僕の元クラスメイト達は冷徹だ。
本当に何で……ツッチーはこんなに嫌われるようなことをしたんだろう……
「……では、防弾チョッキの方からやりましょうか」
「ええぇ。俺らビーム打ちたいんだけど」
……でも、いなくなっただけで、何処かにいるはずだよね。そうだ。絶対そうだ。今夜辺り、ドウルさん……以外の側近と話をしようかな。
訓練もあっという間に過ぎていき、十一時頃。元々ハヤタさんが教えていたから、レイトを感じることができる人がほとんどだった。というより、ほぼ全員が問題なく感じていた。
こうしてみると……本当にツッチーだけ、だったんだ……確かに注目はされちゃうのかも……
「レンさん」
「ぉっ!?」
防弾チョッキを上手く再現出来ていない人にコツを教えている時、不意に背後から声が聞こえた。
えっと誰だうわぁソウヘイさんじゃん……
「レンさんって、昨晩どこに居たんですか?」
「え……?」
ソウヘイさんは小さな嫌悪感を抱く僕にお構い無しにそう聞いた。
何その質問。何でそんなことを今聞くの?
「いや、何ですか急に」
「別に……とにかく教えてくださいよ」
「本当に何なの……えっと、昨日は……」
自分の不都合を隠そうとでもしているのか、何故か催促してきた。
えっと、昨晩部屋に戻った後は……お風呂に入って、で夕食を食べて、その後ミチルちゃんの部屋に……
「……ずっと、自分の部屋にいましたよ」
いたけど……素直には言いたくない。だって怪しいすぎるんだもん。
僕の返答を聞いたソウヘイさんは、一度右手を口元に持っていき、
「部屋ですか?」
「はい」
やがて僕の言葉を確認するかのように繰り返し、そして一歩、近づいてきた。
「……嘘ですよね?」
「なっ!?」
そして声のトーンを落とし、事実を突きつけてきた。
何で……確かに嘘はついたけど、どこで確信を……!?
「いや、な、何でそう思うんですか?」
もちろん、僕はその疑問を素直にぶつけた。気がつけば、僕達のやりとりを聞くためか、訓練の手を止めて聞き耳を立てる人がちらほら出てきた。
怪しすぎる……嘘をついたのは事実だけど、何で急にこんなことをするんだ……?
「普通に……部屋から、出てきたところを見たから」
「っ!」
動揺しまくる僕を他所に、ソウヘイさんは呆れた、といった顔で答えた。
マジで!? 嘘! 見られてないって、誰もいないって思ってたのに!
「多分、王の自室か女子部屋のどっちかに行ったはず。そうですよね」
「……っ」
「その反応からして、何かやましい事でもしてたんですか?」
周囲にも聞こえるように、なのか、少し大きい声で、かつゆっくりと説明している。
「それなら王の自室が怪しいですね」
「……」
「大方あいつのために、何かしたかったのでしょうか」
名推理、といった感じで、僕の目を見ながらドヤ顔をした。少しウザイ。
……確かに。今の僕なら何か証拠が無いかを調べるために、こっそり行ってたかもしれないな……昨日は行ってないけども。
「違いますか?」
質問した時とは違い、少し強い口調で、問いただすように聞いてきた。
なるほど……不正解だけど、有り得る展開かもな。本当に頭は良いんだなこの人は。でも……違う。
「……墓穴を掘る、ってやつかな……」
「はい? 何のこ……いや、自白ですか?」
「そうですね。自白しましょうか」
正直に、今度は嘘をつかないで。嘘をついたけど、おかげで良いことも分かったし。
「えぇ、そうですね。昨晩は、外室していました」
「やっぱり。何で嘘をついてまで隠してたんですか? まさか……証拠隠滅ですか?」
……今この人の頭の中はどうなってるんだろう……さっきはハヤタさんのためとか言ってたのに、今度は証拠隠滅って。ちょっとおかしくないかな? まぁ、今はそんなことよりも。
「ソウヘイさんは、ハヤタさんのことが嫌いでしたよね?」
「はい……? いや、急に何ですか?」
「いえ。もしハヤタさんがいなくなったら、ソウヘイさん的には嬉しいんだろうな、と」
分かっている事だけど一応聞いておく。
そうじゃん。動機を考えると、この人が一番有り得る人じゃん。
「さっき、言いましたよね? 「王の自室か女子部屋に行ったはず」、と」
「はぁ? い、言いましたけども」
僕は聞く。
さっき自分で言っていたことなので、ソウヘイさん自身も否定はせず、あっさりと認めてくれた。
「そしてその後すぐに「王の自室が怪しい」、とも」
「いや……何が言いたいんですか? それで話を逸らしてるつもりですか?」
なるほど。しらばっくれるつもり……いや、もしかしたら気づいてないのかな。なら良かった。
「実はですね。僕は螺旋階段なんて使ってないんですよ」
「……は?」
僕の声に、意味が分からない、言った顔で聞き返してきた。周囲で聞いている人達も分かっていないのか、少しざわついた。
「いや、何言って……だって、そこを通らないと――
「僕が使ったのは食堂ですよ」
「はい……?……っ!?」
僕の一言を聞き、ぽかんとしたかと思えば、すぐに驚きの表情。気づいたみたい。
「男子部屋と女子部屋は、階段を使わずとも食堂を経由すれば直接行けるんです」
つまり、そういうことだ。
僕は昨晩、螺旋階段は使わずに食堂を経由し、ミチルちゃんの部屋を訪問したのだ。
「つまり、本当に僕を……食堂方面に向かう僕を見たのなら、「王の自室に行く」という結論には絶対にならないんですよ」
「っ!」
してやられた、という顔をした。
そして周囲も理解したのか、いっそう大きなざわめきが訓練所に拡がった。
「い、いや、それならそっちが、レンさんが嘘をついているってことも――
「ありますね」
逆に言えば、僕が嘘をついた、という可能性も普通に有り得る。
「でも簡単ですよ」
それの証明はすぐにできる。だってそこには……王の自室の前には……
「王の自室の前には、騎士がいるはずです。その方々に確認してもらえばすぐに分かりますよ」
「っ!?」
あそこは、夜には四人ほど騎士が待機している。だから本当に僕がそこを通ったのなら、絶対に見ているはずなのだ。
というかむしろ、見られたくないからこそ、食堂の方を通ったんだけどもね。夜中に目が合った時、なんか気まずかったから。
「そ……れは……その……」
言葉に詰まるソウヘイさん。僕はそんな動揺して目が泳いでいるソウヘイさんを、じっと見つめる。
だから言ったじゃん。墓穴を掘った、って。
「ソウヘイさんが昨日、本当は何をしたのかは気になりますけど……」
昨日のこともそうだけど、もっと気になることが……というかこの人……もしかしてよく考えないで喋ってるのかな……?
「それよりも重要なことが、たった今分かりました」
「……はい……?」
ずっと目を逸らしていたソウヘイさんは、ゆっくりと、僕の目を見るように顔を上げた。たった今、この人はまた墓穴を掘った。分かりたくなかったし、気づきたくなかったことだ。
「騎士は、夜にしかいませんよ?」
夜中に王の部屋の前を通った人しか知らない事実に。
「……は……? ぁ……ぁあ!」
僕の言葉に一瞬だけ考え、そしてすぐに顔を青くした。
そう。騎士は夜にしかいない。昼間は……何故かは知らないけど、王の部屋の前にはいないのだ。
「何で居ないはずなのに、いると知っていたかのような反応をしたのですか?」
居ないのは多分、皆が寝ている間に不審者が出ないか、とかのための……見張りみたいなものかなって思ってるけど。
「よくよく思い出してください。ソウヘイさんは、何時、何処で、騎士を見たのですか?」
僕はソウヘイさんに一歩近づく。
夜にしかいないはずの騎士の存在を知っている。つまり、夜に王の部屋の前を通ったことがあるということだ。用もなく通るわけも無い。なら……
「これは完全に、僕にとって都合の良い考え方ですけども……」
可能性はあるけど限りなく低い。それでいて、僕が最も望んでいる展開。
「まさか……一昨日の夜、セルント王の部屋の前で……なんて言いませんよね?」
ソウヘイさんを見上げながら、今度は僕が、突きつけるように言い放つ。
「っ!」
どうやってハヤタさんに化けたかは分からないし、もしかしたら間違ってるかもしれない。つまるところ、ただの妄言に近い。でも……そうであって欲しい……
「……もし違うなら、ソウヘイさんがセルント王を殺めていないのなら、本当のことを教えてください」
僕はさらにソウヘイさんに近づく。手を伸ばせば届くほどの距離まで。ソウヘイさん何かを考えているか、険しい表情をしている。
「……っ」
「……え……?」
すると徐に、ソウヘイさんは全力で走り出した。中庭の出入口に向かって。
「あ、ちょ、待ってください!」
一瞬遅れて、僕も反応する。
まさか……逃げるつもりなの!? いや、だとしたら逆効果じゃない!? だってそれじゃまるで……自分が犯人って言ってる様なものじゃん!
「っ」
いや、考えてる場合じゃない!
僕も同じように、全力でソウヘイさんの後を追った。
ソウヘイさんは道中にいる男子たちにお構い無しに、真っ直ぐ中庭の出入口に向かっている。皆は巻き込まえたくないのか、そもそも事情を飲み込めていないのか、近づいてくるソウヘイさんを避けている。
「あ、あの」
そして反対に、僕に事情を聞こうとしたのか、近づいてくる人がいた。のだが、
「すみません、今は通してください!」
申し訳ないけれど、今はそんな余裕はない。ソウヘイさんの足が速いのだ。全速力で走っているのに、差は縮まるどころか開いていく。
やがて、広い中庭の外に、王城内に、ソウヘイさんは消えていった。
「はぁ、はぁ……」
ソウヘイさんから大きく遅れて、僕は王城へと入った。廊下に出た時に一旦止まり、周囲を見渡した。ソウヘイさんらしき人影が見えなかったことを確認した後、中庭擬きへと続く扉の目の前まで歩く。
多分、こっち、だよね……
「……ふぅ……」
小さく深呼吸をし、目の前の扉のドアノブに手をかけた。
ギギギィ
小さな悲鳴をあげながら、大きな扉を開ける。そして中庭擬きへと一歩歩みを進めた時、
「……は……? え……? な、何……?」
中庭擬きの真ん中で、ポツンと繰り広げられている光景に思わず足が止まった。
状況が理解出来ず、無意識に僕は呟いた。今僕は、異様な光景を見ている。
ガラス張りの床の上で、足をこちら側に向けてうつ伏せになっているソウヘイさんと、その上に人影が……誰かが、ソウヘイさんの上に、跨るように乗っかっていた。
頑張ったよ。自分頑張ったよ。でもこれ投稿される頃には忘れてるから、読み返して「こんなのよく思いついたな」って自画自賛します絶対。




