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あいに溢るる  作者: 手石
共愛を求め狭隘な心を持った狂愛な少年
31/107

1.31 モブには適度に喋っていただきます

目立ちたくないからモブになりたいとかいう奴は遠くへ引っ越しなさい。モブは物語の進行上必要不可欠とはまぁ限らないけどまあまあ重要なのかもしれない役職なんだから。モブ舐めんな。何ムキになってんだこいつ。

 訓練所の隣の部屋、召喚が行われた部屋だ。確か……ハヤタさんが担当したところだっけ。

 部屋に入るとまず、横に細長い小部屋。小部屋といっても結構広めかな。二十人ぐらいは余裕で入りそう。

 そして奥に広い部屋、召喚が行われたであろう部屋に繋がっている。なんか銭湯みたいな造りだなこれ。


「先程は詠唱を行えば……と言いましたが、その詠唱自体を知らないと意味がありません」


 僕は男子全員が部屋に入ったのを確認してから話を進める。


「……まぁ、確かに」


「ではどうやってそれを知るのか」


 一度区切り、周りを見る。ちゃんと聞いているのかを、ちゃんと自分の方を見ているかを確認する。


「自分の職業を尋ねた時と同じで、詠唱も水を通じて知ることができます」


 確認を終え、言い切る。


「うわぁ」


「……何ですかその目は。せめて「うわぁ」って言うのは我慢してくださいよ」


 と同時に一人の男子が……いや、ほとんどの男子が訝しむ目を向けてきた。

 いや、酷くない? 分かるよ。僕だって逆の立場なら頭にハテナが浮かぶよ。でも自分のメイン職業を知ったのも水経由じゃん。そこも考慮してよ。


「あの……」


 と、不意に一人の男子が手を挙げた。


「はい。どうしました?」


「詠唱とか以前に……僕の職業が釣り師、だったんですが……戦えるんですかこれ?」


「あぁ。確かに、向こうの世界だとそういうイメージはありませんよね」


 ご尤もな質問だ。釣り師なんて争うイメージなんかほとんど無いもの。魚との格闘ぐらいしか。僕も初めて存在を知った時は二度見したもん。


「それなら……実演が一番ですかね。前に来てください」


「は……はい……」


 オドオドといった感じで僕の隣まで歩いてきた。皆の前に立つからなのか、緊張した面持ちだ。

 うん。前に来させない方が良かったかも。


「縮んでよ」


「はい……?」


「いえ何でもありません。それではあの壁に向かって「発動させるぞ」という意思を持ちながら「エルモナナカス」と叫んでください」


「ちょっと待って情報量が多い!」


「んぇっ!?」


 へぁ! あ、あぁ……ちょっと一遍に喋りすぎたかな……? そうだよね。知らない単語が出てきたらびっくりしちゃうよね。

 でも次からは僕の耳元で大きな声は出さないで。


「っとぉ……すみません。職業というものは意志を持たないと発動できませんので」


「は……はぁ……?」


「そして「エルモナナカス」とは、正しく詠唱です」


「え……ええぇ……」


 またしても落胆のため息。

 いや、だから何でそんなテンション下がってるの!? さっきから僕が喋る度にどんどん皆の目が冷たくなってる気がするんだけど!


「と、とにかく! やってみて下さい! 意志を持って!」


「レンさんって都合が悪くなったら勢いと押しで突っ切ってますよね」


「お黙り下さい!」


 そんなことは僕が一番分かりきってることなの! いちいち言葉にしないで!

 目の前の縮んで欲しい男子は誰もいない壁の方を向き、


「えっと……え、エルモナナカス……?」


 と、不安そうに詠唱をした。詠唱が終わった瞬間、


「っ!? おわっ!?」


 男子の両腕が動いた。両腕を大きく振りかぶり、


 ブォン


「え? 何……勝手に……」


 音を立てながら振り下ろした。瞬間、


「ん?」


「おぉん!?」


「え、何? どうしたの?」


 無音で、男子の背後に大量の魚が現れた。その魚群を目にし皆が驚きの声を上げている。対して、腕を振り下ろした男子は状況が分からず、未だに困惑している。そして、


 ビュオォ


「ぉぉぉっ!?」


「なぁぁっ!?」


「へ? え、何? 本当に何!?」


 風を起こしながら、勢いよく前方へ突進した。


「へ? んぉぉ!? 何あれ!?」


 やがて魚群は壁に当たり静かに消滅した。


「へ……え、今の……え?」


「今のが釣り師の技の一つです」


「え。何あれ。シンプルにリアクションに困るんだけど」


「……え、あ、いや、リアクションはどうでもいいと思うのですが」


 待って、さっきから戸惑ってたのってそれが原因? 結構どうでもいいよねそれ?


「何だろう……釣り師にしてはカッコイイけど、職業として見ると……」


「ええぇ!? 普通にかっこいいと思いますけども!」


 と、自分の両手を見つめながら、ボソリと呟く男子。

 嘘でしょ……! こんなに大量の魚を召喚できるんだよ? かっこいいでしょうが!


「レンさんのかっこいいの基準って何?」


「酷くないですかそれ!」


 今の僕が余程おかしいのか、すごい真剣な表情で聞かれた。

 何その反応!? 僕のかっこいいの基準がズレてるみたいじゃん!


「と、とにかく!」


「出た無理やり遮るとにかく」


「職業にはこの「エルモナナカス」のように、皆さんには聞き馴染みのない単語が多々あるのです!」


「それをまた祈って聞くの?」


「そう! そうです!」


「話に合わせた途端興奮するやんこの人」


 やかましい。態々言わんでも良いから。さっさと湖の上に行きなさい!


「ではもう早速行きましょう!」


「何でそんな余裕なさげなの?」


 ……その疑問はおかしいと思うけども。できればそれは察してよ。


「水の上に行って、心を静めて、詠唱をお教え下さいと念じてください。ほら」


 僕は湖を右手で示し、左手で催促する。

 とにかく早く次に行きたいから、急ぎ足にならないと。もう行ける時にどんどん進まないと。


「え……ええぇ……わ、分かった。分かったけど……雑い」


 僕のせっかちな行動に若干引き気味かつ呆れたふうな顔をしながら湖に入っていった。僕はそんな彼らを後目に……あれ……ちょっと待って……?


「……何で」


「ん? どうしたの?」


 僕は周りを見渡す。

 つい数分前まではいたはずの……気配もあったはずの……


「何でドウルさんがいないの……?」


「はい? あ……」


「確かに。どこ行ったんだあの人」


 僕の呟きを聞いて、男子たちも周りを見渡す。

 おかしくない? ツッチーは無能じゃないという証明をお願いしますとか言ったくせに何でいないの?


「……」


「あんなこと言っておいて見届けないのかよ……」


「まぁ……それならそれで良いですけど。証明は今日じゃなくてもできますから」


「流石レンさん」


 流石って何? まぁでも、むしろこれは好都合かも。ツッチーと前みたいに接することができるし。

 僕は未だ隅で小さくなっているツッチーに近づく。


「っ!」


 僕はツッチーに近づいた……だけなのに……何をそんなに怯えてるんだろう……?


「ええぇ……? えっと……職業が何だったかを聞い――


「何で……」


「……は? えっと……?」


 ツッチーに話しかけようとした時、震える声が遮った。


「何で……俺の為にそこまでできるんだよ……!」


「……は?」


 僕の目を見て、若干涙を浮かべながら、問いを投げたというより訴えるという表現が似合うような、そんな顔をしながら言い放った。

 何で? そこまで? え、何言ってんの?


「ちょっと……いや、言いたい事が全く分からない……」


「だから! 何で……何で、何で! 俺を見捨てないんだよ!」


「……?」


 ツッチーの声が部屋中に響く。その叫び声を聞いて、湖に浸かっている状態の男子たちが僕とツッチーの方を見た……そんな気配を感じた。

 見捨てる……? え……何でそんなこと言うの……?


「何でって……逆に何でそんなことを考えたのかが気になるんだけど」


「そんなこと……? マジで言ってんのか?」


「マジマジ。うん」


「何だよそれ……巫山戯てんのか……!?」


「え、ちょ、レンさん? 急に軽くない?」


 別にツッチーの……あ……もしかしてルルちゃんのこと、かな……? もし僕がルルちゃんのことを好きだって知ってたら……


「なるほど。気まずいね」


「は……?」


「安心して。僕は断固応援しまくる……何か違うな……えっと」


「え……マジで何……?」


 戸惑うツッチー。

 あ、さすがに言葉足らずだったね。


「大丈夫! ツッチーとルルちゃんの邪魔は絶対にしないから!」


「え……あ……いや、近いけど、そういう……」


 バシャッ


 よし。これでいいはず。今度はちゃんと言いたいことを伝えられたはず。後ろで待機してる皆も催促するように湖をバシャバシャしてるし。


「ほら! とにかく行こ!」


「い……いや……俺はそういう……」


 ツッチーの手を掴み引っ張ろうとするが、頑なに動こうとしない。

 な……なかなか頑固だな。僕が気にしないって言ってるのにこの男は……なら……


「軽量」


「は?」


 僕はツッチーから一歩離れ、呟いた。瞬間、僕の右手が空中に『軽量』という文字を描いた。そして、


 ズオン


「んなっ!?」


 軽量の文字がツッチーの体……正確にはツッチーが着ていた洋服に当たり、散るように消えていった。


「え……」


「何? 今何したの?」


 湖の方から困惑の声が小さく聞こえてくる。そんな声を意に介さず、僕は驚きの表情を浮かべて、未だ体育座りでいるツッチーの膝に左手を入れ、腰に右手を回し、


「……は……? ちょ、はぁ!?」


「ごめん、ちょっとだけ我慢してて」


 抱き上げた。つまりお姫様抱っこだ。

 そのまま湖まで歩きながら、ツッチーに話しかける。


「っ……な、なん、だよ」


 やがて諦めたのか、されるがままになった。恥ずかしいのだろうか、赤い顔を僕の目線から逸らしている。


「……さっきの質問だけどさ。簡単だよ」


「は……?」


 素っ頓狂の表情。初めて見たかもしれない。


「ツッチーは大切な友達だから。大好きな友達だから。僕は絶対に見捨てないよ」


「……え……?」


「大丈夫だよ。ツッチーのこと、あんな理不尽から絶対に守りきるから」


「……」


 ……だ……黙らないでほしい……ちょっと今の恥ずかしかったんだけど……ねぇ? ちょ、何か言ってよ!


「……魔法使い……」


「……ん?」


「最初の質問……職業が何か、聞こうとしてたんだろ」


「あ……うん。ありがとね」










「魔法使いってやばいですね」


「そうですね。手段が漢字なので、色んな事が出来ますね」


「痛って書いたらどうなります?」


「それは確か……当たった相手に干渉するタイプですね。当たった箇所が痛くなりますね」


「あシンプルだけどやべぇわ」

サラッサラの純愛とは。

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