1.29 重要なシーンなのでモブ達はちょっと黙っててね
午前九時四十五分。食堂。昨日の朝と同じように、男子と女子両方を食堂まで案内をする。
(あの……何かあったんですか……?)
(今日のレン君、ちょっとローテーションだよぉ?)
昨日と同じように、皆が椅子に座る。朝食も終わり、指示を待っている状態だ。
昨日と同じように、前に立って待機する。少しザワついている中で、僕は無言で立ち尽くす。
でも昨日と少し違うところがある。セルント王とハヤタさん、そしてフルキさんの三人がいない。
「さて、朝食も終わったことですし」
皆の前に立つドウルさんが話し始めた。それにならい、それまでざわついていた食堂内も静かになる。
「少々込み入った話をしましょう」
込み入った話、と聞いて食堂内がまたざわめき出した。
「今朝」
静寂。
「王室内にて、護衛をしている騎士が、意識不明の重体のセルント王を見つけました」
一瞬の沈黙の後、
「え……はぁ!?」
「うそ! 何で!」
「やだ、え? 冗談だよね? ねぇ!?」
さっきとは比べ物にならないほどの、悲鳴にも似たざわめきが響いた。
「幸い、犯人は既に縄目の恥を受けておりますのでご安心ください」
「縄目の恥……?」
「逮捕されたって意味よ」
犯人が逮捕されたと聞き、ざわめきの中に安堵の声も混じった。
「本日からは私、ドウルがセルント王に変わり、皆様の生活のサポートをさせていただきます」
そう言い、右手を左胸に添えてお辞儀をする。そうは言われてもそう簡単に受け入れる人は普通はいないだろう。
「レンさん」
「……んぇ……あ、はい!」
「訓練の方、今日から男子達をお願いします」
「あ……わ、分かりました……」
嬉しい提案っぽく見えるけど、今の僕に嬉しい気持ちなんて全く無かった。僕は小さな声で、下を向きながらドウルさんに返事をした。
昨日までは女子ばかりを相手にしていたから、今日は男っ気があって嬉しいや! とか言えるほど、僕は流石に薄情ではない。
向こうは向こうで大丈夫かな……特にミチルちゃんとマユカさんは……今夜ミチルちゃんの方に行こうかな……
男子達の訓練所。と言っても、女子の方と反対側に、対になるようにあるだけだ。
複雑な道、という訳でもないので特に問題なく辿り着けた。
「レンさーん。ビームってどうすれば出せますかー?」
「こう、片手でドーン、ってやりたいんですよね!」
訓練所に着くや否や、ビーム訓練の要求があちらこちらから聞こえてきた。
なんなんだよこいつら……なんでこんなに脳天気なんだよ……! いや……そりゃそうだ。こいつらはそういう人達なんだから……
「その前に一つ……聞いてもいいでしょうか?」
「ん……? 何ですか?」
でも今は……そんなことよりも、確かめないといけないことがある。
「昨日、ハヤタさんと会う約束をした方について、何か知っている人はいませんか?」
「ハヤタと……?」
「ハヤタ……うーん……」
僕の質問に対し、皆ハテナを浮かべる。なかなか思い出せないのか、唸っている人もいる。
でも……知ってる、という声は一向に聞こえてこなかった。
「……そうですか……知らない……か……」
「ん? 大丈夫ですか?」
この中の誰でもないなら……後は側近の方々か、騎士の誰かぐらいかな?……だとしたら尚更おかしい。自国の王に関わる事件だし、嘘をつくのも変だし……いや。それは後で考えよう。今はこの脳筋たちの処理からだ。
「えっと、ビームをドーン、でしたよね」
「そうそう!」
「その気持ちは凄く分かりますが、もぁと重要なことがあると思います」
「他にも?」
何で察しがつかないの?
叫びたい気持ちを抑え、僕は目の前で勝手に盛り上がっている男子達の顔を見ながら言う。
「今の皆さんは、攻めよりも守りを中心に訓練した方がいいと思いますよ」
「はい……? 何でですか?」
そうだな……やっぱり実際に見せながらの方がやりやすいかな。
僕は男子の問いには答えず、女子の時と同じように、虚空から短剣を取り出し、
「おぉ何それ!」
「ちょ、それそれそれ! そういうの教えてくださいよ!」
こいつらダメかもしれん。
「もし皆さんがこの短剣で腕を斬られても耐えられる、というのならビームの訓練にしましょう」
「……はい?」
はい? じゃねぇよ。あんたらの世界は剣で斬られる文化なんぞ無かったでしょうが。
「いや……無理だろ……」
「まぁですよね。でもこちらの世界にいる限りは、慣れろとまでは言いませんが対策ぐらいはしてほしいですね」
僕の言葉に「あー」「なるほど」等の納得の声をあげる人があちらこちらから聞こえてきた。
え、待って。昨日の時点で誰も疑問に思わなかったの? 普通に考えて一番不安に思うところじゃないの?
「……異議が無い様でしたら、まずは何をイメージすれば――
「お楽しみのところ失礼します」
説明を始めようとしたところに、訓練所にドウルさんがやって来た。
お楽しみ……? え、これが楽しそうに見えたの? 目に穴でもあいているのかこの人は。
「ツチヤさん」
「……っ……」
そしてそのまま、端の方にいたツッチーに声をかけた。冷淡なドウルさんに対し、ツッチーは唇を噛み締めるような表情をしている。
ツッチーに用……? いや、用があること自体は別におかしくはないけども……ツッチーの表情は……?
「貴方もそちら側の人なら、これから何をするか分かりますよね?」
「……」
「行きますよ」
「っ……ぁ……ソ……ん……」
分かる? 行く? 何だ……ツッチーの反応からして、あまり良いことではないだろうけども……ツッチーが……困ってる……
「はぁ……何をし――
「あの!」
「……何ですか……?」
「っ!? ……は?」
大きな声で、ドウルさんの声を遮る。ドウルさんは驚いた様子もなく、呆れたような表情で僕に問いかける。
何かは分からない。でも、ツッチーが困ってる。なら、止めないと。
「ツッ……チヤ君を、どうするつもりですか?」
僕は走って、ツッチーとドウルさんの間に割り込んでから聞く。
何も分からない。から、直球で聞く。答えてくれるかは分からないけど。
「どうって……追放ですけども」
「……は……?」
一瞬、何を言ってるのか分からなかった。
追放……? ツッチーを……?
「つい……な、何のために……?」
「はぁ……本当に知らなかったんですね」
「知ら……?」
「彼がレイトも扱えぬ無能、ということをですよ」
「なっ!?」
嘘……! 嘘でしょ!? レイトが扱えないってだけで、何でそんな理不尽なこと……!……いや、違う。そういうことは今は考えるな。ドウルさんがその気なら……
「……そうですね……」
「ん?」
「確かに、僕は今、初めて知りました」
「はぁ。なら、余計なことはしないでください。決定事項ですので」
冷たい。そう感じてしまうほど、感情が無いかのような低い声が、僕の耳に響く。
それでも……それでも、追放なんて絶対させちゃダメだ。
「……ドウルさん」
じゃあどうすれば良いのか。それは簡単だ。簡単だけど、難しいことだ。
僕はドウルさんの顔を直視せず、少し俯きながら名前を呼ぶ。
「はい。何でしょうか?」
対するドウルさんは僕の顔をしっかり見てから返答をした。
「この世には……無能な人間なんて、いないんですよ」
……僕は僕で、ドウルさんに分からせてやる。今の僕にできる最善のことは、それだけだ。
「……この世界でレイトを扱えない彼は、無能以外の何者でもないと思いますが?」
ドウルさんから目を逸らさずに、訴えるように言う。
そもそも僕には分からない。何でそんなに、切り捨てるのは当然だという風に言うんだろうか。
「当たり前ですよ。だって、まだ見つけてないんですから」
「は?」
僕はドウルさんから目を逸らさずに、訴えるように言う。
……そりゃそうだ。当たり前のことだ。
「簡単な例を混じえて話しましょう」
「……」
無言で見つめてくる……ということは、とりあえず聞いてはくれるのかな。
「まず、産まれたばかりの赤ん坊は、レイトを感じ取ることはおろか自分一人では何も出来ません」
「はい?」
ドウルさんが「何を言ってるの?」といった目で僕を見つめてくる。
まぁ、確かにそうなるかもしれないけど……こっちだって必死なんだよ。
「そんな赤ん坊を、「何も出来ない劣等生だ」という理由で捨てる親なんて存在しません」
「……」
「……まぁ……他の理由でなら有り得ますが」
今度は何も言わず、次の言葉を促すように静かに僕を見つめてきた。
多分、僕の言いたいことは分かってくれたと思う。
「ツチヤ君も同じことです。彼はこの世界に来たばかりで、まだ分からないことだらけなんですよ」
「……」
「だからこそ、これから少しずつ自分の出来ることを見つけていくんです」
「はぁ……」
……ドウルさんのこの反応からして、僕の言いたいことは伝わっているはずだ。はずだけども……どうだろうか……
「彼に限らずここにいる全員……いえ、人間として、『生きる』という行為を行う上では、当たり前の行動なんですよ」
「……分かりましたよ」
渋々といった雰囲気で、ため息混じりに僕の言葉を理解してくれた。
……良かった……どうにかドウルさんに理解してもらえた……とりあえず一安心。
「なら教えてください。ツチヤさんの有能なところを」
「分かってます。その得手不得手を見つける為の訓練です」
自分の得意なことを見つけ、伸ばす。
自分の苦手なことを見つけ、補う。
そういうもんでしょ。訓練って。
「それと……有能とか無能とか、僕はその言い方は好きではないので、出来れば使わないでください。二度と」
「……はぁ……分かりましたよ」
実はここ、異世界転移系では元祖どテンプレの「無能者を追放」のシーン何ですよね。合ってるこれ? ちょっと不安だけど、合ってるこれ?




