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あいに溢るる  作者: 手石
共愛を求め狭隘な心を持った狂愛な少年
29/108

1.29 重要なシーンなのでモブ達はちょっと黙っててね

 午前九時四十五分。食堂。昨日の朝と同じように、男子と女子両方を食堂まで案内をする。


(あの……何かあったんですか……?)


(今日のレン君、ちょっとローテーションだよぉ?)


 昨日と同じように、皆が椅子に座る。朝食も終わり、指示を待っている状態だ。

 昨日と同じように、前に立って待機する。少しザワついている中で、僕は無言で立ち尽くす。

 でも昨日と少し違うところがある。セルント王とハヤタさん、そしてフルキさんの三人がいない。


「さて、朝食も終わったことですし」


 皆の前に立つドウルさんが話し始めた。それにならい、それまでざわついていた食堂内も静かになる。


「少々込み入った話をしましょう」


 込み入った話、と聞いて食堂内がまたざわめき出した。


「今朝」


 静寂。


「王室内にて、護衛をしている騎士が、意識不明の重体のセルント王を見つけました」


 一瞬の沈黙の後、


「え……はぁ!?」


「うそ! 何で!」


「やだ、え? 冗談だよね? ねぇ!?」


 さっきとは比べ物にならないほどの、悲鳴にも似たざわめきが響いた。


「幸い、犯人は既に縄目の恥を受けておりますのでご安心ください」


「縄目の恥……?」


「逮捕されたって意味よ」


 犯人が逮捕されたと聞き、ざわめきの中に安堵の声も混じった。


「本日からは私、ドウルがセルント王に変わり、皆様の生活のサポートをさせていただきます」


 そう言い、右手を左胸に添えてお辞儀をする。そうは言われてもそう簡単に受け入れる人は普通はいないだろう。


「レンさん」


「……んぇ……あ、はい!」


「訓練の方、今日から男子達をお願いします」


「あ……わ、分かりました……」


 嬉しい提案っぽく見えるけど、今の僕に嬉しい気持ちなんて全く無かった。僕は小さな声で、下を向きながらドウルさんに返事をした。










 昨日までは女子ばかりを相手にしていたから、今日は男っ気があって嬉しいや! とか言えるほど、僕は流石に薄情ではない。

 向こうは向こうで大丈夫かな……特にミチルちゃんとマユカさんは……今夜ミチルちゃんの方に行こうかな……


 男子達の訓練所。と言っても、女子の方と反対側に、対になるようにあるだけだ。

 複雑な道、という訳でもないので特に問題なく辿り着けた。


「レンさーん。ビームってどうすれば出せますかー?」


「こう、片手でドーン、ってやりたいんですよね!」


 訓練所に着くや否や、ビーム訓練の要求があちらこちらから聞こえてきた。

 なんなんだよこいつら……なんでこんなに脳天気なんだよ……! いや……そりゃそうだ。こいつらはそういう人達なんだから……


「その前に一つ……聞いてもいいでしょうか?」


「ん……? 何ですか?」


 でも今は……そんなことよりも、確かめないといけないことがある。


「昨日、ハヤタさんと会う約束をした方について、何か知っている人はいませんか?」


「ハヤタと……?」


「ハヤタ……うーん……」


 僕の質問に対し、皆ハテナを浮かべる。なかなか思い出せないのか、唸っている人もいる。

 でも……知ってる、という声は一向に聞こえてこなかった。


「……そうですか……知らない……か……」


「ん? 大丈夫ですか?」


 この中の誰でもないなら……後は側近の方々か、騎士の誰かぐらいかな?……だとしたら尚更おかしい。自国の王に関わる事件だし、嘘をつくのも変だし……いや。それは後で考えよう。今はこの脳筋たちの処理からだ。


「えっと、ビームをドーン、でしたよね」


「そうそう!」


「その気持ちは凄く分かりますが、もぁと重要なことがあると思います」


「他にも?」


 何で察しがつかないの?

 叫びたい気持ちを抑え、僕は目の前で勝手に盛り上がっている男子達の顔を見ながら言う。


「今の皆さんは、攻めよりも守りを中心に訓練した方がいいと思いますよ」


「はい……? 何でですか?」


 そうだな……やっぱり実際に見せながらの方がやりやすいかな。

 僕は男子の問いには答えず、女子の時と同じように、虚空から短剣を取り出し、


「おぉ何それ!」


「ちょ、それそれそれ! そういうの教えてくださいよ!」


 こいつらダメかもしれん。


「もし皆さんがこの短剣で腕を斬られても耐えられる、というのならビームの訓練にしましょう」


「……はい?」


 はい? じゃねぇよ。あんたらの世界は剣で斬られる文化なんぞ無かったでしょうが。


「いや……無理だろ……」


「まぁですよね。でもこちらの世界にいる限りは、慣れろとまでは言いませんが対策ぐらいはしてほしいですね」


 僕の言葉に「あー」「なるほど」等の納得の声をあげる人があちらこちらから聞こえてきた。

 え、待って。昨日の時点で誰も疑問に思わなかったの? 普通に考えて一番不安に思うところじゃないの?


「……異議が無い様でしたら、まずは何をイメージすれば――


「お楽しみのところ失礼します」


 説明を始めようとしたところに、訓練所にドウルさんがやって来た。

 お楽しみ……? え、これが楽しそうに見えたの? 目に穴でもあいているのかこの人は。


「ツチヤさん」


「……っ……」


 そしてそのまま、端の方にいたツッチーに声をかけた。冷淡なドウルさんに対し、ツッチーは唇を噛み締めるような表情をしている。

 ツッチーに用……? いや、用があること自体は別におかしくはないけども……ツッチーの表情は……?


「貴方もそちら側の人なら、これから何をするか分かりますよね?」


「……」


「行きますよ」


「っ……ぁ……ソ……ん……」


 分かる? 行く? 何だ……ツッチーの反応からして、あまり良いことではないだろうけども……ツッチーが……困ってる……


「はぁ……何をし――


「あの!」


「……何ですか……?」


「っ!? ……は?」


 大きな声で、ドウルさんの声を遮る。ドウルさんは驚いた様子もなく、呆れたような表情で僕に問いかける。

 何かは分からない。でも、ツッチーが困ってる。なら、止めないと。


「ツッ……チヤ君を、どうするつもりですか?」


 僕は走って、ツッチーとドウルさんの間に割り込んでから聞く。

 何も分からない。から、直球で聞く。答えてくれるかは分からないけど。


「どうって……追放ですけども」


「……は……?」


 一瞬、何を言ってるのか分からなかった。

 追放……? ツッチーを……?


「つい……な、何のために……?」


「はぁ……本当に知らなかったんですね」


「知ら……?」


「彼がレイトも扱えぬ無能、ということをですよ」


「なっ!?」


 嘘……! 嘘でしょ!? レイトが扱えないってだけで、何でそんな理不尽なこと……!……いや、違う。そういうことは今は考えるな。ドウルさんがその気なら……


「……そうですね……」


「ん?」


「確かに、僕は今、初めて知りました」


「はぁ。なら、余計なことはしないでください。決定事項ですので」


 冷たい。そう感じてしまうほど、感情が無いかのような低い声が、僕の耳に響く。

 それでも……それでも、追放なんて絶対させちゃダメだ。


「……ドウルさん」


 じゃあどうすれば良いのか。それは簡単だ。簡単だけど、難しいことだ。

 僕はドウルさんの顔を直視せず、少し俯きながら名前を呼ぶ。


「はい。何でしょうか?」


 対するドウルさんは僕の顔をしっかり見てから返答をした。


「この世には……無能な人間なんて、いないんですよ」


 ……僕は僕で、ドウルさんに分からせてやる。今の僕にできる最善のことは、それだけだ。


「……この世界でレイトを扱えない彼は、無能以外の何者でもないと思いますが?」


 ドウルさんから目を逸らさずに、訴えるように言う。

 そもそも僕には分からない。何でそんなに、切り捨てるのは当然だという風に言うんだろうか。


「当たり前ですよ。だって、まだ見つけてないんですから」


「は?」


 僕はドウルさんから目を逸らさずに、訴えるように言う。

 ……そりゃそうだ。当たり前のことだ。


「簡単な例を混じえて話しましょう」


「……」


 無言で見つめてくる……ということは、とりあえず聞いてはくれるのかな。


「まず、産まれたばかりの赤ん坊は、レイトを感じ取ることはおろか自分一人では何も出来ません」


「はい?」


 ドウルさんが「何を言ってるの?」といった目で僕を見つめてくる。

 まぁ、確かにそうなるかもしれないけど……こっちだって必死なんだよ。


「そんな赤ん坊を、「何も出来ない劣等生だ」という理由で捨てる親なんて存在しません」


「……」


「……まぁ……他の理由でなら有り得ますが」


 今度は何も言わず、次の言葉を促すように静かに僕を見つめてきた。

 多分、僕の言いたいことは分かってくれたと思う。


「ツチヤ君も同じことです。彼はこの世界に来たばかりで、まだ分からないことだらけなんですよ」


「……」


「だからこそ、これから少しずつ自分の出来ることを見つけていくんです」


「はぁ……」


 ……ドウルさんのこの反応からして、僕の言いたいことは伝わっているはずだ。はずだけども……どうだろうか……


「彼に限らずここにいる全員……いえ、人間として、『生きる』という行為を行う上では、当たり前の行動なんですよ」


「……分かりましたよ」


 渋々といった雰囲気で、ため息混じりに僕の言葉を理解してくれた。

 ……良かった……どうにかドウルさんに理解してもらえた……とりあえず一安心。


「なら教えてください。ツチヤさんの有能なところを」


「分かってます。その得手不得手を見つける為の訓練です」


 自分の得意なことを見つけ、伸ばす。

 自分の苦手なことを見つけ、補う。

 そういうもんでしょ。訓練って。


「それと……有能とか無能とか、僕はその言い方は好きではないので、出来れば使わないでください。二度と」


「……はぁ……分かりましたよ」

実はここ、異世界転移系では元祖どテンプレの「無能者を追放」のシーン何ですよね。合ってるこれ? ちょっと不安だけど、合ってるこれ?

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