1.28 罪積みと普通の手錠は似たような見た目をしています。はい
まぁ、タイトルから何が起こるかはほぼ察せるよね。
「知ってる?」
「何をですか?」
「妖精の力は別世界から来た人の、いわば特権なんだって」
「んっと……?」
「まぁつまりだよ。人前で妖精の力は披露しちゃダメってこと。別世界の人だってバレちゃうからね」
「何故そんな重要なことを知ってるんですか……?」
「神様情報」
「用意周到がすぎませんかね!?」
「ふ。生徒会長なめんなってやつだよ」
トントン
優しく、目の前にある部屋をノックした。そしてすぐに、
「ん。レン君でしたか。いらっしゃい」
扉が開き、「Tシャツ」と書かれたTシャツとハーフパンツ姿のマナブさんが出迎えてくれた。
そういえば、服は用意されてるって言ってたよね……? 本当にどこで売ってるんだろ?
二十一時過ぎ。僕はマユカさんとケイコさんとマナブさんの部屋へと訪れた。
セルント王曰く、異性の部屋には基本的には行ってはいけないらしい。らしいのだが……王の部屋の前を通る時、部屋の前に四人ほどいた騎士たちには何も言われなかった……あれか。違和感がないほどに僕は女々しいのか。
というかあの騎士達の格好すごかったな。銀色で、夜中なのに目立ってたよ。昼間だったらもっと目立ってたのかな?
「お邪魔します」
「どうぞどうぞ」
……まぁとにかく。
僕はマナブさんに促され、扉を潜った。
「へ? え、何でレン君?」
「んぉ……おぉ!」
部屋に入ると、ベッドに腰掛けているマユカさんとケイコさんと目が合った。
「私が呼びました。少し、相談したいことがあったので」
「えと、だとしても……何で夜?」
マナブさんの方を見て、ハテナを浮かべながら、疑問を口にする。
昼は人が沢山いる空間だったから……人にあまり聞かれたくない話なのかな、って僕は思ってるけども。
「ねぇねぇ。レンきゅんも一緒にお風呂に入らない?」
「入りませんよ……というか入ってから来てますし」
ベッドから降り、少し前屈みになってケイコさんが提案する。
ケイコさんとのお風呂……何だろう、ハヤタさんみたいに無意味なボディタッチをされそうで怖い……
「そうですよ。レンさんは、今から私と二人っきりでお話をするのですから」
ん? ということはマユカさんとケイコさんは関係ない会話なのかな?
「何で二人っきり……?」
「……私なりの配慮です」
「グッジョブ」
「いえいえ」
違う! これは僕でも分かった! そういうことか! こ、この人、凄い……! 相当な手慣れだ!
「え、何? 何がグッジョブなの!?」
「いいからいいから。ほら……イクよ」
「ちょ、待って待、ねぇ何でそんなに力が強いのぉ!?」
ケイコさんがマユカさんの両足を掴んで引きずって行った。勢いよく。
「大丈夫……なんですかアレは……?」
「大丈夫ですよ。いつもの事なので」
「何時もの……」
結構な勢いでズリズリ行ってた気がするんだけど……いつも通り……やっぱりハヤタさんとケイコさんは似てるかもしれない……
関係無いけどこの部屋の間取りも僕達の部屋と同じなのかな。
「と、そう。丁度その事についての相談です」
「丁度……?」
「はい。とりあえず座ってください」
マナブさんがベッドを指しながら言った。断る理由も特に無いので、遠慮することなく座った。
「……ん……」
そして僕は小さなうめき声を出しながら、ベッドの上で目を……覚ま……ぇ……?
「……え……あれ……?」
あれ、確かベッドに誘導されて……まさかそのまま寝ちゃってた? やばい! いくら疲れてたからとはいえ、流石にやらかした!
驚きと戸惑いを覚えつつも、周りを見渡そうとした。したのだが……
「ぇ……?」
後ろから誰かにがっしり掴まれていて動けない。
な、誰!? なにこ、強! 力強この人!
体を小さく動かし、何とか顔を後ろに向けると、
「あ、あなたちょ、離してくだ……いや、起きてください!」
そこにはマナブさんがいた。僕の体をがっちり固めてるこの腕、か細いのに力強い。自力で脱出できないほど。僕は体を動かしながら必死に懇願しているが、ぐっすり寝ているのか、全く動いてくれない。
ハヤタさんもケイコさんもマナブさんも、何で見た目以上の力が出せるんだろ。おかしくない? 何かあったの? このクラスに何があったの?
「んぅ……ぅぅ……」
マナブさんが唸り声を出した。そろそろ、そろそろ起きてくれるはず。
「マナブさん、早く、もっと早く起きてください!」
「ふぁ……んぅ……もうこれ以上レン君は食べられないよぉ……」
「怖い怖い怖い! 今すぐ起きてください! 勝手に僕を食べないでくださいよ!」
どんな夢を見てるの!? やめて、離して、今のマナブさん凄い怖いんだけど!
「んみゅ……あ、レンさん……おはようございます……」
叫んだおかげか、マナブさんはようやく起きてくれた。
「ひっ……お、おはよう、ございます……」
「何をそんなに怯えているのですか……?」
「は、早く、早く離してください……!」
「えぇ……」
いやいやながらも腕を緩めてくれた。緩んだ瞬間、僕はさっと腕から離れ、その勢いのままベッドから転がるように這い出た。
「そこまで嫌がらなくても良いじゃないですか」
マナブさんが残念そうに呟く。
すみません。マジで怖かったです。
「お、起きた?」
「と、おはようございます」
寝室で着替えていたマユカさんが話しかけてきた。
待って何でいるの? 何でいたのに助けてくれなかったの? いやそれより、それよりも……
「えと……すみません、今何時ですか……?」
「今?」
どのくらい寝ていたか分からない。でも、早めに戻らないと。あの人は言動通りの寂しがり屋だから、早く戻らないと駄々を――
「えっと……七時半、だね。相当疲れてたのかな? ぐっすり眠ってたね」
「……え……」
僕がここをした訪れたのは二十一時過ぎ。ということはつまり……
「……嘘、ですよね……?」
「絶望しすぎやん。どったの?」
「あ……えと……」
やばい……流石にやばい……
「その……ハヤタさんと相部屋なので……」
「緊急事態じゃん! ちょ、何ぼーっとしてるの!? さっさと帰りなさい!」
「は、はいいっ!」
さ……流石マユカさん……
大慌てのマユカさんの怒号のような叫び声を背にし、僕は大急ぎで部屋から出た。
「……」
「え……」
部屋から飛び出し、中庭擬きまで戻ったところで、僕はとんでもない光景を目にした。
ジャラジャラ
両手を手錠で縛られ、両側にいる、銀色の鎧を着た騎士二人に連れられていくハヤタさんがいた。乱雑に、まるで犯罪者を扱うかのように。
は……? え、何で……?
「っ!? ちょ、ちょっと待ってください!」
そんな光景を黙って見ているほどの薄情者ではない。大慌てで騎士に制止の声をあげ、全速力で駆け寄る。そしてそんな僕を見て、
「はぁ……はぁ……」
ハヤタさんは息を切らしながら顔を上げる。煩わしいと感じてしまうほどの前髪のせいでどんな表情かはよく分からない。が、苦しそうだというのはすぐに分かった。
「ん、あぁ、レン君――
掠れた声を絞り出そうとしたハヤタさんを、
「喋るな」
「っ……」
「っ!? な、何、して……!」
重々しい声が遮った。
何で……!? そんな犯罪者みたいな……!
「……ハヤタさんを、離してください」
「離して? 本気で言ってるんですか?」
そんな僕の叫び声に似た発言を小馬鹿にするような声と共に、ドウルさんが歩いてきた。
どういうこと……!? 何でそんな呆れた顔で……!
「本気って……ハヤタさんは、罪を犯すような人では決してありません!」
「でも実際、そこの彼達が見たって言ってるんですよ」
「見……た……? な、何を、ですか……?」
僕の弁護にもならないような言葉を聞き流し、そのままハヤタさんの両脇にいる騎士二人に目をやった。
「今朝。セルント王が、意識不明の状態で発見されました」
そして僕に目を向け、淡々と、けれども荒々しい雰囲気で、言い放った。
「……ぇ……ぃ……え……!?」
嘘……!? あ セルント王が……!? じゃ、じゃあハヤタさんは今……容疑で……ってこと……!?
「言葉を失ってますね。残念ですが、事実です」
「……っ……!」
「何なら確認しますか? 今先程病院に搬送されましたので」
「ハヤタさんは……見……間違い、とかでは……」
「いえ。紛れもなくこいつらでした」
片方の騎士が僕の方を向き、冷たく告げる。自分が守るべき主が関わっているんだ。嘘をつくメリットなんてあるわけが無い。
「昨夜十時過ぎ。セルント王の部屋に入っていきました」
が、淡々と続けるドウルさんの言葉を聞き、僕は疑問を感じた。
十時……って……あれ?
「……二十二時過ぎは……その時間は……ハヤタさんは部屋にいたはずですよ」
僕はドウルさんの方を見て、訴えるように、静かに言う。
「残念ながら証拠も何も無い状況でそんなことを言われましてもね」
溜息をつき、淡々と言い放った。
証拠……? いや、それもおかしい。もしかしてちゃんと調べてないのか……?
「ハヤタさんは自室で……誰かは知りませんけど、待ち合わせをしていたはずです……」
確か……確かあの時、誰かは分からないけど、ハヤタさんは約束をしたと言っていた。二十二時頃は絶対に部屋にいるはずだ。絶対に一人ではなかったはずだ! だから絶対に騎士が見たのはハヤタさんのはずがない!
「調べれば分かるはず――
「調べましたよ?」
僕の声が最後まで響く前に、冷たい声が響いた。
え……?
「調……べ……!?」
「まだ男子だけですが、調べた結果。その時間は皆、自分の部屋にいたと」
「っ!? それはおかしいです!」
「おかしいと言われましてもね」
僕は少し前のめりになって訴える。そんな僕を、ドウルさんは片手で制す。
それはありえない! ハヤタさんは昨日、「約束がある」と言っていた。ハヤタさんが僕に嘘をつく意味なんてないし、ましてや殺人なんて……! ハヤタさんはそんな人じゃ絶対に無い!
「嘘をついている人が……? いや、そうとしか!」
「諦めが悪いですね」
僕の反応を見てか、ドウルさんは酷く冷たい目を向けてくる。
諦めが悪い? 当たり前だ! どう考えても冤罪事件なんだから!
「いいですか? 彼には、王を殺すほどの動機もあるんです」
「ど……動機……!?」
動機……いや、あるわけがない。つい一日二日前まで普通に会話していたんだ。ずっと隣にいた僕には分かる。分かる、はず……隣……僕は……常にいた……っけ……?
「というか彼が抵抗できない時点で確定ですよ」
「っ! そ……それは……」
抵抗できない……言葉の通りだ。
ドウルさんの言う通り、ハヤタさん自身が「違う」と抵抗していれば、ハヤタさんは無実だと分かるのだが……
多分、罪詰み……罪人にのみ反応し、罪人の力を奪うという手錠……それを付けているのだろう。
「連行時に使うこの罪詰みが何よりの証拠です。ハヤタさんは犯罪者、それも王に対してです。投獄は確定です」
っ……何も言い返せない……ハヤタさんが無実だという証拠なんて、僕が聞いた事なんだから決定的でもなんでも……
「……それが……」
「はい?」
「その手錠が、罪詰みでは無いのでは……」
「っ!?」
そうだ……そうだよ。それなら、というかそうとしか考えられないよ! だって、ハヤタさんが……
「レンさん」
「ぁ……は……はい……?」
が、それに答えたのは、ハヤタさんを連れている騎士の方だった。
「幼馴染が殺されたんですよ? ドウルさんがそんなことをするメリットは何ですか?」
「っ……」
「わざわざ別の人を犯人にしたてあげ、真犯人を野放しに。するとでも?」
「そ……それは……」
幼馴染……というのは初耳だった……けど、確かにそうだ。何の理由も無しに、よっぽどの何かがない限りはそんなこと……
「ハヤタさんは……ハヤタさんは、おかしいって……」
「……それは――
ジャララ
「いつっ……!」
「っ……!?」
騎士がハヤタさんの手首に付けられた手錠、そこから伸ばされている硬そうな紐を引っ張りハヤタさんを無理やり玄関へと歩かせる。ハヤタさんに何も喋らせまいとするように。
何これ……理不尽でしょこんなの……!
ジャラジャラ
虚しい気持ち……違う。憤怒だ。
誰に対する?……自分? 裏切った人? 両方?
……僕は……今、何してんだよ……
ジャラ
ッツ
ジャラ
ッツ
中庭擬きには、手錠同士が擦れる音と小さな足音が響く。
「あなたが彼を信頼していても、我々からすれば数多の人類のうちの一人でしかありません。同情は致しかねます」
僕とは目を合わせずにドウルさんは言い、そのままセルント王の自室へと歩いて行った。
「それと。案内の件。レンさんは男子全員をよろしくお願いします」
「……」
「女子の方は、私からミチルさんに言っておきますので」
「……ぇ……どういう……っ!? まさか……!」
そもそも罪詰みって存在してるんですかね?
というかほのぼの(笑)とは何だったんだろうか。




