1.27 暇つぶしに会話をするって何か……現代っ子のはずなんだけどもね……
お風呂から上がり、脱衣所で体を拭く。と、唐突にハヤタさんが、
「んで、レン君の言う用事って何かなぁ? お兄ちゃん気になっちゃうなぁ」
真っ黒なパジャマに着替えながら聞いてきた。
お兄ちゃん……? 何だろう、ハヤタさんをお兄ちゃんにはしたくないかも。四六時中心身共に疲弊しそう……
「いや、まぁ、今日の訓練の時、「悩み事があるので今夜相談に乗ってくれませんか?」って言われたんです」
僕は今日の事を思い出しながら話す。確か、僕があの女と話してた時に……
「ほうほう。んで、その時のルルちゃんの顔、赤かった?」
「……は?」
何を言ったこの人。ルルちゃん? え? いや、なな、え、何で!?
「い、いや、いやいやいや、何でルルちゃん確定なんですか!? 違いますよ!」
いくら僕とルルちゃんのことを知っていたからとはいえ、流石にそれは早計すぎない? 後、何で自分、名前だけでこんなに動揺してるんだろ……恥ずかし……
「というか何でルルちゃんがいの一番に出てくるんですか!?」
「え……じ、じゃあ……ルルちゃん以外の子と……束の間の逢瀬を……」
「聞いてました!? 相談ですよ! 何故逢瀬という解釈になるんですか!」
「だって女の子と二人きりって……ねぇ?」
え、そんなに女の子と二人っきりになるのってダメなの? 別に悪いことしてるわけじゃないんだし……
「はぁ……とにかく。もう約束はしたんです。破ることの方が最低だと思いますよ?」
「こんなんだから……はぁ……苦労してるんだなぁ……」
「何故天を仰ぐんですか……? え、いや、誰に言ったんですかそれ!?」
僕は現在進行形で苦労しているというのに……誰に向けて言ってるんだこの人は。
僕も猫の着ぐるみに着替え、脱衣所から出る。もう何年もこれ着てるけど……やっぱり今度普通のパジャマ買お。
「もぅ……マナブさんですよ。マナブさん」
そしてそのままベッドに座る。
あの女と話してる時、大きな声を出しながら間に入ってきてその勢いのまま約束をした。
ハヤタさんは男子は大変だって言ってたけど、女子は女子で大変だと思う……あそこらへんから疲れが露骨に出てきたし……
続いて脱衣場から出てきたハヤタさんは、そのままベッドの前に立ってる。
「マナブさん……? あぁ、なるほど」
「なるほどって……まさか名前だけで何を相談するのか分かったんですか……!?」
まぁ、頭の回転が速いこの人ならマユカさん関連のことってすぐに分かりそうだけど。
「元クラスメイトなめんなってやつだよ少年」
「一歳年下なのに少年呼ばわりやめいですよ」
僕が少年ならハヤタさんも少年になるじゃん。何でそんな大人ぶるの?
(まぁ、どうせ親もいないし。解消しても誰も困らないわよね)
(かな。表向けだけとはいえ、縛り付けられてるみたいで嫌だし)
(あのぉ!)
(ひぇっ!?)
(っ!)
(ま、マナブさんでしたか……)
(ちょっと相談したいことがあるので。その、今夜部屋に来てくれませんか……?)
(部屋に? 構いませんけど、マユカさんとケイコさんにも許可は取っておいてくださいよ)
(分かってます。と、それと……)
(はい?)
(水を使って職業を知る時って……他に見えるものとか、ってあるのですか……?)
(他に……ですか……?)
(あ、いえ、心当たりが無いなら良いんです! それではまた後で!)
(え、ちょ、ええぇ……)
(レンのくせに私を無視するなんて……)
(まぁ、会話の邪魔しなかったことは素直に評価してあげるけど)
(は?)
(は?)
約束の時間は二十一時。お風呂から上がり、食事を済ませても時刻はまだ二十時前。この一時間はシンプルに暇な時間になる。
「へぇ自殺かぁ。凄いね」
「凄いっておかしくないですか? 逃げたんですよ?」
僕とハヤタさんはベッドに腰掛けて会話をする。態々僕の暇つぶしに付き合ってくれる。やっぱり優しいところもある人だ。
それにしたって、何でこの世界に来たきっかけを話さなければならないのだろうか。
「自殺したけど、未練はタラタラだね」
「うるさい。まさか、こんな輪廻転生みたいなことになるなんて思ってなかったんですよ」
いくらなんでも予想できるわけがない。もし知ってたら……いや知ってたところで、だけども……どっちにしろ自殺はしてたかもしれないな。でも覚悟は違ったはず絶対。
「ま、記憶引き継ぎとか妖精とか、チートじみたもの貰いまくれるなら知ってるに越したことはないかもね」
「え……と……? 何を……?」
「何でもない独り言」
「え、独り言?」
僕と二人で話してる最中に独り言とかまじかよこの人。結構長い独り言だったよ?
「まぁ独り言ならそれで良いですけど……」
……でもちょっと気になってしまった……
「一つだけ」
「……ん?」
「チートとは、コンピュータゲームにおいて、ゲームに備わっていない機能を用いる、いわば意図的に行うズルです」
「あ……あぁ、ね」
僕の言葉を聞いてようやく理解したのか、漸く理解した、という顔で答えた。
「少なくても、声を大にして誇れる行為ではありませんよ」
「……うん……そうだね……」
ハヤタさんがどういう意図をもって言ったのかは知らないけど……あんまり良い言葉では無いはずだし。
「……そうだこの世界に来たきっかけだったよね! 僕はねぇ――
「あの、自分の往生際をそんな嬉々として話しますかね普通?」
落命だよ? トラウマとかないの? トラウマというものを知らないのかこの人?
「僕は普通ではないのでね」
「えぇぇ……」
自分で言っちゃうのそれ? 事実だけども。
「僕はね、撲殺」
「淡々と言いますね。撲殺、ですか……」
ハヤタさんを撲殺する人……相当な手慣れな気がする。褒められることじゃないけど、ちょっと凄いな……
「そそ。クラスメイトに撲殺されたの」
「クラス……ん、クラス? えクラス!?」
「いえすあいあむ」
え? いやいやいやいやいや、え、は? え、何で!? 何でこの人、はぁ!?
「いやいやいや、え、じ、じゃあ自分を殺めた人があの中に……!? 何でそんなに冷静なんですか!?」
ベッドから降り、詰め寄るようにハヤタに近づく。
いくら……いくらこの人がおかしいからって流石に限度がある!
「落ち着きなさいな。流石に僕を直接撲殺した子は、今頃は少年院にいるでしょ。実際、あそこにいなかったし」
「だ……だとしても……えぇ……」
おそろしい精神力……僕と違ってポーカーフェイスが得意なんだろうなこの人……
「それに……ラノベみたいでちょっと面白かったけどもね」
「……は?」
「いんや。何でもないよ。こっちの話」
「え、いや、面白……え……?」
部屋に掛けられている時計の長針が十、短針が九の手前を指した。
二十時五十分。そろそろ行こうかな。
「それじゃ、行ってきますね」
玄関前に立ち、見送ってくるのか、同じく玄関前に立つハヤタさんを見ながら言う。
「いってら」
……少し不安だ……
……大丈夫かな……?
「……えと、ひとりぼっちで寂しくないですか?」
「まさかレン君からそんな言葉を聞くとは」
「どういう意味ですか」
別に僕は寂しがり屋じゃないよこのやろう。バカにしないで欲しいよ全く。
「大丈夫。僕の方も約束があるからね。十時ぐらいにこの部屋で。ひとりぼっちにはならないよ」
「……分かりました。それでもなるべく早く戻るよう、頑張ります」
「本当に僕を何だと思ってるのかな?」
中々不穏な会話をしてるけど大丈夫かなこれ。
関係無いけど自分はチートって言葉は嫌いですね。意図せず手に入れて、それを他人の為に使ってもチートってなんぞやそれって思いますし、特に努力して手に入れた力もチートって言葉で片付ける時もあるのはマジなんなんですかねアレ。




