1.23 僕ちゃん……やべぇ笑いが止まらねぇ
前話のあとがきを見た人なら分かると思いますけど、この話以降の冒頭の短文には地の文が無いんですよね。
「悲しい!」
「……?」
「マユカちゃんが! 全っ然目を合わせてくれないの!」
「え……えぇ!?」
「まさか照れてるの? ねぇ! そうだって言ってよ!」
「あ、照れるとは言ってましたよ」
「え、そうなの? じゃいいや。明日からまた楽しみだなぁ」
「……」
朝食後、召喚された人たちに戦い方をレクチャーする。先ほどセルント王が言っていたように、僕はミチルちゃんと一緒に女子を担当する。やっぱり納得はいってないけども。
「まだ不服なのです?」
食堂を出て、女子部屋へと続く廊下を歩く。その途中、ミチルちゃんがそんな質問をしてきた。
「不服に決まってるでしょ。だって王直々の命令で僕に女になれって言ってるようなもんじゃん」
かっこよくなりたい、とかの贅沢は言わないからせめて男として扱ってほしいよ。
「今のレンの見た目は女子なのです」
「か、髪が長いだけでしょ! それだけで判断しないでよ」
確かに僕は美男子じゃないけど、その気になれば僕だってかっこいいって言われるようなことができるはず。
「髪だけじゃないのです」
「髪だけじゃないわ絶対」
「髪だけじゃないと思うよ」
「髪だけじゃないですよ」
「……そんなに僕ってからかい甲斐のある人間ですか?」
ミチルちゃんと、すぐ後ろにいるマユカさんとケイコさん(さっき聞いた)とマナブさんの女子四人共が口を揃えて否定しやがった。
違う。絶対違う。僕だって丸刈りにでもすればちゃんと男として接してくれるはずなんだ! しないけども。
「それになんなの僕ちゃんって。せめて僕さんにしてほしかったよ」
明らかに僕のことをバカにしてるでしょ。王だからって何してもいいって言うの? 横暴だよ。
「です?」
「……いつも思うけどさ、何で相槌でも「です」って言うの?」
「人の事情に首を突っ込むなです」
「そんなに深い理由があるの?」
その「です」一つに一体どんな過去があるんだろうか。流石に想像がつかないや。
「いやいやそういうレン君だって。私に対してはいつも「です」とか「ます」とか使ってるじゃん」
「それは誰がどう見ても敬語だと思うのですが」
すぐ後ろを歩くマユカさんがよく分からないことを言ってきた。
「です」とか「ます」ぐらいは僕以外の人でもよく使ってるでしょ。ましてやマユカさんは生徒会長なんだし。
「今更なんだけどさ、どうしてレン君とマユカちゃんはそんなに仲が良いの?」
「確かに。如何にレンさんが魅力的だとはいえ、流石に出会って一日二日でそこまで仲良くなれるとは思えません」
ここでケイコさんとマナブさんの二人が聞いてきた。
まぁ確かに。三人がどのくらい一緒にいるかは知らないけど、マユカさんのことを知っている人だったら確かに普通の疑問なのかもね。
「人の事情に首を突っ込むなです」
そしてその真面目な質問をマユカさんがミチルちゃんのモノマネっぽく返した。
うん。平常運転だ。
「……何故真似するのです?」
「もぉごまかさないでよぉ! 結構大事なこと聞いてるんだからさ」
「え、スルーなのです?」
……うん。これが平常運転だからケイコさんは違和感を覚えずにそのまま進めようとするけど……もしかしなくても、これミチルちゃんが一番まともな返答な気がする。
「確かにレンさんは可愛いです。はい。染めたいぐらい可愛いです」
「可愛いよレンきゅん」
「ですがそんな可愛いという理由だけで仲良くなるなど、マユカさんからすればおかしい話なんですよ」
「可愛いを連呼するのやめてくれませんか?」
仮にも本人がいる前だよ? 恥とか無いのかなこの人? 無いわ。この人には無いわ。
「しかし事実なのです」
「やめて嬉しくもないから」
やだこの空間。無理にでも男子陣について行けば良かった。早く訓練所に行ってルルちゃんの顔を拝みたい。
今僕とミチルちゃんは訓練所を目指して歩いている。訓練所は一階の両サイドの螺旋階段の奥にある扉をくぐり、さらにそこから廊下を挟んで奥に、それぞれ配置されている。だから朝食が終わると男子とは反対方向に向かうのだ。
僕とミチルちゃんが先頭を歩き、すぐ後ろにいるマユカさんとケイコさんとマナブさんの五人で小騒ぎ程度の会話をしている。後ろに続く人たちも各々会話を繰り広げていた。
故にルルちゃんが全く見えない……ルルちゃんがいないのに何でこんなところにいなくちゃいけないんだろうか。マユカさんがいるだけまだマシだけども。
「はぁ……もっと男っ気のある空間にして欲しかった……」
背中を丸め、ため息を吐きながら愚痴をこぼす。
今更何を言っても意味が無いのは分かってるけど……でもなぁ……
「こんな沢山の雌に囲まれてこんな事を言う男子というのもなかなかすごいと思うわ」
「雌って言い方もすごいと思うよ」
「さらっと言うあたり言い慣れてるのです?」
「流石にそれは無いと思いますね。でも……興奮はします!」
「分かる」
これが俗に言うガールズトークってやつなのだろうか。入り方が分からない。
というか一体どこに興奮する要素があったのだろうか。
「まぁでも。好きでもない女の子に囲まれるとか、苦痛でしかないわよね」
「何その言い方……経験談?」
「まぁ、マユカさんはモテモテですし、いつもよく分からない人に囲まれてましたし」
ダメだ。入るタイミングが分からない。何だこれ。なんで僕にだけこんなに試練が沢山あるんだ?
「ん……待って、好きでもない……ん!? レンって好きな人がいたのです!?」
「ん? あれ、てっきりこの子がそうなのかと思ったんだけど?」
「ち、違うのですか!?」
「違いますよ!」
「違うのです!」
ほぼ同時に否定をする。
よし、ようやく入れた。ミチルちゃんとの息がぴったりだったけども。
「こんなちっちゃくてちんちくりんでナヨナヨとした長髪の男の子なんて、ヤです」
「その女の子バージョンが私ちゃんなんだけどねぇ」
「私じゃないですミチルです!」
「ミチルちゃんもその呼ばれ方不服なんじゃん」
「ねぇ、案内人がこんなに騒がしくて大丈夫なの?」
螺旋階段奥の廊下。そこに扉がある。高さがだいたい僕三人分、横幅がだいたい僕二人分の大きさ……自分で言っておいてここまで悲しくなるなんて……
「レンさ……僕ちゃんの三人分くらいありますね」
ギギギィ
小さな悲鳴を上げる扉を開けながら、後ろから聞こえてくる言葉に耳を傾ける。
「普通の人だったら二人分ぐらいありそうよね」
多分、この人たちにデリカシーってやつは持ち合わせていないのだろう。
「だから敢えて口にしなかったんですよ分かってても黙っててください!」
大きな扉をくぐりながら、僕の体は一般人の約三分の二しかないという悲しい事実を再……あれ……?
「待って……えっと、三分の二……普通の人の身長が百八十㎝だとしたら……」
僕は歩を進めながら、ゆっくりと計算をする。
えっと、百八十×三分の二は……六十×二……ん?
「ちょっ、僕の身長は百二十㎝になりますよ! 流石にそこまで小さくないですよ!」
「バレたか」
「まさかわざとだったとは……!」
無邪気に返答してきた。
マユカさんだったら有り得そうだとは思ったけども、本当にわざとだとは思いたくなかった。というか反応がハヤタさんに似すぎでしょ……羨ましい……
「百八十㎝はどちらかというと高身長の部類なのです。実際はもっと低くなるのです」
「良いのそれで!? ミチルちゃんって僕よりも背が低いじゃん!」
「んなっ!? そんなことないです! レンの方が下なのです!」
んなっ! 何を言ってるのこの子は! 誰がどう見ても僕の方が大きいよ! 現実を見てよ全く!
「醜い争い」
「プライドを賭けた戦いって言ってください!」
「魂のぶつかり合いと言って欲しいのです!」
「ガチすぎるなぁ」
そんな言葉を交わしながら歩みを進めた。
「前世はなんじゃろな選手権なのです」
「ルル先輩のプロフィールだそうです」
「……」
「えっと……ルル先輩の前世は今とは違い美少女で、性格は実際に描写されるまではブレっブレだったみたいですね」
「ルルちゃんは今も美少女!」
「でもフルキよりは下です」
「でもミチルちゃんよりは下ですよ」
「うるっさい!」
「物静かな雰囲気を漂わせ、常にレンをクールに翻弄しようかなって考えてたらしいです」
「けど何か、色々あって変わったみたいですね」
「その台本燃やしたい」
「説明がちゃんとできない台本なのです」
「仕方ないよ。本編だとまだルル先輩、喋ってないんだから」
「本編って言わないで」
「メタいのです」
「何を今更。というか何故このタイミングで選手権を?」