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あいに溢るる  作者: 手石
共愛を求め狭隘な心を持った狂愛な少年
20/106

1.20 生徒会長は苦労人

 ハヤタさんはこう言っていた。


「別世界の人だって確信がある人になら話してもいい」


 転記者ではなく別世界の人、と。

 これは多分、転生、転記、転移の全てが含まれているのだと思う。だから僕はマユカさんには隠さず自分の正体を言ったのだ。


 ハヤタさんのことだ。多分こういうことを想定して僕に話したのだろう。というかこのタイミングだ。むしろそっちの方が自然だ。


 ということはつまり、ハヤタさんの方にも僕の知り合いがいる可能性がある。今みたいに自分のことを話せるように、という気遣いだろう。


 でも、それってもしかして……










「良かったぁ……最初見た時、本人かどうか疑ったんだもん」


 僕があのレンで安堵したのか、大きく息を吐いた。

 何だろう。シンプルに申し訳ない気持ちになった。


「あははは……それは、すみません……」


「何故謝る」


 脊髄反射かな……?

 言っていいのか分からなかったからとはいえ、マユカさんには変な気持ちにはさせちゃったよね多分。


「まぁでも意外とすぐに確信できたけどね」


「すぐ?」


「あのねぇ……いくら私でも「打ち遣るのは言語道断」なんて言葉は使わないわよ」


「え……ええぇ!?」


 まじで……!? マユカさんほどのかっこいい人なら日常的に使ってると思ってたのに……!


「分かりやすかったわ。レン君の目に星でも詰めてるのかと思うぐらい輝かせてたもの」


「わぁ……恥ずかしい……」


 ポーカーフェイスはやっぱり苦手かもしれないな……顔に出てなかったとはいえ、ハヤタさんにも気持ちを見抜かれてたし。心理戦に弱すぎだな。


「で、レン君はなんでここにいるの?」


「ええっと……それは、その、なんて説明すればいいんだろう……」


「……まぁ、何か言いづらい――


「あっ! なんやかんやあって、です!」


「……」


 昔ルルちゃんに教わった、説明が難しい時に使うこの言葉。一度で良いから使ってみたかったから、使える場面が出てきてすごい嬉しい。


「その「なんやかんや」の部分が気になるのよ。いや、レン君なら長くなるから今はやめておきます、とか言いそうかな」


「あ、はは……さ、流石。お見通しですね」


「レン君は頭が良いからね。レン君が簡単に説明できないことって、それ以外だとあんまり思いつかないし」


「その、すみません……」


「別に大丈夫だよ。また時間があるときにでもお話、しよっか?」


 マユカさんは優しい声で微笑みながら、僕の顔を覗き込んだ。

 ひ、久しぶりのマユカさんとのお話!


「は、はい! お願いします!」


 楽しみ! またマユカさんの恋の話とかしたいなぁ……今からでも凄いワクワクする!


「ふふふっ。その返事の仕方とか、まさにレン君そのもの! って感じがするね」


「そうでしょうか?」


 僕そのもの……? それは根本的な部分は変わらないってことなのか、そもそも成長していないのか……どっちなんだろう?


「うん。そうだよ。あ、でも……髪型は変わりまくってるね」


「え……あぁっ! これは、その……」


「昨日はポニーテールで今日はツインテール……やっぱり性別偽ってたんだ」


「へ? いや、ち、違いますよ!」


「ふふふ」


 ニヤニヤしながら微笑むマユカさん。

 言っちゃおうかな。この髪型にしたのは、あなたの想い人ですよって。いや、流石にやめた方がいいかな。


「と、とりあえず! 僕は女子の皆さんを迎えに来たんですよ!」


 このままだとマユカさんとずっと話しちゃいそうだと思った僕は、無理矢理話を切った。冗談無しに、当初の目的を本当に忘れちゃいそうだったし。


「そうだ。マユカ会長が皆さんを廊下に連れてきてくれたら助かるのですが……」


「ん、別に全然オッケーだよ。でもさ、もし私がいなかったらどうしてたのかなぁ?」


 するとマユカさんは後ろ手を組み、前屈みの姿勢でニヤニヤしながら僕の目を見てきた。何処と無くハヤタさんと同じ何かを感じる。

 何だ? 急にどうしたんだろう?


「目を瞑り、部屋に入り、手探りで顔を赤らめながら女の子たちを起こす姿」


「はい? いやいや、流石に声をかけるだけですよ!」


 何故わざわざ触るの!? いや、触るにしても何で顔を赤らめるの!? 本当に何言ってるの!?


「本当かな? 本当は隅々まで触り尽くしたいんじゃないの?」


「なんで起こすだけなのに隅々まで触るんですか……?」


「あ、そうだった。この子ってそういう子だった」











「とりあえず、皆準備してるから待っててください、だってさ」


 女子部屋一つ一つへ行き、女子を起こしてくれたマユカさんが言った。


「ありがとうございます。人前に出るからには、まずは身嗜みが大切ですからね」


「レン君だってよく身嗜みを整えてたじゃん」


 何故かニヤニヤしながら言ってきた。

 誰かに見られるんだから、見た目を少しでも良くするのは大事だと思うし。それに……


「あれは、その……ルルちゃんに褒めてもらいたかったからで……」


「あーそういうこと。たしか召喚されたのって全部で三グループだったよね。残りのグループにルルちゃんがいると良いね」


「……そう、ですね……」


 いくらマユカさんが言ってるとはいえ、僕自身は無理だってほぼ確信してるから……


「もー! もっとポジティブにいこうよ! positive thinking!」


「無駄に発音良く言わなくても」


 両手の拳を握り、前のめりになって叫んできた。

 マイナス思考とかそういう問題じゃないと思うんだけども。本当、ハヤタさんみたいなこと言うな……類は友を呼ぶってか。羨ましい。


「……似てるなぁ」


「はい?」


 と、不意にマユカさんがボソリと呟いた。近くにいた僕でもギリギリ聞き取れるかどうか、ぐらいの声量で。


「いや……やっぱり、レン君ってハヤタ君と似てるなぁって……」


 そんな僕の声を聞きとったのか、今度はハッキリと、そして分かりやすく答えてくれた。

 心外だ。これこそ正しく爆弾発言だ。


「いやいやいやいや! どこが、どこが似てるんですか!?」


 僕はマユカさんの言葉に全力で否定する。

 嫌だ。憧れはするけど、あんな人になりたいかと言われたら、ちょっと嫌。


「え、まさか僕って客観的に見ると、そんなにお茶けた感じに見えるんですか!?」


「あはは。何もそこまで否定……しなく……て……あ……」


 僕はあそこまで面倒でうざったらい性格じゃないって思ってたんだけども。あれかな? いちいち突っ込んでくるのがうざったらいって感じてたのかな?

 頭の中でぐるぐる思考していた僕の耳にふと、


「……っ……んっ……っ……」


 静かな泣き声が聞こえた。


「え……?」


 マユカさんが泣いていた。しゃがみこんで、両手で涙を拭っていた。


「え、ちょ、ど、どうしたんですか……!?」


「えと……その……ごめん無理かも……」


「あれ、そんなに僕って――


「おおっとぉ! 可愛い男の子が、私の可愛い生徒会長を泣かせてる!」


「ひゃいぃっ!?」


 マユカさんが何故泣いていたのか分からず戸惑っていたところに、マユカさんと同じ部屋から誰かが突入してきた。突入……?


「事件よ! あの時以来の涙、ああっ! でもそんなことはどうでも良い。マユカちゃんの涙を流す姿にそそりまする!」


「えと……すみません、何を言ってるんでしょうか?」


 急に出てきて人の泣き姿を見て唆られる。一体何を……いや、分かるような分からないような……


「そして困惑する可愛らしい少年。あぁっ! ここは天国か!」


「は?」


 謎の言葉を発しながら僕に背を向け、扉の方を向いた。

 うん。やっぱり分からない。何をしたいのこの人は? 可愛らしい少年? 何だろう、前にルルちゃんに言われた時よりも全く心が動かないんだけど。


「煩いですよ」


「カゴッ!?」


「んぉっ!?」


 え……何……? 何が起こったの!?

 部屋から出てきたもう一人の少女が、騒ぎ立てている少女の顎を蹴り上げた。そして普通じゃない声を出しながら蹴られた少女は倒れていった。

 うん。何これ。

 蹴りあげた少女は少し細長い輪郭に釣りあげている目と細長い鼻。背はマユカさんよりも少し低めだろうか。そして短くて寝癖一つ付いていない真っ直ぐで真っ黒なショートヘアをしている。肌が少し黒い事から、恐らくアウトドアな人なのだろうか。

 というか何今の蹴り上げ! 綺麗なフォームでムチャクチャかっこよかったんだけど! 後で教わってみたい! あ、でも蹴られた人大丈夫かな……?


「えと……あの、大丈夫なんでしょうか? 伸びちゃってますが?」


「大丈夫ですよ。いつものことなので」


「何時もの……? マユカか……さんも大変だったんですね……」


 危なっ。よくよく考えると、別世界の住人である僕が会長呼びするのはおかしいよね。というか……いつもクラスメイトの事でグチグチ言っていたけど、疲労の原因がこんなやばいものだったとは……

 あれ……? この人短いスカート履いてる。ちょっと待って、それであの身のこなしということは……まさか、いつもその服装で!?


「なるほど……貴方は、意外と肉食系かつテクニシャンなんですね」


「へっ? 何でですか?」


「困惑した顔、確かに可愛……マユカさんは、特定の子以外の男の子とはあんまり話したがらないんです」


 冷静に、真顔で言葉を淡々と重ねていく蹴り上げ少女。

 でも……今一瞬、聞こえなくない何かが聞こえかけた気がする。否。聞こえた。


「もちろん、名前を教えるなんて以ての外ですし」


「あの、今可愛いって言おうとしてませんでしたか? いえ、してましたよね!」


「やめてください。キスしますよ」


「まともそうに見えたのは幻覚だったんですね! あとやめてください!」


 せめて最初くらいはルルちゃんが良い……あ、そしたら一生キスの味が分からないじゃん。なんかやだな。


「ほぅ? 私のキスを拒むみますか? 私、これでも見た目だけなら――


「はっ! ピンク! 珍しい!」


「ひあっ!」


 目の前で仁王立ちをしながら話続けている偽真面目少女。その真下で仰向けで伸びていた騒がしい少女が急に目を覚ました。

 何の前触れもなく起き上がるのやめてびっくりする……


「ねぇ聞いた今の! 「ひあっ!」だって! 可愛くない? 持って帰りたくない?」


 そして僕の方を指さし、興奮しながら偽真面目少女の方を見る。

 僕はモノじゃないよ? テイクアウトはやめて欲しいものだ。


「塗り替えたいですね」


 それに対し、冷静に返答をした。

 塗り替える!? え、何色に!? 肌色じゃダメなの!?


「あと、着替えは用意されていたやつですので、いつもと違う色でも仕方ありませんよ」


「用意してくれた人、ありがとう……!」


 着替えが用意されてたんだ……用意周到すぎる気がする。あ、だから男女で部屋を分けたのか。


「そうだ。レンさん、でしたよね。見ましたよね? 私のスカートの奥にあるピンク色のブツを」


 何でこんな食い気味に聞くんだこの人……というか何「ピンク色のブツ」って。カッコよすぎるんだけど。


「いえ、見てませんけども……いや、そもそもそのブツ……」


 と言いながら、僕は蹴り上げ少女のスカートを見る。

 スカートの奥のピンク色のブツ……心当たりがあるとすれば……


「スカートの奥でピンク色ってことは、多分下着ですよね。それがどうかしたんですか?」


「は……? んなぁっ!? 動じないですと!? 今まで私のブツを見て見惚れなかった人は、男女問わずいなかったというのに!」


 ……あ、なるほど。確か、女性の下着を見て性的興奮を覚えるのは男性にとっては普通の現象だっけ。僕はルルちゃん以外の下着にはそういうのは覚えないけども。

 いや、だとしても何故僕が覚える前提で話したんだこの人は。


「というか、そのブツよりも蹴り上げの方に見惚れましたね。カッコよかったですし」


「な……!? まさか、いや、確実にこの子、ついてないわね」


「ええ、そのようですね。きっと棒と玉が無いのに見栄を張ってるのでしょう」


「すみません、何を言いたいのか全くと言っていいほど分からないんですが」


 僕の発言に何故か引き、一歩後ずさりながら会話を続ける二人。

 見栄を張るって何? 張ってないよ別に。というかそもそも棒も玉も持ってないし。


「それに、僕は別に野球好きな少年とかじゃないですから」


「……えっ?」


 何なの。このクラス、男女問わず、異常な人しかいないのかな? あと、さっきのあの「ブツ」。かっこいい言い方だし、僕も今度下着のことブツって言おうかな。


「はい一旦ストップ。レン君が困ってるから、いつものノリはやめなさい」


「むぅ。食べたいよぉ」


「はぁ。染めたいです」


「やめてお願いだから……」


 突如、救いの(マユカさん)が現れた。泣き止んだみたい。

 あ、ずっとほったらかしにしてたごめんなさい……

 と、そこへ


「ちょっと騒がしいです。もう少し静か――


「マナブ」


「アイアイサー」


 螺旋階段からミチルちゃんが顔を出した。瞬間、二人が謎の掛け声をし、全力で走り出そうとした。

 何あの二人の連携。かっこいい。かっこいいけども……


「おおぉぉ! 止まりなさぁぁぁい!」


 突っ込もうとする二人の片腕をそれぞれ掴みながら叫ぶマユカさん。

 この数分で分かった。僕が想像していたよりもずっと大変だったんですね……

この作品では珍しい(多分)お下品チックな内容でございます。レン君の下着事情については後々ちょこっとだけ説明する予定です。はぁはぁしながら待ってろ。はぁはぁ。

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