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あいに溢るる  作者: 手石
共愛を求め狭隘な心を持った狂愛な少年
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1.2 前を向くのは簡単じゃないよね

牛歩になると言った一時間後の投稿です。

また一時間後にお会いしましょう。


タイトルもアレだし、一話目もアレでしたけど、ここからシリアスシーンは暫く無いです。

「う、うーん……」


 呻き声をあげながら、僕は目を覚ました。

 ん? 目を覚ました……? あれ……? 


「何処だろ……ここ……」


 上体だけを起こし、床(?)に座った状態で周りを見渡す。


 白い空間に浮かぶ水色のシャボン玉。それ以外何も無い空間。

 見たことがない……見覚えがあったら逆に怖いか。何でこんなとこにいるんだ? 思い出せ、思い出せ僕。確かお母さんに電話して……いや、その前にツッチーがルルちゃんと……


(自分になら、覚悟はできてるよ)


(僕はルルちゃんが一番だよ! それ以外はいらないんだよ)


(おかしくて結構だよ! 周りに合わせたいとも思わないし……)


(僕は、ルルちゃんと一緒になれないこんな世界に、留まろうとは思わない! だから今ここで、僕は僕の人生を幕引きする!)


 余計なものまで思い出してしまった。


「あぁぁぁっ!」


 何であんな自分に似合わぬ恥ずかしいセリフをペラペラと言ったんだよ! 消し去りたい! 削除したい! 消えたい……もう落命してるはずだけど、存在を抹消したい……


 僕は叫び声をあげながら、足を激しくジタバタさせてる。


「ヘイハロゥ! ナイストゥミートゥー! フウゥ!」


「ひにゃぁっ!」


 すると、急に目の前に少女が現れた。


 ビ、ビックリした……変な声出ちゃったじゃん。何この人。怖いんだけど。

 目の前にいる少女は、茶色っぽい色の髪の毛を短めに左右にツインテールにし、大きくパッチリとした目をしている。そして黒いウエディングドレスのような服を着ていた。なんかかっこいい。


 誰だ、この人?

 と、少し固まっていたら急に少女が近づいてきた。


「あれ、おかしいな」


「ひゃぁ!?」


「おーい。キコーエマースカー?」


「ちょ、聞こえてますから耳元まで来ないでください!」


「ヘイ」


 少女が離れてく。


「とりあえず、此処は何処何で――


 少女に質問しようとしたが、周りを見渡して思考停止した。

 この景色。さっきの謎の空間とは違う景色が広がっている。多分、「少女が現れた」ではなく、「僕がこっちに来た」が正解だったのだろう。


 白い壁に囲まれているこの部屋。土台がボロボロに崩れ水がほとんど出ていない噴水や、無残な形に倒れている柱がある。少女の奥を見ると半開きでギコギコいいながら揺れている扉があった。


 何があったんだこれ……?


「すいません。ここ、なんかの襲撃でもあったんですか?」


「さ、さぁ! 君にはやって欲しいこと――


「露骨に無視をしないでくれませんか?」


 僕が話しかけた瞬間、遮るように大きな声を出した。

 流石に分かり易すぎる。


「ごめんね。その、できれば聞かないでくれたらいいな……なんて……」


 少女の表情が露骨に曇った。

 何だ……本当に何があったんだ……?


「はぁ……まぁ、それなら別に良いで――


「はぁぁい! ありがとうございます! とりあえず! えと、レン君! だったかな?」


「……はい……」


 元気だなこの人。ついていけるか不安なんだけど。いや、フレンドリーって捉えれば……


「今から君には、別世界、キューブという名前の世界に行ってもらいます!」


 ドヤ顔+仁王立ちで言ってくる少女。

 何を言ってるんだこの人? 本当に変な人だったのかな?


「……いや、嫌ですよ」


「……へ?」


「……却下しますよ」


「なぁぁぁんでぇぇぇぇ!?」


「ひぇっ!?」


 そして僕の拒否を耳にした瞬間、またしても大きな声を上げた。

 いや、そんな大きな声で叫ばないでよ。耳がキーンってなるから。というか当たり前じゃん。


「え、ええっと、ある世界へ行く。まぁつまり、輪廻転生ですよね?」


「そそ」


「……そんなことよりも、僕は今の状況が知りたいんですけども」


「今の状況を聞けば、行ってくれる?」


 少女が期待の眼差しを向けながらグイッと近づいてきた。わぁ凄い。鼻の奥まではっきり見える近すぎるわ。


「却下します」


「なぁぁぁんでぇぇぇぇ!?」


「ひゅい!? い、嫌なものは嫌ですよ! 見たくないものまで見せやがって全く」


「見たくないものて何……? いや、そうは言ってもね、どっちにしろ行くしか選択肢がないんだよ!」


 手を腰に当て、仕方がない、と言った顔で言い放った。

 ……え……!?


「なっ……!? 何ですかそれ……! 喧嘩売ってるんですか……!」


「ひっ!? ち、違うよ! 違うからね! やめて殺気と哀愁の目を向けないで!」


 やめて、と言われても殺意と悲しみしか湧かないんだからしょうがないじゃん。


「い、いい? 今の君はね、故人なんだよ!」


「まぁ、でしょうね」


「エェェ! そんなあっさり受け入れるかな普通!?」


「まぁ、自ら望んで落命しましたし。そもそも直前までの記憶もありますし」


 普通に考えたらショッキングな事なんだろうけども。うっ、また思い出したくないものを思い出してしまったこの人このやろぅ……


「と、というかそうじゃなくて、何で落命したはずの僕がここにいるのか、そっちの方が気になるんですけども」


 故人になった……というのに、こうやって体を持って喋ることもできる。普通に考えるとおかしいじゃん。


「あーそれはその、ここがなんかその、神がいる場所的な、その……あれだから?」


「もう少し説明頑張ってくださいよ……」


 雑だよ流石に。何も知らないのこの人は。目を逸らしながら言ったよ?


「はぁ……神がいる場所……もしかして、ここは神界、ってやつですか?」


「そぉう! それ! それだよそれ! いやぁ流石天才」


 何で神界って言葉知らないんだろ。まぁ自分もルルちゃんから教えられなかったら知らなかったけども。もしかしてここに住んでる人ではないのかな? 大丈夫かなこの人……


「うおぉっふぉん」


 大丈夫じゃないかもしれない。

 分かるよ。説明とかする前にある「おっほん」っていう咳払いなのは分かるよ。分かるけども、何でそんな大げさにいうの……?


「レン君が故人になった時、神様がレン君の魂を回収して、ここに連れてきたってことだよ」


「回収……じゃあ、体とか声とかがあるのは何でですか?」


「よくは分かってないんだけど、魂の中にある記憶が自分の体を生成しているって言われてるよ」


 よくは分かってない、か……言われてるよ、か……もっと断定的な言い方にしてほしいよ。不安になるよ。


「さぁとりあえず、キューブへゴー! しよー!」


「却下します」


「なぁぁぁんでぇぇぇぇ!?」


「ひゃあっ!?」


 またこのリアクション……というか、逆に何で行く気になると思ったのさ。


「そもそもあなたは、僕が自殺した理由を知らないんですか?」


 僕は少女に聞いた。僕の魂を回収したなら知ってるはずだよね。いや、この人の事だから知らない可能性もあるけど。


「……」


 黙り込む少女。先ほどの元気はどこへ行ったのかと思うぐらい静かだ。少し戸惑った様子だったが、やがて、


「知ってるよ……失恋、だよね」


 小さな声で、そう言った。多分、言うのを躊躇してたのかな。


「じゃあ分かってますよね。僕は、ルルちゃんに好かれない世界から――


「逃げ出したんでしょ」


「……はい……?」


 逃げ出した? 何言っ……いや……


「……逃げ出した……」


 確かにそうかもしれない。失恋して、ルルちゃんと一緒になれない世界が嫌で、自分勝手に逃げて……いや、でも……


「でも……それは……」


「ね、レン君。前を向いて、進んでみようよ。ね?」


 少女は屈みながら僕に手を差し出しながら言ってきた。


「……」


「ダメ、かな……?」


 分からない。行く、という選択肢で本当に良いのだろうか。今の僕が行っても、正直、自分でも何をしでかすか分からないし……前を向く……前を向く……か……


「っ……すぐに、立ち直るのは、無理だとは思いますよ……」


「……?」


「四六時中、ルルちゃんのことを考える……いや、考えますね。絶対に……」


「あ。うん」


「ルルちゃん以外の人を愛せ、とか子孫を残せ、とか言われても、そんな気は全くありませんよ……」


「……うん……」


「……向こうの世界に行って、すぐにまた自殺するかもしませんよ……?」


「……うん……あ、待ってそれはダメ本当ダメお願い」


「……」


 くっ、流れ的に行けると思ったのに。何故この要望が通らない。ケチ。


「いや、頰を膨らませないで私を睨まないで。それは当たり前でしょ!」


「と、とにかく。こんな未練タラタラのまま行くんです。それでも……こんな気持ち悪い状態の僕でも、大丈夫なんですか……?」


「……それはつまりさ。行ってくれる、ってこと?」


「……まぁ……はい……」


 この人の言う通り、いつまでもウジウジ言ってても何も起こらないと思ったし。


「……」


「えっと、あの? どうしにゃあっ!」


 へ、ひ、な、なに? どうしたの?

 少女が無言で抱きしめてきた。僕は今座っている状態なので少女は膝立ちになって抱きしめている。


「……ごめんね」


「え、えっと……?」


「私の我儘に、辛いのに、答えさせちゃって……」


「い、いや、まぁ、確かに、前を見なきゃなってちょっと思っちゃいましたし……」


「それでも、嬉しいよ。本当にありがとう」


「そ、そうですか」


 誰かに抱きしめられたの、何時ぶりだろう。母さんのお見舞いに行った時、たまにしてもらったぐらい……いや、リンとナナにもしてもらったことはあったかな。

 久々に感じる温もり……

 温かいな……

 うん、暖かい……

 うん暑い……


「すみません。長いです」


「……ごめん。今は、もう少しこうさせてくれるかな」


「そのセリフ、ルルちゃんで聞きたかったです」


「あはは……うん……なんかごめん」

二時間後も更新予定です。

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