1.17 さぁ、入浴シーンですよぉ!
前話の終わり部分と今話のタイトルの落差よ。
「悪」は罰せられる。
当たり前の世の中だ。罪を犯せば、手錠をかけられ、長い間狭い牢屋に閉じ込められる。これは前の世界でも言えることだ。
でも、一つだけ、前の世界と違うことがある。ここ「キューブ」では冤罪率が零%ということだ。
いや、少し違うかな。冤罪で手錠を付けられ牢屋に入ってしまっても、しばらくすれば必ず無実だと言われるのだ。
でも最近は冤罪事件自体が殆ど無かったっけ。
僕は驚き、ハヤタさんから距離を取るように飛び退いた。ハヤタさんは未だ僕に顔だけを向けている。
「な、何を言ってるんですか? い、いや、い、いませんでしたけども?」
誤魔化してもまだ、僕の顔をじっと見つめるハヤタさん。
「ふーんそうなんだ」
ハヤタさんは四つん這いになり、ハイハイをしながら僕に近寄り、
「てっきり、同じ世界からの人が来て嬉しいのかなって思ったんだけね」
「っ!?」
いつもより声のトーンを少し下げて言った。
き、気づいていたの!? いつから!?
「この際だから聞いちゃうね。レン君はさ、僕のこと知ってたよね? 少なくてもこの世界に来る前から、さ」
「……っ、い、いや、その、な、何を言ってるのか全く、その……」
何で今なんだろうか……? 分からない。なんて言えばいいのだろうか。それとも……
「あ、そかそか。安心して」
「……ぇ……?」
すると、ハヤタさんは僕の反応を見て、何かを理解したかのように一人で頷いた。
「「別世界の人だって確信がある人になら話してもいい」ってちゃんと聞いてあるから」
「聞いて……? あ、そういう……」
僕がハヤタさんに自分のことを言わなかった理由。女神さんの「自分が転記された人だってことは、周りには絶対に言わないでね」という言葉が原因だ。ハヤタさんに会ってからは、ここで言う「周り」は同じ転記者は入るのか否か、ということをずっと考えてしまっていたのだ。
けど、ハヤタさんは聞いていたみたいだ。流石、ハヤタさん。やっぱり尊敬する……
「そ。だから大丈夫だよ」
「そ、うですか……」
「んっふふ。全身の力が抜けた、って感じだね」
「わ、態々言わないでくださいよ!」
僕は安心しきって、ベッドの上に体重を預けるように、仰向けで倒れ込んだ。脱力だ。
「それじゃあ改めて。僕はハヤタ。レン君と同じ、キューブに転記されてきた人だよ」
そして自己紹介。
同じ世界としての、別世界から来た自分としての自己紹介なのだろう。
「えぇっと……レン、です。ハヤタさんと同じ、キューブに転記されてきた人、です」
だからこそ僕も起き上がりながら返す。分かりきった情報だけだけど。
「やっと、本当の自分を見せれられる人に会えたよ」
「え……えっと……」
「まぁとりあえず、今まで通り一人の友としてよろしくね!」
「は、はい! よろしくお願いします!」
友……たった一文字の言葉。それでも一人ぼっちだった僕には……
というよりも……
「何で今、自分が転記者だって言ったんですか?」
「レン君があのレン君だ、っていう確信はあったけど……まだやめとこっかなって思ってたんだ」
確信があ……ん? あのレン君? それってどう……ん……?
「……あの、ということはつまり……向こうの世界でも僕のことを知ってたんですか?」
「もっちろん。というか、むしろあれで気づかない方がおかしいからね」
「え……?」
あれで……? あれ……待って、確か僕はハヤタさんのことを……ぁ! まさか!
「いやぁ、ね……尾行、下手だったよ」
「はわわわぁ! そ、そんなはっきり言いますか!?」
「だって、ねぇ? それ以外に言い表せないし……」
「そ、そんなぁ……!」
完璧だと思ってたのに……バレてないと思ってたのに……恥ずかしい……
「さぁてさらけ出しっこしたとこで! 今日こそはあんなことやこんなことをしようじゃないか!」
そんな僕の新たな黒歴史をさらっと無視し、何か変なことを発した。
ん? あれ? どういう展開なのこれ?
「え……? は、いや、ちょ、ぁぁあ! まぁぁ!」
「よーし、レッツゴー!」
「引っ張らないでくださいよ! ちょ待っ、だから何でそんなに力が強いんですか!」
僕の全力の抵抗をものともしないの本当に何で!
そのまま僕の腕を掴み、ハヤタさんはスタスタと歩いて浴場へ行った。
あれ……確信があったのに、転記者だって言うのはまだやめておこうって思ったのは何で……?
ガララッ
「はぁ、レン君の肌、あったかい」
「あ、あの、ちょっと恥ずかしいんですが」
「大丈夫。今は二人っきりだから、ね」
「ね、と言われましても」
服を脱ぎ、お風呂に入るために浴槽への扉を開けた瞬間、ハヤタさんに抱きつかれた。
うぅぅぅぅ……ハヤタさんの息が肌に直接かかってこそばゆい。こういうのはルルちゃんとやりたかった……やめよう。流石にちょっと気持ち悪い。
「それじゃまず、背中洗ってあげようか?」
ここにきて普通。ハヤタさんの事だから、もっと過剰なボディタッチを要求するかと思った。いや、こう考えちゃう時点でもうやばいのかも。
「いえ、遠慮しておきます」
「えぇ!? あ、そんなこと言って、本当は照れてるんでしょ?」
「ええぇ……」
この人は……あ、もういいや。多分この人にはそういうことをしてる自覚なんて無さそうだし。
「何その反応! 酷い! 昨日は僕のことをあんなにも優しく抱いてくれたというのに!」
何その言い方。僕が悪人みたいになるじゃんやめてよ。後抱いてないから。そっちから抱いてきたんじゃん。やばい、思い出しただけで背筋が凍りそう。
「やっぱりレン君はそう言う子だったのね!」
「何言ってるんですかお黙りくださいよ。というか抱いてないですし、むしろそっちから来たんじゃないですか。ブチギレますよ」
「あれぇ? なんかいつにも増して尖ってないかなぁ?」
「……」
「いや、そんな「今までの自分がどうかしてたよほんとにもう」的な目をするのやめて」
「分かってるならやめてくださいよ」
短いという自覚はあります。さっさと入浴シーン寄越せってなりますよね。ごめんなさい。




